ロードスという名の島がある。
その島を侵す呪いは、降り注ぐ相手を選ばない。
そう、それは時として、光の子らにも――――
ディードリットは、うっすらと青色の目を開けた。
もう、ここに繋がれてどのくらいになるだろう。
朦朧とした意識で考える。
30分程度なのかもう数時間になるかすらわからないのは、時間の感覚が鈍くなっているらしい。
姿隠しの魔法を使って姿を消し、偵察に出たディードリット。
ダークエルフの一団に近づいたまではよかったが、敵方のソーサラーに発見され、解呪されてしまった。
一目散に逃げようとしたが、何人もいたダークエルフに取り囲まれてしまう。
油断した、と歯噛みしつつも、これだけの相手に今の自分では、抵抗することも逃げることもできない。
そう悟ったディードリットは、自ら武器を投げ出すと捕縛された。
連れ込まれたのは、彼らのアジトらしき屋敷だった。
誰もいない、窓もない狭く天井の低い部屋。
あるのはドアと自分を戒める鎖。
そして、隅に置かれた小さな皿だけだ。
皿の上の液体からは密やかに煙が立ちのぼり、微かに鼻を刺激するような香りが部屋を満たしている。
おそらくはその香りが、ディードリットの魔法を封じる役割を担っているらしい。
その証拠に、幾度魔法を使おうと試みても、精霊達が答えてくれる様子はない。
小さくため息をついたディードリットは、つと長い耳をそばだてた。
人間よりずっと優れた聴覚が感じ取ったのは、扉に近付いてくる複数の足音。
足音は扉の前で立ち止まり、ガチャリと音を立てて開錠する。
古い木製の扉は、軋みながらゆっくりと開かれた。
姿を現したそいつらの耳は長く尖り、ディードリットの耳と同じ形をしている。
しかし、その肌は内面を表すかのようにどす黒い。
魔神に魂を売った、最も嫌悪すべき同属、ダークエルフ。
長身の方がゆっくりと近付いて来、ディードリットの顔を見下ろした。
吊り上った目が、警戒心と蔑みを湛えている。
「もう一度聞く。お前は何者だ」
「…さっきも言ったでしょう。旅の者よ」
「嘘をつけ!何を探っていた?」
「………」
長時間繋がれているせいで、細い手首は感覚がなく、体は疲労しきっている。
それでも、気丈にダークエルフを睨み返すディードリット。
「まだまだ元気みたいだな」
「耳でも削ぎますか?」
ナイフを手で弄んでいた小柄なダークエルフが、残忍な笑顔を浮かべた。
それを見た長身の方が、尖った顎でドアの方をしゃくった。
「後は俺がやる。2階の詰め所にいろ」
「はあ」
口調からして、どうやら長身の方が格上らしい。
名残惜しそうにナイフ男が退出する。
1人残ったダークエルフはドアが閉まるのを見届けると、こちらを向き直り、床に蹲るディードリットの目の前にしゃがむ。
「まあ、お前がどこの間者であろうと、ただ迷い込んだだけであろうと、正直俺にはどちらでもいい。しかし、お前は………エルフだ」
絹糸のようにしなやかな金髪を手に取り、自身の指に絡めながらダークエルフはつぶやいた。
「……綺麗な髪だな……綺麗すぎて」
言葉を切ると、闇色の顔がニヤリと笑った。
「むしり取ってやりたくなる!!」
「きゃあっ!!」
手に取った髪をそのまま鷲掴みに、思い切り引っ張られる。
頭皮に走る鈍い痛みと共に細い体は引きずられ、バランスを崩す。
咄嗟に手をつこうにも手首は後ろ手に縛られており、ディードリットはそのまま肩口から床に打ち付けられた。
目の前のダークエルフから滲むのは、明確な悪意、そして殺意。
このまま殺されるのか?
それともオーガーの餌にされるのだろうか?
次々と湧き出る恐怖に苛まれ、顔色を失っていくディードリット。
しかし彼女にとって現実は、ある意味それよりも酷なものだった。
ダークエルフは、床に転がったディードリットを、突き転がすようにして強引に上向ける。
そのまま華奢な体に伸びてくる、どす黒い指。
「なっ…いやっ」
それは、レザーアーマーの胸当てを支えていた革紐を解くと、ボタンの隙間から胸元に這いこんできた。
小ぶりながら引き締まった乳房を、骨ばった手が揉みしだく。
どんなにもがこうとも、後ろ手に拘束されている以上、身動きがとれない。
ディードリットは身を強張らせ、蹂躙する指に必死に耐える。
口を引き結で荒くなる呼吸を殺そうとするが、控えめに自己主張している乳首を摘まれ、押し潰すように弄られると、それは無駄な努力でしかない。
「……っ…ん…」
「ほお、気持ちいいのか?もう堅くなってるが」
薄い唇を舐め、楽しそうにディードリットを弄るダークエルフ。
その手は草色のスカートをめくり上げ、ほっそりした脚を割る。
「ひっ」
反射的に脚を閉じるも、もとより非力なディードリットにはなすすべもない。
両足は男の手によって簡単に開かされ、下着の上を指がなぞった。
「ぁあ……や…めてっ」
泣き声まじりの拒否はあっさり聞き流される。
無理矢理に下着を引き剥がされるとそこには、髪と同じ金色の、細くて薄い茂みがあった。
ダークエルフは、下卑た笑いを漏らしながらゆっくりと茂みを撫で上げ、花びらのような割れ目をかき分けた。
唇にも似てぽってりと熱を持った襞には、ほんの少しの滴が付着している。
指先を微かに濡らす程度だった水滴は、黒い指の動きにつれて増え、クチュクチュと卑猥な音をたて始めた。
「…い…やぁ……はっ…ん……」
「嬲られてても濡れるものだな」
ダークエルフは、嘲るように言葉を吐いた。
屈辱に頬を染めるディードリット。
切れ長の目が、自分を穢す男を射るように睨み付けるが、その声は喘ぎまじりで頼りない。
「…そ…んな………くっ」
「ここは否定してないがな」
ずぶり、という音と共に、襞の間をもぐりこむ指。
「ぁうっ」
内部のざわざわした襞の流れに逆らうように押し込み、また引き抜く。
余った指は、濡れそぼつ襞をめくり、勃ちあがった花芯を探し当てた。
指の腹で敏感な先端を転がす。
「あ……ぁんん……ゃあっ…っ」
満足そうにディードリットの喘ぎを聞いていたダークエルフは、おもむろに指を引き抜いた。
透明でねっとりとした、快感を顕著に物語る蜜が、長く糸をひいた。
蜜を垂れ流す割れ目は充血してぷくりと膨れ、薄い紅色に染まっている。
「さて」
ダークエルフは少しの間逡巡し、ディードリットの戒めを解いた。
「入れにくいからな、そのままじゃ」
口元を歪めるように笑うと、自分の怒張した男根を引き出し、濡れた秘部にあてがう。
荒い息をこぼし、ぐったりとしていたディードリットが、びくっと跳ねた。
怯えた表情で首を左右に振り、無駄と知りながら後ずさろうとする。
「嫌、いやよ、やめ……ああああっ!!」
弱々しい哀願の言葉は最後まで言えなかった。
ダークエルフの肉棒が、繊細な襞を割り裂き、一気に膣の奥まで突き上げた。
全身全霊で拒否しているのに、埋め込まれた男のソレが、強制的に快感を連れてくる。
欲望のままに腰を叩きつけてくるダークエルフ。
そのリズムに合わせて、びちゃっねちゃっと愛液が跳ねて床に飛び散った。
「あっ、あ、やぁ、あんっ、んくっ」
「いい…女だ……俺の妾にしたいくらいだ…
その髪が金でなければ、その肌が白くなければ、な……」
自分が陵辱している女に向けるのは、例えようのないほどの憎しみと、見え隠れする羨望。
ディードリットの髪は、床に擦れてくしゃくしゃになり、喘ぐ唇は苦痛と快感に耐えるように震えていた。
熱くぬめる内壁が、男根にまとわりつくように締め上げる。
ダークエルフは、真っ白で細い足首をぐいと掴むと、そのまま大きくVの字に広げさせた。
足首を握り締めたまま、股間を遠慮なく打ち付ける。
ぱん、ぱんっという音と共に突き込まれる男根。
それは堅く張り詰めて、ディードリットの肉襞をえぐり、繊細な花芯を擦り上げる。
膣から溢れ出した愛液は、丸みを帯びた尻を伝い落ち、床に染みを作っていた。
「ぁうっ、や、も……うっ…」
「…イクのか?俺に犯されて」
「や…あぁ、いやっ、あ…あああぁっ!!」
長い耳の先がピクンと揺れる。
ディードリットは身を震わせ、喉から声をあげると、大きくのけぞった。
こんな男に犯されて感じている自分に、これ以上ない程の軽蔑を感じながら。
「…最高だ。最高の屈辱だろう!ははははっ!」
邪悪な高笑いと共に、ダークエルフは昂ぶりきった己を解放し、淀んだ精を放った。
どく、どく、という鼓動に合わせて吐かれる、白濁した液体。
それを膣の奥で受け止めると、がくり、とディードリットの力が抜けた。
暫しの時間がたってから、ダークエルフはずるりとディードリットの割れ目から自身を引き出す。
どす黒い額に汗をしたたらせ、そのままどん!と傍らの壁にもたれかかった。
脱力したように投げ出された手が、精霊封じの液体が入った皿をかすめる。
その弾みで、磁器の皿が軽い音を立ててひっくり返った。
液体は木の床に広がったかと思うとそのまま染み込み、漂っていた香りは一瞬強くなり、そして消えた。
がっくりと首をうなだれていたディードリットが、ゆらりと顔を上げた。
精霊力を縛っていた香りが、消滅したのに気づいたのだ。
生気を失っていた瞳に力が戻る。
今だわ!!
逃げられるのはこのチャンスをおいて他にはない。
ディードリットは、咄嗟に精神を集中させると、口の中で姿隠しの呪文を詠唱した。
ほどなくして呪文は完成され、穢された細い体はかき消すように見えなくなる。
突然消えた目の前のエルフに、慌てて腕を伸ばすダークエルフ。
その腕をかわそうと身を翻すと、陵辱され、痛めつけられた体が悲鳴を上げた。
しかし歯を食いしばってからくも堪え、まだズボンも履けておらず、泡を食っているダークエルフを尻目に部屋を抜け出した。
あちこち疼く体を気力だけで支え、パーンの元へひた走るディードリット。
魔法の効力が薄れて姿が現れそうになると、また姿隠しの呪文を唱えながら。
それは追っ手をやり過ごす為でもあるし、ボロボロにされた服装をさらけ出して走る訳にはいかないからだ。
足を引きずって駆けながら、ディードリットは決心していた。
パーンに何があったかは言えない。
言うことはできない。
さぞかし心配しているころだろう。
しかし、ちょっと偵察に行ったら捕まった、でも逃げた、で通すしかない。
……いつもの笑顔で戻らなくては。
恋人の笑顔が浮かぶたび、我知らずこぼれそうになる涙。
ディードリットはそれを手の甲でぬぐい、疼く体を抱え、ただひたすらに駆け続けた。