まったく奥様にも困ったものだと思う。  
 その場の勢いで言って引っこみがつかなくなって突進して玉砕したことが何度もあると  
いうのに、懲りた様子がない。  
 ――事の発端は何だっただろうか。ああ、そう、確か私たちの仲を誤解しているコック  
長の内緒話だ。  
 奥様との旅行から帰ってきた私に「久しぶりに二人きりでゆっくりできましたかい」な  
どと、コック長は耳打ちしてきた。  
 無論、奥様が一緒にいるのに、コック長が言外に含ませたような、色気のある旅行にな  
どなるはずがない。今回も奥様が騒動に自ら突っ込んでいって掻き回してさらに騒動を大  
きくしたあげくに命の危険すれすれのところで解決して、二人で疲労困憊して帰ってきた  
というのが実情だ。  
 ……その話は今はおいておこう。  
 私とコック長の内緒話(一方的に私が話をされていたのだが)を見た奥様は、いったい何  
を話したのかとしつこく聞いてきた。  
 グレースはコック長の誤解――私と彼女が男女の仲にあるという――を知らない。  
 適当な内容で誤魔化そうとしたのだが、詐欺師には騙されるくせに、こういうことには  
動物的勘の働くうちの奥様は、私の嘘を簡単に見破ってしまった。  
 自室に逃げこもうとしたのだが、しぶとくついてくる。私自身、この時はいつものよう  
に奥様のあしらいが上手くはできなかった。旅の疲れのせいかもしれない。  
 とうとう根負けして、私は薄暗い部屋の中で(灯りをつける暇もなく奥様の詰問に遭っ  
ていたからだ)本当のことを話してしまった。  
 
「や、やーね、グラハム。ムキになって隠そうとするからいったい何かと思ったら……そ  
んなことなの」  
 私の言葉を理解した奥様は、頬を赤く染めて視線を逸らした。だが、言葉だけはあくま  
で強気だ。  
「私は仮にも未亡人よ。今までBFがいなかったわけじゃないし。そ、そーんな噂の一つ  
や二つ気にしたりしないわよ」  
 髪をかきあげて余裕のポーズを作ってはいるが、赤い頬をしていては説得力はあまりな  
い。だが、もちろん私はにっこり笑って肯定した。  
「そうですか」  
「……信じてないわね」  
 奥様が上目遣いに私を睨む。恐るべし野生の勘。  
「いいえ、もちろん信じています」  
 同じ笑顔でそう言うと、奥様はますます怒ってしまった。  
「嘘つき! 全然信じてなんかいないくせに。いいわよ、証明してあげるわ!」  
 えっ、と思ったときには奥様に体当たり(本人は抱きついたつもりだったらしい)され、  
不意をつかれた私は、あっけなくソファーに倒れこんでしまった。  
 
 
 ――そうして、私は今の状況に陥っているというわけだ。  
 視界の片隅に、ソファーの背もたれが見える。私の背中には柔らかなクッション。そし  
て、腹――胸の間違いではない――の上には、私に馬乗りになって固まっているグレース。  
 
 
「……そこで悩まないでいただけますか」  
「う、う、うるさいわね、悩んでなんかいないわよ。今やるわよ」  
「別に催促したわけではないんですが」  
 グレースは顔を真っ赤に、口を一文字にして、私のタイを外そうとしている。今から男  
と寝ようとする女性の顔とはとても思えない。  
「……奥様」  
「話さないで」  
「奥様」  
「黙ってったら」  
「グレース」  
 右手をあげて、彼女の肩に触れるとビクッと震えた。私は思わずため息を吐いた。  
「何をそんなに意地になってるんだ」  
 私の掌に肩の震えが伝わってくる。それはだんだんと大きくなり、やがて彼女は私の上  
に突っ伏した。……それはもう、叩きつけるような勢いで。私は、うめき声を上げるのを  
何とかこらえた。  
「くやしぃいいいいいいい〜! グラハムったらコック長がそんな勘違いしてるの知って  
たくせに、全然いつもと変わりなかったじゃない。今だって平然とすました顔して、あた  
しに迫られても顔を赤くもしない。あたしは母親で、あなたは息子なのに、いつもあなた  
ばかりが余裕たっぷりで」  
 息子といっても義理だ。旦那様――ミスター・ジョンストンは、長患いの床で通いのメ  
イドだったグレースと式を挙げた。彼女は財産目当てだと言い放っていたが、病床の旦那  
様への尽くし方は情のこもったものだった。  
 
 ちみなに、ジョンストン家の執事だった私は、その少し前に旦那様と養子縁組をしてい  
た。つまり書類上は私はグレースの息子ということになるのだが、できれば忘れたい事実  
である。  
「そりゃあなたは湖で女の子といちゃついてたことあるんだし、経験豊かでしょうよ。だ  
けど、あたし、あたしは――」  
 ………湖の話なんかよく覚えていたな。あれは旦那様が亡くなって、3ヶ月頃だったか。  
 私は両腕をグレースの背中に回した。彼女の細い腰で交差して、力を込める。ピタリ、  
とグレースの声が止まった。  
「経験をつけたいというのなら、お手伝いできますが」  
 
 私は体を起こすと、混乱しているグレースを抱え上げた。  
「えっ?」  
 そのまま寝室に向かって、ベッドに横たえても、まだ彼女は現状に認識が追いついてな  
いようだった。  
 栗色の巻き毛に指を絡めて、顔を覗き込む。  
「ちょっと待……」  
 ようやく危険を感じて、制止の言葉を言いかけた唇をすばやく塞いでしまう。  
 相変わらず、こういう面に関しては危機察知能力が鈍い。本質的には頭のいい人ではあ  
るが、惚れっぽくて情に脆いから、一度、親しくなった相手に対しては、とことん無防備  
になってしまう。  
 彼女がそういった相手を家に連れてくるたび、私がどれだけハラハラしていたか、彼女  
は知らないだろう。  
「ま、ま、ま、待ってよっ」  
 軽く触れた唇を離すと、狼狽しきった声が飛びだしてきた。  
「最初に襲ってきたのは奥様ですよ」  
 グレースに緩められたタイを、見せつけるようにカラーから引き抜いた。  
「おそっ……確かにそうだけど、まさかあなたが――お、落ち着いてよっ」  
 シャツのボタンを外し始めると、とうとう彼女は悲鳴をあげた。  
「ごめんなさい! 私が悪かったわ。やっぱりこういうことは、好きな相手じゃないと!」  
 そう叫んだ途端、彼女の顔はたちまち赤くなった。  
 
「ふ、ふ、古くさいと思ってるわよ。今どきこんな考えなんて。だけど、ほらっ、あたし  
って固い女子校育ちだったから貞操観念を叩きこまれてるのよね」  
 グレースは私の落胆など気づかずにまくし立てる。  
 恐らくは女子校での教育だけではないだろう。シングルマザーだったという母親のこと  
が、彼女に深い影響を与えているのは確かだから。  
 私はゆっくりと身を起こして、グレースから離れた。白状すると、それにはかなりの自  
制が必要だった。  
「でしたら、もうああいった悪ふざけはされないことですね。奥様は男性に対して無警戒  
すぎます。だから、好きでもない相手にベッドに連れこまれるような羽目になるんです」  
 私の言葉を聞いたグレースの表情が変わった――と思った次の刹那、私は彼女に張り飛  
ばされていた。  
「好きでもない相手で悪かったわね!」  
 痛む頬を手で押さえつつ、私は呆然とグレースを見つめた。  
「どうせあなたにとっては、あたしはババァよ! いっつも厄介をかける困った女だって  
思っているんでしょう!?」  
 ちょっと待て……話が混乱しているぞ。  
 私はずり落ちかけた眼鏡を直しながら頭の中を整理した。  
「奥様、逆です。好きでもない相手というのは私を指した言葉であって――」  
「そんなのわかってるわよ! だけど、あなただって、あたしのことが好きじゃないんで  
しょう?」  
 
「私を好きじゃないと言ったのは君の方だ」  
 ついムッとして、私まで声を荒げてしまった。いけない、グレースに釣られてしまった。  
落ち着かなくては。  
 グレースはキョトンとした瞳で私を見た。  
「何言ってるのよ、好きに決まっているじゃない」  
 こういう状況下で、どうしてそういうセリフが言えるんだ、この人は。私は努めて冷静  
な声を出した。  
「でも、それは、家族としての好きであって、恋人のそれではない。――そういうことで  
はないんですか」  
 グレースは二、三度またたいて、それから何かを考えこむような表情になった。  
「奥様……」  
「ちょっと待って」  
 グレースはしばらく頭を抱えこんで、まさか、いやでも、とかなんとかしばらく呻いて  
いたが、やがて恐る恐る私を振り向いた。  
「えーと、その、あたしの勘違いだったら悪いけど……つまり――つまり、あなたはあた  
しが好きって事?」  
 単刀直入に訊かれて、私は言葉を失った。  
 虚しさが胸の中に広がっていく。  
 別にティーンエイジャーのように夢見ていたわけではないし、この人相手にムードやロ  
マンを求めても仕方ないことだろうが、それにしても相手から訊ねられて白状するとは情  
けない。考えられる限り最悪の告白という気がする。  
 
 といっても、私に肯定する以外の道は残されてはいないのだが。  
 間抜けな自分を呪いつつ、私は頷いた。  
「ええ」  
「家族としての好きではなくて」  
「…そうですね」  
 もう一度、グレースはゆっくりとまたたいた。ブルーの瞳が柔らかな光を浮かべ、唇に  
微笑みが浮かぶ。微笑みはすぐ満面の笑みに変わった。それから勢いよく起きあがったか  
と思うと、彼女は私に飛びついてきて、私をひどく驚かせた。  
「わかりにくいんだから、本当に」  
「グレース?」  
「好きに何の違いがあるんだ――って、前にあなた、言ったわよね」  
 くすくすと笑いを含んだ声が、私の耳をくすぐる。  
「あなたに関しては、あたしも違いはないのよ」  
 
 
 要するに、私たちはお互いに相手に好意を――家族としてだけではない――持ちながら、  
相手が自分のことを恋愛対象として見ていないのだと思いこんでいたのだった。  
 正直なところ、グレースがこの腕の中にいてさえ、まだ彼女が私に恋愛感情を抱いてる  
とは信じられないが。もっとも、彼女も私に対して同じことを思っていたと後で聞いた。  
 血は繋がっていないが、こういう面では私たちは似ているのかもしれない。  
 
 グレースをそっと引き寄せて、唇を重ねる。  
 まだ少し、互いを探り合うようなキス。  
 一度身体を離して、またキス。キス。キス。  
 キスを重ねるごとにグレースの身体から緊張が抜けていくのがわかる。  
 薄く開いた唇に舌を滑り込ませて、中を探る。熱を煽るように、溶かすように。  
 やがて、彼女も少しずつ応えだす。グレースの腕が私の首に絡みついて、身体を引き寄  
せる。  
 彼女が私を求めてくれている。それが嬉しい。  
 一度身体を離して、眼鏡と腕時計を外す。  
 グレースは、ぼうっとした瞳でそれを見ている。  
 キスの余韻を色濃く残した、潤んだ瞳。淡く紅色に上気した頬。濡れた唇。  
 ――泣いた顔は見たことがある。怒った顔も、笑った顔も、照れた顔も。だけどこれは  
……破壊的だ。  
「グレース……」  
 彼女の頭を引き寄せる。キスを予感して、彼女はそっと瞳を閉じた。けれども、唇では  
なく頬に口づける。閉じた瞼に、そして耳たぶから、首筋へと唇を滑らせる。  
「あっ……」  
 グレースの唇から吐息が漏れる。また少し強ばった背中を撫でて、緊張を解かしながら、  
私はグレースのブラウスのボタンを外した。  
 鎖骨に口づけて、強く吸う。  
「やっ……」  
 グレースが慌てた。  
 
「跡がついちゃうじゃない」  
「そうですね」  
 しばらくは衿の閉じた服しか着られないかもしれない。だが、正直に言えばそれがどう  
した、という気分だった。  
 グレースが驚いたように私を見る。  
 私がどんな顔をしていたかは知らない。彼女の表情が、少しだけ呆れたような、戸惑っ  
ているようなものに変わる。  
「あなたって……」  
 構わずに、私は彼女の首筋に顔を埋めた。  
「んっ……ぁ」  
 白い肌を強く吸い上げても、もうグレースは抵抗しなかった。  
 下着の上から触れた胸は、柔らかな弾力を秘めている。掌にちょうど収まるほどの膨ら  
みを揉みしだくと、グレースの口から今まで聞いたことのないような甘くかすれた声がこ  
ぼれた。  
 背中に回していた手で下着の留め金を外すと、先端はすでに立ち上がりかけて、紅く色  
づいている。  
 胸の突起を軽くはんだだけで、グレースの背がしなった。  
 ……もしかしたら、胸は感じやすいのかもしれない。  
 そのまま口の中で転がしながら、もう片方の胸も愛撫すると、たまらず、というように  
彼女は私の頭をかき抱いた。  
「ん……っ、ふ……」  
 必死で堪えているのだろうが、それでも抑えきれない声が唇から漏れる。抑えなくても  
いいのに――熱くなった頭の片隅でそんなことを考える。  
 
 彼女を啼かせたい。  
 欲望のままに突起を強く吸い上げた。  
「っぁ――――」  
 声を上げかけたのに、彼女は慌てて掌で口を塞いでしまう。つまらないな、と思った。  
「グレース、我慢しなくていい」  
 グレースはいやいやをするように首を振ったが、私は強引に彼女の掌を引き剥がした。  
グレースが真っ赤になって私を睨む。  
「さっきから、おかしいわよ。あなたがそんなこと、言うなんて……」  
 グレースに言われなくても、そんなことはわかっている。確かに今の私は変だ。  
 グレースが何を気にしているかは知っている。古い屋敷だ、壁は厚くとも防音は完璧で  
はない。誰かに聞かれる可能性がないとは限らない。  
 しかし、首筋に残したキスマークと同様、今はそんなことはどうでもいい気がした。  
 屋敷の主人としてのグレースの立場とか、屋敷の者をまとめる私の立場とか、書類上で  
の彼女と私の関係とか、いつもならば気になるはずのことが気にならない。皆にバレるな  
らば、バレてしまえばいい。  
 歯止めが効かなくなっている。  
 捕まえた手の甲にキスを落として、そのまま、唇を上の方へと滑らせた。  
「グラハム……っ」  
「構わない」  
 彼女の耳元で囁く。  
「声が、聞きたいんだ」  
 グレースは絶句すると、赤かった頬をさらに火照らせて横を向いた。……耳まで赤くな  
っている。  
 
 彼女のこういう可愛さを知らなかったわけではないが、ほの暗い寝室の中で、その仕種  
はひどく可憐に見えた。  
 ……普段は、この人に可憐という言葉はなかなか使いがたい。  
 思いこんだら一直線のトラブルメーカーで、負けず嫌いだし口も悪い。  
 年齢は彼女の方が下なのだが、形の上では私が息子であるためか、妙に大人ぶったり、  
世慣れた風を装うことがある。  
 けれども今は年齢より幼くすら思える――いや、これが素の彼女なのかもしれない。  
 少なくとも恋愛に関しては、経験がないとは言わないが少ないであろうことは、さっき  
からの反応で察することができた。  
 男に触れられることに慣れていない。  
 ざわり、と胸の中で何かが蠢く。  
 支配欲……あるいは征服欲とでも言えばいいのだろうか。  
 愛しいと思う気持ちと同時に、彼女の中に自分を刻みつけたいという欲が沸いてくる。  
「ああっ……」  
 握った手をそのままシーツに押しつけて拘束すると、私はグレースの胸に顔を埋めた。  
舌先で、唇で、思うまま蹂躙する。  
「…っ、ふ……グラ、ハム……っ、や、ああっ」  
 グレースが首を振る。快感から逃れるように、何度も。  
 小ぶりの胸は固く張りつめ、先端は紅く充血して、彼女が感じていることを教えていた。  
 緩んだ膝の間に身体を滑りこませて、腿で奥まった部分を刺激する。スラックス越しに  
も、濡れているのがハッキリわかった。  
 
 左手でグレースの両手をひとまとめにして、右手を下肢に伸ばす。太腿をなぞり上げた  
だけで、グレースは身体をビクビクと震わせた。  
 スカートの下に忍ばせた指先が熱い部分に触れる。  
「あっ、そこ……っ」  
 グレースが軽い抵抗を見せたが、構わずに下着の上からなでさする。もっとも敏感な部  
分をノックするように叩くと、グレースの腰が浮きあがった。  
 その間も胸への愛撫は止めない。  
「あっ……っ、く……ん、あ、ああっ」  
 グレースの唇から徐々に嬌声がこぼれだす。もはや、私は彼女の腕を捕らえてはいなか  
ったけれど、グレースは掌で声を抑えようとはしなかった。  
 彼女の身体に中途半端にまとわりついていた衣服をすべてはぎ取る。下着に手をかける  
と、グレースは恥ずかしいのか固く目を閉じた。  
 ふとイタズラ心が沸いて、赤くなっている彼女の耳に囁いた。  
「……すごく濡れてる」  
 グレースは身体を隠すように、小さく丸まった。  
「グ、グラハムが、いろんなところ触りすぎるからよっ」  
 私は眉をあげた。  
 ――もしかすると。  
「触られるのは嫌?」  
 私は丸まった彼女の背中に掌をピタリと当てた。そのまま、滑らかな曲線を下へとゆっ  
くりとたどっていく。  
「っ……き、らいじゃ、ない、けど」  
「けど?」  
「こんな風なの、はじめ……っ、あたし、どうしていいか」  
 
 ――では、やはりそうなのだ。私の中で疑念が確信へと変わった。  
 グレースに経験が少ないのは予測していたが、それにしてもあまりにも余裕がないよう  
に感じていた。快感を感じることに戸惑っているような雰囲気もある。  
 経験はあっても、おそらく彼女は、本当の高みを与えられたことがない。男の一方的な  
満足で終わるセックスしか知らないのかもしれない。  
 ざわり、と、胸の中でふたたび欲望が蠢いた。  
 彼女を徹底的に感じさせてみたい。  
 背中をなで回していた手を前に滑らせる。胸を覆う腕の間をすり抜けて、先端を摘んだ。  
「ああっ、やぁ……っ」  
 火照った身体を背中から抱きしめ、両掌で乳房を包み揉みしだく。指と指で頂を挟むよ  
うにして擦り上げると、グレースは身体を振るわせ、高く細い声をあげた。  
 力の抜けた身体を仰向けにして、今度は唇で思い切り吸い上げる。  
「ひ、ぁぁぁあっ」  
 グレースの身体が反り返った。栗色の髪が白いシーツの上で踊る。しっとりと汗ばんだ  
肌に髪の毛がまとわりついて、それが喩えようもなく淫らに感じた。  
 右手を彼女の腿に添えて、指先でくすぐる。内股の柔らかな部分を螺旋を描くようにし  
てこね上げ、あるいは滑らせる。  
 けれども、肝心な部分には触れない。  
 やがて、焦れたようにグレースの下肢が揺らめきだした。  
「腰が動いてる。……誘っているのかな」  
「ち、ちがっ……っ」  
 弾かれたようにグレースが私に視線を向け、否定しようとする。その瞬間に、泉の中に  
指を差し入れた。  
「あぁあああああっっ」  
 濡れた瞳が一瞬、見ひらかれ、固く閉じられる。ぶるぶると身体が震えて、彼女は羞恥  
に染まった頬を両腕で隠した。  
 
 ……まずい。暴走しそうだ。いや、すでにしているのかもしれないが。快感に慣れない  
彼女の反応のひとつひとつが私を刺激した。  
 身体を下にずらして、泉に口づける。ひときわ高く声を上げて、グレースの身体が跳ね  
る。構わずに舌で花弁を一枚一枚なぞり上げる。もちろん指の動きも止めない。  
「ひぁ、ああ、……んくっ、ぅ……ぁぁ、あああ、あっ」  
 彼女の声に、次第にせっぱ詰まった響きが含まれてきた。  
「や、やめっ……ああ、ああっ、待っ……グラハム!」  
 快楽から逃げようとする腰を許さずに、しっかりと抱きとめる。そして、紅く充血した  
敏感な芽を吸い上げた。  
「……ぁあああああああああああ!」  
 グレースの身体が弓なりにのけ反る。熱い蜜があふれ出てきて、私の手を濡らした。  
 ゆるゆると弛緩していく肢体を抱きしめて、グレースに口づける。思うままに味わって  
いると、夢見心地だった彼女の意識が戻ってきて、応えだしてくれる。  
「……待ってって、言ったのに」  
 恨めしそうな口調で私を見上げてくるが、快楽に潤んだ瞳で言われてもこちらの熱を煽  
るだけだ。  
 にっこり笑って、私は彼女の頬にキスを落とした。  
「聞こえなかったんだ。……それに、あそこで待ったとしたら、君が辛くなるだけだ」  
「……時々、意外なことを言うとは思ってたけど、あなたがこんなに女たらしだとは思わ  
なかったわ」  
 グレースが頬を膨らませる。  
「心外だな。私だってたいした経験はないよ。……余裕だって、あるわけじゃない」  
 私は腕の中の彼女に、自分自身を強く押しつけた。私の意図を察した彼女は、戸惑った  
ように俯いたが、やがて顔を上げて、真っ直ぐに私を捕らえた。  
「……いい、わよ」  
 

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