(ふう…相変わらず、すごい人の数…)  
ユメは改札から溢れ出す人波を掻き分け、下北沢駅のホームへと向かう。  
遠野にいた時からテレビや雑誌で知ってはいたが、東京の通勤ラッシュはユメの想像を遥かに越えていた。今は夏休みで学生がいない分少しはマシな状況なのだが、それでもその喧騒に圧倒される。  
研修が始まって以来、色々な用事で何度かこれに巻き込まれて、その度にグッタリになった。特に今週は仕事の依頼の関係で一週間はこの時間帯に電車に乗らなければならない上、週末から続く真夏日でユメは少し疲れが蓄まっていた。  
(でも今日でひとまず区切りだ、頑張らなくちゃ)  
ユメは肩から掛けたトートバッグを握る手にグッと力を込めて、今正にホームに到着した満員電車に乗り込むのだった。  
 
 
(わ…今日はまた一段と混んでるみたい…)  
何とか電車内に滑り込んだユメは、反対側のドアの付近にまで追いやられる。ここから目的地まではしばらく開かないが、ユメが降りるのはこのドアなので火曜日からは毎日こちら側に立つようにしていた。  
ユメの耳に、シャカシャカと早いビートが届く。満足に体を動かせないユメの視界に、何人かのヘッドフォンの若者が映っている。彼らの耳元から洩れる音楽が幾つか交ざっているのだろう。  
(東京の人は、ああいうの平気なのかな…?)  
ユメがボンヤリとそんな事を考えていると、ガタン、と電車がカーブに差し掛かって揺れた。吊り革も掴めずにいるユメは周りの人に体を預ける格好になる。  
 
その時。  
(……えっ?)  
お尻の辺りに誰かの手が触れた。ユメは少し体を動かそうとしたが、人混みで姿勢が変えられない。結果、その手はそのままの位置になってしまう。  
すると突然、その手はユメのお尻をさわさわと撫で始めた。ユメは体を強ばらせる。  
(嘘っ……これって…)  
ユメは初めての痴漢との遭遇に、軽く頭が混乱してしまいそうになる。  
 
(ダメ……ここじゃ魔法は遣えない……)  
許可の無い魔法は禁じられているし、何よりこの車内で魔法を遣ったらどんな弊害が出るか分からない。  
ユメは痴漢をそのままやり過ごそうと、唇をキュッと噛み締めた。ところが、その手は一向に止まる気配が無い。お尻全体の感触を愉しむ様に撫で続ける。  
やがてその手はユメの白い太股に伸びてきた。その感触にユメは鳥肌を立てる。  
(や……やだっ…)  
ユメの頬が恥ずかしさで薄紅色に染まり、その肩が小さく震える。  
 
(や……柔らかい……それにスベスベだ…)  
ユメの太股を撫でるサラリーマン風の男。ちょうどユメの斜め後ろに立ち、彼女からは死角になっている。  
男の欲望は更にエスカレートし、その手をそのままスカートの中へと滑らせた。そして薄布越しにユメの最も敏感な場所を擦る。  
 
「はぁん……っ」  
ユメは思わず小さく声を上げてしまった。それが余計に羞恥心を煽り、ますます体を強ばらせる。  
不意に、ユメは後ろから両胸を鷲掴みにされた。そのまま胸を揉み上げられ、ユメの上気した顔から汗が噴き出してくる。  
(そ……そんな……こんな場所で……そんな…っ…)  
ユメは完全に気が動転し、助けを求める事すら出来なくなってしまう。  
 
スカートの中に手を入れてユメを嬲る男の右隣、両胸を揉むこれまたスーツ姿の男もまた、彼の「仲間」であった。一瞬お互いの顔を見合わせ、揃って口元を歪ませる。  
(たまんねぇ……この少し控えめな胸……触り心地も最高だ……)  
スーツの男は更に体を密着させ、そして巧みな手つきでブラウスのボタンを外して右手を服の中へ侵入させた。そしてブラをずらしてユメの乳首を摘み、その感触を愉しむ。  
 
「………ッ……ぅんッ…」  
ユメは下唇を噛んで声を押し殺そうとするか、時折小さく切ない声が洩れてしまっていた。両目はギュッと閉じられ、うっすらと涙を浮かべている。  
 
「……可愛いわ、あなた……その表情」  
ユメの真正面のOLがユメの耳元に顔を寄せて囁く。  
「……え…っ……?」  
ユメは驚いて瞳を開いた。  
「この一週間、ずっと目を付けた甲斐があるわ」  
その目には妖しげな光が宿っている。真っ赤な口紅の口元は少し笑みを携えていた。  
 
実は、後ろの二人も彼女の「下僕」であった。元々彼女に痴漢しようとして、逆に取り込まれたのだろう。  
そして彼女はレズビアンであり、その上サディストでもあった。こうして目当ての女の子を物色しては「下僕」を利用して取り囲み、その性癖を充足させる…。そして、ユメは彼女に見初められてしまったのだ。  
 
「大丈夫…あなたは完全に囲まれてるから」  
ユメの頬を撫でながら彼女は続ける。  
ユメを取り囲む何人かの男たち――彼女の「下僕」。何時しか、ユメは開かないドアを見据える形に誘い込まれていた。その扉とユメの間に彼女が立ち塞がる。  
「ほら、準備して…」  
彼女の言葉を合図に、ユメの後ろに立つ二人の男がユメの両腕を捉えた。そして先程までは直接手は出さずに監視役に回っていた周囲の男たちが一斉に振り返った。  
「もっと苛めてあげるわ」  
男たちの手が次々に伸び、スカートを捲くし上げ、胸元を開いて小振りながらも形の良い胸を露にさせた。  
「……や………やぁ…っ……やめ…て……っ…」  
ユメは耳まで真っ赤にしてイヤイヤをする。  
「いいわ………その怯えた顔……素敵よ…」  
彼女はユメの右胸を掴むとそのまま揉み上げる。その巧みな動きに、程なくユメの意志とは裏腹にその可愛らしい乳首がツンと尖ってゆく。  
「まだピンク色なのね、可愛いわ」  
おもむろにその胸に吸い付き、尖る乳首を甘噛む。  
「ふぁあん……!」  
ユメは堪え切れずに甘い媚声を零してしまう。  
 
「あら…そんな声出していいの?……見られちゃうわよ」  
そう言いながらも、女はユメを責める手を緩める気配が無い。コリコリと硬くなった乳首を指で摘み、強く引っ張り上げる。  
「やぁッ……い…痛い……」  
ユメは眉間に皺を寄せ、彼女の責めを拒む。が、その表情は女の欲望を煽る結果になる。  
「そう……じゃあ、もっと苛めて気持ち良くしてあげる……」  
女の手がユメの下着の中に侵入してきた。そのまま、人差し指がユメの秘所にくちゅ…と音を立てて沈み込んだ。  
「あらやだ、濡れてるじゃない?……感じちゃってるんだ」  
「そ……そんな事………ちが…う…っ…」  
ユメは完全に気が動転し、魔法を遣おうという考えすら浮かばない。  
「そんな嘘吐いて……」  
女は周囲の男たちに目で合図を送る。そこかしこから無数の手が伸び、ユメの全身を舐め回す様に触り始めた。  
「ひゃう…ッ……や…触らない……で…ぇっ…!」  
ユメの全身はすっかり性感帯に変わったかのように痺れ、時折ビクビクッと震える。  
 
「いいわよ……早くイキなさい、皆見てるから…」  
女は右手の指を更に一本入れてユメの蕾の膣内で掻き回す。  
ぐちゅぐちゅ、という淫らな水音は電車の揺れる音にかき消され、ユメ自身が意識するのみだ。  
「…可愛いな、この娘…」  
「子犬みたいに震えてる…」  
「乳首勃たせて…Hな身体だな」  
「イクところ早く見てぇ…」  
取り囲む男たちは口々にユメに卑猥な言葉を浴びせ掛ける。  
「あぁ…んっ……ぁ……はぁっ…ぁ……あんっ…」  
最早ユメは声を我慢する事すらままならない。  
そして徐々に絶頂が近づいてきたその時―――  
 
プシュー!  
 
電車のドアが開く。いつの間にか、目的地の駅に到着していた。  
「…はぁ……はぁ…っ」  
気が付くと乱れた着衣は無造作に直されている。下着はまだズレたままだが。  
そのまま出口に向かって人の波が押し寄せ、ユメは押し出される様にホームに流される。  
 
(誰も…居ない…)  
先程までユメを弄んでいた者達は影も形もない。人混みに紛れてちりじりに去ったのだろう。  
(どうしよう…私…)  
ユメはやっと少しずつ頭が冷えてきた。  
(とにかく、服を直さなきゃ…)  
ユメはフラフラとした足取りで改札をくぐり、駅のトイレへと向かった。  
 
――――それを見つめる目に、ユメは気付いてなかった……。  
 
 

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