電車に揺られながら、毎日毎日それこそ日本中の人間がなんの疑問も持たずに利用するだろうこの間違った輸送システムに、
ああっんもう、勘弁してよね……
舞衣は久しぶりにキレそうになっていた。
人間にはプライベートエリアというものがあり、その半径の中に他人が入ってくると、それだけでストレスを感じるものである。
なのにこのシステムときたら、容赦なく麗若き女子高生と中年のオジサンを密着させる理不尽さだ。
ただ舞衣も、移動手段といえばカーでもジェットでもその前に『プライベート』などと付いている、裕福な家庭では育ってない。
このシステムに不満はあっても我慢はできる。我慢ならないのは……
“ハァ、ハァ…………”
首筋にさっきから、わざとなのかどうなのかはわからないが、荒く生温かい息がピンポイントでかかっている事だ。
乗車したときはガラガラだったのに、いつの間にか身体を満足に動かせないほど混みあっている。
傍にいたはずの命も、はぐれてしまったのか姿が見えない。
あの子、降りる駅覚えてるかなぁ? まぁ迷子になっても命だったら匂いで私を探すくらいはできそうだけど……うぅ〜〜ん……
考えれば不快になるだけのオジサンの息遣いは頭の隅に押しやって、舞衣は命の心配をするのだが、
“さわ……”
「……え」
自分の心配をした方がよさそうだった。
いまの……いや待て待て、これだけ混んでるんだから……当たっただけかも……
短い制服のスカートのお尻を撫でられたような気がしたが、たしかに偶然当たっただけと考えられない事もない。だが、
“さわ……さわさわ……”
こ、これは……
手は舞衣の、チョット気にしている大きなお尻を、上下に撫で続けている。
……これは……
“さわさわ…………ばさっ……”
スカートが腰元まで一気に捲り上げられた。
ち……痴漢………
舞衣の身体が本能的に堅くなる。
痴漢にあったのは別に初めてではないのだが、この怖気の走るような感覚に慣れる女性はいないだろう。
“パシンッ……”
オジサンの手を払って、お尻をガードするように自分の両手を置く。
ここで本当なら振り返って睨み付けたいのだが、いまはそれは出来ない。しばらくすると案の定、
“さわ…さわさわ……”
またお尻を触ってきた。
抵抗した事が却って痴漢を悦ばせたのか、触り方はさっきよりも大胆である。
丸く円を描くようにしていた掌を広げ、尻肉をぐにぐにと揉みはじめた。
もっとも、舞衣にしたらなにもせずにされたい放題というわけにもいかない。イタチゴッコになるなはわかっているが再び手を払う。
“パシンッ……”
またしばらく、後ろが大人しくなる。でも舞衣は痴漢がこのくらいで諦めるとは思ってない。
駅まで徹底抗戦してやろうじゃないの……着いたら警察に突き出してやる!!
舞衣は『さあ来い!痴漢!!』そんな気持ちになっていた。燃えている。そして痴漢は御要望通り、
“さわ…さわさわ……”
触れてきた。目を鋭くさせた舞衣が迎撃する。しかし、
“さわさわ……さわさわ……さわ……”
「くッ……」
後ろが見えない所為でどうしても後手に回らざる得ない。
痴漢の手は舞衣の手をスルリスルリとかわして、我が者顔でお尻を触っている。
こ……の………!!
頭に血が上った舞衣が狙いを定めず、闇雲に手を振り回しお尻をガードすると、これが意外に効果を現して痴漢の手が止まった。
ありゃ? やってみるもんね……
舞衣がほっと胸を撫で下ろそうとすると、
“グッ……”
手を掴まれた。
“ガチャン……”
「え!?」
“ガチャッ……ガチャガチャ……”
「え!?」
なにかが両の手首を固定している。
手……錠?………って、嘘でしょ!?……
“ガチャガチャ……ガチャッ……ガチャガチャ……”
残念ながら嘘でも夢でもなかった。残酷な現実である。
「あ!?」
スカートがまた捲り上げられた。裾を腰で止められる。
この混みぐあいでは誰に見られる事も無いが、そんな事はなんの気休めにもならない。
ちょっ、本気なのコイツ……漫画やエッチなビデオじゃないのよ……
舞衣は混乱する頭でもモジモジとお尻を振って、いま出来るささやかな抵抗をするのだが、それもあまり長くは続けられなかった。
“ギュッ……”
「んンッ!?」
背筋が思わずピ――ンと伸びる。痴漢は舞衣のショーツを掴むと、力いっぱい上に持ち上げていた。
褌のように細くなって谷間に食い込んだショーツの両脇からは、白い双臀が覗いている。
「や……んぅツ!」
片手でショーツを絞りながら、痴漢の手が直接に白い生肌に触れた。鼻に掛かった声が、舞衣の口から洩れる。
痴漢はその舞衣の洩らしてしまった声を嘲笑するように、ユルユルとお尻を撫でている少し汗ばんだ手のひらに力を込めた。
「ッ!?……ん………ふぅ……」
ピクンッとまた、舞衣の身体が操り人形のように跳ねる。それを何度もくり返されて、舞衣の白いお尻は紅潮して火照ってきた。
痛いのよ!!……
心の中で痴漢を罵る。だが痛いだけではない。
嫌悪している痴漢の手が、お尻に身体に触れる度に、敏感な神経が引き出されてくるかのような気がする。
下唇を噛んでいたのは、悔しいからだったはずなのに、いまは声を聞かれたくない。それだけの為に口を閉じていた。
「ひッ!?」
しかし、痴漢はそれすらさせてくれない。
背後から舞衣の身体に密着すると、前に手を廻してスカートの奥へと差し入れた。
「いや……やめッ………んぅッ!?」
舞衣は反射的に太股を閉じるが、その正しい乙女の恥じらいが結果、より強く痴漢の手を恥丘に押しつける形になってしまう。
「ううッ………くぅんッ……んンッ………ん………んぅッ!!」
恥丘の触り心地を愉しむ様に、ねっとりとイヤらしく蠢かせていた痴漢の指先が女の真珠をなぞった。
舞衣の身体が前屈みになる。
痴漢は洩れてしまった舞衣の恥ずかしい声を、もっともっと吐き出させようと、その快楽中枢の塊とも言うべき部位を集中的に責めた。
「うッ…うッ…んあッ……あッ…はぁんッ……」
“ぐにゅんッ……”
「んぁッ!!」
痴漢はショーツを持ち上げていた手を離すと、舞衣のお尻の谷間に勃起を擦りつけながら、制服の胸元を待ち上げる高校生にしては
発育の良すぎる大きなふくらみを鷲掴みにする。
男子女子問わず、風華学園生徒垂涎の的の舞衣の乳房は、中年の痴漢の思うがままに蹂躙されていた。
制服とブラジャー、二つの緩衝材により本来の柔らかさは若干失われているものの、舞衣の手のひらに収まりきらない乳房は
それでも中年の痴漢を興奮させるのに充分で、毛の生えた指が憑かれたように忙しなく動いている。
「うう……は……くぅんッ……んン……」
視覚的にもおぞましさが増した行為に、こんなのはイヤなはずなのに、舞衣の口からは鼻に掛かったうめき声がどうしても
洩れてしまう。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!…………
痴漢などという最低の輩からに与えられる感覚を絶対に認めたくない。
そんな女子高生が持つ潔癖さで堪える表情が、牡を刺激するエッセンスだとも知らず、舞衣は必死になって下唇を噛んでいた。
「ンッ、ンッ……ふぅッ……はぁ……んぁッ……ひぁッ!!」
それでも一度堰を切ってしまった声が、数珠繋ぎにあふれてくるのはもう止めようがない。
舞衣は両親に感謝していた健康すぎる身体を、生まれて初めて呪いたくなった。
「ひゃんッ!?」
ナメクジのような舌先が、複雑な作りの耳朶の中へとねぶるように挿し込まれる。
顔を振って舞衣は逃げようとするが、そんな事で逃げられるわけもなく、痴漢は嗜虐心を煽られたのか執拗に追い回した。
“カリ……”
「んぅッ!?」
舞衣は幼い仕草で可愛く首を捻る。耳たぶに軽く歯を立てられた。
本人も存在を知らなかった耳の性感帯を責められて、舞衣の肌がネコのように総毛立つ。
そうやって舞衣が耳に気を取られていると、痴漢は首筋に舌を這わせながら、指先をショーツの中へと侵入させた。
“ぬちゃ……”
「くぅッ」
誰にも触れさせた事のない、自分でもあまり触れない部位に、初めて他人の、それも痴漢の指が触れる。
舞衣だって年頃の女の子だ。いつかは好きな人が現れたら、と漠然とではあるが考えていたのに、こんなのはひどすぎる。
涙が出そうになった。その上に更に舞衣を情けない気持ちにさせるのは、
“ぬちゃ・にゅちゅ・くちゃ……”
そこはもう、湿り気などという段階はとうに過ぎていて、あきらかにぬめっている。
ガムを噛むような下品な音が、羞恥で真っ赤になっている舞衣の耳にもはっきりと届いていた。
痴漢はいよいよ調子に乗ってきたのか、指先を秘裂の中に沈み込ませると、
「うぁッ!?……ひッ!?あ、ああッ!!」
まるでピンクローターでも真似るように小刻みに震わせて、浅く深く舞衣の女の子の粘膜を掻き混ぜる。
中年特有のねっちっこい愛撫に(愛はないが……)舞衣は息も絶え絶えで、節くれだった指先が蠢く度に背筋には微弱な電気が走り、
膝はガクガクと笑っていた。
痴漢は舞衣のお尻の谷間に昂ぶる勃起を押し付けながら、
「今度はもっと愉しませてあげるよ、またね……………………舞衣ちゃん」
え!? なんで……私の名前知ってるの?
舞衣がそう考えた瞬間、電車がガクンッと揺れて、痴漢の爪が女の真珠を引っかく。
「はひッ!?」
白いフラッシュが頭の中でいきなり爆発して、舞衣が次に気づいたときには駅のホームにペタンとお尻をつけて座っていた。
「舞衣、舞衣どうした!?」
ゆさゆさと肩を揺すぶられて顔を上げると、心配そうにしている命と目が合う。
「みこ……と………」
不意に目頭が熱くなる。
だめ!泣いちゃだめ!!
そう思ったときには立ち上がり、命を置いて走り出していた。
「あ!? 舞衣、マ〜〜〜イ!!」
命の声が後ろから追いかけてくる。親に見捨てられた子供のような声に後ろ髪を引かれるが、
ごめん命、ほんとにごめん、美味しいごちそう沢山作るから、だから……
いまは一人で泣かせてほしかった。
終わり