ルパン三世、最終回 『さらば愛しきルパンよ』より
「ルパンの名を騙るとはバカなヤツらだ。して奴は?」
「もうあの方は行ってしまわれました」
マキは銭形をちらと見た。なぜか頬を微かに染め、ささやく。
「・・・ありがとう、ルパン・・・」
永田重工を包んだ炎は静まり、辺りに落ち着きが戻っている。
ロボットのラムダは証拠品の一つとして警視庁の大型車で運ばれていった。
あれほど詰め掛けていた報道陣も、すでに姿が見当たらない。
自衛隊はおろか、各国の軍部までをも巻き込んだロボット兵事件は収束に向かっていた。
微かに残る喧騒から更に離れた森の傍で、1人の男が女を拘束しようとしていた。
男はICPOに所属する銭形警部。
女は小山田マキ。
あどけなさを残す顔立ちからは想像もつかないが、この娘は本事件の容疑者だ。
だが男は容疑者の拘束をためらっていた。
彼女は本事件を解決に導いた人物でもある。
十分に反省しているし、犯罪に及んだ動機にしても情状を酌量するべき余地が多い。
何よりも己の危険を顧みず永田重工の組織犯罪を告発し、あまつさえ世界中にロボット兵器の危険性を知らしめたのだ。
法の番人としてではなく、ひとりの男として彼女は尊敬すべき女性であり、守るべき女性でもあった。
「では我々も行くとしましょう。御同行願えますか?」
銭形はマキの背中をそっと押してパトカーでは無く自分の車に乗るよう促す。
その振舞いには彼女への敬意と親愛の情が伺えた。
「警部さん手錠を」
しかしマキは銭形の車に乗ろうとはせず、近くのパトカーへ向かう。
そしてパトカーの前で両手を合わせると、すっと銭形の前へ差し出した。
それは自らの罪を潔く償おうとする覚悟の表れだろうか。
少し躊躇った後、しかたなく銭形は手錠を取りだした。
気遣うようにマキの目を見つめるが、彼女の瞳に宿る決意を読み取ったのか諦めたように手錠をはめる。
「手錠をきつくして下さい。これでは逃げろと言っている様なものです!」
二人は視線を手錠に移す。
確かに無骨な手錠はマキの手首を締め付けておらず、不似合いなアクセサリーのようにぶら下がっているだけだった。
「あんたは本事件の功労者だ。こんなことを仕出かした事情も良くわかる。自分はあんたを・・・」
辛そうに呟き彼女の手をおし留め、背中を軽く押して車へいざなう。
だがマキは身をひるがえして銭形に向かい合った。
「警部さん・・・ありがとうございます」
娘は視線を彷徨わせる。瞳は微かに潤み、頬には朱が差していた。
銭形は照れくさそうに帽子のつばをもてあそぶと、ポンポンと軽く娘の肩を叩く。
「でもダメ・・・・・わたし警部さんに優しくしてもらえるような女じゃないんです!」
そう叫んで肩に置かれた大きな手を振り払う。
顔を隠すように俯くと、ぽろぽろと雫をこぼし始める。
あたふたと慌てる銭形は何か思いついたのかコートのポケットを探り始めた。
内ポケットの中に目的のものを見つけ出すと、顔を真っ赤に染めながらマキに差し出す。
「・・・・・警部さんっ!」
銭形が差し出したのは、清潔だが不恰好にアイロン掛けされたハンカチ。
おそらく彼自身が洗濯をし、アイロン掛けしたのだろう。
マキは不器用な優しさに戸惑いながらも、この男に魅かれる自身の想いに気付いてしまう。
手錠をはめた不自由な手でハンカチを受け取る。でも涙を拭わず胸に抱く。
嬉しくて、そして悲しくて胸が詰まる。犯罪者である我が身が情けなくて涙を止められない。
せめて今だけは、この瞬間だけは現実を忘れ、暖かさに包まれたい。
・・・でも、そんなことが許されるはずが無い。銭形は警察官なのだから。
・・・泣いてはいけない。この優しい男は必ず私を守ろうとするから。
・・・私の想いを止められなくなるから。このひとを苦しめてしまうから!
だから娘は懸命に涙を止めようとする。
彼女を慰める術が見つからず、思いあぐねていた銭形は逸らしていた視線をもどす。
マキは目を閉じ、身を震わせ、とめどなく零れる涙を隠すように俯き、そして口元は硬く結ばれていた。
だが唇が小さく揺れる。それを気取られまいと更に唇を引き結ぶ。
しかし喉元にこみ上げる嗚咽がどうしても頬を震わせ、唇を緩ませる。
銭形は意を決した。
娘の両肩をグッと掴む。
「小山田・・・・いやマキさん、なぜ自分自身を否定する。戦場にロボット兵器という新たな脅威を持ち込ませない。
それは正しいことだ。もしロボット兵が大量に戦争へ投入されたなら軍人、民間人を問わず多くの命が奪われただろう。
確かに貴女は方法を間違えた。してはならない事をしてしまった。それは決して許される事ではない。
だが、これだけは信じてくれ。たとえ世界中がマキさんを否定しても自分は貴女を許す。そして絶対にマキさんを守る!」
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・」
娘は喜びとも悲しみともつかない悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちた。
「どうしたんだ、マキさん! マキさん! マキっ!」
「・・・ダメ・・・・イヤァ・・・・ダメ・・ダメナノォ!」
心配のあまりマキに怒鳴るような勢いで声を掛ける銭形。
だが彼女は小さい声で何事かを否定するばかりだ。
「すまんっ!」
娘のに手を回すと思い切り引き寄せて、マキの顔を自分の胸に当て、娘の身体全てを包むように強く抱きしめる。
「・・・・・・ぁぁ・・・・・・」
銭形の胸の中でマキは安らかな溜息をつく。
そして彼の存在を確かめるように身体をすり合わせた。
やがて落ち着きを取り戻してきたマキ。
ゆっくりと男の胸から顔を上げると、自然に二人の視線は絡みあった。
どちらからとも無く顔を寄せる。
そして唇を合わせた。
触れるだけのキス。
まるで子供の頃のようなキス。
だが今のふたりにはそれで十分すぎる程。
それで心が重なったから。
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一度身体を離してから再び穏やかな抱擁を交わす。
銭形はマキの耳に口を近づけると小さく囁く。
「貴女を守る・・・・・何があろうと、この身に変えても必ず守ってみせる。貴女は誰よりも大切な・・・・」
だが、彼は言葉を最後まで紡ぐことができなかった。
なぜならマキが銭形の唇を奪ったから。
深いキスが長く続いた。
合わせた唇の間から互いの舌を弄ぶ淫靡な音が漏れ聞こえる。
やがて二人は少しだけ身を離した。
マキは上気した頬を男に寄せる。
「・・・・・」
娘は無言をもって銭形を求めた。
彼は娘の手錠を外すと、森へいざなう。
娘は瞳を潤ませて小さく頷くと、男の後にしたがって森へ吸い込まれていった。
その時、銭形は身が焼き焦げるような視線を感じていた。
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マキは木に両手をついて男の責めに耐えていた。
太い腕が後ろから娘の身体を弄ぶ。
脇から腰へ、そして太股へ。
内股から、そこを避けるように手を動かして腹へ、そして胸へ。
「ううっ・・・・んぁ・・・ぁああああっ!」
銭形の手は、まるで娘の弱い場所を知り尽くしているように動く。
折り重なるように、マキの身体に自分の体を重ねた。
手で強引に娘の顔を起こし唇を合わせる。
クチュッ、グチュッ、グニュッ、
銭形は娘の口腔を吸い尽くし、舐め尽す。
唇はそのままにして体をずらすと、マキの下半身から着衣を脱がし始めた。
彼はホックを外しジッパーを降ろすと、ショーツと共に一気にずり下げた。
身体を起こして娘の尻を両手で撫で、そして揉む。
「・・・ぅうう・・はぁぁ・・・」
マキは熱い吐息を漏らす。
時には双丘の谷間を開かれ、まさぐるように指を滑らせた。
「んうっ!・・・・そ、それっ・・・んあああっ!」
喘ぎ声が大きくなり、背を反らして快楽に耐える。
だが、そこに執着せず直ぐに他の所へ愛撫を移してしまう。
マキは身をくねらせて不満を訴えるが、銭形はそれに応える事無く上半身へ手を動かした。
唇を背中に這わせ、舌と共にゆっくりと舐めあげてゆくと背がヒクッと小さく跳ねる。
何気なく脇をすりあげただけで甘い溜息が口をつく。
彼女の身体はすでに熱く潤っていた。
銭形は娘の股間に右手を、尻に左手をはこぶ。
「ぐうっ・・・き、きつい・・・・きついよ・・・」
しかし銭形は握った右手を緩める事無く動かす。
「ここまで出来上がっているんだ、痛みよりも快楽のほうが大きいはず。下手な誤魔化しは止せ」
そのまま手を前後に動かし続けた。
「で、でも・・・後ろも同時だと時々痛みが・・・くぅぅっ!・・きつくなる」
銭形はニヤッと笑うと左手の指を深く挿しこみ、中で折り曲げてグリグリと内壁を捏ねた。
もちろん弱点を集中的に責める事も忘れていない。
「がぁぁああっ!」
「どうだ、まだ文句があるのか?」
ビクン、ビクンと背が大きく跳ねて反り返る。
もちろん銭形の右手は前後に動き、肉棒を激しくしごいていた。
「た、たのむよ・・・もう来てくれ! 堪らないんだ、早く!」
左手を尻から離すと、自らをそこへ押し当てた。
そして一気に腰を進めて娘を突き刺す。
「あああああああっ、とっつぁん、とっつぁ〜んっ!」
「おおっ! ルパ〜ンっ!」
銭形は娘の胸をにぎると、邪魔なものを破り捨てるがごとくむしり取って投げ捨てた。
娘も自分の顔に右手をかけ、脱ぎ捨てるように仮面とカツラを引き剥がした。
そう、小山田マキと思われた女性は、ルパンの変装した姿だったのだ。
永田重工が炎上したのは昨日。
事件が解決したのも昨日。
銭形がマキと夜を共にしたのも昨日。
そう、ルパンと銭形が永田重工の近くの森(マキと銭形が睦み合った場所)で劣情を交わしている今は、その翌日なのだ。
あの時、銭形がマキとふたりで森に入るとき、焼き尽くすかの如く銭形を見つめていたのは嫉妬に狂ったルパンだった。
ルパンはわざわざマキに変装して昨日と全く同じことを銭形にさせようとしている。
最初は抵抗した銭形だったが次第に熱が入り、今ではルパン以上に熱くなっていた。
ふたりは互いに相手を求めていた。
だが、自分達の立場から頻繁に逢瀬を重ねるわけにも行かない。
だから今回のように事件のドサクサにまぎれて身体を重ねるしか機会が無かった。
ふたりが情を交わしたのは、欧州カリオストロ公国の偽札事件以来だ。
あの時はクラリス姫と情事に及んだルパンへ銭形が嫉妬に狂った。
クラリスの変装をルパンに強いた銭形は、それまでに無いほど貪欲にルパンを求めた。
もしかすると、あの時のような激しい行為を期待しているのかもしれない。
グシュッ、グニュッ、グジュッ、グジュッ・・・・
「おおぉぉぉっ・・・・いいぜ、とっつぁん、とっつぁん、とっつぁ〜んっ!」
「ルパン、ルパン、ルパン、ルパン、ルパン、ルパ〜ンっ!」
ふたりの夜はまだまだ続きそうだ。
そのころ警視庁の留置場に囚われた小山田マキはウキウキだった。
「うふふふっ・・・警部さん・・いやん、思い出したら濡れちゃった。いやらしい娘は警部さん嫌いかな」
薄ら寒い留置場もマキの周囲だけは妙に暖かいようだ。
「あっ、いけない!警部なんて他人行儀に呼ぶなって怒られちゃう!・・・幸一さん・・・ああんっ、夫婦みたい!」
イヤンイヤンと身をくねらせるマキ。
彼女の周囲はピンク色に染まっていた。
「うふっ・・幸一さん、幸一さん、こういちさん、こういちさん・・・ふふっ、エヘヘっ!・・・」
看守はさぞかし気持ち悪いことだろう。
もひとつ、そのころ欧州はカリオストロ公国。
湖から浮かび上がった古(いにしえ)の古代都市を望むテラスで、可憐な姫がゆったりとした一時を過ごしていた。
午後には古代都市をもって公国の財源にするべく、各国の旅行業者を大臣達と共にもてなす予定のクラリス姫。
彼女自身も重要な観光名所なのかもしれない。
そんなクラリス姫も、この数週間ほど何やら思い煩っている。何のことは無い、ルパンが恋しいだけなのだが。
(おじさま・・・もうひと月近く御会いしていないわ。でも昨日お電話でもう直ぐ帰れるって仰っていた・・・)
「うふっ・・・うふふふっ!・・・あん、なぜかしら。身体が熱い・・・」
イヤンイヤンと身をくねらせるクラリス姫。
彼女の周囲はピンク色に染まっていた。遠くから庭師のおじいさんが心配そうに見つめている。
「うふっ・・おじさま、おじさま、おじさま・・・ルパン・・・きゃっ、言っちゃった!・・ふふっ、エヘヘっ!・・・」
クラリスの傍らで、主の情けない身悶えっぷりにカール(クラリスの愛犬)は天を仰ぎ小さく吠えていた。
も一度戻って同時刻の某所森の中
「とっつぁん、もう、オレ、だめだっ! ああっ! とっつぁん、とっつあん、とっつぁ〜ん!」
「ル、ルパン・・・ゼイゼイ・・・オレも、そろそろ・・うっ!・・・いくぞ、ルパン、ルパン、ルパン!」
こちらはクライマックスを迎えるところだった。
終