ロードス島  

 熱を持った空気が肌に痛い。砂漠の空気はざらざらとしていて、本来、水と緑に囲まれ  
て生きるエルフには過酷といっても良い環境だった。さらに言えば、自慢の金色の髪は汗  
ばんで砂まみれになってバサバサとしているし、喉も渇いている。  
 早く宿に入って水浴びをしたい所だが、ここは砂漠の国だ。宿に入ったところで、もっ  
とも高価な物が「水」ときてる。水浴びをするほどの水量は望めないだろう。よくて、桶  
一杯の水だ。  
「はぁ……。ねえ、パーン。なんでまたフレイムに来ようなんて思ったの?」  
 傍らで馬に跨る青年に話しかける。青年は年季の入った鎧を身にまとい、マントをさら  
に上から身につけていた。直射日光を避けると同時に、鎧を野ざらしにしないための防護  
マントだが、藍色のそれは白一色の砂漠の中では奇妙なほどに浮いて見えた。  
「カシュー陛下にご挨拶を、と思ったんだ。それに、炎の部族の様子も気になったし……」  
 以前、フレイムを形成していた風の部族と、砂漠に拠点を構えていた炎の部族の衝突が  
あった。風と炎の両部族間で長きに渡って続いた抗争は、ひとまずの決着がついたものの、  
フレイムにはその全てを養いきるだけのキャパシティが無いというのも事実だったのだ。  
 精霊の力が正しく働くようになって、砂漠にもあるていどの雨が期待できるようになっ  
たとはいえ、緑が戻るにはまだかかるだろう。  
「すまないな、ディード。エルフには辛い土地だろう?」  
 パーン、と呼ばれた青年がすまなそうに謝る。それを見て、ディードと呼ばれた女性は  
鼻を鳴らした。  
「エルフにもそうだけど、何よりね」  
「?」  
 キョトンとした顔で、パーンは首を傾げる。  
「女には辛いわね。こんなんじゃ、汗くさくって。パーンだって汗くさい女は嫌でしょう?」  
 途端に真っ赤になって目を逸らすパーン。一緒に旅をするようになって、もう何年も経  
つというのに、この純情で生真面目な青年は今でもこういった冗談には過剰に反応を示す。  
「ディ、ディード!」  
「でも私、パーンの汗の匂いって結構好きなのよね」  
 クスクスと笑いながら、さらに爆弾を投下する。パーンは真っ赤になったまま、パクパ  
クと口を開け閉めしたままになる。しばらくそうしていたかと思うと、今度は真っ赤にな  
ったまま、俯いて憮然とした顔になった。  
「怒った?」  
「ディード。ほら。俺で遊んでないで、行くぞ」  
 馬の腹に蹴りをいれ、パーンは人馬一体になって駆け出す。マントが風に翻る様を目で  
追いながら、ディードも自分の馬の腹を蹴った。  
「あ。待ってよ! ねえ、パーンったらぁっ!」  
 砂漠の空に金色の髪が翻る。  
 二つの騎影は途中で一つになり、そのままフレイムの市街へと向かって走っていった。  

 
 
 

「パーン! 久しぶりだな!」  
「お久しぶりです。カシュー陛下。ご壮健そうで、何よりです」  
 相変わらず玉座でじっとしていない王は、謁見の間にあらわれたパーンに歩み寄ると、  
バンバンと背中を叩く。力強い手は相変わらず衰えを見せず、むしろ以前よりも鋭く円熟  
味を増しているのかも知れない。  
「相変わらず硬い奴だな、お前は」  
「い、いえ。しかし」  
「『ロードスの騎士』といえば、小国の王にも匹敵する名声だ。少しは大きく構えたらどうだ」  
 カシューが楽しげに笑うのを見て、パーンは苦笑いを浮かべる。  
「い、いえ。俺は……自分は、そういうのは苦手で」  
「はっはっは! まあ、態度の大きいパーンというのも、想像がつかんな!」  
 そう笑って、隣へと視線をずらす。そこには初めて会った頃からまったく変わらぬ美貌  
が、こちらを睨みつけていた。ご丁寧に頬がぷうっと膨れている。  
「元気そうだな。ディードリット」  
「陛下! パーンが壊れてしまうからお止めくださいと、以前もお願いしたはずですっ!」  
 ぐい、とパーンの腕を取って、自分の側へと引き寄せるディード。その力を感じてか、  
するっと手を離したカシューによって、パーンはディードに抱き寄せられてしまう。  
「う、うわっ。ディード!」  
「はっはっは。相変わらず仲のよいことだな」  
 カシューは再び哄笑すると、一歩下がる。そして、真面目な顔つきに戻った。砕けた笑  
いを浮かべたな顔つきは『傭兵王』と呼ばれるに相応しい戦士なそれになる。  
「よく来てくれたな。パーン。歓迎するぞ」  
「はっ! ありがとうございます。陛下」  
 深く一礼する。以前カシューに膝をついた時に、こっぴどく怒られたのが原因だ。  
「覚えていたようだな。お前は私の友だ。たとえ王と騎士といえど、我らの間に臣下の礼は不要だ」  
「……はい」  
「では、部屋を用意させよう。宴の用意もだ!」  
 ささっと家臣達が準備に動き出す。それを見ながら、パーンはもう一度頭を下げたのだった。  

 
 

 夜も更け、宴も終わりにさしかかった頃。宴席にいた人間の影は、ほとんどが帰ってし  
まったのだろう。数人の影と、あとは給仕たちが後片付けをしている姿しかない。  
「パーン?」  
 シンプルながら美しいドレスに身を包んだ女性が、傍らに歩み寄る。着替える前に自分  
と同じように、湯浴みしたのだろう。金色の髪も白い肌も本来の艶と輝きを取り戻し、焔  
の揺らめきに生まれた陰影は、少女的な容姿を今も保つ彼女に女の艶を与えていた。  
「ディードか」  
 初めて出会ったのは、アラニアの街中だった。それがこの長い付き合いの始まりだと、  
その時の自分にはとてもではないが想像すらできなかった。  
 だが、今ならば。  
 このエルフの少女を失うなんて事の方が、想像もできない。  
 傍らに寄ったディードリットの腰に手を回し、抱き寄せる。少し酔っているのかも知れ  
ない。こんな真似を自然にできたのだから。  
「パーン……?」  
 見上げる瞳は空のように蒼く、小さな唇は儚く可愛らしい。  
「少し、酔ったみたいだ」  
 じっとこちらを見つめる瞳を見つめ返し、パーンはそう呟く。酔っている。そうだ。彼  
女の美しさに、酔っているのだから。  
「どうしたの……?」  
 普段、パーンはディードリットを求めない。長い間共に旅をし、ザクソンでは同じ家に  
暮らす仲である。当然、男女の関係も持っている。だが彼はなかなかディードに求めるよ  
うな事はしなかった。  
 エルフとしてみれば未だ少女期にあるディードの身体を、すでに少年から青年となった  
パーンの身体で求める事に、彼が罪悪感に似たものを感じているからである。  
 だが時として、彼は堰を切ったようにディードを求める夜があった。  
 その時と同じ瞳だ。  
 ディードは身を震わせる。それは恐怖ではなく、歓喜だ。  
 パーンが自分の身体を思って求めてこない事は理解していた。確かに彼女はエルフとし  
ては少女にあたる。  
 時の流れが違うことを実感するのは、こういう時だった。  
 だから、パーンが自分を求めてくれるのを実感すると、ディードは嬉しくなるのだ。自  
身の美しさに蠱惑されているのだと、理解できるから。  
「ね、部屋へ行きましょう?」  
 パーンの手を引いて、そっと歩き出す。人気のなくなった宴席から、主役の二人がいな  
くなる。目の端でそれを見ていたカシューは、杯を置くと彼もまた、自身の妻の部屋へと  
歩いていった。  
「ディード……」  
 あてがわれた部屋は大きなベッドが一つだけある部屋だった。カシューやフレイムの家  
臣達には自分達の関係は知られているというか、今さら隠したりするような間柄ではない  
のだが、それでもやはり照れる。  
 それでも今は、目の前にある草原の宝石を抱きしめたいという欲求の方が強かった。  
 アルコールの酔いはもう覚めている。  
 けれど、彼女への酔いは、さらに強まっていた。  
「もう。ちょっと待って」  
 けれどディードはパーンの胸を押して、身を離す。お預けをくった形になったパーンを  
見て笑い、ディードは腰に巻かれた布を解いた。  
「これ、借り物なのよ? 汚したら怒られるわ」  
 さらり、と音を立てて衣が脱げて行く。コルセットなど巻かなくても折れそうに細い腰  
が、あらわになった。細かい刺繍を施されたレースの下着に包まれた、慎ましげなふくら  
みが外気に晒される。細い腰は円熟味といったものとは無縁で、だというのにパーンは喉  
を鳴らして唾を飲み込む。  
「……ね?」  
 ドレスを足元に落とし、ディードは手で身体を隠しながら小首を傾げて見せた。  
 それは蠱惑。  
 ――羞恥心ではなく、男を誘うための仕草だった。  
「ディードっ!」  
 荒々しく細く白い肢体を抱きしめ、唇を奪う。  
 舌が唇を割り、口の中を蹂躙した。  
 呼吸が止まる。その細い腕で、ディードはパーンの身体をただ抱きしめていた。  

 ハイエルフは繁殖力が弱い。これは彼らが長命種である事が原因である。ほぼ不死に近  
い彼らは必要以上に人口が増えないように、そういう種として生まれてきていたのだ。  
 なにせハイエルフの子供となるとディードリットとエスタス以前は百年以上前に生まれ  
たのが最後であり、彼ら以降には生まれてすらいないのだから。  
 そんなハイエルフには性欲という物も薄い。繁殖欲という物が無いのだから、当然とも  
言える。人間のように快楽という餌をもって繁殖するようにはできていないのだ。  
 ディードリットが人間界に出てきた当初、彼女にはなぜ人間がこうも旺盛に繁殖行為を  
繰り返すのかが理解できなかった。人間は溢れるほど地上に存在していたし、これ以上増  
やす理由が理解できなかったのだ。  
 だが、今ならば理解できる。  
 子を作る、という目的以上に、この行為は愛情を交わすための行為なのだ、と。  
 初めてパーンを受け入れたのは、英雄戦争が終わってザクソンに腰を落ち着けた頃だっ  
た。パーンの性器を受け入れた時は身が裂けるような痛みを覚えたが、同時に安堵を覚え  
たのをディードリットは思い出す。  
「パーン……」  
 寝台の上で自分を組み伏せた男の名を呼ぶ。  
 鍛え上げられた肉体は下から見上げても美しい。そしてそこかしこにある傷跡。それは  
彼が数え切れないほどの死線を潜り抜けてきた事を示していた。その殆どを、彼女は傍ら  
にいた。  
 肩口にある傷に舌を這わせる。この傷は自分を庇って受けた傷だった。  
「ん……っ」  
 ビクッと身体を震わせた愛しい男に笑いかけると、ディードはさらに舌で彼の身体を清  
めていく。かすかにピリッとする塩味に興奮する自分を見つけ、口元に微笑みすら浮かべ  
た。  
「ディード……っ」  
 自分が遊んでいる事に気付いたのだろう。パーンの声に不満そうな響きが混じる。と、  
急に彼の太い腕が自分の細い足の間に潜り込んだ。  
「ひ……っやぁっ」  
 下着の上から、指先が想像以上に繊細なタッチで彼女に触れてくる。パーンの全身を清  
めている間に溢れた雫が、彼の指を濡らすのがわかった。  
「濡れてるじゃないか、ディード」  
「……くぅっ」  
 頭上から愉しげな声。その声を聞きながら目を閉じ、ただ彼の指を感じる事に集中する。  
「ひやっ!」  
 ぬる、と耳の先端が濡れた何かに包まれた。思わず声を上げて、目を開く。  
「ぱ、パーン……!」  
「耳が弱いよなぁ。ディードはさ」  
 長く伸びたエルフの特徴的な耳の先端を、パーンは舌先でつついていたかと思うと、ま  
るで扱くように口の中に耳全体を含んでしまう。  
 全身を真っ赤に染めながら、ディードは下半身と耳に襲う快感に身を震わせていた。  
 下腹を襲うパーンの指技に追い詰められるように、ディードは段々と声を高めていく。  
パーンの唇はそんなディードの耳から首筋へと進み、そこかしこに赤い跡を残していく。  
「ひっやぁっ……はぁっひぅっ」  
 急にパーンの身体が離れた。その体温が遠ざかる感覚に、思わず手を伸ばす。しかし  
パーンはそんな腕をかわし、ディードの身体を掴んで、ひっくり返した。  
「きゃぁっ!」  
 寝台の上で尻を掲げるような格好で四つん這いにされる。パーンはそんな彼女の上に覆  
いかぶさるように乗ると、片手を小ぶりな胸へ。片手を既に雫で溢れた下腹部へと伸ばす。  
「ぱ、パーン!? ちょ、こんな格好……! はぁんっ!」  
 抗議の声を消し去るように、パーンの指が滑り込む。ぐちゅぐちゅと音を立てるのを感  
じて、ディードリットはカァッと全身が熱くなった。  
「パーン! ねえ……ひゃうっ!」  
 レイリアや大ニース、フィアンナ女王に比べても、あからさまに小ぶりな胸を撫で回さ  
れる。ピンととがった先端を指先で摘まれると、じわじわと快感が広がっていくのが分か  
る。  
「ちょっと! パーン!」  
「ディード」  
 抵抗しようとした矢先に耳元で囁かれる。抵抗しようとする意思は、それだけで萎えた。  
 なんて事だろう。彼の声はそれだけで自分の心を魅了する。  
 自分にしかかからない魅了の魔法に、ディードはただ彼の指を感じる事に決めた。  
「ん……ふん……はぁ……」  
 甘い吐息が漏れる。そのたびに、自分の身体に触れるパーンの手は、情熱的になってい  
く。  
「パーン」  
 ただ一言だけ、彼の名を呼ぶ。  
 それだけで良かった。互いに、あとは最後の坂を駆け下りるだけだから。  
 ごろり、と寝台の上で転がり、再び彼と正面から向かい合う。  
 気がつけば下着は脱がされていたらしい。薄い金色の下生えはしっとりと濡れて輝き、  
目の前にいる男を誘っていた。  
「ああ」  
 言葉少なくパーンは頷くと、ゆっくりと下着を下ろす。  
 屹立した性器は血管を浮かび上がらせて、ビクビクと震えている。その姿に、最初は驚  
き、怯えもした。  
 けれど今は、その姿に愛しさすら覚えるのだ。  
「いくぞ……ディード」  
 パーンの言葉に頷き、かすかに腰を持ち上げる。  
 ぬちゅ、という音が聞こえたかと思うと、一息に身体を貫く衝撃が全身に響く。  
「は……あっ!」  
「……くっ……きつい……」  
 パーンの漏れた声。ディードもまた、息を吸うことができずにいた。  
 未だ未成熟な彼女の身体は、パーンのそれを受け入れるには小さいのである。その締め  
付けの強さにパーンは精を漏らしてしまいそうになりながらも、必死に歯を食いしばって  
堪える。  
 彼女の中は確かにきついのだが、同時に暖かく湿っている。さらには、その先端にはざ  
らりとした部分があって、擦るだけで達してしまいそうになるのだった。  
「いいぞ……ディード」  
 腰を前後に揺らす。そのたびに、ディードのさらされた白い喉が嬌声を上げる。  
 艶に満ちたその声はパーンの意識を絡め取り、さらに腰の律動を求めさせた。  
「パーン…パーン…パーン!」  
 腰に絡めた細く白い足が、律動を助ける。  
 密着した秘部が粘着質な音を立てて、ぶつかり合う。そのたびに、ディードは脳の芯か  
ら蕩けそうな快楽に焼かれていくのだ。  
 汗だくになりながら、互いの肉体を貪りあう。それはディードにとって、ハイエルフと  
して生きてきた二百年近い時間が砂のように思えるほどに、鮮烈な快感だった。  
「出して……!」  
「出すぞ……!」  
 ぐい、と腰を押し付けて、ディードの奥深くへと潜り込む。身体の奥深くで広がる自分  
以外の熱を感じて、ディードは最後の快楽の階段を駆け上る。  
「あ、ああああああっ!」  
 パーンの腰に絡めた足を解く事なく、身体の奥底へと放たれた精を感じて意識を飛ばす。  
 世界が白くなる。  
 それは魔法を使う時のトランス状態に似た、けれどまったく異種の快楽だった。  

 
 
 
 
 

「……ド。おい、ディードってば」  
 肩を揺すられて、目を開いた。  
 ふかふかの寝台の上に横たわったまま、しばし呆と天蓋を見上げる。  
 そして、横に視線をずらす。そこにはベッドに腰かけて座り、こちらを心配そうに見つ  
める男の姿があった。  
「パーン……?」  
「よかった。目を覚ましたんだな」  
 安堵の息を吐いた彼に、ディードは首を傾げる。  
「……い、いや。最後の方、結構無茶したから、ディードが気を失っちゃって……」  
 顔を真っ赤にして、しどろもどろになってブツブツと呟く青年に、ディードは微笑む。  
 手を下腹に添えると、そこには今も彼の命の素があるのを感じる。  
「大丈夫よ。……フフ。パーンってば、いっつも激しいんだから」  
「んなっ! そ、そんな事は……」  
「無い、なんて言わないわよねー?」  
 ごろり、と転がってパーンの膝に頭を乗せる。金色の髪の感触に、思わずパーンがビク  
リと震えた。  
「……子供ができたら良いのにね」  
 寂しげなディードの呟きに、パーンは微笑んだ。  
「そうだな」  
 ディードリットの金色の髪を指先で梳りながら、頷く。  
「ディードの子供なら、きっと可愛らしいんだろうな」  
「パーンの子供なら、きっとヤンチャで無鉄砲で向こう見ずな子供ね」  
 顔を見合わせ、笑いあう。  
「寝るか」  
「そうね。目の下に隈なんか作ってたら、陛下になんて言われるか分からないわよ?」  
 広い寝台の上で、手を繋いだまま横たわる。  
 フレイムの夜は、そうして更けていった。