スパークは家庭料理というものを味わった事がない。
幼いころは砂漠での生活であったし、両親はすでに他界していた。
フレイムの一員となってからは、族長の家柄ということもあり、騎士としての修行を受けていたため
飢えた事もないが愛情のこもった料理というのには縁がなかった。
だから、マーファ神殿でレイリアが作ってくれた手料理はとても素晴らしいものに感じた。
「すごく美味しいです。なんというか・・・」
暖かな気持ちになるのだ。
「そう? たくさんあるから遠慮しないでくださいね」
男の子を持ったことのないレイリアとしても、スパークの健啖ぶりは新鮮で、作った甲斐があったというものだ。
「ニースと婚約したのだから、スパーク様は私の息子になるのよね。男の子が出来たみたいで嬉しいわ」
「いや、そんな・・・」
未だ衰えない美貌にニッコリと微笑みかけられ、スパークの顔が赤くなる。
なごやかな食卓の風景が広がっていた。
そんな中、同じテーブルに着いているニースだけが無言だった。
(スパークったら、デレデレして・・・)
本来なら、自分の母親と婚約者が打ち解けているのだから喜ぶべきだろう。
しかし、母親という存在に戸惑うスパークの姿が、ニースには鼻の下を伸ばしているように見えるのだ。
すでに40歳を超えたレイリアだが、その衰えぬ美貌と落ち着いた物腰は娘の目からも魅力的だ。
言葉にはできない焦燥感が胸にわだかまる。
「このサラダのドレッシングが絶品ですね。どうやって作るんですか?」
「それは私の特性なの。良かったらお城の厨房にレシピを・・・」
二人の会話は引き続き弾んでいる。このままでは何かいやだ。
「スパーク様。こっちの皿は私が作ったんです。食べてみて・・・」
負けじとニースが自分の作った料理をアピールしようと皿を持ったとき。やはり気が急いていたんだろう、手が滑って中身をスパークの方にこぼしてしまった。
「あちっ!」
「す、すいません! 今拭くものを・・」
慌てたニースが立ち上がろうとした時、すでにレイリアが布巾を用意していた。
「大丈夫ですかスパーク様? ニース! はしたないですよ! ごめんなさいね無作法な娘で・・・」
「い、いえ。たいした事はないですから・・・」
レイリアの体がすぐ身近に迫り、スパークの顔が再び赤く染まる。
こぼれた汁を拭き取ろうと、その手がスパークのお腹やふともも、さらには股間近くまで丁寧に拭いていく。
もちろん服の上からなのだが、やはり恥ずかしい。
それを見ながらニースは、ここ一番で失敗した自分を悔やみながらも棚に上げて、後でスパークをお仕置きしてやろうと心に決めていた。
続・・・かない。