ユメ凌辱[幕間劇]
夏の夕方過ぎは、まだ空が明るい。
けど、本来の依頼を済ませて真っすぐ帰ればもっと早い時間のハズだ。
ゆっくりと重い足取りの、駅からの帰り道。
肩から下げたトートバックには、先刻汚れたシャツとホットパンツも収まっている。
…なんで………こんな事になっちゃったんだろ…。
私はまだ茫然としたままの頭で思いを巡らす。
あの人に苛められる様になってもう一週間以上。何度も何度も、口で、手で、そして胸で(これは余り気持ち良くなかったのか一度きり、だが)あの人のモノを触らされている。
勿論イヤでイヤで仕方がない。でも、もしあの写真が小山田先生や、みんなや、魔法局の人に見られたら……きっと、研修は続けられなくなる。
そしたら…。
そう思うから、逆らえないでいた。
「よぉ、お帰りユメ」
ケラさんが事務所の前で声を掛けてきた。
「あ、ハイ。只今帰りました」
「結構遅かったじゃん。先生、心配してたぞ」
「…………ちょっと、寄り道しちゃって」
私はとっさに言い訳してしまう。それももう何回目なんだろ…。
「お帰り、ユメちゃん」
事務所で小山田先生が待っていた。
「どうでした、依頼の方は」
私は、なるべく自然を装って、
「ハイ、大丈夫でした。アンジェラも一緒だし」
と答えた。
「すいません、シャワー浴びて来ていいですか?汗かいちゃって、早くサッパリしたいなーって」
一気にまくしたてる。
「わかりました。私は店の方があるから先に休んでいていいですよ」
いつもの笑顔で、小山田先生が穏やかに言う。
「はぁーい」
わざとおどけて返事する私に手を振って、小山田先生は階下のお店に降りて行った。
シャアアアア―――
私はシャワーを浴びながらも、やっぱりあの事を考えてしまう。
実は一度、あの人から逃れようと魔法を遣おうとした事があった。でも、私の指輪は全く光らず、魔法も発動しなかった。
その代わりに、あの人が首から下げたネックレスの黒い石が鈍く光ったような気がした。
私はシャワーの蛇口をひねってお湯の勢いを強くし、顔にお湯を浴びせる。
あの人の精液の臭いが残ってる気がして、念入りに顔をゴシゴシと洗わずにはいられなかった。
そして部屋着に着替えて私の部屋に戻り、また堂堂巡りの思考に落ちていく。
――――夜11時。
私は部屋の明かりを消してベットに横たわっていた。
それにしても。
私はふっと気が付いた。
今日、あの人は私に自ら触れていなかった。
口であの人のモノを咥えて精液を飲まされた。私の手で自分自身を辱めさせられた。手でしごいて射精をさせられた。
でも、それらはすべて命じられた行為で、直接弄ばれたワケではない。
「どうして…」
思わず独り言を洩らす。
その時。
私の携帯電話がブーンと震えた。数秒の後、動きを止めたから、メール受信だろう。私は嫌な予感がして携帯を開いた。
[無題]
やっぱり、あの人からだ。
明日も又、呼び出されるのだろうか?
ところが本文は無かった。添付ファイルがひとつあるだけ。
……指示じゃないの?
私は不信に思いながらもそのファイルを開いた。
[マナーモード時に音声を再生しますか?]のメッセージに、特に気にも停めずに決定ボタンを押した。
『はぁっ………はんっ……あぁんッ……はぁンッ…あっ…あんッ………』
私は一瞬事態が飲み込めないでいた。
だから、それが私自身の喘ぎ声である事に気付いて気が動転する。
なんで?どうしてこんな…もしかして今日、何時の間にか録音されてたの?どうして?いつ?何で?
頭の中ががグルグル回る。
それに……これが、私の声なの?だってだって、こんなにエッチな声……
私の下腹部辺りが何故か熱くなる。
なんで?なんで?だって私はあんな事イヤなのに?
どんどん体が火照ってくるのが止められない。
ダメダメッ……!!
私は知らず知らずに自分の胸を掴んでいた。
「はぁぁんッ!」
思わず声が洩れ、そしてその声が自分の物ではないみたいに感じる。
右手は右胸をクネクネと揉んでしまい、服の上からでも乳首が勃って固くなってるのがわかった。
イヤっ……私こんな…
更に頭は朦朧とし、押さえ切れずに左手を自分の股間に伸ばした。そしてそのまま下着の中に手を入れて敏感な場所に触れる。
既にそこは濡れていて、クチュッとエッチな音が静かな部屋でやけに大きく聞こえた。
「ああっ……あンッ」
もう、声も我慢出来ない。
私は体の求めるまま、自らを慰め始めてしまった。
ぐちゅ……くちゅ………くちゅくちゅ……
「あっ……ダメぇ………こんな……気持ち……」
頭の中が真っ白になる。
もっと。
もっと気持ち良くなりたい…。
ふと、足元に置いたトートバックから携帯用の制汗スプレーの缶が覗いてるのが目に入った。
私は身をよじってそれを掴んでいた。
……これ…あの人のモノみたいに…
思わず缶体に舌を這わせ、徐々に湿らせてゆく。
そしてゆっくりと自分の膣内に沈めてゆく。
「あああぁンッ……!!」
気持ちいい。自分でもどうしてこんなにもやるせない気持ちになるのかわからない。
もし……男の人のモノがこんな風に入って来たら…
そんな淫らな想像が脳裏を埋めてゆき、リズミカルに出し入れしてしまう。
グチュ……クチュッ……グチュグチュ……
脳天まで痺れが昇ってくるのを感じる。
私……もう……イッちゃう……
その刹那。
再び携帯電話がブーンと震えた。今度はしばらくしても止まらない。
こんな時間に着信は一人しかいない。
でも、とても電話になんか出られる状態じゃない。
私は、すべての動きを止めて携帯を見つめ続けるが、一向に鳴り止む気配はなかった。
意を決して電話を取る。
『よぉ』
やっぱりあの人だ。
「な…なんですか……」
乱れた息を殺して応える。
『今何やってた?』
私はドキッとして、
「えっ…その………私………」
明らかに狼狽した台詞を口にしてしまう。
『ふーん……』
電話の向こうで妙な沈黙。
『オナニーしてたんだろう?』
「!!…どうして………」
しまった。これじゃ認めてるのと同じだ。私は耳まで赤くなってくのが自分でもわかった。
『やっぱりな。自分の卑猥な声で興奮したんだろ』
「やだ……私…」
思わず涙が溢れる。
同時に、また抑えきれない感情が駆け上がって来た。
『まだイッてないんだろ?そのままでいいのか?』
「そんなッ…」
『構わネェよ、続けな』
思いがけない言葉に、私は身体をびくっ、とする。
ダメ……止められない。
左手のスプレー缶を放して再び指を埋めてゆく。
「はぁっ……はんっ……ああっ……」
声も我慢出来ない。
『どうだ、気持ち良くなってるのか』
「ヤだ……はずかし…っ」
『その音を聞かせてみろよ』
頭がボーッとして逆らえない。私は受話器を自分の足の間に近付けた。左手も止められず、電話の向こうのあの人にその音を聞かせてしまう。
『ぐちゅ…ぐちゅ……』
きっと、聞かれてる。私のはしたない指の、エッチな音を。
そんな背徳心が沸き上がるのが抑えきれない。
「ダメッ、ダメッ………聞かないでっ…………」
言葉と裏腹な私の行為。
そして、突然にその瞬間が訪れて、私は達してしまった。
「あああぁぁぁぁン!!」
そのまま崩れ落ちて、携帯も手から滑り落ちた。
朦朧とした意識の向こうであの人が呟いた。
『今度会うのを楽しみにしてるよ、ユメちゃん』
――再び幕――