「涼、死んでー!」
そう叫んで少女はナイフを握った腕を振り下ろした。
高嵜涼は冷静にその腕を掴んで食い止める。その様子はどこかこの状況に慣れているように思える。
「危ないじゃないか、恵美。止めるんだ」
鬼気迫る様子の少女へ涼は淡々と言う。しかしそれで収まる筈が無い。
「だ、だって酷いじゃない。あたしにあんな事までしておいて、突然別れるだなんて!」
涼とこの少女はつい先日まで付き合っていた。それを涼が一方的に捨てたのである。つまりこれは痴情のもつれによる修羅場である。学園内という場所はともかくとして、ある意味でよくある光景と言えるかもしれない。
ただし――涼が女性でさえなければ、だが。
高嵜涼は葵学園のガンと言われる問題児クラス、2年B組に所属する女生徒である。
彼女は他の2B生徒のように陰謀や金儲けにはそれ程興味を示さない。だが、だからといって彼女が問題児ではないというわけではない。
昔から彼女は同性である女の子にしか興味を示さず、近隣の中学に可愛い女の子の多いという理由で葵学園に入学したくらいだ。
そして彼女は自分が同性愛者であることをカミングアウトして、女の子と付き合っているのである。
ただ問題は彼女の手癖の悪さで、三股四股は当たり前。しかも適当に弄んでは捨てているのである。その彼女は、「付き合っているとき優しくしたんだから別に捨ててもいいじゃん」とまるで反省していない。
そんな彼女を捨てられた女の子が刺そうとするのも既に珍しい光景ではなくなってしまっていた。
「まったく恵美、捨てられたからって文句を言うな。どうせお前はセカンドなんだから」
「せ、セカンドだったの!? ……じゃあ本命って誰よ!」
その名前を告げればその相手を刺しに行きかねない様子である。だからというわけではないが、涼は首を振った。
「いや、本命はいない。恵美も友香も絵里奈もみんなセカンドだ」
これは間違いなく涼の本心だ。
しかし少女は涼の言葉の別の部分に反応していた。
「あ、あたしだけじゃなくて、そんなに手を出してたの!? ……許せない!」
激昂した少女はナイフを握った手に更に力を込める。それに合わせて涼もその腕を掴む手に力を込めた。
涼はやれやれと言わんばかりにため息をついた。
そんな「付き合っている彼女は全員セカンド」と公言している彼女も、最近気になる相手が出来た。本命にしたいと思える相手である。
その相手の名は――神城凛。二、三年の女子の一部の間では、妹にしたい女の子として評判でもある。
もともと涼は年下の可愛い女の子が好きだった。しかし凛は可愛いというより凛々しいといった感じが強い少女だったのでこれまで涼の範疇には入っていなかった。しかし、どうも最近彼女が可愛らしくなってきたように感じて、涼は彼女を意識しだしたのである。
ただ、一つ問題がある。凛にはどうやら好きな男がいるという事である。人は恋をすれば変わるもの。彼女が最近可愛くなってきたのも、それが原因だろう。凛の気を惹こうと何度か話し掛けているうちに気付いたのだ。
そして、彼女が好きな男のことも分かった。クラスメイトの式森和樹である。
とはいえ、涼としては和樹から凛を奪い取るだけである。
既に、手は考えてある。涼は懐から一枚の写真を取り出した。
その写真には二人の人間が写っている。盗撮したのだろう、その写真の中の二人とも、撮られた事に気付いていないようだった。
偶然撮ることに成功したその写真を眺め、涼はほくそ笑んだ。
放課後。すでに大分遅い時間になっていて、みんな下校したのか周囲に人はほとんどいなくなっている。
神城凛は下校しようと下駄箱を開ける。するといつの間にか入っていたらしい一枚の封筒が中から出てきた。
――またラブレターだろうか。
一年生で一番の美少女といわれる彼女には当然ながらそういう手紙や告白が多い。ストイックな雰囲気なので、告白しづらいと思うのだが、それでもその数はかなりのものだ。最近になって更に増えたようにも思える。
時々女性から「妹になって欲しい」という手紙にはどう反応すればいいのか困ってしまうのだが。
結局のところ、彼女は告白を受けたところでそれに応じるつもりなど無い。しかしそれでも彼女の義理堅さから、始めから断るつもりとはいえ、その封筒を開いた。
そして――封筒から出てきたものを見て、凛は硬直した。
その写真には――一組の男女が交わっているところを写した写真だった。
「やあ、凛。どうしたんだ? そんなところで固まって」
突然かけられた声に、凛は我に返った。声をかけてきた相手を見る。
「高嵜先輩……」
声を掛けてきたのは高嵜涼だった。最近良く話し掛けてくる先輩だ。凛としては名前を馴れ馴れしく呼ばれるのは少し不快だったが、今は動揺してそれどころではない。再び写真に目をやり、そこから目が離せなくなる。
「涼でいいって……で、凛。どうしたんだ?」
涼はそう言ってその写真を横から覗き込む。それに気付いた凛は慌てて写真を隠そうとするが、その動作は一瞬遅れてしまい、ばっちり見られてしまった。
「成る程……式森、か」
涼は驚いたように目をみはる。どこかわざとらしく見える動作なのだが、凛はそのことに気付かない。泣きそうな顔で俯き、呟く。
「まさか、式森がこんな事をするとは……」
そう。その写真に写っていた男は紛れも無く、凛の想い人である式森和樹であった。無論、写真に写っている相手は凛ではない。
「凛……お前、式森が好きなのか?」
突然の問いに凛は慌てる。
「な、いや、私は、あんな軟弱者など――」
そこまで否定し、再び俯いた。
「私は、別に――」
涼はため息を吐く。そして彼女へ近づき、その顎を掴んで上を向かせる。
「だったら、あたしが忘れさせてやる」
「高嵜せんぱ――?」
戸惑う凛に、涼は突然口付けた。
最初涼はついばむようにキスをする。そして凛の唇が緩んできた頃を見計らって――涼の舌が凛の口の中へと侵入する。
「うっ、ンむっ――」
突然の事に硬直している凛を尻目に、涼の舌が凛の口腔を犯していく。
「あふっ……!」
思わず声が漏れる。キスだけだが、慣れた涼の舌の動きに、凛の脳は快感に溶けていく。
いつの間にか緩んでいた凛の太股へ、涼の膝が侵入してきた。そして袴の上から凛の股間へ膝頭を押し付けてきた。
「んん――!?」
酷く鋭敏になっていた局部は強烈な圧迫を受けて熱い液体を滴らせ、下着が濡れていくのが分かった。
その感覚に突然凛は怖くなって、力いっぱい涼を押しのけた。
「な、何をする!?」
羞恥と快感で真っ赤になった顔で怒鳴る。対して涼は悪びれずに言った。
「ナニ」
「ナニって……な、なんて破廉恥な!」
今度は怒りで真っ赤に顔を染める凛へ、再び涼は迫る。その少年を思わせる顔に妖艶な表情を浮かべている。
思わず凛は怯み、下がろうとするが、すぐに先程から背にしていた下駄箱にぶつかった。涼はその下駄箱に手をつく。もう逃げる事が出来なかった。
「凛だって満更でもないんじゃない? さっきはあんなに気持ちよさそうにして」
「わ、私は別に……」
否定する声を気にせず、涼は右手を凛の袴の中へと滑り込ませ、彼女の下着へと到達させる。下着の上から凛の大事な部分を嬲る。
「ほら、こんなにパンツをびしょびしょにしておいて、まだ気持ちよくないっていうのか?」
「はぁっ……わた、私は、そんな……」
しかしその言葉は明らかに彼女の強がりにしか聞こえない。よがる凛の首筋にキスをしながら更に涼は凛の股間を嬲りつづけた。凛の股布はどんどん濡れていく。
「あんっ、くうっ……そ、そんな――あぅんっ!」
凛の快感に溶けたよがり声を聞きながら、涼は更に激しく指を動かす。
「あっ、やあっ、も、もうダメだ――ああっ!」
だが、そこで涼は手の動きを止めた。凛の袴から手を引き抜く。その手は凛の愛液でてらてらと光っていた。涼はその手についた液体をぺろりとなめる。
「な、なぜやめるんだ?」
イク寸前で止めさせられて凛はかなり不満そうだ。涼は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「もっとして欲しいか?」
その言葉に凛はしばし葛藤するような表情を浮かべる。しかし結局は快楽が勝ったのか、顔を真っ赤に染めながら小さく頷いた。
――堕ちた。
涼はにんまりと笑みを浮かべる。
「それじゃあ折角だし、場所を変えようか」
寮の一室、高嵜涼の部屋。その室内に敷かれた布団の上で、凛は全裸で横たわっていた。彼女を愛撫する涼も既に全裸になっている。
凛は彼女の部屋に招き入れられ、服を脱がされ、そして涼の愛撫を受け続けた。それによって凛はすっかり出来上がっていた。
「ああっ!!」
凛の股間へ指が侵入する。思わず凛はがくっと身体を震わせる。そのまま涼は右手の全体で股間へと圧力を加えていく。
「んっ! ああっ!」
喘ぐ彼女を見て涼は笑みを浮かべる。
「ふふっ、可愛いよ、凛」
「た、高嵜先輩……」
すっかり蕩けきった瞳を浮かべて凛はうわ言のように呟いた。
「涼でいいよ」
そう言うと、もう何度目になるだろうか、凛に口づけする。口内に侵入してくる舌へ、凛は積極的に舌を絡めてきた。互いの舌を吸いながら、涼は凛の股間を嬲りつづけた。
しばらくして涼は口を離す。そして凛の中に入れていた指を引き抜いた。
「あぁっ……」
凛の口から漏れた声はどこか名残惜しげだ。その様子に涼は笑みを浮かべる。
「すっごいびしょびしょだ。凛はエッチだな」
その言葉で羞恥に真っ赤になった顔を凛は背ける。涼はその背けた顔の前に自分の秘部を持ってくる。
「ほら、見なよ。あたしのも、凛のを弄っていただけでこんなになっちゃった」
その言葉どおり、一度も触れられていないというのに、涼の秘部も彼女に負けないくらい濡れそぼっていた。凛は惹き付けられるようにそこへと手を伸ばした。
恐る恐るといった感じで、涼の秘部を弄る。
「ふふっ、いいよ……凛」
凛の手の動きはだんだん大きくなってくる。いつの間にか涼も凛の秘部へと手を伸ばし、弄っている。
「ああっ、凛、いい、いいよ!」
「はぁっ……わ、私も、いいです!」
二人は互いに互いの大切な部分を弄り、どんどん高まっていった。
「凛、あたし、もうすぐ――」
「わ、わたしも、イキます!」
そして、二人ともほとんど同時に限界が来た。
「ああっ……凛、あああぁぁぁ――!!」
「り、涼先輩、イクゥッ――!!」
凛は力尽きたとばかりに倒れ伏した。そのまま荒い息を吐く。
しかし涼はまだ満足していないのか、少し快感の余韻に浸った後、再び凛を愛撫し始めた。
「ちょ、涼先輩? 何を――」
「だからナニ。続けるよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
「ダメ」
いやがる凛を見てどこか嗜虐的な笑みを浮かべると、凛を嬲り続けた。
結局この日、凛の腰が抜けるほどに嬲られつづけた。
その後、結局二人は付き合いだすことになった。
凛の周囲の者たちはそのことに酷く驚いていたが、止める事は無かった。
涼も凛を本命として、これまで付き合っていた相手よりもより大切に扱った。
そして数ヶ月が過ぎた――
「……涼先輩」
凛は涼を睨み据える。
「何故私と別れるなどと?」
その言葉に涼は頭を書きながら応じる。
「なんか面倒くさくなってさ。凛ってべたべたしすぎるし」
付き合いだしてから凛はこれでもかというくらい涼に甘えだした。付き合い始めはともかくとして、涼はだんだんうっとうしくなっていた。
「別にいいじゃん。本命としてこれまですごく優しくしたんだから」
まるで悪びれずそんな事を言う。凛の顔が怒りで赤く染まった。
手が白くなるほどに握り締めていた日本刀を引き抜く。
「涼先輩……死んで下さい」
一閃。涼が咄嗟に背後へ下がらなければ明らかに真っ二つにされていただろう。
「……止めるんだ凛。危ないぞ」
だがそれで止まるわけがない。涼の額に冷や汗が流れる。
これまでもカッターナイフやら包丁やらで刺されそうになったことが幾度となくあるが、今回はこれまでで一番危険だ。
涼は諦めの混じった表情で天を仰いだ。