「あ、見つけました。絢子さん」  
 
 護の声。  
 …護の…?  
 
「ひいっ!」  
「わああっ!」  
 
 突然の声に跳ね上がったのは二人とも同じだった。  
 
 ここはガーデン。  
 いつも二人がお弁当を食べている場所。  
 
「ご、ごめんなさい、驚かせちゃいましたか?」  
「い…いいのよ…あは、あはは」  
 
 絢子は粘液の擦り付いた指先を、護に見えないように座ったまま自分のスカートで拭き取った。  
 いつもはこんなはしたないマネはしないのだが、仕方ない。  
 いや、そもそも学校でオナニーなんて事すら…。  
 
「今日は生徒会の仕事だったんですか?」  
「えっ?」  
「ちょっと寂しかったですけど、でも久しぶりに電車に乗るのも学校に来てる、って感じがして…いえ、その…」  
 
 護の言いたい事は解ってる。  
 どうして今朝は迎えに来てくれなかったのか。  
 
「でも、お昼にここに来ればきっと逢えるって思ってましたから」  
 
 "にっぱー"という擬音文字が後光の如く飛び出しそうなくらいの明るい笑顔に、絢子はクラクラした。  
 
 ああ、護。ごめんなさい。  
 あたし、あなたをオカズにオナニーしちゃいました。  
 あの後、何度も何度も。  
 
 初めての絶頂は、ほんの少し前まで恋も知らなかった少女には刺激が強すぎた。  
 まさに「サルの様に」という言葉がお似合いなくらい、オナニーをした。  
 一番愛しい人を思い浮かべて。  
 例えビアトリスが無くても体力は人一倍ある絢子だ。  
 気づいたらチュンチュンと雀の声。  
 
 一晩中オナニーしていた…。  
 
「ご、ごめんね護…今日は…その」  
 
 護を汚してしまった。  
 自分の好きなように、頭の中で護をもてあそび、もてあそばれ。  
 
 その後、何事も無かったかの様に護を迎えに行ける程の神経は、さすがの魔女ベアトリーチェにも無かった。。  
 
「あ、これ一緒に食べませんか。焼きそばパン」  
 
 護はポケットから二つ、潰れかかった購買のパンを出した。  
 
「絢子さんの口には合わないとは思うけど、でも二人で食べるときっと美味しいですよ」  
 
 "にっぱー"  
 
 ああやめて護。  
 今のあたしにあなたの笑顔は眩しすぎる。  
 今の今まで、護を思って学校でオナニーしてた女なのよ…。  
 
「絢子さん?」  
 
 さすがに護も、絢子の様子がおかしい事に気づいたようだ。  
 
「真っ赤ですよ、熱あるんじゃないんですか? …あ、ひょっとしてそれで今日?」  
「う、ううん、違うの大丈夫よ、何でもないの」  
 
 その言葉が終わるか終わらないかの内に護は絢子の側に寄り、  
 
「失礼します」  
 
 二人が初めて出逢った時と同じ台詞。  
 そして、護の顔が目の前に。  
 おでことおでこがぴたっ、とくっついた。  
 
「あぅうぅぁぁああぁあぅぅあぁぅぅ…」  
 
 うなり声としか取れない様な声が漏れた。  
 その声を不調のしるしと護は感じた様だった。  
 
「やっぱり熱あります。すごいあります」  
 
 おでこを離した護。  
 でもその顔はまだ目の前。  
 
 …まずい。  
 あたし、発情しちゃってる…!  
 
「保健室に行きましょう、ね。さあ」  
 
 護が絢子の手を取ろうとしたその時、バチンという音がした気がした。  
 タガの外れる音だった。  
 
「もっ…ももっ、まっ、まもももももっ!」  
 
 息を荒げて、護の両肩をガッシと掴んだその姿は、少年を引かせるに十分だった。  
 口は半開きになり、目玉は螺旋を描いて、汗がだらだら垂れる。  
 ひょっとしたらヨダレまで垂れてたかも知れない。  
 
「あ…あや…こさん?」  
「まもももも…ももも、はあはあ、はあはあはあ!」  
「どっ、どうしたんですか、絢子さんっ!」  
 
 …はっ。  
 あたしは何を…。  
 
 絢子を振り切って逃げなかった護は立派だった。  
 寸前の絢子の目は、完全に獲物を狙う捕食者の目だった。  
 
 絢子の顔つきが戻ったのに気づいた護は、中腰になった絢子を優しく椅子に座らせた。  
 
「ビアトリス…ですか?」  
「あ…そ、そうっ、そうなのっ、ビアトリス!」  
 
 逃げ口を見つけた絢子は、発情の収まらない火照った身体のまま、アタフタとデマカセを言う。  
 
「とっ、時々制御出来なくなってこんな風になるの。えと、一時的にね。大丈夫よ、大丈夫」  
「僕に出来る事は…」  
「…大丈夫、大丈夫だから。えとね、自分でしか何とかならないから。うん、ごめんね」  
「じゃ、収まるまで僕、ここに居ま…」  
「一人にしてッ!!」  
 
 初めて護に本気で怒鳴った瞬間だった。  
 そして護も絢子にこんな怒鳴られ方をしたのは初めてだった。  
 
「ひとりに…して…よぅ…うっ、ううっ…ぐすっ」  
「絢子さん…」  
 
 護はゆっくりと絢子の側から離れると、子供をあやすような声で言った。  
 
「時々は…僕に甘えてくださいね」  
「護…」  
 
 いつもより元気の無い微笑みを絢子に向けると、護はガーデンから去っていった。  
 テーブルの上には焼きそばパンが二つ。  
 
 護の優しさに心が温かくなった。  
 しかしそれと同時に、アソコはジンジンと熱くなり、また息が荒いできた。  
 
「どうしちゃったのぅ…あたし…」  
 
 その後、トイレで散々オナニーして少し落ち着いた絢子は、目を真っ赤に腫らしたまま学校を早退した。  
 

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