「それでね、ルビーの店に行ったら・・・」
アリスがワインを傾ける。
テーブルには簡単な、けれど彩り豊かな料理が並べられている。
「ふふ・・・」
「まぁその点私はあんたと違って・・・」
気まずい。正直この場から逃げ出してしまいたい。
「そう言えばあんた、髪の手入れってちゃんとしてるの?」
「ほぇ?」
そういいながらローズはアリスの髪をさらりと撫でた。
「ほら、結構痛んでるじゃないの。だいたいあんたは・・・」
なんて事のない、女の子同士のスキンシップにも満たないこの仕草
私には、どうしてもローズの意図が見え隠れしてしまう。
複雑だ。とても複雑だ。
あぁ、あんな事、しなければ良かった・・・
事の発端は単なる悪戯。
ローズにお子ちゃまだのまな板だの言われた仕返しだった。
私は秘密裏にとあるルートを使って惚れ薬を手に入れた。
記憶の混乱などの副作用がない良質な逸品。
この記憶の混乱がないというのがミソで
まぁ早い話、ローズに惚れ薬を飲ませ
アリスに対してデッレデレにしてしまおうという作戦。
アリス相手にあんな愛の言葉やこんな手紙でアリスの気を引こうとするローズ。
それを思い出す度、ローズは枕に顔を埋めて足をバタバタさせる事必至。
我ながら思う。ローズに恥ずかしい思いをさせつつ
本人は最終的に惚れ薬のせいにもできる、なんと良心的悪戯なのだろう。
あんまり酷いのやっちゃうとそれはそれで、ね・・・
まぁそんな訳で上手い事ローズが飲んでいる
「ベルガモット・オレンジティー」
なる本人曰く、異国の飲み物に惚れ薬を仕込んだ。
ここまでは良かった。・・・んだけれど。
そう、何故か効かなかったのだ。全く持って。
多少の問題があるとか仕入れ先から聞いてはいた。
しかし、問題はあるが惚れ薬としては一切なんの問題もない。と確かに・・・
試しに姉にも飲ませてみたけど
・・・これは思い出さないでおこう、うん。
姉妹だからノーカウント、姉妹だからノーカウント・・・
となると問題は一体どこにあるのか。
で、さっき知った。衝撃の事実を。
仕入れ先曰く「最初から相手に一定の恋愛感情を抱いていては効力を発揮しない」
「まぁその一定がストーカー予備軍レベルだから、問題ないでしょ。ハハハ。」
ハハハ、じゃねぇです!
・・・コホン。ようするに、最初から惚れてるんなら問題ないでしょ?
というお話。まぁこの場合問題有りすぎだけど。
「フロスト?」
少し考え込んでしまったようだ。姉が訝しげに顔を覗き込んでくる。
「え?あ、昨日の事をちょっと」
あ、しまっ
「昨日・・・//」
顔を赤らめるな、目を逸らすなっ。
・・・不覚にも可愛いとか思うな私っ!!
「何よあんたたち、目反らして顔赤らめて。」
「ワ、ワイン飲みすぎたのよ、ね?」
「・・・//」
「怪しいわね〜」
ストーカー予備軍レベルに怪しいとか言われたし。
しかし納得いかないわね。何せあの姉が惚れ薬を飲んだ瞬間アレだったのだ。
この堪え性のないローズがあのレベルの感情を
ちょっとしたスキンシップ程度で抑えられる様にも思わないんだけど
「ところでアリス」
「ふわ・・・ふみゅ?」
「えらい眠そうね。そんなでちゃんと帰られるの?」
「んー、お酒飲んじゃったからなぁ。」
「飲酒運転は、ダメ。」
ん?まさかこの流れ
「フロストの箒も二人が限界だしね。あんた、今日は泊まって行きなさいよ。」
うわぁ・・・
「え?いいの?」
「別に。事故でも起こされたら敵わないし。」
なんて事ないフリをしてるけど私は見た。
ゴクリと唾を飲み込むローズの喉を。
「でも、着替えとかどうするのよ?」
知らない仲ではない人間の貞操の危機だ。一応助け船を出してみる。
「着替えなら私の貸すわよ。下着は新品のがあるし、アンタもそれでいいでしょ?」
「ん〜、穿き古したのがあるならそれでいいよぉ」
「別に気にしなくていいわよ。」
うわっ、うわぁ・・・用意周到すぎるでしょ・・・
「さて、じゃあ解散としましょうか。」
・・・まぁ、アリスが本気で嫌がったらローズだってとまる筈。多分。
止まらなかったら・・・女の子同士だからノーカンよ、ノーカンっ。
―翌日
まさか自分が貞操の危機に陥るとは思ってもみなかった。
で、その危機からの脱出は失敗に終わった訳です。ごきげんよう。
ふと鏡の中の自分と目が合う。・・・何ニヤけてんのよ!
べ、別に結構幸せかもとか思ってないんだらねっ!
「ん、あれは・・・」
鏡の中の自分とにらめっこしてるとフラフラと歩いている人影が。
ローズ、よね?なんか、冗談抜きでオバ・・・
「なによ」
「・・・昨日何かあったの?」
直球勝負。
「っ!!な、なんにもないわよ//」
「全く、まさかあんな事させられるなんて・・・」
ブツブツとボヤキながらローズは歩いて行った。
あぁ、アリスって攻めなんだ・・・。
終わり