ラビリンスに蠢くものたち
風華市の中心に位置する高級マンションの一室、
今日も今日とて怪しげな一団がいかがわしい会合を開いていた。
「アンチマテリアライザー?、なんだそれ?」
甘ったれは胡散臭そうな顔をしながら大げさにおどけてみせた。
「ほら、例のサイトのチャットルームで『神父さん』と盛り上がってね、
オークションを経由して譲ってもらったのさ」
眼鏡をかけたオタク風の男は胸を張って答えた。例のサイトとは彼らがネット上の会合で使う
会員制のアダルトサイトであり『神父さん』とはそのサイトの古参ハンドルネームである。
ちなみに話題の『神父さん』はそのアダルトサイトのうpローダBBSにこの辺で
人気の高い風華学園の女生徒の盗撮画像を大量にうpしてくれる『神』である。
本人曰く自分は神ではなく神に仕える身である、と謙虚な姿勢を崩さない好人物で
そのサイトでちょっとした人望を集めているがOFF会等には決して
姿を見せない、いわば謎の人物でもある。
「でさ、オマケとしてこういうのも貰ったのよ。これ見たら君なんて
鼻血モンだよ、オイ」
この眼鏡オタ、出会った頃はボソボソとしか喋らなかった癖に最近いやに馴れ馴れしい。
甘ったれとしてはそこが気に食わなかったが眼鏡オタが封を開けた大口の郵便封筒から
出された写真の束と文書に唾を飲み込む。
「・・・・・・これって、風華学園の女の子ちゃんの生写真と、個人データ?」
「ビンゴ! でどうよ? すごいっしょ?」
眼鏡オタはいよいよ悦に入り鼻息を荒くして胸を反らす。突き出た腹が大変見苦しい。
「ビンゴじゃねぇよ。この写真の束とそのマテなんとかとの関連性が
ワケわからねぇんだっーの!」
この甘ったれ、相手が自分より格下と見ると態度がやけに辛辣で居丈高になる。
二人の陰険漫才はいつものことだとばかりにスルーしながら各々写真を回し見する一同。
その中で一見このいかがわしい集団に似つかわしくないチャラ男が声を上げる。
「・・・・・・結城、・・・・・・奈緒。・・・・・あんの、女狐ぇ!!」
話を聞くとこのチャラ男、以前この結城奈緒という中学生をナンパし、
あと少しで彼女をモノに出来ると思った矢先、反対にノされて
財布を奪われたという恥ずかしい過去があるという。
「ふむ、あの結城君がねえ、教え子の不祥事に気がつかないとは
これも教育者として私の不徳と致すところ、実に申し訳ない。
・・・・・・しかし知ってしまったからには彼女には特別な教育指導が
必要ではありますな、皆さん?」
と教師風の神経質な男が眼鏡の位置を直しながら嘯いた。この男、
教師という聖職にありながら風華の環状線を根城に痴漢行為を働く
不届き者である。
「アンタ本当に教師だったのか、しかも風華学園とは。
実はアンタが『神父さん』というオチではあるまいな?」
と成金が相変わらず下品に笑い、周囲も追従する。この怪しげな集団が
根城にする高級マンション、実はこの成金の持ち物で彼はこの集団の中で
一目置かれる存在だった。話の中心を成金に持ってかれそうになった
眼鏡オタは慌ててわざとらしく話を引き戻す。
「流石先生、話しが早い! で、結局チャラ男さん、アンタ、この子に
恨みがあるんだろ?・・・・・・つまりさ、『神父さん』曰く、
この秘密アイテムはそういうことに使え、って事で送られてきたわけよ」
眼鏡オタは写真の中の奈緒のスカートとニーソックスの間、
『絶対領域』を撫でながらニヤリと眼鏡の奥で笑った。