深夜のニ時を回った頃―――  
 
 
 
「…ただいまー」  
 
癖になったその言葉を小さく呟きながら後ろ手で鍵をかける。  
電気は既に消え、青い月に照らされただけのシンと静まり返った部屋。  
 
さすがに皆もう寝てる、か…  
林田さんしつこいんだもんなー明日も練習あるっていうのに。  
 
先程まで一緒にいた酔っ払い真っ赤になった先輩の間抜けな表情を思い出せばついついため息が漏れる  
 
シャワーは朝でいいか…眠いし早いとこ寝よ。  
 
小さく欠伸をし、なるべく音をたてぬ様静かに歩きながら自室へ向かうが、廊下にあるピンク色の扉の前までくると自然と足が止まってしまった。  
 
――…数時間後には会えるんだから  
 
そう自分に言い聞かせる様にして、頭に過ぎる邪念を首を左右に振る事で払い除ける  
 
しかし愛しい人の笑顔を思い浮かべてしまえばそんな思いは脆くも崩れ去った  
 
そんな自分に"情けないなぁ…"と苦い表情を浮かべクシャっと短い髪の毛を乱暴に掻くとゆっくりドアノブを捻り中へと足を運ぶ。  
 
入った瞬間に鼻をつくのは大好きな恋人の薫り  
 
それだけで頬が弛んでしまうなんて、私は相当重症みたいだ…  
そんな事を思いながら小さな寝息が聞こえるベッドへそっと、そっと近付く。  
 
 
その時、  
 
 
肩にかけていたメッセンジャーバックが肩からさがり大きな音と共に床へとずり落ちた。  
 
落ちる、とわかった瞬間気を張っていた神経を誰かにプツンと切られたみたいに肩が揺れる。  
 
私がびっくりしてどうすんだっつーの…  
 
その物音に規則的な寝息をたてていたその声が一瞬で途切れた。  
 
「っんん…」  
 
小さく唸り足をもぞもぞさせなから身を捩ると、ゆっくり目を開き暗い空間にすぐには目が慣れないのか数回瞬きをした相手が漸く私の顔の輪郭を捕らえ互いの視線が合う  
 
 
「ごめん、起こしちゃって」  
 
眉間に皺を寄せながら指先で相手の頬を優しくなぞる  
 
 
「…ルカ…?」  
 
重そうな瞼を片手で擦り私の名を呼んだミチルはもう一度私の名を呼ぶ。  
今度は疑問形ではなく嬉しそうな声で。  
 
「ルカ〜…」  
 
するとベッドの前で中腰になっていた私の上半身をグイッと引き寄せるみたいに抱き締められた。  
 
「っ…」  
 
急に自分の身にかかった一方的な力によってうっかり体勢を崩しベッドへなだれ込んでしまう。  
咄嗟に肘をつきすぐ下を向けばミチルとバッチリ視線が絡み合い、どちらともなくクスクス笑い始める  
…と、ミチルの顔のすぐ傍にある開いたままの携帯電話が視界に入って来た。  
 
 
「ルカが帰ってくるの待ってたかったんだけど、携帯片手に寝ちゃってたみたい  
…」  
 
ごめんね、と申し訳なさそうに一言付けたし私の首に腕を回しながら小さく眉を下げる。  
 
きっと私からの連絡をずっと待っていたんだろう  
そんな恋人の心情を考えたら自分でも気づかないうちにぎゅぅっと強く相手を抱き締めていた  
 
「ううん、私の方こそごめん…。昨日充電し忘れてて、昼過ぎには電池切れちゃ  
ってたんだ…早く帰ってこれれば良かったんだけど、ほんとごめん…」  
 
「気にしないで?大丈夫だよ」  
 
なだめる様に背中を優しくさすってくるその手からは温もりだけじゃなく愛情も伝わってくる  
 
抱き締めていた腕を緩め相手の顔を見ると柔らかい笑顔で私を見つめていた。  
笑った時に出来る目尻の皺を指先で撫でながらその手を頭へ移動させていくとミチルはふと目を閉じる。  
その合図を受け取った私は首を傾け柔らかい唇へ小さく口付けた  
そして何度も何度も啄む様なキスを繰り返す  
 
わざと舌は入れてやらない。  
 
すると物足りなそうに瞳をうっすら開き上目で私を見つめてくる。  
 
…これ、この目がすごい好きなんだ。  
 
唇をわずかに触れさせたまま、しょうがないなぁ…なんて笑いながら意地悪を言ってみるものの、  
私の方もそろそろ限界ってのも事実。  
 
ミチルの髪の毛へ指を絡ませながら舌先で相手の唇をつつけばすんなり受け入れられ、  
ねっとりとしたソレを相手の咥内へ侵入させる。  
 
「…っんぅ…ふぁっ」  
 
深く口付けたまま相手の舌を捕らえ弱く吸ってみると聞こえてくるのは色気の含んだくぐもった声。  
その声を聞くと外の外気にさらされ冷えていた身体も段々熱を帯びてくる  
そこまでくるともう止められない。  
 
ミチルの上下御揃いの薄いストライプの入ったピンク色したパジャマの裾に手を偲ばせると腰から胸へかけてゆっくり撫でていく  
 
「…やっ…ん…」  
 
熱を持ってきたとはいえまだまだ相手とは温度差のある私の体温に慣れないのかビクッと身を捩る  
 
早く同じ熱を共有したい、そんな気持ちから行為を進める手は自然と急く  
 
ミチルは就寝時ブラを着けない為、容易に胸のふくらみに辿り着く事が出来た。  
女性特有の白く柔らかいそれへ触れ大きく円を描くように揉む  
人差し指の腹で胸の突起を時折押し潰す様刺激してやればミチルの口から漏れるのは甘い声  
 
「…っはぁ…ぁん…ル、カ…」  
 
「…ミチル、可愛い」  
 
息を吹き掛ける様耳元でそう囁くとピクッと体が跳ねた  
 
そう、ミチルは耳が弱い  
 
それを知ってる私は耳朶を甘噛みしたり舌を耳の中へ抜き差しさせ聴覚を犯す  
 
 

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