〜Kiss〜なつき視点 なつき×舞衣
私が彼女と関係を持ったのは蒸暑い日だった。
高校生になって初めての夏休み。クラスの連中は旅行の計画を立て
るのに余念がなかったが、私はそういうのは嫌だった。
私は人に干渉されるのを極端に嫌った。他人に手の内を見せる事に
抵抗を覚えたからだ。
今日も部屋で一人、数学の問題と向き合っていた。中学生の時とは
比べ物にはならない位宿題が多かった。
(全く…こんな問題を普通させるか?教科書にも記載されていないのだぞ…)
私は不満に思った。でも、不満を言っても仕方ない。
参考書片手に難題に臨んだ。始めはお手上げだったが、各問題、一
つのキッカケを掴むと案外簡単に解けた。
その日は、朝から雨で薄暗かったのを覚えている。屋根に打ち付け
られる雨音もラジオの音に掻き消される。
「ふぅ…」
時計に目をやる。12時を過ぎていた。
「…もうこんな時間か」
フラフラと立ち上がると私は昼飯へ作ろうと台所へ向かった。
“ガチャン”
冷蔵庫の扉を開けて中を覗く。
「…嘘だろ……冗談はよせ」
私はその現実に向き合えなかった。冷蔵庫の中は物の見事に空だっ
たのである。あるのは麦茶とコーヒーだけ。
(しまった…昨日買い足そうとしてスーパーに行くのを忘れてたんだ)
私は自分の愚かさに反省した。昨日も買出しに行くつもりが、昼から
突然の雨に見舞われて行くのを中止していた。私は雨などに濡れる事
も苦手だったので、雨の日とかは必然的に行動範囲が限られてしまう。
後、先に言っておくが、私は決して淫らな濡れ場が好きな女ではない
からな。そこの所を穿き違えて解釈しない様に。
「とりあえず…誰かに昼食を貰わないと」
私はコッソリと自分の部屋のドアを閉めた。周囲に誰も居ない事を確認
してからある人物の部屋に向かった。他人に干渉されるのを嫌う私が、
人一倍人目を気にする…滑稽な話だ。幸い誰にも逢わなかった。
(ふぅ、何とか来れたな。さて、問題はアイツが居るかどうかだ…)
ある人物の居る部屋のドアをノックをする前に私は思った。
そいつの名は鴇羽舞衣。私と同じ「HiME」の一人だ。他にも居る様だが今の所、情報は攫めていない。
“コンコン”
私はそっとドアをノックして中からの反応を確かめた。1秒…2秒…5秒……と反応を待ったが反応は無い。
「居なかったか……」
私は項垂れた。普段の私なら何ら驚かないのだが、空腹感が体内を支配していたので
感情の起伏が激しかった。そう思うと私は何と卑しい。
諦めて部屋に戻ろうとした。ふとその時、
“シャー…”
部屋の中から微かだが水の流れる音がした。
(ん?鴇羽は居るのか)
私はドアにピッタリと張り付いて中から聞こえる音に耳を澄ました。
“シャーッ…”
確かにシャワーらしき水の流れる音がした。
もしや、と私は思いドアノブに手を掛けゆっくりと下に降ろした。
“カチャ、キーッ…”
鍵が掛かっていない。鴇羽は中に居るのだ。
(何だ…居るのか)
私は少し嬉しかった。そして、そっと部屋の中に入って行った。
部屋の中は電気が付いていなかった。相手に気付かれない様にそっと
音のする方へ歩を進めた。
音のする場所はバスルームだった。どうやらシャワーを浴びている様だ。
私は脱衣所のドアを音が立たないよう慎重に開けた。
“スーッ”
良かった…気が付いていない。
シャワーの水が流れる音だけが脱衣所内に聞こえている。他の音は一切聞こえて来ない。
(鴇羽は今…裸なんだ……私より大きい胸…)
自然と秘部が熱くなった。馬鹿な、私が感じてしまうなんて!ましてや同性にだぞ!愚かな…
私は気を紛らわそうとした。でも出来なかった…
「…ん?これは…」
私の目についた物体。それは鴇羽の脱いだ下着だった。淡い水色のブラとやはり同じ色で統一
されたショーツ。手に取ってみると、まだほんのり温かだった。
私は鴇羽のブラのカップの部分を自分の胸に当ててみた。やっぱり少し隙間が出来てしまう。
あぁ、やっぱり大きいな…羨ましく思いつつ、ブラを洗濯槽に戻した。
ショーツを手に取ってみる。ごく普通の形のショーツだ。紐パンやTバックではないショーツ。
後部分にはあの鴇羽のお尻が包まれている…私はそっと顔を押し付けてみた。温かい温もりを
感じる……何だろうこの感情は。鴇羽の事を思うだけで心が癒される。
「フツー」・「一生懸命」、私が最も嫌う単語が一番当てはまる人物なのにどうして…
私は変態なのだろうか…それさえ分からないまま立ち尽くす私だった。
自分は変態なのだろうか…他人の下着を顔に押し当てて感じるなんて
やはり私は変態だ…でも……それでも良い。鴇羽の事をずっと思って
いられるのなら私は…
暫し感傷に耽ってから私は本来の目的を達成する為に行動を開始した。
まずは鴇羽に私の存在に気付いてもらわねばならない。私は思い切って
浴室のドアをノックした。
“コンコン”
「…?、は〜い…あっ!」
鴇羽は一糸纏わぬ姿で現れた。やはり私よりスタイルは良かった。なる
ほど、あの野生児(命)が顔を埋めたがるのも納得できた。
「よ、よぉ…ふ、風呂に入ってた最中に済まない…」
私はあたかも今来たかの様に装った。何を私は焦ってるんだ…?
「珍しいね。玖珂さんが遊びに来るなんて…私ももうすぐお風呂から上
がるからリビングで待っててくれない?」
突然の訪問にも鴇羽は優しく対応してくれた。
私は言われるままリビングで待つ事にした。
(今この部屋に居るのは私とアイツだけ…2人きり…)
リビングの椅子に腰掛けながら私は思った。男と2人きりになるよりも
ドキドキしている…鴇羽の事を考えるだけで異常に興奮してる私。
私は部屋を見回した。部屋の隅にまで丁寧に掃除されている。酒臭い私
の部屋より何倍も清潔だ。それに何だか開放感を感じる、私の部屋は閉
塞感が強いからかもしれない。まぁ、一度も他人を部屋に招いた事が無
いから仕方無いか…
続いて寝室を覗いてみた。シングルのベットが2つ置かれている。どれ
も真白のシーツで覆われている。
(ここで鴇羽が寝てるんだ…何時か私もここで…)
抱きしめられ、
深く甘いキスされ、
耳元で「愛してる…」と囁かれて、
お互いに生まれたままの姿で愛し合う、そして一つに繋がる…
ベットを眺めながら、私は物思いに耽った。そんな関係を持てたらどん
なに幸せな事だろうか!?でも………
若し今の私の気持ちを伝えたらどんな顔をされるだろうか?多分顔には
出さないが、中できっと軽蔑してるかもしれない。それが怖くて人と接
する事を私は避けてきた。それではいけないと分かっていた…でも怖い。
心の中で迷いながら私は待っていた。
「お待たせ〜」
「!!!」
風呂から上がった彼女を見て、私は言葉を失った。何故なら余りにも彼女が
美し過ぎたからだ。バスタオル一枚で体を覆い、栗色の髪はしっとり水分を
含んでほんのりと湯気が立ち込めていた。
「あぁ〜気持ち良かった。午前中に掃除をしてて埃を被っちゃったのよ。そ
れでシャワーを浴びてた所に玖珂さんが来たんだよ、ビックリしちゃった」
「…それは悪かったな」
「うぅん、私も用事で行こうとしてた所に玖珂さんが来てくれて助かったわ」
「用事??」
私は思わず眉を顰めた。また変な事に付き合わされるのか…
「実はね、今日から暫く命が田舎に戻ってるの。それでご飯は私の分だけで
良いのに、ついいつもの癖で2人分作っちゃって…それで若し良かったら玖
珂さんにもお裾分けしようかとおもっ…」
「くれっ!!」
ご飯、この単語に私は反応し、鴇羽に飛びついてしまった。今思うと情けな
い話だが仕方ない。
「きゃっ!」
私が飛びついたせいで彼女を覆う僅かな壁が崩れてしまった。衣服の上から
でも充分に分かる膨らみが勢い良くはだけた。
「く、玖珂さん落ち着いて!」
「頼む、今すぐ食べさせてくれ!でないと死んでしまう〜!!」
「わ、分かったから!私に覆いかぶさらないで!」
この時の私は命を遥かに越えていたと後日鴇羽から話を聞いた。
…私は変人なのか?
鴇羽の作る昼飯は格別だった。味付け・盛り付け・彩り全てが完璧過ぎる
程だ。私も料理は作るが本当に簡単な物しか作らない、だから彼女が羨ましい。
「ふぅ〜食った食った〜」
私は膨れたお腹をさすりながら言った。
「玖我さんはしたないよ〜…でも喜んでもらえて良かった」
鴇羽は満面の笑みを浮かべた。あぁ、無理してでも食べて良かった…
食後は鴇羽と会話をした。学校であった事や、野生児の事、彼女の弟の事
などを色々と語り合った。彼女も色々苦労してるんだな、と私は痛感した。
「…でね、千絵ったらあおいちゃんの話を真剣に聞いてるの。みんなは嘘
話だ、って言うんだけど千絵は真剣に聞いてるの。あんなり真面目な千絵
は初めてだったからかなり引いちゃった」
「そうか…」
どうも私は話し手には向かない様だ。どちらかと言えば聞き手に廻ってし
まう。でも彼女が楽しそうに話すのを見てるのも良いかもしれない。
「玖我さんは何か無いの?」
「…同性愛ってどう思う?」
「はい〜〜〜!!?」
鴇羽は驚いた時に必ずと言って奇声を上げる。今回も相当驚いたようで口
をパクパクさせている。しかし私は不思議と冷静だった。
「く、玖我さん…どうしてそんな事聞くの?」
「そ…それは…」
私は答えに窮した。だが、今言わないと後悔する。この気持ちだけが私に
禁断の扉を開ける勇気をくれた。
「…お前の事が…す、好きだか…ら…」
今、禁断の扉が開かれた。もう後戻りは出来ない。
「く、玖我さん!今一度よ〜〜く考え直して!ね!?私達女同士だよ!?」
「そんな事は承知の上だ…鴇羽…」
「でも私はそっちの気は毛頭無いよ!マジで!」
「少しずつ知っていけば良い…だから…」
「いやっ!」
“パシィッ”
鴇羽の振り回した手が私の頬を直撃した。
「……………」
私は叩かれた頬に手を当てた。同時に自分が情けなくなった。嫌がっている
彼女を無理矢理禁断の扉の内側へ押し込もうとしたのが―――
「あっ!大丈夫!?ゴメン…」
鴇羽は私の顔を見つめた。物凄く心配そうな顔をしていた。
「叩くつもりは無かったんだ…あまりに急だったから驚いてしまって…」
「いや…唐突に言った私が悪いのだから……気にするな」
「でもだって…」
「気にするなって言ってるだろ!」
私は思わず大声を上げてしまった。
「玖我さん…」
私に恫喝され困惑した表情を浮かべる鴇羽―――少し言い過ぎた様だ
「邪魔…したな」
私は部屋を後にしようとした。
「帰っちゃ…嫌」
「…え?」
今何て言った、と問い質そうとした刹那―――
「玖我さん帰らないで!」
そう言うと鴇羽は私に抱きついて来た。
「な、な、な…」
突然の事態に私は動揺した。鴇羽の大きな胸が私の背中でクニャリ、と形を
変えている。
「ゴメンね嘘ついて……ホントは私も玖我さんの事が好き…でも怖くて言い出せなかった。
玖我さんに嫌われるのが怖かったから…それに、若し付き合いだして千絵とかあおいちゃん
とか命とか他のみんなに変な目で見られたらどうしよう、って脅えてた…でももう逃げたり
しないよ。レズビアンが変だという偏見になんか負けない、みんなに私達の中を認めさせて
やるんだから…だから玖我さんも負けないで、ね?」
「……鴇羽」
私は鴇羽の方を向きなおして、彼女を抱き返した。彼女も抱き返してくる。
温かい…小さい時母さんに抱きしめてもらった時の記憶が甦る。母さんと
の数少ない思い出――――彼女に気付かれない様に私は涙した。
「…私もお前の友人に認められる様に頑張る。決して悲しい思いは…させない」
私は真っ直ぐ鴇羽を見つめた。彼女の目は綺麗だった。曇り一点無き瞳で私
を見つめ返している。
「玖我さん…寝室にいこ」
鴇羽に誘われるまま私は寝室へと向かう。寝室に通されベットに腰掛ける、
無論彼女も隣に座った。部屋のカーテンが閉められ明るさが無くなり彼女の
顔が僅かに見え難くなった。
「この時を…待っていた…鴇羽」
「…舞衣、って呼んで」
「じゃぁ……舞衣…」
暫し見つめ合う私達。そして、どちらともなく唇を重ねる。初めてのキス。
触れ合う頬。私が夢にまで見ていた出来事が今始まろうとしている。
「ん…んん…はぁ…はぁ……舞衣…」
私は夢中で鴇羽の唇を貪った。舌を絡めようとすると、彼女は逃げようとせ
ず挑戦的に絡めてきた。私も負けじと深く濃く舌を絡めた―――淫らな水音が室内に響く…
「玖珂さん…ここに横になって」
私は鴇羽に導かれるままベットに横になった。鴇羽が上から覆い被さる形になる。
「玖珂さんの傍に居られるなんて…嬉しい…」
そう言って鴇羽は私の髪を優しく撫でてくれた。小さい頃、甘えて母さんに撫で
てもらった記憶が甦る。いつもわがままばかり言ってた私を母さんは嫌な顔一つ
せず抱きしめてくれたり頭を撫でてくれたり…キスもしてくれた。
(おか〜さ〜ん)
(あらなつきちゃん。どうしたのかな??)
(あのねあのね…)
(なぁに?)
(私ね…おかあさんの事好き!)
(あらっ、おかあさん嬉しいな〜おかあさんもなつきちゃんの事好きよ)
(ホント?じゃあ頭なでなでしてよ〜)
(はいはい。じゃあなでなで〜―――)
(くすぐったいよぉ〜…)
「…さん、玖珂さん!」
「…!」
どうやら私は母さんとの思い出を思い出していたようだ。忘れようと記憶の渦に
押し込んで掻き消そうとしても消せない思い出…あの時から私は―――――
「すまない…少し小さい時の事を思い出してた」
私は頭を掻いた。
「昔の事を…思い出していたの?」
鴇羽は心配そうな顔をしていた。その表情は弟の体の事を心配している時と
同じ顔だった。
あぁ、私も弟と同じ位大切にされてるんだ、と私は心の中で思いつつ、
「…大丈夫だ……」
私は彼女の髪を撫でた。
「続き…しようか」
「え、あっ…」
下からキスをしつつ、私は体を僅かに起こし彼女を横に寝かせた。鴇羽はう
っとりとした表情を浮かべながら私の胸に顔を埋めている。
「玖珂さんの胸って…あったかいね」
「……そうか?」
「うん。いい香りがするし何よりも形が綺麗。それに…」
「それに…何だ?」
その後の言葉が聞きたくて、私は鴇羽の顔を覗き込んだ。が、鴇羽は恥ずか
しいのか目を逸らした。
「こらっ、視線を外すな」
私は強制的に彼女の顔を捕えてこちらを向かせた。
「ひゃっ!?」
「……………」
「…言わないと……ダメ??」
「当たり前だ」
私の無言の圧力に鴇羽は屈したようだ。
「分かったよ……玖珂さんの胸の形・大きさだったら…」
「だったら?」
「色々な柄のブラが着けられて楽しめるなぁ、って思ったの…私胸が大きい
から着けられるブラの色って限られるんだ…だから玖珂さんのブラの種類の
多さって羨ましいんだ」
「はぁ…何だ、そんな事か」
私は少し拍子抜けした。もっと母性的な発言が出るかと思ったらブラの事か…
「ガッカリ…した?」
「…少し、な。でも気にはしてないぞ」
私は彼女の額にキスをする。
「ゴメンね」
「謝るな…」
彼女を再度、自分の胸に抱き寄せた。こうしていると何故か落ち着く。彼女に
は見えない力があるように感じる。私に無い何かが…
私は何も言わず自分の服を脱ぎ出した。もっと彼女と肌を重ねたい一心で。
「あっ、ズルイよ」
「何がズルイ?お前も脱げはいい話だろ?」
「違うの。お互いに服を脱がせっこしたかったのに〜…玖珂さんのイジワル」
「イジワル等してないが…」
思わぬ所で鴇羽が駄々を捏ねてしまった。私は仕方なくシャツのボタンを閉め
直した。
「じゃあ…お願いします」
「わ〜い」
再度閉じたボタンを鴇羽が1つずつ外していく。その姿は本当に嬉しそうだった。
やがてシャツが肩からずり落ちた。今日は上下黒で統一していた。
「玖珂さんが黒のブラを着けてる…カッコいいね」
「そんなにカッコいいか…?」
「クールでホントカッコいい」
そう言うと、彼女は直に顔を埋めてきた。
「こ、こら。直に触れるのはよせ…」
「どうして??」
「い、いやそれは…え〜と…」
私は答えに窮してしまった。
「どうしたの?何か私に言えない秘密でもあるの?」
「いや……」
私はすっかり参ってしまった。性感帯の1つである乳首を触られて危うく感じ
てしまう所だった。幸い刺激が弱かった為反応しなかったが、何時触られるか
冷や汗物だ。
「ほ、ほらあれだ。直に触るとブラが傷んでしまうからな。だからその…」
「ブラを外してから触ってくれ、でしょ??」
違う、違うのだよ鴇羽君―――少しでも私が優位に立とうと算盤勘定したつも
りが思惑が外れてしまった。
「それだったら嫌がる事無いでしょ、ほら」
「ちょ、ちょっと待て…」
私が手で遮るのより僅かに彼女の手が早かった。素早く後ろに手を回すとブラ
のフックを外した。
「ひゃっ…」
私は外気に直に晒された胸を腕で隠した。唐突に晒された為、乳首に感じる刺
激が強過ぎた。
「玖珂さん…そう言う事だったんだ…」
突起した乳首を見て、鴇羽は不敵な笑みを浮かべた。
私は恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤になるのを感じていた。これで私のイメ
ージは180度変わってしまった、と内心思っていた。だが、
「別に隠さなくてもいいのに…もう」
批判せず私の事を鴇羽は受け入れてくれた。
「感じる事は恥ずかしい事じゃないのに…意地っ張りなんだから…」
それだけを言うと、彼女は私の体を抱きしめてくれた。
「あ…」
「怖がらないで。一緒に…気持ちよくなろ」
彼女の優しい笑顔に私は心奪われた。
「舞衣…」
私は上目遣いに鴇羽を見つめる。いつの間にか彼女のペースに乗せられていた
が、別段気には留めなかった。むしろその方が私も素直になれたからだ。
鴇羽が深くキスをしてきた。私は目を閉じて受け入れた。
「ん…んん…クチュ…チュッ……」
私達が舌を絡めあう度に粘膜質の卑猥な音が室内に響く。今日2回目のディー
プキス。1回目に比べて格段に幸せな気分になれた。
「玖珂さん……素直になれたね…」
「…あぁ…お前のお陰さ…素直に幸せだ」
お互いに見つめ合い、そしてまたキスをする。それを何度か繰り返す内にお互
いの性欲が高揚してきた。
「玖珂さん…服…脱がせて欲しいな」
鴇羽がおねだりしてきた。
「あぁ…分かった」
言われた通り私は鴇羽の服を脱がせにかかる。Tシャツを脱がせると生の乳房
が現れた。私よりも大きく、そして女性特有の甘ったるい香りがした。思わず
私は彼女の胸にむしゃぶりついた。
「あっ!玖珂さんダメだよ…!そんなに激しく…あんっ」
どうやら彼女も乳首は性感帯のようだった。私は集中的に乳首を攻め立てる。
「やぁ…玖珂さん…一方的は……やだよぉ…」
鴇羽の呼吸が少しずつ上がってきた。私は一気に彼女を絶頂へと誘おうとより
一層の行為に進もうとした時―――
「…!ま、待て!どこを触っている!!」
鴇羽の手が私のお尻に回されていた。驚いた事に、更にお尻の割れ目に指が滑
り込んでいたのである。私は、お尻に手が回っているのには気付いてはいたが、
まさか割れ目に指が来るとは思っていなかったのでパニック状態になった。
「…玖珂さんがいけないんだよぉ……一方的にイジワルするから…」
目を潤ませながら彼女は抵抗した。
「ま、待て。そこは…」
鴇羽の指は、確実にお尻の一番敏感な部分に触れようとしていた。
「大丈夫…最初は気持ち悪いかもしれないけど、その内に良くなるから」
鴇羽は笑みを浮かべながら言う。さっきまでの泣き顔は一体何だったのか…何
かある、そう私は思った。
“クチュッ”
「ひゃうん!」
遂に私の聖域「アナル」へ彼女の指が触れた。彼女の指は蛇の如くしなやかな
動きで少しずつアナルに刺激を与える。
「玖珂さん知ってる?ココを使う事と病み付きになるらしいよ。1人でする時
もここに刺激を与えないとイケないって。だから玖珂さんもココは慣らしてお
こうね」
「お前……そんな事どこで…うぅん」
私は眼前にある枕に顔を埋めた。鴇羽の指使いの気持ち良さに悶えてる表情を
見られない為に―――
鴇羽が背中に舌を這わせてきた。ザラザラする舌の表面が私の肌と擦れ合う。
そして、擦れた後に残る唾液がひんやりとして妙な感度をもたらす。
「はうっ…!」
「あれ〜背中でも感じるんだ。玖珂さんって全身性感帯なのかな〜?」
「ちが……う…」
「違うの??じゃあここはどうかな?」
鴇羽は私の耳元に吐息を吹きかける。
「ああぁ〜…!」
「ちゃんと感じてるじゃない。また強がって…」
「うぅ……」
「そんな悪い子には…たっぷりとお仕置きしないとね、ふふふ」
耳元でそう言って彼女は小さく笑った。私は、その表情を見る事が出来なかった。
(お仕置き…されるのか?)
私の脳裏に惨めな自分が映し出される。鴇羽に淫語で攻められ、道具で攻めら
れ理性を失い、乱れていく私がそこにはいた。快感に打ちひしがれる私は何と
惨めなんだ…
だが、一方でそんな私を望んでいるもう一人の私も存在していた。私が乱れて
行くのを見て喜んでいる鴇羽を見て、私もまた満足感に浸っている。
「どうしたの?そんな顔して。私に虐められて感じてる自分でも考えてたの?」
鴇羽は私の顔を覗き込んでいる。彼女と目が合った。
「……あぁ、そうだ」
「…素直になれたね、玖珂さん」
それだけ言うと私は自分のショーツを脱ぎ捨てた。
「舞衣…たくさん………虐めてくれ…」
ショーツを脱ぎ捨てた秘部からは蜜が垂れ落ちる。
「玖珂さん…準備万端だね…」
鴇羽は私の体を抱いてくれた。
「玖珂さん…」
「なつきで良い…」
「じゃあ……なつき…」
鴇羽がキスをしてきた。私はそれを拒まず受け入れる。唇と唇が触れ合う小さ
なキス。
「なつきの唇って…柔らかいね」
「…そんな事は無い」
「でも、もちもちとして柔らかいし、唇の形も綺麗だし…文句の付け様が無い
よ」
鴇羽は私の唇を指でなぞる。その目は優しい。
「そんな目で……見るな…私を…」
「………なつき」
私は彼女から視線を逸らした。彼女の優しい眼差しは、私から見て哀れんでい
る様に見えてしまう。それが不快だった。
鴇羽の手が私の頬に触れた。
「……………」
彼女は何も言わない。ただ、私の頬をなぞるだけだった。
私はなぞる手を取った。白く細く、そして柔らかい手。
「なつき…」
鴇羽と視線が合う。少し心配している目。
「………ふっ」
私は手の甲にキスをした。ほんの一瞬だけのキス。この手が好き。
「…あり…がとう…」
鴇羽は顔を赤らめて礼を言った。その顔は神崎と話している時の顔よりも何倍
も赤かった。命に胸をいじられて恥ずかしがってる顔よりも何倍も。
「トマト…」
「…は?」
「舞衣の恥ずかしがっている顔は…トマトだ」
「トマト…?」
「そう、トマトだ」
そう言いながら、私はまた彼女にキスをする。
「私がトマトだって意味、どういう事?」
「それは…教えない」
「ちょっと!教えてくれてもいいじゃない!」
「やだ」
私はわざとイジワルを言う。そうする事によって、彼女は一層サディズムの感
情をあらわにするだろう。私は典型的なマゾヒズムだから、それを心底望んで
いる。まぁ、ここまでマゾヒズムにされたのも全て静留のお陰だけど…
「そんなイジワルする子には…」
来た。さぁ、ドンと来い。
「…どうするんだ?」
「こうするの!」
そう言うと、鴇羽は私の両足を持ち上げた。丁度、私の秘部が自分の顔のすぐ
眼前に来る形になった。こうじっくり観るのは初めてだけど、本当に卑猥な形
をしているな。
「わぁ、なつきのアナルが丸見えだよ。スケベだよね」
「うぅん……」
「どうして欲しい??」
鴇羽は訊ねてきた。勿論、この体勢ではアナルを弄る他に術はない。
「うぅ……それは…」
いざ、アナルを弄って欲しい、とお願いしようとしたが口が動かない。頭と体
の意思の統一が出来てなかった。
「え?ちゃんとお口で言わないと分からないでしょ??な・つ・き」
股の間から顔を覗かせている。その顔は嬉しそうだ。
「舐めて…」
「どこを舐めて欲しいの?
「ここ…」
私は指でアナルを示した。
「どこ?自分で言わないと分からないよ?」
「あ…アナル…」
「アナル?」
「アナルを……舐めて…」
「アナルを?それは分かったけど…」
「うぅ…まだ何かあるのか?」
「アナルを舐めて欲しいなんて、なつきは変態だね」
顔は笑っているが、内心では私を羞恥に晒そうと耽々と考えてるに違いない。
「……あ」
私はある異変に気付いた。秘部からヌルヌルした物を少しずつ流れ出ていたの
である。一人で自慰をする時より、明らかに流れ出る速度が違う。ここまで私
はマゾヒズムだったのか、と改めて気付いた。
「へぇ…玖我さんって聞かれるだけでも感じちゃうんだ…」
「こ、これは……汗だ」
「汗、ねぇ………じゃあ」
鴇羽は、私の秘部から溢れ出る蜜を指ですくって私の顔に擦りつけながら、
「何で汗がこんなにヌルッとしてるのかなぁ?」
その目は嫌らしさに満ちていた。こんな目をする鴇羽は初めてだ。
「うぅ…嫌ぁ」
「嫌だなんて言って…本当は嬉しいくせに」
「………うん」
私は観念した。
「そう、それでいいの」
鴇羽はそう言うと太股にキスをしてから、アナルに顔を埋めてきた。
「んんっ!」
鴇羽の舌がまるで生き物の様にアナルを這っている。ザラザラした感触が未知
の感覚だ。自分で指で触った事はあるにしろ、自分で舐める事は出来ない。
「いい…もっと…」
鴇羽が私のアナルを舐めるたびに、ピチャピチャとねちっこい音が聞こえてく
る。そして、その舌を離した時にはヌルッ、とした感触だけが残った。
「そろそろいいかな…」
そう言うと、鴇羽は指をアナルへ差し込んできた。
「うっ!痛い…!」
侵入してきた異物に始めは痛みを覚えた。しかし、彼女が指を始動し始めると
痛みは感じなくなった。彼女の指が肉壁に絡みついてくる。
「うっ、凄いキツキツだよ…指が抜けない」
彼女の顔が歪んだ。それは苦痛とかではなく、わざとらしい表情だ。
「なつきのアナルが…私の指を咥えて離さないよ…凄い」
「うぅん……もっと動かして…」
「動かしてほしいの?ねぇ…」
言葉を発しながら指の動かす速度を少しずつ速めていく。それに合わせて私の
感度も良くなってきた。
「あぁ…指が……そこいい…もっと」
「…ここが良いの?」
「ひっ!!」
それは、彼女の指を全て飲み込んだ状態で起こった。アナルを弄ってる指を奥
深くで曲げたのだ。ただでさえ狭い中で無理矢理指を曲げたから、普段刺激を
受けない部分にまで刺激が及んだ。
「あ…あ…」
言葉にならない衝撃が私を襲う。痛みではなく快感が。
「気持ち良かった?そろそろイカせてあげるね」
鴇羽の指の速度がより一層速まった。それと同時に私の足の付け根にキスの嵐
を浴びせてくる。
「あん!あぁん!ダメ!もっとゆっくりぃ……」
「嘘ばっかり…速くされてる事に感じてるんでしょ?この変態さん」
私の目は快感のせいで虚ろになっていく。口が開いて唾液が垂れてくるがそん
な事はお構いなし。早くイキたい…それだけだった。
「ダメ…もう…イク!イクイク!舞衣…!う、うわぁぁぁぁ……!!!」
その瞬間、何かが弾けた。
「ハァハァ……」
まだ呼吸が落ち着かない。一人でイクよりも何倍も刺激が大きかった。
「イッちゃった?」
鴇羽が私の顔を覗き込んでいる。
「あぁ…………イカされた…」
呼吸の乱れのせいで言葉が途切れ途切れになってしまう。
肘をついてやっとの思いで体を起こす。シーツは散々な物だった。私の愛液が
至る所に飛び散っているし、座っている所は水溜りみたいになっていた。それ
に酸っぱいニオイが部屋中に充満していた。
「…!そうだ!お前指…」
「へっ?指がどうかしたの??」
「いや、その……臭く…ないか?」
「臭く?いんや。全然臭くなんかないよ」
「嘘つくな…」
私は鴇羽の手を強引に引っ張りニオイを嗅いだ。
「やっぱり……ニオイがついてるではないか」
「バレた?でも大丈夫。なつきのニオイなら大歓迎だから…」
「舞衣…」
「それに、なつきの中温かかったよ。なつきの温もりに直に触れる事が出来て
私、何か嬉しかった。普段はあんなにクールぶって冷たい印象があるのに本当
は温かいんだって…」
「バカ…」
私は鴇羽の髪を撫でた。何だか微笑ましい気持ちになれた。
「んじゃあ2回戦行きますか?」
「…は?」
さっきイカされたばかりなのに…
「もっとなつきの事知りたいから…ね?良いでしょ?命もいないからタップリ
とお互いを理解し合えるまで出来るよ…」
「いや…それは……」
「問答無用!」
「ま、待て舞衣!あ、あぁぁぁ…!!!」
静留よりもタチが悪い、私はそう思った…