『日溜まりの情事』(1/16)  
 
「おまえとはもう離婚だ! クソッタレ!」  
新婚さんの朝は、新妻の怒声から始まった。  
長い旅路の果てに数々の試練を乗り越えて、ようやく結ばれたエレインとマティアス。  
互いを認めあい、一生を支え合う誓いを交わしたものの、だからといって  
喧嘩が絶えるわけではなかった。  
「あのな、どうしてあんたはそう短絡的なんだ。  
仕事が長引いて帰りが朝になったくらいでガタガタ言うな」  
気怠げにマティアスは水を汲み、とりあえず渇いた喉を潤す。  
そのすぐそばで仁王立ちするエレインの脇を通り過ぎ、湯を沸かす用意を始めた。  
「それじゃその香水の匂いはなんだよ!  
朝帰りして他の女の匂いをぷんぷんさせて、なんの仕事だよ!」  
「依頼人が香水臭いおばさんだっただけだろうが。  
そんなくだらないことで目くじら立てるな」  
「く、くだらないだと? わたしというものがありながら、平然と他の女と  
朝まで過ごして、くだらないだと?」  
「いいかげんにしろ。だいたいあんたは毎日のように離婚だなんだと騒ぐが、  
そんなに離婚したがるならどうして俺を選んだんだ。  
こんなことならステファンと結婚すればよかっただろうが。  
そうしたらもっと幸せになれたんじゃないのか?」  
なげやりに言い捨て、マティアスは心底面倒臭そうに服を脱ぎ、  
湯を張った桶に浸した布で身体を拭き始めた。  
 
むかついたエレインはそれでもマティアスにまとわりつく。  
「なにぃ? わたしの純潔を奪っておいて、その言い草はないだろ!」  
「あのなぁ……、人を強姦魔みたいに言うな」  
「似たようなことならおまえ何度もしたじゃないか! その気もないくせに  
胸に触ったり、キスしたり、わたしの身体を弄んだじゃないか!」  
「………………」  
あまりのばかばかしさに返事をする気も無くしたマティアスは、溜息をつく。  
もう放っておこうと思う。  
「おまえ、その調子で依頼人と匂いが染みつくようなことをしてきたんだろ?  
最低男なら、そのくらい朝飯前だよなっ」  
マティアスの動きが止まる。  
「あんたはそういう目で俺を見ていたわけか」  
冷ややかな氷色の瞳に見据えられ、エレインは怯む。  
「な……なんだよ。文句あるのか?」  
「あんたには思い知らせてやらないとならないようだな」  
「へっ? な、なにを……」  
いきなり腕をつかまれて、エレインは後ずさる。  
「俺にだって選ぶ権利はある。どうして三段腹のおばさんに欲情しなきゃならない」  
三段腹だったのか、とエレインは妙なところに感心する。  
そうしているうちにマティアスの腕の中に抱きすくめられた。  
彼の顔が迫る。キスで誤魔化すつもりかと思いつつも、条件反射で目を閉じる。  
と、いきなり頬をつねられた。  
「すぐにその気になるな」  
にやりと意地の悪い微笑みを湛えたマティアスに、エレインは戦慄を覚える。  
マティアスがこういう笑いを浮かべるときは、なにかひどいことになる気がした。  
 
予感は間違っていなかったとエレインは思う。  
マティアスが身体を拭いていた布は、今はエレインの目を覆っている。  
朝の光を身体に暖かく感じていながらも、その視覚は暗闇に包まれていた。  
「や……やだ。ほどいてよ、マティアス……!」  
自力でほどこうにも結び目に魔術が施されているのか、エレインには解く術がない。  
「ほどいてください、だろう」  
そう返しながら、マティアスはエレインに触れようともしない。  
声は近くに感じるけれど、立ったままで目隠しされては天地の感覚も揺らぐ。  
「……ほ、ほどいてください」  
「いやだ」  
「なっ……、ちゃんと言ったじゃないか!」  
「これはお仕置きだからな。あんたが身をもって反省するまで許すつもりはない」  
「こんなことされて、なにを反省するっていうんだ! この鬼畜! 変態!」  
「どうとでも言え。ただし、あんまり騒ぐと次は猿ぐつわを咬ませるぞ」  
やっぱりこいつは鬼畜だと思いながら、エレインはだんまりを決め込んだ。  
「よろしい」  
マティアスの意図が全く読めないまま、不安ばかりが募ってゆく感覚に  
エレインは困惑を隠せない。  
目隠しされたままで、今日一日を過ごせというのだろうか。  
 
「さて、今のあんたには何が見える?」  
「なにって……おまえが目隠ししておいて、何が見えるっていうんだよ!」  
「未熟者」  
ぴしっとデコピンされる。見えないおかげでよけることもできずに、  
まともにヒットする。  
「目に見えるものだけがあんたの全てか」  
マティアスの手が、首筋に触れる。  
やはり予期せぬ出来事に、エレインは身を硬くする。  
柔らかな手つきで首筋からうなじへとなぞる指は、すこしざらざらして暖かい。  
その指に手を重ね、たしかにマティアスの手だと思う。  
長い指。関節は太く、爪は短く切り揃えられ、エレインの手よりも  
はるかに大きい。  
手を重ねたまま彼の手は顎を辿り、頬を撫でる。その感触に身体が震える。  
……これは合図だ、とエレインは悟る。  
「ま、待てよ。朝っぱらから何をするつもり……」  
言葉の最後は唇で塞がれる。ああ、やっぱりそうなんだとエレインは思う。  
絡まる舌のざらついた感触に陶酔しそうになったところで  
もうかなり儚くなった香水の残り香に気を取られる。  
「や……やめろよ!」  
思いきり突き放す。  
「ひどいよ、おまえから他の女の匂いがするのに、やだよ。  
本当に三段腹のおばさんでも、わたしには他の女なんだから……!」  
目隠しの布に温かな湿り気を感じる。涙が零れる。  
マティアスは何も言わない。ふいにエレインの側から気配が消える。  
 
どのくらいの時間が経ったのだろうか。  
どこかへ行ってしまったのかと不安になり、エレインは手探りであたりを探す。  
「マティアス? まさか寝ちゃったのか?」  
自分に目隠しをしたまま、どこかへ出掛けたのだろうか。  
それとも仕事で疲れて、さっさとひとりで寝てしまったのだろうか。  
どちらにしても、なんてひどいやつだと思う。  
結婚してさえ冷たい態度は変わらず、ろくに愛の言葉も囁かれたことがない。  
……本当に自分は愛されて結婚したのだろうかと、不安になる。  
と、足元にあった椅子につまずいて、転ぶ。  
膝と腕をしたたかに打ち、痛みよりも孤独感で立ち上がれそうにない。  
彼に必要とされていると思っていたのは自分だけの思い込みだったのか……。  
そう思ったとき、床を伝わる振動に気付く。  
「あほか。見えないのになんでおとなしく出来ないんだ」  
倒れている身体の下に腕を入れられ、起こされる。  
「どこか打ったか?」  
怪我がないかを確かめるように、エレインの身体を検分しているのがわかる。  
エレインはマティアスの身体にしがみついた。  
「……どこ行ってたんだよ。いきなりひとりにするなんて、ひどいじゃないか」  
「あんたが匂いを気にするから、落としてきたんだろうが。文句を言うな」  
くん、と匂いを確かめる。何も纏っていないせいか、匂いはしない。  
髪からはまだ水分が滴っていて、その冷たさに驚く。  
「まさか、井戸水で……?」  
「悪いか」  
なんて面倒臭がりなんだろうと思いつつ、エレインはマティアスの首に抱きつく。  
「身体が冷たいよ……。風邪ひいたらどうするんだ」  
「じゃあ、あんたが温めてくれ」  
愛しさで胸がいっぱいになる。手探りで彼の顔を辿り、唇にキスをした。  
 
彼の唇は首筋、喉、頬を通って耳朶を甘く噛む。  
うなじの髪の生え際を指先でくすぐり、優しく髪を梳く。  
胸元の紐をほどく際に微かに胸に触れた感触に、エレインはいままでにないほど  
感じていた。胸元に彼の手が滑り込み、柔らかく揉む。  
そうしながら、深いキスを続ける。  
「ん……んっ…………」  
喉の奥から声が漏れる。彼の姿が見えないことで、感触と気配だけが全てになる。  
マティアスの指が胸の尖端をつまみ、指先でつま弾く。  
くすぐったいような心地よさに、身体の奥に熱が灯る。  
離れた唇は、胸を吸う。舌で転がすようにしたかと思えば甘噛みし、  
彼の口元から零れる音にさらに敏感になる。  
見えないことをもどかしく感じながらも、新鮮な感覚も拭えない。  
「や……は……ん…………」  
胸だけで登りつめそうになったとき、彼の唇が胸から外された。  
「…………マティアス?」  
少し荒めの呼吸で問えば、彼は静かに答えた。  
「簡単にいかれちゃ困る。言っただろう、これはお仕置きだ」  
「な……、なんで?」  
エレインは混乱する。  
怒っていたのは自分で、それを許す気持ちになっていたのに。  
「わからなければ考えろ。俺はまだ許しちゃいない」  
 
そう言って今度は腿を撫で上げる。  
エレインのスカートをたくし上げ、下着の上から秘裂を軽くなぞる。  
「あの程度でこんなに濡らして、この先どれだけもつかな」  
いやらしいことを言うマティアスに、エレインは真っ赤になる。  
「そんなこと言うなら触るなよ!」  
「触らなくていいのか」  
うっと言葉に詰まる。本当は触って欲しくてたまらない。  
と、下着の上から温かな感触が伝う。  
「や……っ! な、なに? なにしてるんだ?」  
パニックになりながら、彼の舌が秘裂をなぞっていることに気付く。  
「やだ、そんな……だめ……!」  
慌てて手を伸ばし、まだ冷たく濡れている彼の髪に触れる。  
内腿に髪から落ちる冷たい雫を感じ、中心には彼の熱い舌……。  
布越しとはいえ、その舌の感触ははっきりと伝わる。  
「だめ、きたないよ! あ……あ……っ」  
薄い生地はエレインの中から湧き出るものとマティアスの唾液に濡れそぼり、  
中で貼り付く柔らかな毛の様子を浮き上がらせている。  
花芯の尖りに舌をあて上下に動かせば、エレインは羞恥にすすり泣く。  
「や……だ…………ぁ…………」  
それでも声には艶を帯びる。唇で吸い上げれば、小さく悲鳴をあげる。  
抵抗して膝を閉じようとする脚を押さえ、下着を一気に引き下ろせば、  
透明な糸が、つと延びた。  
 
秘所に視線を感じて震えるエレインに、マティアスはさらに唇を寄せる。  
布越しよりさらに鮮烈な感触に、エレインの身体は跳ねる。  
濡れそぼった花弁は瑞々しく誘い、その中に舌を割り込ませる。  
凹凸のある内部は熱く、内壁を強く擦るように舐めれば締めつけてくる。  
締めつける力の強さに舌の自由はなかなか利かないが、それでも執拗に  
マティアスは責め上げる。出し入れを繰り返し、舌が外れれば  
今度は花芯を深く吸う。  
周囲に溢れている愛液を舌で絡め取り、また侵入を繰り返す。  
とめどなく溢れる箇所はひくひくと蠢いて、新たなる生命の水を零れさせる。  
こんなに感じているのは、全神経がこの場所に集中しているからだろうか。  
泣きながらエレインは、懇願する。  
「マティアス、お願いだ……助けて…………」  
早く挿れてほしいと、彼女はねだる。  
「まだだ。あんたが認めるまで、終わらせない」  
認めるって、なにを?という問い掛けは、更なる快感に流される。  
花芯を深く吸われながら、指が入り口をなぞったからだ。  
「ひぁ……っ!」  
指はなかなか入ってこない。焦らされて無意識に腰を動かす。  
そうしても願いは叶えられることはなかった。  
 
「まだわからないか? あんたは俺をなんだと思っているんだ」  
「なにって……、ん…………」  
エレインの唇に何かが触れた。  
とろりとした液体のついた、彼の指。  
そっと口に含む。舌で舐め取りながら、それが元は自分の身体の中から  
出てきたものだと感じる。  
愛おしげに彼の指を舐め、舌で愛撫する。  
指が唇から離されると今度は抱きしめられ、顔を上げればキスが降る。  
マティアスの唇も、さっきの指と同じ味がした。  
粘膜のようなとろみを舐め、少しざらつく彼の顎を両手で撫でる。  
丹念に唇に舌を這わせ、彼の肉厚な下唇を吸う。  
同じように上唇も舐め、鼻の頭にもキスをする。  
脚の間から雫が腿を伝うのを感じながら、マティアスの意図を探ろうと  
思考を巡らそうとする。  
けれども彼に対する愛しさばかりが頭を占領して、唇だけでも  
求めることしかできなかった。  
 
唇が微かに触れ合う距離で、エレインはせつなげに言葉を告げる。  
「わたしはおまえしかいらない。おまえにとってわたしの存在も  
そうであってほしいと願うのは、自分勝手か?  
わたしじゃなくてもいいなんて、そんなのやだ……」  
彼にとって自分が何番目の女かなんて、考えただけでも悲しくなる。  
自分の知らないマティアスが、こんなふうに他の女を愛するのだと  
思っただけでも心が張り裂けそうだ。  
マティアスの手が、エレインの頬にかかる髪をかきあげる。  
「あんたが俺を最低だと罵っても別に構わない。  
それだけのことをしてきたんだから当然だとわかってる。  
だけどな、そんなに信じられないか?  
信じることができないのに、俺を選んだのか?」  
ようやく彼の意図が見えた気がする。信じていないのは自分のほう。  
すぐに離婚を口にするのは、それを絶対的に否定してほしいから。  
毎日確かめないと不安になる。  
他にもっと相応しい人が彼にはいるのではないかと心のどこかで思ってた。  
ゆめみの森で、彼がエレインを車輪に選んだ時と同じ。  
あのときも本来の彼の車輪である呪具にやきもちを妬いた。  
彼はちゃんと自分を選んでくれたのに。  
マティアスの覚悟を、エレインは信じなければならない。  
義務ではなくて、心からの信頼。  
 
「わたしはおまえに愛されていると自惚れても嫌いにならない?  
チビで貧乳でも、満足できる?」  
「そのうえ我儘で、どうしようもないくらいアホだけどな」  
くすりと笑うのを鼻先に感じる。  
バカにされたのだと思うけど、それでもいいやとエレインは思う。  
マティアスの手は愛おしげに頬を撫で、優しいキスをくれたから。  
彼の胸に触れて、下へと指を這わせる。  
手探りで進んだそこにはすでに膨らんでいる彼の一番熱い場所があった。  
触れて形を確かめ、先端にそっと唇を寄せる。  
見えていたら、こんなことはできなかったかもしれないと思いながら、  
エレインは柔らかく口に含む。  
最初はついばむように軽く吸う。少しずつ深く口に入れる。  
抜き様に引っかかる場所で唇を止め、舌で先を転がすように舐める。  
「歯は立てるなよ」  
エレインの髪を梳きながらマティアスは言う。  
性格も目つきも口も悪いこの黒魔術師に、こんなことをした女は他に  
いるのだろうか。変なところで行儀にうるさいこいつのことだから、  
簡単には許さないはずだとエレインは確信する。  
口を窄めて先端に負荷を与えると、ぬるりとした体液を感じた。  
ちょっとびっくりして口を離すが、自分の中から溢れるものときっと  
同じなのだろうと、改めて口に含んで飲み込む。  
さっきはマティアスが口で愛してくれたから、ちゃんと返したい。  
稚拙な愛し方しかできなくても、精一杯心を込めて尽くしたいと思う。  
 
マティアスの手は、膝元に小さく屈んでいるエレインの華奢な胸をまさぐる。  
指先で薄紅の先を弄び、大きな手で全体を揉む。  
揺さぶれば、たわむくらいに成長した胸は、残念ながら本人に自覚はない。  
柔らかな胸の感触は日に日に心地よくなる。  
身体を重ねるごとに、彼女は成長する。  
小さな口を開き、懸命に自身をくわえ込む姿にマティアスは愛しさを覚える。  
魔術の覚えは悪いくせに、こういうことには熱心なのかと苦笑しつつも  
新しいことを教える欲求も抑えきれない。  
と、エレインの舌が敏感な箇所を辿る。  
「…………っ」  
あやうく声を漏らしそうになり、堪える。  
まだ、こちらの快感までは教えられない。弱みを握られるには、まだ早い。  
胸を弄っていた手で、身に纏ったままの彼女の衣服をゆるめる。  
完全には脱がさないでスカートの中に手を入れ、腿に流れる露を伝い、  
秘裂をまさぐる。  
つぷりと指を挿し入れれば、エレインはくわえ込んだままに呻く。  
「おい、歯を立てるなと言っているだろう」  
自分の余裕の無さを悟られたくなくて、きつい口調になってしまったことに  
マティアスは失笑する。  
指を蠢かせながら、怒張し続ける自身の昂ぶりを意識していた。  
 
指でエレインの中を探り、花芯の尖端を擦る。  
執拗に花芯を擦り続ければ堪えきれなくなったのか、エレインは自身から  
口を離した。そのままマティアスの腰に縋るようにしがみつく。  
「はぁ……あんっ……あ……」  
温かな吐息が怒張に触れる。それだけでも刺激を感じる。  
裏返る声に満足して、マティアスはエレインの身体を起こす。  
「さて、あんたはこれからどうしたい? 言ってみろ」  
意地悪く問う。ぐったりとマティアスに身体を預けているエレインは  
息も絶え絶えに言葉を絞り出す。  
「…………おまえと……、ひとつになりたい……」  
「どういうふうに?」  
「……繋がりたい」  
エレインは気怠げにマティアスの頭を抱き寄せ、花弁から滴り落ちる雫で  
マティアスの膝を濡らすのも構わず、彼の上に跨がる。  
「お願い……。欲しいんだ…………」  
「上出来だ」  
 
マティアスは彼女の腰を自らの中心に導く。  
熱い花弁が先端に触れるのを感じ、徐々に柔らかな内部に覆われてゆく。  
「……はっ……あ……っ」  
マティアスの首にしがみつきながら、苦しげにエレインは呻く。  
痛むのか身体をずらしながら沈め、完全に奥まで繋がると、安堵の溜息をついた。  
「マティアス……わたし、おまえがそばにいるなら何も怖くない。  
どんなことでも平気……」  
マティアスはエレインに口付ける。  
目隠しで視界を奪われても、自分を信じるというエレインの気持ちを大切に思う。  
それでもまだ、愛の言葉ひとつも言ってやれない。  
どういう言葉で伝えればいいのかわからない。  
考えるほどに、どんな言葉も陳腐に思える。  
そのかわりに、最大限の態度で応えたい。  
エレインの髪を撫で、舌を絡めると、彼女の入り口がぎゅっと絞まるのを感じた。  
「しっかりつかまってろ」  
そう言うと、繋がったままエレインの脚を抱え上げる。  
それだけでエレインは眉をひそめる。  
腰を動かせばするりと彼女の中を滑り、ふわりと浮いて戻る腰は  
再び彼を深く受け入れる。強い刺激にエレインは喘ぐ。  
浅く、深く波を使い分け、徐々に高まりを意識する。  
抱きしめあいながら、唇を貪りあう。その合間にもエレインは声を洩らす。  
 
登りつめる感覚に、マティアスは体勢を変える。  
エレインの脚を抱えたまま上に覆い被さるように身体を倒す。  
さらに強く腰を打ち付けると、エレインは余裕を無くしたようにすすり泣く。  
「や……や……あん……んっ……」  
締め付けはどんどん強くなる。打ち付けるほどに、はだけた胸元が揺れる。  
激しく突き上げ、擦りあう接点は燃えるように熱い。  
「マ、マティアス、もうだめぇ…………!」  
自分ももう限界だった。  
もう一度深く口づけを交わし、おそらく聞こえないくらいに小さな声で囁いた。  
「………………」  
「え……?」  
彼女の中に全てを放つ。  
「あ……あああ……っ!」  
熱い迸りは彼女の中で大きく跳ね、蠢く胎内に迎えられた。  
 
ぎゅっとエレインの身体を抱きしめ、そして力を緩めると  
エレインの腕も静かにほどかれる。  
まだ呼吸は熱い。マティアスはエレインの額の汗を拭い、目隠しを外す。  
眩しげに目を細め、潤んだ眼差しで彼女はマティアスを見つめる。  
「……もう一度、ちゃんと言ってよ」  
「………………なにを?」  
マティアスは不機嫌に眉をひそめる。  
「言ってくれただろ? 愛してるって」  
「言ってない」  
「嘘だ。ちゃんと聞いたもん」  
「記憶にないな」  
「ずるいよ、もう一度言ってってば!」  
「うるさい」  
そう言って、マティアスはエレインの言葉をキスで封印する。  
うっとりと受け止めたエレインは、ようやく周囲の様子に気がつく。  
「…………おい。なんでドアも窓も開けっぱなしなんだよ」  
ニヤニヤしながら彼は答える。  
「気にするな」  
「な……、この、どあほーーー!」  
新婚さんの昼下がりも、やはり新妻の怒声で始まるのだった……。  
 
【END】  

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