海の近くのコリコの街では、吹き抜ける風に時折さわやかな潮の香りが混じる。  
それは既にキキにとって身になじんだものになっていた。  
何故ならそれだけの歳月を彼女はこの街で過ごしてきたのだから。  
――キキは、生まれて十八年目の歳をコリコの街で過ごしていた。  
 
キキはトンボと連れだって歩きながら、彼と会話を交わしていた。  
自らが改造した自転車をカラカラ音をさせながら引いているトンボは、  
最近ずいぶんと背が伸びてきて、一緒に話をするには、キキは彼の顔を  
見上げなくてはならないようになっていた。  
 
もちろんキキも、過ぎた年月の分その姿を変えている。  
髪が背中まで伸び、手足がすらりと長くなった。  
そして全体的に女らしい丸みが出てき始めていた。  
彼女としては胸元のボリュームがもう少しあっても、と思わないではなかったが。  
 
「……やっぱりさ、中央の学校は違うよ。授業の一環で作成した  
飛行模型の設計図を見せてもらったんだけどこれがすごいんだ。  
まだ学生が作った物だっていうのに新しい技術が使われててね……」  
見た目は多少変わったものの、今だその中身は昔の飛行機少年のままの  
トンボは、眼鏡の奥の瞳をきらきらさせながら言った。  
キキはそれを聞きながらふんふんとうなずいている。  
 
その反応に勢いを得て、トンボは段々と新型エンジンの話やら、  
飛行機の翼型の変遷にまで話を発展させていった。  
 
ある程度からはキキにとって理解できない技術の話になっていたが  
彼女は魔女として『空を飛ぶこと』についての興味がある。  
そのため、魔法を使わずとも空を飛ぶ事が可能になるかもしれない  
トンボの話はキキにとっても興味深いものであった。  
 
彼と並んで歩きながら共通の話題で盛り上がっていると、キキは胸の奥から何か  
幸せな暖かさが湧いてくるのを感じていた。  
数年前に思いが通じ合ってからは、ますますその感じが強くなっている気がする。  
 
(トンボもそうなのかしら)  
キキはちらっと彼の顔を横目で見るが、トンボは気付かず話を続けていた。  
だがキキは、この瞬間を壊したくなくて、あえて確かめることもなく  
彼の話に聞き入っていた。  
 
「っと……」  
キキの下宿先であるグーチョキパン店の近くの路地に来ると、話に夢中になって  
通り過ぎそうになったトンボは、キッと自転車のブレーキをかけた。  
 
「ここでいいわ、トンボ。送ってくれてありがとう」  
微笑みながらキキがそう言うと、トンボもまた「じゃあ仕事がんばって」と  
はにかんだ笑顔を浮かべた。だがそう言うものの、トンボはすぐには帰らず  
何やらもじもじと体を動かしていた。  
 
「あ、あのさ……キキ…」  
そう言ったきり、意味もなく手を上げ下げする。  
 
彼が言外に何を要求しているのかを悟り、キキは頬を赤く染めた。  
そして一歩彼に近づくと目をつぶり、心持ち顔を上に向ける。  
するとトンボは咳ばらいをしてキキの肩を掴むと、わずかに彼女の体を引き寄せた。  
 
吐息がかすめる距離まで近づくと、トンボは自分の唇をキキのそれに押し付けた。  
 
それはいつまでも物慣れない感じのするキスだったが、キキはそれで充分だった。  
肩をつかんだトンボの手のひらが熱を帯びて、彼の心を教えてくれていたからだ。  
 
唇を離したトンボは、照れたようでずれてもいない眼鏡を直していた。  
キキは、ホウキに乗って空に飛ぶ前の一瞬のような、体が舞い上がるような  
気持ちにたまらず自らトンボの頬に口づけた。  
「わっ、何!? キキ……」  
 
くすくすと笑い声をあげながらキキはその場で身をひるがえした。  
「またね!」  
そして振り返りながら手を降ると、キキはそのまま駆け出していった。  
トンボはキスされた頬を押さえたまま、走り去るキキの背中を  
ぽわんと見つめていた。  
 

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