『背徳の闇』 
 
葬儀の列は、異様な空気に包まれていた。  
「あんな壮絶な最期を迎えるとは……」  
「全身を切り刻まれていたんだろう?」  
「切り刻むなんてものじゃない。まるで拷問のように腕も足もちぎられていたらしい」  
「夫婦揃ってそんなことになるなんて、余程の恨みを買っていたのでは……」  
「……しっ。子供たちが来た」  
冷ややかな視線に囲まれながら、黒髪に氷色の眼差しをした兄妹が  
参列者の間を通り過ぎる。  
涙に暮れる小さな妹の手を引き、オズワルトは真っすぐ前を見据えていた。  
 
「泣くんじゃない、アントニア」  
葬儀を終え、参列した客人たちを見送って、兄妹は私室に引き籠っていた。  
泣きじゃくる妹と並んでカウチに座り、肩を抱き寄せながら慰める兄の表情は  
意外なほどに冷静だった。  
「お兄さま……。アントニアにはもう、お兄さまだけ……」  
ふたりきりの家族になってしまったことをアントニアは不安に感じ、  
兄の胸に縋り付いて泣く。  
「心配いらないよ。おまえは私が守ろう。父上や母上以上に、大切に守るから」  
そう言ってオズワルトは妹に口付ける。  
アントニアはその意味を知らぬままに、兄の唇を甘受する。  
そうして使用人の誰もが部屋に近寄らないまま、ひとつのベッドで兄妹は眠る。  
……可愛いアントニア。私たちの邪魔をするものは、もうこの世にはいない。  
寝息を立てる妹の髪を撫でながら、唇の端を上げて静かにオズワルトは嗤う。  
おまえは、私だけのものだ…………。  
 
 
それから数年の後。  
オズワルトはアントニアの唇を貪っていた。  
「……ねぇ、お兄さま。こういう口付けは、兄妹ではしないものだと聞いたわ」  
遠慮がちにアントニアは呟いた。  
「そうなのか?」  
オズワルトは不敵に微笑む。  
その笑顔に、知らなかったわけではないようだとアントニアは直感した。  
「どうしてこんなことをなさるの? お兄さまには恋人のひとりやふたり、  
いるのでしょう? 私じゃなくても、お相手はいくらでもいそうなのに」  
「おまえは嫌か?」  
不意に問われれば、アントニアは答えに窮する。  
「嫌だなんて、そんな……。ただ、私のためにお兄さまが結婚されないのではと  
心配なだけ……」  
そうだなのだろうかと自分でもわからなくなってくる。  
使用人たちの間で密かに語られていることを、嫌っているのではないか。  
「アントニア」  
まるで心の内を見透かされているように、じっとオズワルトに見つめられて、  
アントニアは黙ってしまう。  
「誰か心無い噂でもしているのか」  
「そ……そんなこと……」  
兄の静かな怒りを感じ、アントニアは怯える。  
兄は、オズワルトは見た目は美しいけれど、とても恐ろしいような空気を纏っている。  
彼が怒れば、言った使用人は暇を出されてしまうかもしれない。  
自分の不用意な発言の為に罰されては可哀想だとアントニアは思った。  
「ごめんなさい、お兄さま。どうかお気になさらないで」  
その翌日、ひとりのメイドが姿を消した。  
 
やはりあのメイドは罰されてしまったのだとアントニアは憂えた。  
自分の所為で暇を出されたのは、そのメイドが初めてではない。  
これまでにもせっかく仲良くなった使用人たちは次々と去っていった。  
別れの言葉もなく…………。  
それはたぶん、兄が厳しく自分に関わることを禁じて、黙って去るように  
仕向けているのだと感じていた。  
自分は兄に守られている。外界から、隔絶するようにと。  
アントニアはもう結婚してもいいくらいの年齢に達していたが、やはり  
兄が断ってしまうのか、いつまでも結婚話が届くことはなかった。  
せめて貴族のパーティーの席でステキな出会いでもあればと夢は見るけれど、  
必ず兄が一緒でなければ出席はかなわず、兄の冷たい視線に怯えて  
誰もダンスを申し込んでくれない。  
心の奥底で、この囚われの城から連れ出してくれる誰かを待ち望んでいる。  
兄の保護から逃れて、自由に景色を眺めてみたい……。  
そう思えば、自然と足は外へと向かっていた。  
玄関は常に人がいる。ならば中庭を抜けて、気侭に散歩しているふりで  
人気の無い場所を探し、そこから抜け出そう。  
期待に膨らむ気持ちと緊張感でアントニアは普段よりも特に人目を気にした。  
そしてアントニアはようやく気づく。  
どれだけ人気の無い場所を選んでも、常に誰かが自分を見張っているということを。  
 
真実、自分が囚われの身であることを知ってしまったアントニアは、  
それ以来、部屋に引き籠るようになった。  
自分が監視されないのはこの部屋の中だけ。  
それでもここにはオズワルトがやってくる。  
「アントニア。夕食も食べずにどうしたんだ、反抗期か」  
「お兄さま……。お兄さまは私をどうなさるおつもりなのです」  
「どう、とは?」  
動揺する素振りもなく、オズワルトは平然と返す。  
温度を感じさせない冷たい瞳のままで。  
「一生をお兄さまと過ごすことをお望みですか。私は……自由になりたい」  
「私が束縛していると感じているのか、アントニア。そうじゃない。  
外の人間は穢れている。おまえが傷つくことのないように、私が守っているのだ。  
約束しただろう? 父上や母上以上に、大切に守ると」  
「いいえ! ……いいえ、お兄さま。傷つくことを恐れていては何も得ることが  
出来ないのです。私は傷ついてでも、生きている歓びを知りたい……」  
「私を捨てるのか、アントニア」  
急にオズワルトの声音が変わった。哀しみに満ちた、縋るような悲痛の声。  
顔を上げれば、いつもの兄とは違う、感情のこもった眼差しで妹を見つめる  
オズワルトがいた。  
そんな哀しそうな眼は両親が不慮の事故で亡くなった時ですら見られなかったことを  
思えば、自分がどれほど酷い事を言ったのかとアントニアは自分を恥じた。  
俯いたアントニアの頬に、オズワルトの手が触れる。  
顔を上げられ、重ねられた唇に抗うことは出来なかった。  
 
真夜中に、アントニアは目を覚ました。  
窓の外はひどい嵐だ。強い風が窓を叩く。  
石造りの城は頑丈だが、風の強い日はすきま風が部屋を通りすぎる。  
それを防ぐための毛織りのタペストリーが風に微かに揺れていた。  
こんな夜は、胸騒ぎがしてならない。闇が城内に満ちているようで、落ち着かない。  
燭台に火を灯すが、室内に揺れ動く風の所為か、小さな炎はすぐに消えてしまう。  
……けれど、こんな夜なら。  
誰もが寝静まった今なら、この城から抜け出せるかもしれない。  
ふと、そんな誘惑に駆られてアントニアは部屋の扉から廊下へと滑り出た。  
厨房の先にある勝手口を目指す。その途中には地下へ降りる貯蔵庫への階段があり、  
ぽっかりと暗闇の口をあけたその場所を恐々と通り過ぎた。  
その時、どこからか泣き叫ぶ声を聞いた気がした。  
風の啼く音かと思うが、どうにも胸騒ぎがする。  
貴族の令嬢であるアントニアは地下へ降りる必要もなく暮らしてきたが、  
ふいにこの下に何があるのかを知りたくなった。単純な好奇心だった。  
手探りで壁を伝い、階段を降りる。どこまでも続く闇は、地獄へと  
続いているのだろうか。  
こんな地下でも、外の嵐が吹き荒れる音が伝わってくるようだ。  
地鳴りのような、女の泣き声のような……。  
……違う。本当に、誰かが助けを求めている。  
言葉にならない呻き声が響き渡って、通路に微かに反響している。  
何故こんな時間に、こんな場所で?  
いったい誰が、なんのために何をしているのか、アントニアは強い不安を感じながらも  
その声の源を探していた。  
 
「あぁぁぁぁああああああっ、うぁぁぁぁ!」  
この扉の奥からだ。恐怖に満ちた嗚咽が響いている。  
恐る恐る扉の覗き窓から室内を見ると、そこには大きな鉄製の人形があった。  
観音開きの扉を持つそれは、よく見ると揺れ動いている。  
誰かがその中に、閉じ込められている……。  
「ひぃぃぃぃっ、いたい、いたいぃぃぃぃ!」  
耳を覆いたくなるような悲痛な声。いったい中で何が起きているのだろうか。  
その場から逃れようと思いながらも、覗き窓の視界の端で何か蠢くものを見つけた。  
それは、二つの影。異様な形に捩じ曲がった肢体と交わる、黒髪の男。  
アントニアは我が目を疑った。まさか、そんなはずはないと。  
これは夢だと、幻だとアントニアは祈った。  
生まれて初めて見るような残酷な眼差しをした兄が、そこにいた。  
「おや、こんなところで何をしておいでで?」  
ぎくりと振り返ると、兄の腹心であるグリエンが後ろに立っていた。  
見つかってしまった。もう、逃れられない。  
アントニアはこの男が嫌いだった。修道院長という立場にありながら  
欲望にギラついた眼差しに、いつも嫌悪感を抱いていた。  
グリエンは音もなく近寄り、扉を開ける。  
「オズワルト様、妹君がお越しですぞ」  
異様な光景に何の感情も見せず、グリエンは兄の元へと歩み寄る。  
促され、アントニアは部屋の中へと入っていった。  
 
「お、お兄さま……、なんということを……!」  
言葉を失ったアントニアに、オズワルトは交わったまま、冷たい微笑みで答える。  
「アントニアか。どうした、眠れないのか?」  
まるで何事も起こっていないかのように、平然としている。  
アントニアは交わり続けているその局部から目が離せない。  
「ああ、これか。気にすることはない。ただの欲望処理だ」  
「欲望処理って…………」  
「男はな、女が必要なこともある」  
兄が交わる人物は女なのだと、そこで初めて気付く。  
よく見れば裂けた服から乳房がのぞき、オズワルトの腰の動きに合わせて  
揺れ動いている。それに気付かなかったのは、有り得ない方向に捩じ曲がった腕と足、  
血にまみれ、泥々になった衣服のせい……。  
その衣服は、この城に従事するメイドの服。  
そしてその髪には、アントニアが親しみを込めて贈った髪飾りが揺れていた。  
これは、先日暇を出された筈の、あのメイド……。  
急激な吐き気に襲われ、アントニアは跪く。その場で胃液を吐き、苦しげに咽せる。  
メイドの顔は、原形を留めないほどに潰されていた。おそらく生きてはいないだろう。  
涙が止まらない。兄の異常な行為と、姉のように慕ったメイドの末路が  
頭の中でぐるぐる回る。胃液が枯れるほど吐いてもなお、吐き気は治まらない。  
「よくご覧、アントニア。美しいだろう。穢れた人間は、血に染まってこそ美しい」  
兄は恍惚とした表情で、メイドを犯し続ける。  
大きく震えてから、ようやくオズワルトは彼女を離した。  
 
ひどい眩暈で立ち上がれない妹の元に、性器を拭いながらオズワルトは歩み寄る。  
「まったく困った妹だな。どうしてこんなところへ来たんだ」  
「よ……寄らないで、けだもの!」  
その言葉にオズワルトはぴくりと眉を動かした。  
「そうじゃない、アントニア。おまえは誤解している。これはおまえの為だ」  
「な……っ」  
「私はおまえだけは守ると決めていた。どれだけ血に飢えても、おまえだけは  
清らかなまま、守ると決めていたんだ」  
哀しげに微笑む兄の足元で蠢く影が気になる。  
「私の影の中には血に飢えた魔物が潜んでいる。この魔物がおまえに  
襲いかかることがないように、生贄を捧げているのだ」  
「……どうして…………」  
「おまえを守るために、強い魔力が必要だった。おまえは知らなかっただろうが、  
私たちの家系は代々黒魔術師だ。おまえにも、その血は流れている。  
私の魔力が強過ぎたおかげで父に疎まれはしたが、私は父を越えた。  
魔物を飼うことで、完全にその力を越えたのだ」  
それは、アントニアにとって絶望的な告白だった。  
「まさか……お兄さま……?」  
「私には父も母もいらない。必要なのは、おまえだけ」  
屈んだオズワルトに強く抱きしめられる。動揺と恐怖で、アントニアは動けない。  
自分は何も知らなかった。兄に守られた環境の中で、平和に過ごしてきた。  
その陰で多くの人が兄の手にかかり、命を落としていたのだ。  
「去っていった使用人たちもみんな、お兄さまが……?」  
震える声で問えば、簡潔に答えが返る。  
「そうだ」  
みんなおまえのために喜んで犠牲になったのだと、兄は冷たく微笑んだ。  
 
「オズワルト様、こちらの者は如何いたしましょうか」  
話の区切りが着くのを待っていたグリエンが声を掛ける。  
そういえばさっきまで鉄製の人形から聞こえていた悲鳴は静まり返っていた。  
グリエンが人形の扉を造作もなく開くと、中からどさりと人が倒れて落ちた。  
その身体には無数の穴が開き、大量に出血しているのが見てとれる。  
人形の中には長い針が剥き出しており、どれも血塗れていた。  
恐怖でアントニアは兄の腕の中ですすり泣く。  
「なにを泣く、アントニア。裏切り者のために泣くことはない」  
「裏切り者……?」  
訊いてからアントニアは訊くべきではなかったと後悔した。  
「あの者は城から抜け出そうとするおまえを知っていて見逃そうとした。  
私を裏切ったのだ」  
なんということだろう。心優しき者が、この城では裏切り者として断罪される。  
自分が兄の束縛から逃れようと、軽い気持ちで行動したがために、  
またひとりの命が失われたのだ。  
アントニアは嗚咽を洩らす。どうか許してと呟く。  
祈るアントニアから離れ、オズワルトは斃れている人物の元へと歩み寄る。  
首の付け根を掴み、引き起こして口付ける。  
「よく見ていろ、アントニア」  
彼は血まみれの女の服を破り取り、全裸にした。  
傷だらけの乳房に噛付き、食いちぎる。ちぎれた肉片はアントニアの足元へと  
吐き出された。そこにオズワルトの影が忍び寄り、その肉片を食べた。  
おぞましい光景に、アントニアは目を逸らす。  
「おまえは見なくてはならない。これはおまえの犠牲者だ」  
違うと言いたかった。けれども、元をただせば自分の愚かな罪だ。  
それに気付いてしまったから、アントニアはもう見守るしかない。  
目に涙を溜めて、霞む視界で兄の交わりを見守った。  
 
全ての感覚が麻痺しているようだった。ぼんやりと兄の行為を眺めている。  
まるで他人の視界のようだと、アントニアは思う。  
そそり立つ兄の男性器が死体に挿し込まれるのを見ても、もはや何の感情も湧かない。  
オズワルトの動きに合わせて揺れる身体は抜け殻。  
死者への冒涜だという感情ですら、わからなくなっていた。  
この兄と同じ血が、自分の中にも流れている。  
いつか自分も狂気に目覚めるのだろうか。  
それともその前に、この兄の手にかかって死ぬのだろうか。  
真実を知ってしまったからには、もはや逃れる術はないのだ。  
射精したオズワルトは気が済んだのか、再びアントニアの傍へとやってきた。  
女の血で濡れた手で、アントニアを抱きしめる。そして血の味のする口付けを交わした。  
舌を絡められてもアントニアは人形のように、されるがままになっている。  
羽織っていた上着は脱がされ、中に着ていた衣服もほどかれてゆく。  
次は、自分の番なのだ。私は、囚われの身……。  
「グリエン、おまえは下がっていい」  
冷たい声でオズワルトは言う。いやらしい下卑た笑いを浮かべ、グリエンは出ていった。  
身に纏っていたもの全てを取り払われ、腕や足を固定する金具が付いたテーブルに  
横たえられる。今のアントニアに恐怖はない。全てが夢のように感じられていた。  
 
何度も唇が重なる。軽いキスから、喉まで舌を挿し込まれる深いものまで、  
全てをアントニアは受け取る。まるで愛おしむように触れられ、愛撫される。  
喉を舌が這い回り、乳房は弄ばれる。  
指は滑らかな腹を辿り、柔らかな陰毛に覆われた箇所に到達する。  
誰も触れることのなかった秘所はオズワルトの血塗れた指で犯される。  
亀裂をなぞり、蕾をまさぐられても、アントニアは快感も、恐怖ですら得られない。  
オズワルトの思うがまま、脚を拡げて肢体をさらけ出している。  
「綺麗だ……なんと美しい」  
オズワルトの舌が、蕾を撫でる。襞の隙間も舐め取られ、唇で吸われる。  
舌で執拗に攻められれば、さすがにびくんと身体が跳ねた。  
指先が蕾の僅か下にある秘所をなぞる。人差し指を入れられ、初めての痛みに  
アントニアは狼狽の声を洩らす。  
「もっと声を聴かせてくれ……愛しいアントニア……」  
不意に蕾をつねられ、アントニアは悲鳴を挙げた。  
潰されてしまうのではないかというほどに捻り上げられ、堪らずその手に触れる。  
「や……っ、痛い、お兄さま……!」  
必死の声を挙げる。冷たく微笑むオズワルトはその悲鳴に満足したのか、指を離した。  
そのかわりにいきなり3本の指がアントニアの中に挿し込まれた。  
ようやく湿り始めたばかりの秘所は、なかなかその侵入を許さない。  
無理矢理押し込まれ、膣腔に裂ける痛みを感じる。  
「いやぁぁっ! 痛いっ、痛い!」  
甲高い悲鳴が挙がる。  
薄い笑みを貼り付かせたまま、オズワルトは痛がる妹の唇をキスで塞ぐ。  
舌を強く絡められ、アントニアはくぐもった声しか出せない。  
おそらく出血しているであろう秘所を、オズワルトは執拗に指を出し入れした。  
 
ようやく指から解放された秘所は、再びオズワルトの舌が這い回る。  
唇全体を使って深く愛液を吸い、下品なほどに大きな音を立てている。  
舌を挿し込まれて中を掻き回され、蕾には歯を立てられる。  
アントニアは痛みを堪えるかのように、両手で顔を塞ぐ。  
それでも零れてしまう声はどうすることも出来なかった。  
オズワルトは自ら纏っていた服を脱ぎ捨て、アントニアの上に覆い被さると  
顔を塞いだ両手をテーブルの金具に固定した。  
「おまえは美しい。何故、顔を隠す。その恐怖に歪んだ顔も、責めるような眼差しも、  
私には甘美なものだ」  
そう言ってオズワルトはアントニアの唇を奪う。  
ひとしきりアントニアの口の中を味わってから、先程まで屍姦していた男性器を  
アントニアの目の前に差し出す。  
「さぁ、おまえの口で、愛しておくれ」  
顔を背けたアントニアの頭を強引に掴み、無理矢理口の中に押し込む。  
喉の奥まで挿し込まれて、アントニアは激しく咽せる。  
一旦引き抜かれて、平手で頬を叩かれた。  
「歯を立てるな。唇と舌だけを使え」  
叩かれた衝撃で、アントニアの口の中が裂けた。血の味が広がる中に、再び  
オズワルトの男性器が挿れられる。  
咽せるのを堪えながら目に涙を浮かべ、彼女は言われた通りにそれを愛撫する。  
顎が外れんばかりに口を拡げ、精一杯に唇でしごく。  
歯が当たらぬように舌を使い、裏側を舐めるようにすれば、オズワルトは  
満足げに見下ろした。  
 
だんだんと腰の動きが早くなる。喉を何度も突かれ、吐きそうになるが、  
アントニアは必死で堪えた。固く握った指が、掌に食い込む。  
唐突にそれは口の中で跳ねた。それと同時に熱くてドロリとした液体が放たれる。  
喉の奥を直撃し、咽喉に貼り付く感触に猛烈な吐き気を感じた。  
思わず唇を閉じようとし、それがオズワルトに更なる快感を与えたのか、  
しごくように口の中から引き出された。  
喉に放たれた体液を吐き出そうとすれば、オズワルトに口を塞がれる。  
感情の籠らない瞳で冷たく言われる。  
「そのまま飲み下せ」  
溢れる涙をそのままに、アントニアはごくりとそれを飲み込む。  
口の中が自らの血の味と、男の放った強い臭気にあてられて、顔を顰める。  
「いい子だ、アントニア」  
優しげに頬を撫でられ、優しい兄の面影を見た。  
この部屋へ来るまでは、オズワルトは自分にとっては優しい兄だった。  
たとえ偏執的な愛情でも、本気で離れるつもりなどなかった。  
けれど今は、真実を知ってしまった。  
私を守るために魔物を得て、多くの命を犠牲にした。  
この責任は大きい。私は罪を償わなければならない……。  
乳房を揉まれながら、アントニアはオズワルトの愛情を一身に受けようと  
覚悟を決める。誰かの命を犠牲にするよりも、自らを捧げる決意。  
溢れ続ける涙がまた、零れ落ちる。  
もう戻れない。この兄と共に地獄へ堕ちよう。  
 
おとなしくなったアントニアに、オズワルトは愛おしげに愛撫を繰り返す。  
胸の先を噛み、血を滲ませるとその血を舐め取りながら、乳飲み子が母のそれに  
縋るように、むしゃぶりつく。  
……兄は、愛されない子供だった。  
理由はずっと判らなかったけれど、今ならわかる。  
兄の影に潜む魔物は、並大抵のものではない。  
これほどまでに強い魔力を秘めた魔物はそうそう居ないだろう。  
それを使役するほどの魔術師だったからこそ、両親は恐れていたのだ。  
そんなことにも気付かず、凡庸に暮らしてきた自分はいったい何なのだろうと思う。  
兄の贄となるべく、生まれてきたのだろうか……。  
アントニアの脚が抱え上げられ、オズワルトの指が秘所をまさぐる。  
中を捏ね回される痛みは未だに止まない。  
内襞を擦られる感触は、まだ理解できずにいる。  
奥へ奥へと指を根元まで入れられ、ぐちゅぐちゅと汚らしい音を立てるその場所から  
漂ってくる艶めかしい自分の臭いに嫌悪感を抱く。  
……早く終わればいい。アントニアはそう願った。  
蜜壷から指が抜かれ、その濡れた指がアントニアの口の中に入れられる。  
これが自分の中に溜まっている臭いなのだ。  
兄の望むように、指に付いた体液を舐め取る。なんて臭いのだろう。  
 
オズワルトは改めてアントニアの腰を抱え、侵入を開始する。  
固く大きくなった怒張に恐怖を感じながらも、アントニアは歯を食いしばって  
それを受け入れる。だが、裂ける痛みに堪えきれず、遂に悲鳴を挙げた。  
「……あああああっ! いやっ裂けるっ、抜いてぇぇぇっ!!」  
しかしオズワルトは聞く耳を持たずに強引に奥へと突き入れる。  
「いやぁっ、いやぁぁぁっ」  
めりめりと裂ける感触がする。  
「あぁぁぁぁっ、あぁぁぁぁぁっ!」  
もはや言葉にもならない。  
最奥まで突かれても、さらに奥を求めてオズワルトの怒張は突き続ける。  
固い肉棒はアントニアの限界を無視して、強く、何度も叩き付ける。  
刺さっている箇所を天井に向け、真上から突き降ろすオズワルトは  
残酷な微笑みを浮かべていた。  
「あああーーーっ、あああーーーっ」  
涎をたらしながら恐怖に引き攣った表情で、アントニアは目を見開き、  
冷酷な兄を見つめる。  
脚の間で出入りし続ける兄の怒張は、裂けたアントニアの血で濡れて光っていた。  
こんなに大きなものが、自分を貫いている。  
それを悦ぶかのように、そこは厭らしい音を立て続ける。  
中が泡立つほどに激しく責め立てられ、アントニアはようやく意識を手放した。  
 
裂けた痛みで目を覚ませば、相変わらずその場所は血塗れていた。  
どうやら気絶していたのは短い時間だったらしい。  
オズワルトはアントニアの脚の間で、秘所を舐め続けていた。  
声を出そうとするが、掠れて声にならない。  
小さな身じろぎに気がついたオズワルトが、顔を上げる。  
「痛かったかい、アントニア」  
そう言ってやはり優しげに髪を梳く。  
いつのまにか両手を縛っていた枷は外され、自由を取り戻していた。  
オズワルトが唇を重ねてくる。ぬめりを感じる体液はそのままに。  
貪るように舌を絡める。そして手は胸をまさぐる。  
身体中のあちこちが痛む。枷を嵌められていた腕は、挿入される痛みに  
耐え兼ねて暴れた時に付けたものと思われる傷があった。  
胸の尖端を吸う兄を見つめ、アントニアは呟いた。  
「お兄さま……もう他の誰も傷つけないで。私の血を、欲しいだけあげます……」  
視界の端にある、ふたつの遺体。硬直したまま斃れている。  
「おまえが魔物の贄となると言うのか?」  
見慣れた氷色の冷たい瞳で、オズワルトはアントニアを見つめる。  
静かに頷き、アントニアからオズワルトへと口付けを捧げる。  
忠誠の証として。  
自分がいなければ、兄は破滅する。いつか、魔物に食われてしまう。  
それを止めることが出来るとするなら、おそらくは自分だけ。  
私はそのために生まれてきたのではないかと、アントニアは思う。  
これ以上の犠牲を出さないためにも、愛情に飢えた兄を守る。  
初めて心に誓ったことは背負いきれるものではないけれど、  
運命を信じてみようとアントニアは固く決意した。  
 
腐臭漂う暗い部屋の中で、アントニアは朧げな夢を見る。  
結局、守ろうとした自分の誓いは果たせずに生命が尽きようとしている。  
もう目も耳もナイフで斬られ、両手足も失ってしまった。  
残されているのは、大きく膨らんだ腹。  
この中に、小さな命が芽生えている。  
禁忌の子……。  
近親相姦の果てに宿ってしまった生命を、何度も殺してしまいたいと願った。  
抱き上げる腕も、生き存える力も既に無く、守ることもできないのならば  
いっそ共に殺して欲しいと声に出して懇願した。  
おそらくこの子は、彼の魔力を受け継いでいる。  
どんなに私が望まなくても、運命はこの子を生かすだろう。  
それが兄にとってどのような波紋を投げかけるのかは、わからない。  
それでも、希望と信じていたいとアントニアは思う。  
もうすぐ自分の命と引き換えに、生まれてくる我が子に……。  
 
何も映さなくなった瞳に、幻が見える。  
金色の光と、蛇が象るスパイラル。  
それに守られるように、オズワルトの姿が見える。  
……いや、果たしてあれは彼なのだろうか?  
もう何も見えない。聞こえない。  
 
あるのはただ、背徳の闇だけ。  
 

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