「いくわよ、アリス!」  
「おっけー!ローズ!」  
「纏めて相手してあげる!」  
―3日後  
「ローズぅ、もういいでしょ〜?」  
「ダメよ。肩の次は背中。それが終わったら皿洗いね。」  
「あぅ・・・」  
力を合わせ、フロストを止めたあの日以来  
アリスは私の下僕として暮らしていた。  
―あなた、私の召喚に応じた訳よね。なら、今日から下僕ね?  
勿論冗談半分。しかし、どうにもこの子は融通の効かないというか  
あろうことか、私の冗談を本気にしてしまったのだ。  
「そうね、明日にでも―」  
私だって鬼じゃない。もとは冗談  
というか、さすがにちょっと可哀想な気もするし。  
「?明日がどうしたの?」「何でもないわよ。さ、チャッチャと皿洗って。」  
「う〜、ローズのおにぃ」  
まぁ、結構煮え湯を飲まされてきたこの子を顎で使う愉悦に  
三日も浸って鬼じゃ無いというのはムシがよすぎるか。  
でもねぇ・・・  
「そんなに嫌なら出ていきゃいいじゃない」  
「でも、それだと二度と口もきいてくれなくなるんでしょ?」  
 
そう、私はこの子に契約破りの代償を突き付けているのだ。  
いや、というか代償というほど大それたものじゃないわよね。  
「あ、勝手に出て行ったりしたら、二度と口もきかないわよ」  
そんな大それた事の無い一言が、どうやらこの子を強く縛っているらしい。  
「私、そんなの嫌だもん」  
うるうるとアリスの瞳に涙が浮かぶ。  
なんというか、これがマズイ。  
そんな顔でそんな事を言うこの子を見ていると  
何故かもう少し、もう少しだけと  
解放してしまう事を躊躇ってしまう。  
―ずっと傍にいて欲しい・・・?  
いや、そんな筈は無い。別にアリスの事が好きだとかそんな事は無いし  
何より私はローズで彼女はアリス。決して相容れない、永遠のライバルなのだ。「どうしたの?ローズ」  
まだ涙が溜まる瞳で不思議そうに首を傾げるアリス。  
そんな彼女に、私は何でもないと埃を払うように言い放った。  
 
夜。アリスを従え迎える四度目の夜。  
「ふぅ、こんなもんかな?」  
今日は私の自慢の一つである髪に、アリスが櫛を入れている。  
「まだ束になってるところがあるじゃない。ほら、続けて。」  
嘘だ。私の髪は、つやつやサラサラと輝いている。  
もう充分の筈だ。けれど、明日になればもうアリスは私の下僕じゃないから。  
あと少し、あともう少しだけ・・・  
「そうなの?よぉし、頑張るぞ!」  
「そんなに頑張られてもいい迷惑よ。もっと」  
ふと、違和感が走った。  
頑張るとは一体どういう事だろうか?  
何故そんなにやる気がでるのか?  
アリスは嫌々してる筈なのに、一体それはどうして。  
「もっと?もっとどうすればいいの?」  
やたらと楽しげな声で、耳元で優しく囁くアリス。  
いけない。また、またあのマズイ感じが  
お腹から胸に、喉に、まるでせせり上がってくるように・・・  
「やたらと楽しそうだけど、あんた、よっぽど私の下僕が気に入ったようね」  
苦し紛れにいい放つ。大丈夫。  
何かが何かを求める様に体が動こうとした。でも問題無い。  
辛辣な言葉とともに、衝動を吐き出せた。大丈夫。  
私はローズで彼女はアリス。だから大丈夫。絶対に―  
「そうだね、毎日こうしていられるなら、ローズの下僕さんでもいいかなぁ」  
あ、ダメだわこれ。  
 
気付けば私は彼女の上にいた。  
手は拘束して、体の全てを彼女に被せ  
決して逃さぬように、彼女を喰らう蜘蛛のように。  
「最後の命令よ。あんた、私の物になりなさい。」  
「へ?えっと、ローズ・・・?」  
何も解っていないのだろう。これから私に何をされるのか。  
あれだけ仲良くしたかった私にどれ程傷付けられるのか。  
でも、私は手加減なんてしない。好かれようとも思わない。  
だってこの先いくら好かれても、この気持ちは封じ続けなければならないのだから。  
もう、認めよう。私はアリスに恋をしている。どうしようもなく好きだから。  
だから私は、アリスを貪り尽くす事に決めたのだ。  
「あ、ちょ、ちょっとローズ!やめて!何して」  
「黙りなさい!」  
「っ・・・」  
罪悪感などない。だって  
「あんたは私の物なんだから、口答えは許さないわよ?」  
そう言いながら私はアリスの胸を蹂躙する。  
「いっ、やっ・・・」  
苦痛に歪むアリスの顔。  
「あら?あんたみたいなバカは、簡単に感じちゃうって思ったんだけど」  
羞恥と恐怖に震えるアリスの体。  
「とりあえず、無理やり指でも入れればその内喘ぎだすわよね」  
私は彼女の主で、その全てはもう私のもの。  
「!?やっ、ダメ!待ってローズ!私初めてで」  
好都合。  
「っ!!痛い!痛いよローズ!もっと、優し」  
「黙りなさいって言ってるでしょ!私は、私は!あんたの所有者なんだから!」  
 
「違うもん!!」  
びくりと。体を硬直させたのは私だった。  
何もいえない。アリスの瞳にはさっきまで無かった強い光が宿っていた。  
あぁ、ここらで終わりね。急激に頭が醒めていく。  
私はどこかで、既成事実さえ作れば  
後はどうにでもなるんじゃないかと思ってたのかもしれない。  
そんなに甘けりゃ苦労しない、か。  
アリスは無表情だけれど、強い眼差しで私を射ぬいている。  
「そう。なら、この屈辱は晴らさないとね?どうするつもり?」  
努めて嘲りを含めたつもりだったけど、声は枯れていた。無様だった。  
さよなら、アリス。後、ごめんなさい。  
今さらそんな事言えなっ―!?  
「こうするもん。」  
・・・どうして、抱き締められているのだろう  
「ローズ、辛かったんだね。」  
私が?あんたじゃなくて?  
「ほら、もう大丈夫だから泣かないで。ね?」  
私が泣いてる?・・・あ、ほんとだ。  
「ひっ、ひぐっ・・・アリス、ごめん、ごめんなさい・・・」  
「あー、もう。大丈夫だよぉローズ。怖くなんて無いから。ね?」  
気付けば堰を切っていた。  
「わ、私、私ね、アリスが好きだから、だから」  
「うん。好きな人、誰にも渡したくないよね。」  
アリスがぎゅってしてくれる。  
「しちゃダメだってわかってたのに、アリスに嫌われるってわかってたのに」  
全てが怖くて、止められなかった。そう言おうとして不意に。  
「んっ・・・嫌いになんてならないよ?」  
・・・あ。キス、されちゃった。  
 
不覚。私はあろう事か、感極まってアリスの胸で大泣きした挙げ句  
さらにそこにしがみついてアリスに頭を撫でて貰っている。  
「落ち着いた?」  
「え、えぇ・・・」  
よし、まずは謝ろう。謝って許して貰える事では無いけど。  
「その、アリス。許してくれとは言わないわ。でも、ごめんなさい」  
「・・・うーんと、そうだね、却下だね」  
・・・あ、あら?いや、当然よね。  
好きだ嫌いだとは別の話なのだ。  
私は強姦魔の烙印を押される事をした。確かに許される筈が無い。  
なでなで。なでなで。  
でも、このなでなでは一体・・・  
「でもね、許さないし、一生恨むけど」  
けれど?  
「私とローズが今よりもっと強い絆で結ばれれば、私は気にならないよ。」  
「それは、どうすれば・・・」  
今より強い絆。こ、恋人になるとか?どど、どんとこいじゃない!  
「結婚しよっか♪」  
あぁ、なるほど、確かに強い絆だ。けれど  
「いや、あんた女で私も女よ。無理に決まって」  
「しよっか♪」  
黒っ!アリスから黒いとしか言い様の無いオーラが出ている。普通に怖い。  
っていうか何対応よそのオーラ。  
「レイプ魔(ボソッ」  
「オ〜ッホホホホ!!そうね!それがいいわ!そうしましょう!」  
「もー、ローズったらはしゃぎ過ぎだよぉ」  
あら?私、ハメられた?  
―鬼女。  
どこかで囁かれているというアリスの二つ名。  
「でね?ローズ。その、さっきの続きなんだけど・・・」  
「さっきの?あ、え、えぇ・・・」  
「優しくなら、いいよ?」  
しかし、鬼だろうが蛇だろうが、私はアリスに恋をした。  
ならば私は、幸せなのだろう。  
 
終わり  
 

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