「うわぁぁぁぁ!!」
式森和樹は突然謎の頭痛に襲われた。
まるで内側から響く、いや、何かが目覚めるような痛みだった。
「何だ。この痛みは・・・」
(くっくっく)
不意に頭の中に声が響いた。その声は自分だか自分では無い別人の声だった。
「だ、誰だ!!」
(ほお、僕の声が聞こえるようになったんだね。和樹。これはめでたい。)
「き、君は一体?」
(僕は君。君は僕。僕は君の中にいる。)
「そんな馬鹿な。」
和樹はこの時夕菜の事を思い出した。体内に何かを飼っている夕菜。
もしも自分にも体内に悪魔がいるなら・・・
いや、こいつはどっちかというと僕の変わりに成仏した奴に近いか。
(僕をそんなのと一緒にするな。)
「ああそう・・・って聞こえてたの?」
呆れたように答えてきた。
(あのねぇ・・・僕は君の中にいるんだよ。普通に考えて聞こえるって考えるのは当然だろう。)
「悪かったね。で、君は何者なんだ?」
一呼吸置き
(僕は君の魂と共に生まれた者。最も遠い双子。最も近い他人。)
(簡単にいうと一つの体に魂が二つあるってこと。)
「馬鹿な。ありえない。それに僕は一度死んだ。
君が言ったことが本当なら、僕が死んだ時に君も幽体になっていた筈。
でも僕は君を一度も見ていない。」
そうである。和樹は一度死んでいる。彼の言っていることが事実なら、前に死んだ時に一緒に幽体になっていなければならない。
彼が何処かに飛んで行ったとしても、死んだ場所でしか幽体にならない。
あの状況で和樹達の目を盗んでの移動はほぼ不可能だった。
(結構頭の回転が速いんだね。でもね、生まれてはいたが存在はしていなかったらどうだい?)
「そ、存在・・・していなかった?」
(そう、簡単に言えば君の魂の中で眠っていたって言えばいいのかな。)
もう想像がつかないレベルだった。
(・・・更に簡単に言うとピノコみたいなものだよ。)
直、何故彼がピノコを知っているかはスルーして下さい。
「君の名前は?」
(僕には名前は無いよ。名付ける人もいなかったしね。
敢えて名乗るのなら・・・そうだね、時雨かな。)
彼は自分に時雨という名前をつけた。相当気に入っているみたいだった。
「で、何で出て来たの?理由があるんでしょ?」
時雨は少し笑い、
(身体と記憶をを貸してくれないか?記憶はともかく身体は僕にも使う権利がある。)
確かに時雨の言う通りだった。和樹の身体を使う権利は時雨にもある。
「身体はともかく記憶は何で必要なんだ?ていうかどうやって貸すんだよ?」
「下手にお前の知り合いと会ってボロを出したらどうする。
記憶喪失扱い、最悪偽者扱いで酷い目にあうかもね。」ここで一つの疑問が浮かぶ。大した疑問では無いが。
「二重人格てとこは無視ですか・・・それなら安全だろうに。」
「そいつも駄目だ。精神病患者扱いだ。最悪どっちかの人格が削除される。」
「・・・分かったよ。君の言う通りだしね・・・」
和樹は渋々了承した。
「でも変な事はしないでよね。」
(ああ、当然そんなことはしない。一応借り物だしね。)
和樹は突然強力な睡魔に襲われた。
(後はそのまま眠ればいい。お休み、和樹。)
この言葉を聞いた途端、和樹は完全に眠ってしまった。そう、完全に・・・
身体の支配者が和樹から時雨にかわった時、時雨が突然笑い出した。
「くっくっく。こんな簡単に身体の支配権を渡すとはね。暫く好きに使わせてもらうよ。」
時雨は時計を見た。AM6:30。今日は火曜日なので学校がある。
和樹は学校をサボったというのはスルーして下さい。
ゆっくりと身仕度を整え、朝食と弁当を作り、朝食を取っていた。
「んと、テレビ、テレビ」
時雨はニュース番組をつけた。
ニュース番組は日本を除くアジア全域で夜明け前から発生している異常気象で持ち切りだ。
当然だろうとテレビを眺める時雨。それもその筈。この異常気象の原因は時雨にある。
時雨が目覚めてしまった為力の一部が暴走、異常気象を起こした。
更に時雨が出て来てしまった為、水星、金星、月、火星にさえ異常事態を発生させた。
水星は謎の膨脹をし、金星は縮小をし、月は少しづつ分解を始め、火星では大地震が発生していた。
「木を見て森を見ずか・・・。全く愚か過ぎる」
時雨は用意が完了した後、直ぐに葵学園に登校していった。
その日、時雨は完璧過ぎるまでに和樹を演じていた。
行動、言動、態度、頭脳全てが。
「どうやって楽しもうかな」