「雪之、待たせたわね!」
遥はそう声をかけると、自分の部屋のドアを大きく開け放った。
今日は日曜で、せっかく雪之が遊びに来てくれているというのに、
親の仕事で深く付き合っている家族が複数訪ねてきてしまい、ぜひ挨拶をということになってしまった。
次期執行部長である雪之に、そのなんたるかを教え込もうとしていた矢先のことである。
「私はお部屋で本でも読ませてもらってるから。いいから遥ちゃん、行ってきなよ」
雪之が柔らかく笑ってそう言ってくれたので、遥も
「そう?・・・なら、ちょっとだけ。すぐ帰ってくるから、ゆっくりしててちょうだい」
と挨拶に出向いたのはいいのだが・・・
相手方がなかなか放してくれず、終わってみれば、結局1時間と半ばかり経過していた。
つまりは、それだけ雪之をほったらかしてしまっていたことになる。
(雪之、ほんっとうにごめんなさい!!今から熱く語り合うわよ!!)
そんな思いでいっぱいで、焦って早足になりながらも遥は部屋へ向かい、勢いよく部屋にとびこんだ。
しかし――
「・・・あれ、雪之??」
部屋に雪之の姿はどこにもなかった。
「どこにいったのかしら・・・」
1人ごちて、部屋中を見回す遥。するとそんな遥の目に、少しだけ開いた寝室のドアがうつった。
ああなんだ、と遥は目を細めると、寝室のドアに手をかけて、ゆっくりとそれをひく。
「ここにいたの雪――」
「っ!!!遥ちゃ――――!!!???」
声をかけると、雪之の焦った声が、遥の声を遮った。
その驚いた声に、(寝ているのを知られて恥ずかしがるなんて、雪之もかわいいわね)と
想像して笑いながら、遥はベッドに目を向ける。
「雪之、寝てたの・・・・・・て、え?え?ええ??」
優しく雪之に声をかける遙――だったが、あまりの光景に途中で言葉を失ってしまった。
そこには、雪之がいた。
いたが・・・シャツの前をすべてひらいて、ブラジャーもまくりあげ、
なぜかスカートの中に手を入れている姿で、顔を真っ赤にしながら、遥を見ていた。
その目は興奮と羞恥で潤み、多分あと少しすれば、涙がこぼれ落ちるのだろうというのがわかる。
突然の乱入に、下着の中に突っ込んだ手を出すことすら忘れ、雪之は遥を見つめる。
そんな雪之を指差すと、遥は口をぽかんとあけて、え?え?とバカみたいに繰り返す。
そして・・・
「ええええ――――――っ!!??」
屋敷中に響くような声で、遥は絶叫した。
「遥ちゃん・・・声が大きすぎるよ」
その声に、ハッと我に帰った雪之が、慌てて下着から手を引き抜きながら、小さな声で言った。
その指先は雪之自身の愛液で濡れている様で、豪華な照明の下で、ヌルリと小さく光を反射する。
「だって・・・ゆ、雪之・・・ああ、あんたいったい、何を・・・・・・」
茫然自失の体で、遥は雪之に尋ねた。
「なにって・・・・・・・・・」
答えれるわけもなく、雪之は顔をさらに真っ赤にして俯いてしまう。
(遥ちゃんのお布団の匂いを嗅いでたら、変な気分になっちゃったなんて、言えないよ・・・)
遥ちゃんに嫌われた、遥ちゃんに嫌われた、遥ちゃんに嫌われた――そんな思いばかりがよぎって、
雪之の頭の中を、絶望が埋め尽くしてゆく。
心の中で号泣しながら、雪之は遥からの罵倒を待った。
だが、そんな雪之に返ってきたのは――
「・・・・・・いや、ほんとに何やってたのよ?」
――遥からの、そんな気の抜けた言葉だった。
今度は雪之が絶句する番だった。
思わず口をはっ?の形で固定してしまう。
そして絶句しながらも、必死で真意を問いただそうとする。
「何って・・・・・・遥ちゃん、知らないの!?」
「知らないのって・・・・・・そんなに有名なことなの??」
あっけらかんと答える珠洲城遥、17歳。
「・・・・・・えっと・・・じゃあなんで、さっきはあんな声をあげたのかな?」
遥の無邪気な様子に、つい命に接する時のような調子で、問い掛けてしまう雪之。
「そりゃあだって・・・部屋に入ったら、雪之がなんかすごい格好で、私のベッドにいるから・・・」
ついノリで――そう言った遥は、そこでちらっ・・・と雪之の身体に視線を向けた。
その視線に気付いた雪之が、慌ててシャツの前をかき合わせ、スカートの乱れを直す。
「なんでそんなに服が乱れてるの、雪之?」
そんな雪之に、遥は心底不思議そうな様子で、疑問をぶつけてきた。
「なんでって・・・・・・その・・・・・・あの・・・・・・」
ねぇ、なんでなの?そんな期待に満ちた視線が、雪之を真正面から貫く。
(えっと・・・遥ちゃんはやっぱり遥ちゃんで・・・自慰っていうものを、知らなかったん、、だよね――――)
視線に顔を赤くして照れながらも、雪之は優秀な頭をひねって、言い訳をなんとか考え出そうとする。
そして・・・
(そうだ!!!―――――というか、これはもしかすると、チャンスかも!!??)
自分の考え付いた、とある天才的なひらめきに、内心で1人喝采をあげた。
しばらくすると、雪之は遥に向かって、ゆっくりと、辛そうに話をきり出した。
「遥ちゃん・・・私ね。実を言うと・・・・・・病気なの」
「え?」
雪之の言葉に、唖然と呆ける遥。
そんな遥にかまわず、雪之は捏造しまくった話をつらつらと迫真の演技で喋っていく。
「ううん、病気っていうか・・・後遺症なのかな。ほら、前のHiMEとかの戦いがあってから・・・
私時々、どうしようもない衝動に、襲われる時があるの・・・」
「え?え?後遺症?し、衝動?どんな??」
「うん・・・・・・その、恥ずかしいんだけど・・・すごくHな気分に、なっちゃうんだ」
「そうHな・・・て、え・・・・・・えっちぃ――――――――っっっ!!!!???」
遥が雪之の衝撃の告白に、思わず絶叫してしまう。
その顔は何を思っているのか、首筋まで真っ赤に染まっている。
さっきから青くなったり赤くなったりと、実に大変そうである。
「うん・・・H・・・」
遥の絶叫を受けて、こちらも顔を赤くして俯きながら、雪之がポツリといった。
「えっちってあんた・・・あのえっち?いやらしいことをしたくなるというか、その・・・」
恥ずかしくて最後まで言葉にできないまま、遥が雪之にいう。
「・・・遥ちゃんの想像どおりだよ・・・・・・時々、抑え切れないの。それに・・・最近ひどくなってるみたい。
ずっと1人で我慢してきたけどもうダメみたいで・・・・・・すごく苦しいよ、遥ちゃん・・・」
胸を押さえ、苦しそうな顔を遥に向ける雪之は、まさにアカデミー賞ものの演技だった。
「だから、、、遥ちゃんの部屋で発作が始まっちゃって、最初は必死でこらえてたんだけど・・・・
――ごめんね遥ちゃん。ほんと・・・ごめんね。遙ちゃんのベッドで自分で・・・・・・ぐすっ・・・・・・」
とどめとばかりに、そう言って涙を一筋こぼすと、雪之は布団に突っ伏してしまう。
顔を伏せたまま、チラリと横目に遥をうかがうと―――
遥は衝撃のあまり、意識をどこかにとばしたかのような顔で、立ちつくしていた。
いつもはキリっとあがって凛々しい眉毛をひそめ、口をあけて呆けている姿は、正直かなり情けない。
その顔に、(やっぱ無理があったのかな・・・いくら遥ちゃんでも・・・)と雪之はいまさら心配になってきた。
だがしばらくすると、停まっていた遥が突然びくっと身体を震わせて、大きく動き出す。
そして突っ伏する雪之に慌てて駆け寄り、遥は半分泣きながら、
「ゆきのぉーーー!あんた1人でそんな・・・・・・なんで私に言わないのよ!!あんたには私がいるでしょ!?
1人で悩んで、そんな苦しんで・・・・・・バカ!!恥ずかしがってる場合じゃないでしょ!!雪之のバカ!!」
――遥はやっぱり遥だった。
遥のそんな言葉に、雪之が一瞬、伏せた顔の下で、満面の笑顔を浮かべた。
「じゃ、じゃあ・・・治療に協力してもらっていいのかな、遥ちゃん?」
どこか弾んだ声で、雪之が遥にいう。
「もちろんよ、雪之!!」
ぐすっと鼻をすすりながら、遥が元気よくこたえる。
「あんたが元気になるためだったら、なんでもするわよ!!」
(な、なんでも!?――遥ちゃんそんな、いきなり積極的すぎるよ・・・・・・でも、なんでも・・・うふふ♪)
内心でにやけながら、雪之が遥に確認を取る。
「ほんとに・・・なんでもいいの?」
「この珠洲城遥に二言はないわ!!さぁ、何をしたらいいの?」
凛々しすぎる遥に、雪之は思い切って言った。
「じゃぁ・・・遥ちゃん、脱いで」
「なんでもいいわよ・・・って、え?――――脱ぐ?」
「うんv」
「・・・なんで私が脱ぐの?治療するのは雪之でしょ?」
「だって・・・私1人だけ脱ぐの、恥ずかしいんだもん。遙ちゃんも脱いでくれたら、お互い様だから・・・」
「うっ・・・」
もっともらしい(?)雪之の言葉に、思わず言葉を詰まらせる遥。
(脱ぐの?私も?真昼間っから!?いくら旧知の仲の雪之の前とはいえ・・・そんな・・・)
トレードマークのおでこに冷や汗を浮かべる遥に、雪之は鋭く続けた。
「それに・・・・・・遥ちゃん、さっき言ったよね。珠洲城遥に、二言はない――」
「ああもぅ、わかったわよ!!」
そんな雪之のツッコミを遮り、感情を爆発させた遥が、おもむろに自分の衣服に手をかける。
そして、着ているものを一枚一枚、乱暴に脱いでいった。
ブラウスにカーディガン、キャミソールに・・・ロングスカート。
それらを脱いで、黄緑色のブラジャーとショーツだけの姿になった遥が、頬を染めて雪之にいった。
「これでいいでしょ!」
「うん・・・・・・ありがとう、遙ちゃん。すごく・・・・・・綺麗」
遥の均整のとれた、見事なナイスバディをうっとりと眺めて、感嘆の声をもらす雪之。
目を潤ませ、力いっぱい手を握り合わせている姿からは、少々危ない感じが漂っている気がする。
それを感じ取ったのか、遥もうっ・・・と一瞬言葉を詰まらせたが、
「き、綺麗とかはいいとして・・・つ、次は雪之の番よ!!ほら、脱ぎなさい!!」
そう言って、雪之の服に手をかけた。
「え!?遥ちゃん!!??」
「ほら、大人しく!あんたには早く良くなってもらわないといけないんだから!!」
あれよあれよと言う間に、遥は雪之の服を脱がしていく。
ほとんど脱げかかっていたとはいえ、シャツを身体からひっぺがし、
タイトスカートを雪之の足から抜き取った遥は、自信満々で言った。
「これでいいわ!じゃあ雪之、次はどうするの?」
「え?」
遥に脱がされている自分に、うっとりと陶酔していた雪之が我にかえる。
「え、じゃなくて――脱いだのはいいけど、これからどうするのよ」
「えーと・・・その・・・・・・」
どうしたらいいのか?ではなく、どこまでならいいのかな?――雪之はそんな黒いことを考えた。
その挙句、
(藤乃さん、ごめんなさい!!)
と内心で静留に謝ると、
「そうだ!あのね、遥ちゃん!藤乃さんに聞いたんだけど」
「ふぅじぃの〜〜?・・・なんであんなぶぶづけに聞いてるのよ」
私には話してくれなかったのに――そう少し拗ねながらいう遥のかわいさに悶絶しながら、雪之は続けて、
「だって藤乃さんもHiMEだったから・・・それでその、藤乃さんも、やっぱり私みたいな症状に襲われる時が
あるんだって話してて。それを聞いた時、どうやって鎮めるのかも聞いたんだけど・・・・・・」
「ふ〜ん。で、どうやってあのぶぶづけ女は治してたわけ?」
「それが・・・・・・・・・あの、その・・・・・・・・・えーと・・・」
言いよどむ雪之。そんな雪之にイライラしながら、遥はたきつける。
「はっきり言いなさいよ、雪之。いまさらでしょう!」
その声にびくっと震えながら、
「・・・・・・玖珂さんとキスしたり、・・・・・・身体を触りっこしたら治ったんだって・・・・・・」
捏造100%の自分の願望を、雪之はぽつりと言った。
「わかったわ、キスね・・・・・・て、キスぅーーっっ!?」
「うん・・・・・あと触りっこ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
ベッドの上で、下着姿で沈黙しあう2人。
「・・・・・・雪之・・・・・・どういうことかしら」
しばらくして、遥がどことなく顔色を悪くしながら、雪之へそう声をかけた。
「えっと・・・たしか、好きな人にされるから効果がある、みたいなことを藤乃さんが・・・」
「そ、そう・・・・・・」
「う、うん・・・・・・」
また沈黙が訪れる。
その静けさに、(やっぱり無理か・・・そうだよね。私なにやってたんだろ。あはは)
なんて思いながら、雪之が泣きそうな顔で無言の遥に話し掛ける。
「は、遥ちゃん!私なら大丈夫だから!!そんな嫌なこと、しなくていいから!!」
だから、ね、気にしないで?――なんとか涙をせきとめて、雪之は明るさを装った声で言った。
だが内心では、自分でいった『嫌なこと』という表現に、凹みまくりである。
「・・・・・・・・・雪之は、私が好きなの?」
そんな凹む雪之に、遥がぼそっと言った。
一瞬何を言われたかわからなくて、雪之は思わず聞き返してしまう。
「え・・・?なに、遥ちゃ」
「だからーーーー・・・・・・雪之は、キスとかする相手が、私でいいのかって聞いてるの!!」
顔を真っ赤にした遥が怒鳴った。
「ぶぶづけの話では、好きな人からじゃないと効果ないんでしょ?・・・だから、その・・・」
私でいいのかな、って思ったのよ!!悪い!!
照れ隠しがみえみえな態度で、遥はそう言葉を続けた。
雪之の顔が、目に見えて元気を取り戻していく。
それと同時に、歓喜のあまりうまく動かない口を動かし、雪之は遥に急いで心を伝える。
「も、もちろんだよ、遥ちゃん!!大好きだよ!!ほんと大好きだよ!!!」
「そ、そう?」
「むしろ、遥ちゃんじゃないと嫌だよ!遥ちゃんがいいよ!!」
「うっ・・・・・・(て、照れるわね、これは)」
「遥ちゃんさえ嫌じゃなかったら、なんでもして欲しいよ!!」
あの大人しい雪之が、ここまで声を荒げるなんて・・・遥はびっくりしながらも、
自分を好きだといってくれる雪之に、あたたかな気持ちを覚えずにはいられなかった。
そして、雪之からどんなことをするか聞かされた時、真っ先に『雪之が嫌がるんじゃ』と考えて、
自分自身はすることになんら抵抗を覚えなかったことに気付いて、不思議な気分に陥ってしまう。
(雪之は私の大事な大事な・・・本当に大事な人ですもの。当然だわ)
いつもの自分なら、きっと汚らわしいと思うであろう行為すら厭わない雪之への想いがなんであるのか。
遥はそれを自覚しないままに、ゆっくりと雪之の唇へ、自分の唇を近づけていった――。
「ん・・・」
唇を触れ合わせた瞬間、雪之の口から、甘い吐息がもれた。
「雪之・・・どう?」
初めてのキスに顔を赤くしながら、遥がそう聞いた。
「遥ちゃん・・・気持ちいいよぉ」
「きもちいいって・・・そうじゃなくって、気分はどうかと聞いてるの!!」
陶酔した雪之の言葉に、遥の顔がいっそう赤く染まる。
「うん、すごく気分いい・・・ふわふわしてるよ・・・」
どこまでも夢見ごこちのまま、雪之はうっとりと言う。
「・・・なら、もう一回するわよ」
そう言うと、遥はまた雪之の頬に手を添えて、唇をそっと寄せていく。
「んん・・・遙ちゃ・・・・・・」
唇の間から少しだけもれてくる、雪之のか細い声を聞きながら、ゆっくりと唇を押し当てる遥。
とりあえずキスというと、唇を合わせるということぐらいしか知らないので、
それ以上のことはもちろん何もない。
だが、それだけでも雪之にとっては、十分すぎるほどの快感を与えてくれた。
(んく・・・遥ちゃんが、キスしてくれてるよー。ほんとに・・・ほんとに・・・ほんとなんだ・・・・・・)
そう思うだけで、雪之の背筋に、ゾクリとする感覚が走ってくる。
1人で慰めていたことなど、この強烈な快感の10分の一にも及ばない――
そう思って、雪之は押し当てられる唇に、いつまでも陶然とし続ける。
(私、もうこれだけで充分満足だよ・・・遥ちゃん。遥ちゃん・・・)
雪之の中は、遥のことでいっぱいになっていた。
「ん・・・ねぇ雪之、変な感じがしない?」
すると遥が、唇をはなすと、そんなことを言ってきた。
「・・・変な感じ?」
「そう。なんか・・・やたらと身体が熱いというか。息があがってくる感じ」
「えっ・・・それって――――!」
遥ちゃん、興奮してきてるんじゃ!?
思わずそう口をついて出そうになる言葉を、雪之は必死で止めた。なぜなら・・・
「なんなのかしら、この感じ・・・。うーん、はじめてだわ」
そんなことを言って、遥が心底不思議そうに首を傾げていたからである。
爆乳をぶるぶると揺らしながら、うんうんと悩む遥の姿に、雪之は吐血しそうなほどの萌えをみた。
(は、遥ちゃん!かわいすぎるよ!!そんなかわいい顔されちゃったら・・・欲張っちゃうよ、私)
雪之の中にあった、触れるだけのキスで充分という謙虚な気持ちは、あっさりと消える。
そして雪之はまたも、
(藤乃さん、ごめんなさい!!)
と心の中で静留に謝ると、遥に震えながら声をかけた。
「は、遥ちゃん・・・それって、ひょっとしなくても、かか、感染したのかも・・・!」
「感染って・・・・・・えええええーーーっ???!!!」
雪之の言葉に、遥が本日何度目かの驚愕をする。
「そういえば、藤乃さんも言ってた・・・。なつきに感染してもーて、2人して大変だったわ、って」
「ななな・・・・・・なんでそんな大事なことを今頃いうのよ、雪之!」
「ごめんね・・・あんまりにも苦しくて、それどころじゃなかったから」
雪之は目の端に涙を浮かべながら、しれっと答えた。
怒りたくても怒れない遥が、ぐっと言葉を我慢する。
雪之はさらにいった。
「遥ちゃん・・・2人ともがかかっちゃった場合はね――――――」
こうやるんだって、と一度声をひそめ、わざわざ遥の耳元へ唇を寄せて、
雪之は衝撃の内容をごにょごにょと遥に伝えた。
それを聞いた瞬間、遥の顔が、ぼっと火が出るように赤く染まり、身体までも赤く侵食していく。
その末に、
「そんなことするのーーーーーーー!!!???」
遥の絶叫が部屋にこだました。
「ゆゆ、雪之ぉ・・・!!ああんた、そそそ、それは、マジなのっ!!??」
動揺して口がまわらない遥が、よくわからない強弱をつけながら、必死な様子で雪之に詰め寄った。
「マジだよ、遥ちゃん」
掴みかからんばかりの遥に、いつもの弱気な感じを一切なくした雪之が、きっぱりと告げる。
顔つきもどこかキリッとしていて、精悍さを5割ほど増しているかのように見える。
その顔にあるのは、悲願達成への並ならぬ決意であるのだが・・・
遥にはあいにく、それがどんなものか、幸か不幸かまったくわからなかった。
ただ遥の目には、動揺しまくる自分とは対照的な、やたらと落ち着いている雪之の姿だけが映っていた。
「っ・・・雪之はなんで、そんなに落ち着いていられるのよ!!」
「なんでって・・・」
「だって・・・治す為とはいえ、あんた私にそんなことをしなきゃいけないのよ!?」
「うん、そうだね」
「そうだね、じゃないわよ!!だってあんた・・・舌を使って全身を清めるって、そんなの平気なの!?」
「うん」
ドキッパリと、雪之は静かに言った。
ショックのあまり大声で治療の内容を口走っていた遥が、雪之の断言に口をあけて呆けてしまう。
「え・・・雪之?」
そんな遥に、雪之が反対に言葉をかける。
「というか・・・・・・なんで平気じゃないなんて思えるの、遥ちゃん?」
澄み切った目をした雪之の言葉に、遥の胸が、ドキッと高鳴る。
「私は遥ちゃんが大好きだから、全然平気だよ。むしろ、遥ちゃんの苦しみを、早く取り除いてあげたい。
私のせいで、遥ちゃんまであんなツライ思いするかもだなんて――そう考えると、そっちの方が嫌だよ」
雪之はもはや、完璧に信念の人になっていた。嘘に嘘を重ね、たたみかけるように罠を張っていく。
「藤乃さんもね・・・大事な玖我さんに感染したってわかった時、本当に怖かったんだって。
絶対、嫌がっても無理矢理にでも、治療したる・・・そんな気分で、玖我さんを見つめたって。
でも玖我さん、そんな藤乃さんに笑って、なんだそんなことかって・・・」
心の中で、何度目かの(藤乃さんごめんなさい!)を言った後、雪之は続けた。
「玖我さんの方はいいとして・・・私は藤乃さんと、まるっきり同じ気持ちだから。
遥ちゃんが嫌がっても、どんなに抵抗しても、遥ちゃんを舐めるよ。・・・絶対だよ」
そう言うと、雪之はひたっと至近距離から遥を見据えた。
「舐めるってあんた・・・」
遥の顔が、音を立てて羞恥の色に染まっていく。
「だからごめんね、遥ちゃん。――嫌でも、我慢して」
雪之は遥の首筋に、そっと舌を這わせていった。
「んひゃぁ!!」
突然の刺激に、遥が思わず色気とは無縁の大声をあげてしまう。
「ちょちょちょ、ちょっと待ちなさい、雪之!!!」
「待たないよ、遥ちゃん・・・」
そう言って、なおも舌をおろしていこうとする雪之の肩を、遥が両手でガシっと掴む。
そして、
「いいから聞きなさい!!」
と一喝した。
その素敵な珠洲城節に、雪之はついくせで、「はい!」と返事をしてしまう。
そんな雪之を見やると、遥はコホンと一回咳払いをして、重要なポイントを告げる。
「あんたは一つ、大きな思い違いをしているわ、雪之」
「・・・・・・思い違い?」
「そう!あんた、私がされるのを嫌がるんじゃないかって、思ってるでしょ?」
「うん・・・」
視線を落として、ぽつりという雪之。
「それが違うの!私のほうは、あんたが私をその・・・な、舐めるのを、嫌なんじゃないかと思っただけで・・・
私は別に、嫌でもなんでもないの!!それに――私だってあんたを治すためなら・・・いくらだって舐めるわよ」
そういうやいなや、雪之の首筋に唇を這わせていく遥。
「ええ、遥ちゃん!!??」
突然の展開に、顔をあげた雪之が、眼鏡の奥の瞳をこぼれんばかりに大きく見開いた。
「いいから、あんたは黙って舐められなさい!!」
遥は言い切ると、ツツーと不器用に唇を動かし、雪之の身体へ舌を伸ばしていく。
そうすれば雪之が治る・・・そう信じて、遥は雪之の白い肌へ、一生懸命奉仕する。
(遥ちゃん・・・優しすぎるよ・・・・・・私の嘘に必死になって・・・ごめんね・・・ごめんね・・・・・・)
その拙いが優しい唇の感触から、遥の雪之への思いが伝わってくるようで、
雪之は涙が出るほどの嬉しさと同時に、心からの申し訳なさを覚えずにはいられなかった。
だが――
「・・・んくぅ・・・遥ちゃ・・・なんだかちょっと、気分が良くなってきたかも・・・んん・・・」
「・・・んん・・・・・・ほんと、雪之!?やっぱりこれでいいのね!?」
――遥の舌が素肌に這う感触と快感に、雪之の罪悪感はあっさりとのみこまれてしまった。
「んんん・・・・・・遥ちゃぁん・・・はぁ・・・んん・・・」
遥の舌が肌を滑り落ちていくたびに、ベッドに横たわった雪之の口から、堪えきれない嬌声があがる。
「ぅく・・・気持ち・・・いいよぉ・・・・・・ん・・・くぅうん・・・・・・んっく・・・」
鎖骨から胸の中心、そして臍へと、雪之のスレンダーで折れそうな身体の上を、
遥の舌が、よく勝手がわからないままに、ヌラヌラと舐めて睡液の道をつくっていく。
(な、なんか雪之の声を聞いてたら、顔が熱くなってくるわね。。病気が進行してるのかしら・・・)
そんなとんちんかんなことを思いながら、遥は絶えず舌を動かし続ける。
「・・遥ちゃん・・・遥ちゃん・・・・・・ふわ・・・んふ・・・・あっ・・・っくう・・・・・・」
雪之のそんな、甘くて切ない声が、身体を舐める遥の耳には至近距離から届いてくる。
その声を、(雪之ったら、こんな声も出せるのね。かわいいじゃない)と最初は思っていたのだが・・・
時間が経てば経つほど、その声が頭の奥まで響いてくるような感覚に、遥は襲われていた。
声を聞くと、痺れるような感じがはしって、少し頭がクラっときてしまう。
動悸も激しくなるし、多分顔色も赤くなっているんだろう。――まるで風邪みたいだわ。
そう思って、ままならない自分の身体を強引に動かしながら、遥はそれでも懸命に舌を這わせていった。
雪之が時折言うままに、うなじに背中、わき腹、お腹周辺など・・・いたる所を舐めまわしていく。
「・・・は、遥ちゃん・・・んっく・・・・・・そういえば、ふ、藤乃さんが、、んン・・・また言ってたんだけど――」
そんな遥に、上ずった声をあげつつの、雪之からの何回目かわからない藤乃さんコールが入る。
「・・・んん・・・今度はなんなの、雪之?・・・・・・どこが、いいの?」
ぴちゃっと水音を響かせながら舌を止めると、遥は雪之を見上げて言った。
こちらも少し、頬が上気して息があがっているのは気のせいか。
「・・・んっと・・・・・・治療にいいのは、、、その・・・」
「ん?どこよ?」
ツツーとまた動きを再開させながら、軽い気持ちで尋ねる遥。
もはや半ば慣れてしまい、舐めることへの恥ずかしさなど、欠片も残っていない――
はずだったのだが、
「っぁん・・・じゃ、じゃあ言うね・・・・・・胸、だって・・・・・」
「へぇそう、む・・・・・・む、胸ーーー!!!???」
雪之が言った場所は流石にノーマークで、遥はまたも絶叫してしまった。
「つぅ・・・大きすぎるよ、遥ちゃん」
快感を一瞬忘れ、耳を抑えて雪之がうめいた。
「だって雪之、、、胸よ!?」
動きを止めた遥が、顔を赤くして、純白のブラジャーに包まれた雪之の胸を見ながら、どもった声で言った。
「うん。胸だね、遥ちゃん」
こちらも頬を染めながら、雪之が黄緑色のブラジャーに包まれた、遥の爆乳に目を向ける。
(遥ちゃんの・・・やっぱり大きいし、形も綺麗で、すごいや・・・・・・)
うっとりと見つめる雪之の視線に、思わず両手で胸元を隠した遥が叫ぶ。
「胸を・・・ぶぶづけはどうしたですって?!」
「舐めたって」
遥の動揺に、雪之があっさりと、かつ簡潔に答えを出す。
「ものすごい効果だったって言ってたの・・・今思い出しちゃった。私も動揺してたみたい・・・」
ごめんね、遥ちゃん。そう言うと、雪之はどこか期待を含んだ目線で、遥をじっと見つめる。
(胸ってそんな・・・赤ちゃんじゃあるまいし!でも、雪之のためだし。ううぅ・・・どうしよう)
そんな葛藤の末に、雪之を見つめる遥。雪之ははにかみながら、目を細めた笑顔で遥を見ていた。
遥はその唇に目を向けると・・・ふと衝動的にしたくなって、軽く雪之の唇にキスをした。
「え?遥ちゃん?!」
「・・・・・・雪之。下着外すから、ちょっとじっとしてなさい」
突然のキスに、目を白黒させる雪之の身体に手を回すと、遥はブラジャーのホックを外した。
プチン、と小さな音がすると、雪之の小さな胸を覆っていた最後の布が、ベッドの上にぱさりと落ちる。
その下からは、雪之の慎ましい、けれどなかなか形の整っている、未成熟なバストがあらわれた。
「じゃあ、舐めるから・・・」
お風呂などで見慣れた雪之の胸に、いつもは感じない恥ずかしさを覚えながら、遥は唇を寄せていく。
(遥ちゃんに胸を舐められる時がくるなんて・・・夢見てたことの、一つが叶ったよぉ・・・ううぅ・・・)
そう思って、雪之はドキドキしながら遥の唇を待つ。
最初はやっぱり、外側からゆっくり舐めていくんだよね・・・そんな予想すら立てて、雪之は遥を待ったのだが、
「ひゃぁ!遥ちゃ・・・いきなりそこは―――!!・・・んくぅ・・・」
遥が真っ先に口付けたのは、胸の中心部にある小さな蕾――乳首だった。
「・・・そこは!!・・・んンん・・・あんっ・・・ふわっ・・・んはぁ・・・・・・」
無意識に含んでしまった遥が、何を思ったのか、その小さな乳首をしゃぶりだすと、
雪之の口から、今までになく大きな、蕩けきった声がもれだす。
「んくぅ・・・ダメだよ、遥ちゃん!そこは・・・あふっ・・・んんん・・・や、、あん!!」
立ち上がりかけだった乳首は、遥の口の中で完璧に形をかえ、いまや立派に尖りきってしまっていた。
その変化を楽しむように、遥が舌先でそれをつつくと、雪之の身体がビクンっと大きく震える。
「ひぃ!!それほんと、ダメ!!・・・・・・や、ダメ、はるかちゃ!!」
甲高い喘ぎをあげながら、雪之は必死で身体をそらせて、遥の口から逃れようとする。
そこから与えられる快感は、はっきりいってシャレにならないくらい、すごかった。
駆け上がってくる刺激が強すぎて、頭が真っ白になりながらも雪之は抵抗するが、
遥はそれにかまわず、延々と乳首を攻め続けていく。
「ちょっ・・・はる、かちゃ?・・・・・・んく・・・あっく・・・ひゃあっ・・・んふぅ・・・らめぇ、、」
息も絶え絶えな様子の雪之が、快感のあまり舌ったらずになりながら、
喉をしぼらせて、切々と甘い声をあげる。
大好きな遥ちゃんが自分の胸をしゃぶっている。
そんな夢のような事態から沸き起こる間接的な快感と、そしてそこから直接的に与えられる、
目のくらむような堪らない快感が、雪之を2重の意味で襲い、心と身体、両方をせめたてていく。
それまでの身体への稚拙なキスの余韻もあり、雪之の身体の奥からは、もはや言い訳不可能なほど
の愛液が溢れ出て、下着をこえて、うっすらと遥の布団すら濡らしてしまっていた。
だがもはや、雪之にとっては、そんなことどうでもよかった。
雪之の中にあるのは、『遥ちゃん遥ちゃん遥ちゃん遥ちゃん・・・・・・』――もうそんな想いだけ。
そしてその遥ちゃんが繰り出した、舐めてしゃぶって、挙句に両の乳房にそれぞれの手を添え、
搾り出すようにギュッと圧迫するという予想外のテクニックに、
「や、や・・・んくう・・・ひっく、、・・・ぁン・・・あん・・・んンん・・・・・・遥ちゃ――――――!!!」
雪之はひとたまりもなく、身体を大きく仰け反らせると、絶頂に連れていかれてしまった。
そんな雪之をみやると、遥は口と手をとめて、満面の笑顔を浮かべた。
はぁ・・・はぁ・・・荒い息を吐きながら、横たわって身体を弛緩させていた雪之が、ギュっと遥にしがみつく。
その顔は絶頂の余韻から恍惚としており、吐息は甘く、熱っぽかった。
どうしようもなく跳ねる鼓動を整えながら、雪之は遥に、なんとか言葉を紡ぐ。
「・・・んん・・・遥ちゃん・・・・・・すごかったよ・・・・・・」
遥ちゃんも、実はノリ気だったんだね――雪之は嬉しさからそう続けようとした。
しかしその前に、そんな雪之に、
「すごかったって・・・何が?」
遥からの、不思議そうな声が返ってきた。
「え・・・」
思わず顔をあげた雪之の視線と、怪訝な遥の視線が、真正面からぶつかった。
「いや、すごかったって・・・何なの雪之??」
「・・・え、だって・・・遥ちゃん、私の胸を、すごく巧みに・・・しゃぶって・・・」
「ああ!!――あれはその・・・なんか、母乳みたいに、病気のもとが出てくるかしら、
とか思ってしゃぶってみたんだけど・・・やっぱ何にもでなかったわね」
「へっ!!!???」
テレて顔を赤らめる遥に、絶句する雪之。そんな雪之を尻目に、遥は衝撃の告白を続けていく。
「なんとなく、搾ったりもしてみたくなっちゃって・・・ごめんなさいね、雪之。痛かったんじゃない?
雪之がすごい声をあげて、くすぐったそうにしてたのには気付いてたんだけど・・・・・・」
なんか 楽しくて やめられなかったのよ。
遥は若干申し訳なさそうに視線を下げると、雪之にそういった。
「――――――」
雪之は、開いた口が塞がらなかった。
「でもやっぱり、ぶぶづけが言ったように、胸を舐めるっていうのは効果あったのね!!
だって雪之の顔、すごく嬉しそうだもの。発作もおさまったんじゃない?」
「あ、あはは・・・うん。もうすっかりよくなったよ、遥ちゃん。・・・うん、うん・・・多分・・・だけど」
なんともいえない気持ちになって、喜んでいいのか、悲しんでいいのかわからないまま返事をする。
するとその時、突然
「あら!なんか濡れてるわね・・・なにかしら、これ?」
遥がびっくりした声をあげた。
(まさか!!)雪之の顔に、行為の最中には忘れ去っていた事実が思い浮かぶ。
それってひょっとしなくても・・・・・・私の、愛液なんじゃ・・・・・・。
恐る恐る下を向くと、遥の手が触っているのは、雪之の股間のあたりの布団だった。
雪之の顔が、羞恥のあまり、ボッと音を立てて、林檎のように真っ赤に染まる。
(恥ずかしすぎるよ・・・・・・なんて言おう。遥ちゃん・・・ぐすっ・・・・・・)
内心で涙をほろほろこぼしながら、雪之は必死で言い訳を考えていく。
しかし頭がパニックになって、何も思い浮かばず、おろおろと頭を抱えてしまう。
もうダメだ――雪之がハラをくくって、私のHな液ですと白状しようとしたその時。
「これって――ひょっとして、雪之の後遺症の、原因じゃないの!!」
雪之の耳に、遥のそんな弾んだ声が届いた。
雪之は思わず耳を疑った。
というよりも、遥ちゃんありえないよ、の心境だった。
そんな雪之を置いてけぼりにして、遥のトークは加熱していく。
「絶対そうに違いないわ!そうよ、これよ!!」
「これを全部出し切ったら、きっと全快するのね」
「あとどれくらい、身体の中に残ってるのかしら・・・心配だわ」
顎に手をあてるお得意のポーズでそうのたまいながら、
遥はどこまでも自分の世界へと心をとばしていく。
(遥ちゃん・・・わたしもう、なんて言っていいのか、ほんとわからないよ)
遥のあまりのアレっぷりに、顔を下げて、そう苦笑しながらも愛しさを覚えていた雪之。
「あれ・・・でも・・・・・・私のとこもちょっと濡れてる?」
しかし、そんなポツリともらした遥の言葉が耳に届いた瞬間、雪之の顔色が急変した。
「・・・遥ちゃん!?」
急いで顔をがばっとあげ、遥を見ると――
「ええっ!!ちょっと待ってよ雪之!?何、これ!!??」
自分のパンツに手をあてて、泣きそうになっている大好きな人の姿がそこにあった。
どうやら、雪之にいろいろやっていた時、なんだかんだ言って、遥も興奮していたらしい。
本人も無自覚なまま、遥の身体が反応して、愛液を分泌してしまっていた・・・これが顛末だろう。
そのあまりの無知っぷり、かわいさっぷりに、雪之は本気でクラっときて、倒れそうになってしまった。
(遥ちゃん、17歳にして、それは本気でダメだと思うけど、私的には全然OKだよ!!)
そんな心の声とともに、雪之は内心ガッツポーズを決めた。
そして、すっかり忘れてしまっていた大事な捏造設定を思い出して、さらに狂喜した。
(遥ちゃんの治療が・・・まだ終わってないんじゃ――――)
雪之はにっこりと微笑んで遥にいう。
「遥ちゃん・・・私の方はとりあえずいいから、次は遥ちゃんの番だよ。
早く対処しないと・・・遥ちゃん、大変なことになっちゃうよ!!」
<翌日>
カッカッカッカッカ・・・
いつものように、遥は雪之とともに、園内を勇ましく歩いていく。
その凛々しい姿は、さすが執行部長様という貫禄である。
遥は今日も、学園の平和のために、己が道を突き進む――
とその時、遥の前方に、今もっとも見たくない2人の姿がうつしだされた。
「げっ・・・!!」
「ふ、藤乃会長。それに、玖我さん・・・」
雪之も横で、顔を青くする。
「あらぁー、珠洲城さん。げっ、やなんてそない悲しい声ださんでも」
いけずやねぇ――そう言って、藤乃静留が柔らかく微笑んだ。
それまで静留と談笑していたであろう玖我なつきは、ふんっとそっぽを向いてしまう。
「ほらっ、なつきも。・・・堪忍なぁ、なつき、ちょお調子がようないよって・・・」
びくん。その静留の言葉に、遥が反応した。
「調子が悪いって・・・・・・玖我さん、あなた大丈夫なの!!」
「はっ?・・・って、珠洲城痛い!痛い!!腕を掴むな!!」
「――はっ!し、失礼したわね。思わず、その・・・ごめんなさい」
「いや、別にいいが・・・なんなんだ、いったい。いつもの珠洲城らしくないな?」
なつきが顔に?マークを浮かべながら、薄気味悪そうに遥を見つめてくる。
「それは・・・・・・!!」
遥の脳裏に、昨日雪之にされた、様々な『治療法』の光景が蘇ってくる。
どれもこれも、藤乃さんが――やら、玖我さんが――やらの言葉で始まった、あれらの治療法。
それらを思い出して、遥の顔が、ものすごい勢いで赤くなっていく。
「おい、珠洲城!お前こそ大丈夫なのか!?」
「ほんまやなぁ・・・顔が真っ赤や。珠洲城さん、どっか悪いんとちゃいますか?」
そんな遥に、口々になつきと静留が声をかける。
・・・かけるのだが。
「わ、私は多分、もう大丈夫です!むしろあなた達の方が――!!」
圧倒的に逆効果だった。
「はぁ?何言ってるんだ、お前?」
「うーん、これは重症どすなぁ。いつもより、さらに悪うなってますわ」
さらりと言われた静留の毒舌すらも放置して、遥は2人から距離をとった。
そして、
「あなたたちのこと・・・少しだけ、尊敬しましたわ。あの恥ずかしさに、よく耐えられましたわね・・・」
それだけいうと、雪之の手をひいて、廊下を全力で歩いていった。
「行くわよ、雪之!!」「待ってよ、遥ちゃん!!・・・うわ、こけちゃうよー」
そんな2人の声が、遠くなっていく。
「なんだったんだ、いったい・・・」
「まぁ・・・珠洲城さんやから・・・」
後には、意味不明な言葉を投げかけられた、静留となつきだけが取り残された。
ちなみに、結局雪之と遥の後遺症とやらは、いまだ完治せず、
現在もたまに治療をよぎなくされるとのことである。
<終われ>