窓の外を見ると、すっかり空は暗くなっていた。  
台所で料理を始めた時、まだ陽が傾き始めたばかりだったのに。  
慣れない料理に悪戦苦闘しながらも、なんとか夕食の時間までには間に合いそうだった。  
今晩はトマトととり肉を煮込んだもの。  
部屋はあたたかい料理の香りでいっぱいだった。  
しかし肉をいためた時に使ったガーリックの皮が台所のあちこちに散らばっている。  
すぐに片づけなくちゃ。  
あぁ、料理ってなんて面倒なんだろう…。  
それが素直な感想だけれど、食べていくには仕方ない。  
それと…。  
いつも感謝の言葉を述べてくれる彼の笑顔を思うと、それがほんの一瞬だったとしても  
頑張れてしまう自分がいた。  
 
村の女性たちから教えてもらったレシピには、簡単な料理ばかりが並んでいる。  
その中から、ゆっくり作れるものを選んで調理する。  
なかなか覚えられない調理道具の名前や使い方、調理の手順…。  
そんな暮らしももう3週間が過ぎた。  
 
この家に落ち着いてから変わったことと言えば、せいぜい旅をしなくなったこと、それと  
旅をしている時にくらべれば多少安全なこと、私が必要に迫られて家事をするようになったこと。  
それくらい。  
彼は村の警護や話し合いで、相変わらず忙しい日々。  
私も話し合いには行くけれど、警護に同行するのはやんわり断わられてしまう。  
ううん、それはここに来てから変わったことじゃなかった。  
ずっと…前からそうだった。  
危険な任務には、私が無理矢理ついていっていただけなのかも知れない。  
私の生活ははずいぶん変わったと思うけれど、彼は何も変わらない。  
その信念も、行動も。  
…私たちのことも、すべて。  
 
村の人々が私たちをまるで夫婦同然に扱ってくれるのは嬉しい。  
だけど、現実には何も…何も変わっていないことが不満だった。  
特にこの家で暮らすようになってから、彼から私に触れることがなくなっているように思う。  
寝室だって一緒にしたのに、どうして…。  
抑え切れないような気持ちが、自分の中で大きくなるのを感じていた。  
それでも忙しくしている彼を思うと、こんなことで意気消沈している自分が情けなくなってくる。  
 
妖精だって…いいえ少なくとも私は、愛する人に愛されたい。  
そのことを恥ずかしく思ったりなんてしたくない。  
この家には、パーンと私以外、誰もいないのだから。  
 
 
数時間かけて作った力作を慌ただしく数分で平らげ、村の会合に出て行ってしまったパーンが  
戻ったのは、夜もかなり遅くなった頃。  
寝室の灯りも消していたけれど、眠っていた訳ではなかった。  
「……おかえりなさい。」  
恐らく私を起さないようにと忍び足で入ってきたパーンに声をかけた。  
「起きてた…?」  
「…ええ。心配だもの」  
「そうか…心配かけて悪かった。」  
暗闇で、パーンが髪をかく音が微かにした。  
そして、一瞬の間の後。  
「ディード…?」  
漸く気付いたよう。  
「俺のベッドにいるのか…?」  
「…えぇ。」  
「どうして……。」  
本気で驚いているパーンがおかしくもあり、その鈍感さに腹が立ってくる気もしていた。  
「ねぇ、パーン…。ちょっとだけでいいの。前みたいに、ギュッと抱き締めて。」  
「どうしたんだよ急に…ディード、何かあったのか?」  
「何もないわ…。ね、お願い。」  
前みたいに、一瞬抱き締めてくれるだけでいい。それだけでも、今の自分はきっと満足できる。  
きっと…。  
ベッドに腰を降ろしたパーンの逞しい身体に両腕でしがみついた。  
それを抱きとめるように、パーンの腕が私の背中に回る。  
 
「パーン……大好き。」  
「ディード……。」  
「ずっとこのままでいたいくらいだわ…」  
本心だった。  
おそらく、パーンに恋をした時からずっとそう思ってきたような気がする。  
あたたかくて大きな身体に抱き締められて、涙が滲んできた。  
どうしようもないくらい、好き…。  
強く抱かれる腕をほどいて、パーンの唇に自分の唇をそっと重ねてみた。  
触れあう感触はわずか一瞬。  
「…パーンも…キス、して…。」  
今までそんなことを言ったことはなかった。  
なのに今、この暗闇の中では不思議とすんなり言えてしまった。  
そして、彼も…。  
無言のまま重ねられた唇は優しく、けれど離れることを許さないくらい長いキスだった。  
私の髪を何度も撫でながら、唇を吸われる。  
パーン…?  
今パーンがどんな表情をしているのか、全く見当がつかない。  
こんなに激しいキスは一度もしたことがなかった。  
パーンがこんなキスをするなんて…。  
聞こえるのは少しずつ息が熱くなりゆく音と、時折シーツが擦れる音…。  
やっと解放された唇を開いて、心がそのまま口をついて出た。  
「もっと…抱いて……パーン…。」  
自分でもなんて大胆なことを口にしたのだろうと驚いてしまう。  
でも、今ならそんなことも許されるような気がした。  
「ディード……愛してる…。」  
 
私は頬を包んでいたパーンの手を取って膨らみに押しあてた。  
微かに女であることを主張するそこに触れた手は一瞬ためらってから、そっと這いはじめる。  
「ディード…。」  
首筋にパーンのキスが落ちる。  
ぞくぞくと、今まで感じたことのない感触が神経を飛び上がらせる。  
「…あっ…!」  
パーンに抱かれてるのに、身体が震えてしまう。  
恐いの…?  
ううん、恐くなんてない。なのにどうして…?  
「…ディード…恐かったらいつでも止めるから…。」  
パーンの声が少し遠くに聞こえた。  
身につけていた夜着も、もう脱がされていた。  
寒い…と思った時、パーンの身体が脚にひたと触れた。  
ゆっくり覆いかぶさってくる気配に、心臓が爆発しそうなくらいの不安と、緊張が高ぶってくる。  
優しく躯を揉まれ、じんと熱くなるのを感じていた。  
太ももに固いものがあたると、それが彼自身だとわかるまで時間はかからなかった。  
誰から聞いた訳でもないけれど、そうなるのがとても自然に受け入れられた。  
「やめないで……続けて…パーン…」  
両腕でパーンを抱き締めると、パーンが脚の間に入り込む。  
「…!」  
腰の周りを撫でていた手がゆっくりと僅かな茂みのあたりに移動してくる。  
じんわりと甘い、甘い感触。  
なんだか私…おかしくなりそう……。  
心なしか自分のそこが湿っているような…。  
その時、パーンの指が私のスリットに滑り込んだ。  
「あぁっ…!」  
すっとそこを撫でられただけなのに、言い様のない感触が神経を突き抜ける。  
「ディード……濡れてて、熱い…」  
掠れた声でパーンが囁く。  
 
恥ずかしい…。  
顔から火が出そうだった。  
しかし確かにそこはパーンの指を何の抵抗もなく受け入れ、溢れ出たものが指を滑らせた。  
抵抗する意志虚しく官能の声を上げてしまった自分。  
もう、恥ずかしいことなんてないのかも知れない…。  
パーンに濡れたことも、私に向い来る彼自身も、もうお互いよくわかっているんだもの。  
「パーン……もっと…して……。」  
太ももを濡らす彼の先端がわかる。  
私はそれに合わせるように腰をずらした。  
ぴちゃ…。  
固いものが触れるのを感じたと同時に、小さな水音が部屋に響く。  
「あ…っ」  
指よりも太い熱いものがスリットを滑る。  
パーンの息がだんだん荒くなって、時折苦しそうな声をあげている。  
ぴちゃっ…。  
私の敏感な部分をそれが押し上げ、強烈な感覚が躯を乗っ取る。  
「っはあぁっ……!!」  
抑えようとしても、抑えようとしてもこの声だけはどうにもならない。  
「ああぁっ…んっ!」  
パーンが少し動く度に、くちゅ、くちゅ…と水音が大きくなって耳に纏わりつく。  
何度かこすりあげられて、私は自分でも聞いたことがないような甘い声を出していた。  
やがてパーンがそこにたどり着き、濡れる泉に腰を進める。  
入り口で裂けるような痛みを感じたものの、濡れるものが擦れる甘い感触に酔い始めていた。  
痛いのに…変な感じ…。  
「ディード…全部…入った…。」  
少し押し殺したようなパーンの声で、彼も同じく感じていることがわかる。  
彼の低く呻くような声が、今の私を狂わせる。  
異物感はあるものの、その先にゆっくりと形が見えてきた快感に手を伸ばしてみたい。  
こんなことを、誰しも考えるのだろうか。  
小ニースを産んだレイリアも…?  
こんな、こんな淫らな感触と音に塗れて…。  
 
「パーン…」  
呼ぶ声に答えるように、パーンがゆっくりと腰を動かしはじめる。  
ゆっくり互いが擦れて、聞こえるのは重なる荒い息と激しくなりゆく水音と…ベッドが軋む音だけ。  
だんだん快感が広がって、さらにパーンを求めて腰を動かす。  
「はぁぁっ……あっ!……んっ……」  
「ディード……ッ……!」  
何度名前を呼び合ったかわからない。  
ただ、パーンの力強い腕に抱かれて、もっとパーンを感じたくて、その一点に集中するだけ。  
やがて…大きな波に飲み込まれるように、びくん、と躯が痙攣した。  
「パーン……っ!…はあぁぁっ……ッ!!」  
激しい快感に、気を失いそうだった。  
躯がかってに反り返り、躯ががたがたと震えている。  
私が強い疲労と脱力感を覚えた時、パーンのそれが大きく痙攣した。  
「ディード…ッ……!!!」  
引き抜かれる時の快感が、達した後の敏感な躯を狂わせる。  
「いやぁぁっ……!!」  
声とほぼ同時、熱いものが勢いよく私の躯を濡らす。  
気持ちいいのか悪いのか、もう分からない…。  
抗えない程の疲労感に、抵抗する気すら失せていた。  
ぬるぬるとした感触をそのままに、ふたりが気を失って眠りにつくまで時間はかからなかった。  
 
**end**  
 
 

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