「五代さん…おいしいですか?」
新たにチャレンジした中華料理の感想を聞く為、
響子は首を傾げて五代に尋ねる。
「ん?…あ…お…おいしいですよ」
五代はそういったが、あきらかに美味しそうに
食べている様子ではない。
しかも箸も全然進んでいない。
「もう食べなくていいです!
まずいならまずいって言って下さい…」
響子はむっとした顔で五代の皿を下げた。
「すみません…」
次の日、響子は四ツ谷さんに、おいしい中華料理の店を尋ねた。
「解りました…○△ですね、ではいってみます」
そういうと響子はそそくさと出て行った。
「あっ…ちょ…管理人さん
あのお店はちょっと問題が…」
四ツ谷は心配そうな顔で響子の後ろ姿を見ていた。
(絶対五代さんにおいしいって言わせてやるんだから…)
響子はそう思いながら足を進める。
何度か電車を乗り継ぎ、四ツ谷が言っていた
店の前に到着した。
(なんか…怪しげな店…大丈夫かしら…)
チリンチリン♪
「ごめんください」
しばらくすると奥から大柄の男が出てきた。
「ナニカヨウアルカ?」
おぼつかない日本語で店主が尋ねる。
「あ…あの、すいません。
美味しい料理を食べさせたい人がいるんです。
だから…お願いします。」
響子は必死に頼み込む。
「ワカタアルヨ」
店主はニタリと怪しい笑みをこぼしながら答えた。
響子は店主に連れられて店の奥に入っていく
「きゃっ…何するんですか…いやぁぁっ…」
ドガッボコッ
店の奥から激しく殴打する音が聞こえた。
…
「管理人さん…遅いな…怒ってるのかな…」
五代が心配して一刻館の玄関で座り込んで
待っていると怪しい中国人が目の前に現れた。
「アナタガ五代アルカ?」
「そうですけど…何か?」
「音無サンカラノオトドケモノ
オイシイ料理トドケニキタ」
「管理人から…?それで管理人は今何処に?」
「イマハジジョウガアリコレナイ、
サキニタベテホシイ」
そういうと手に持った料理を五代に渡す。
「キョウノ肉サイコウアルヨ…」
五代は料理に手をつけた。
「う、美味い!なんだこれこんなの今まで
食べたことない。特にこの肉が美味い!
これは何の肉ですか?」
「コレハ音無ノニク、アバレルカラ、サバクノクロウシタヨ」
(え…今…なんて?…音無の肉?)
五代の背筋に冷たいものが走る。
よく見ると中国人の袖には血が付着している。
「オェ…ウ…オエェェェェェ!」
五代は今まで食べた料理を戻してしまう。
「俺のせいだ…」
五代は激しく昨日の事を後悔する。
「管理人さん…ごめんなさいごめんなさい…」
「あの…五代さん…?どうかしました?」
五代の目の前に響子が現れる。
五代はキョトンとした顔で放心状態だ。
「あれ…?管理人さん…なんで?」
「すみません遅れちゃって…陳さんのお店で
料理教えて貰ってて、でも生きた鶏を殺すのが
中々出来なくて苦労しました。暴れるし…
後片付けしてたんですけど料理が冷めちゃうから
先に陳さんに届けてもらったんですよ」
「な…なんだ…」
安心した五代は涙が流れた。
「やだ五代さん…何泣いてるの?
響子は優しく微笑んだ。
「あぁぁぁぁぁっ!」
響子はせっかく作った料理が、先程五代が
戻したものでいっぱいになっているのに気付く。
「酷い…せっかく五代さんの為に作ったのに…
もう何も作ってあげないんだから!」
そういうと響子は怒って管理人室に行ってしまう。
「誤解です、管理人さん!
これには深い訳が…管理人さ〜ん!」