ミチルはドアの鍵を開け、「ただいま」と言いながら玄関に足を踏み入れた。
静かだけど・・・誰もいないのかな?
そう思い置かれている靴に目を落とすと、ルカのスニーカーだけが少し乱暴に置かれている。
しかし、リビングには電気は点いていないようだ。
自分の部屋にいるのかなあ、と考えながらミチルはリビングの扉を開けた。
スイッチを暗闇で探り、電気を点ける。
すると、ソファーから短い髪がのぞいている。
顔を覗き込んでみると、その本人は静かに寝息を立てていた。
「・・・ルカ?」
ためしに呼んでみるが、返事は無い。
「ルカ、こんな所で寝てたら風邪引くよ?」そういって軽く揺すってみるが起きる気配は無い。
ミチルは机の上に目線を移すと、ビールの缶が数本置いてあるのに気がついた。
なるほど。お酒を飲んでたら起きないのもしょうがないか。
そう言われてみれば、ルカの顔も少し赤いようだ。
ミチルはふぅ、と小さくため息をついた。
せっかく少しでも早く帰ってルカと話したかったのに・・・酔っ払ってたら話せないじゃん。
ルカのばか。ミチルはルカの顔を少し睨んで、頬を膨らませるのだった。
しかしこのまま放っておくわけにも行かず、ミチルは布団を取りに行くために腰を上げようとした。
すると、腕がとられ引っ張られる。
「キャッ!」
ミチルはバランスを崩し、再びぺたんと座り込んでしまった。
そのとき、「つかまえた〜〜」といいながらルカが覆いかぶさってきた。
そのまま首に腕が回される。
「ルカ!?起きてたの?」
ミチルの問いには答えず、ルカはへにゃりと笑ってミチルの首筋に顔をうずめた。
「寝たふりだったんだ・・・」
ミチルは苦笑したが、ルカは安心したように息をゆっくりと吐いた。
ミチルはルカの手に自分の手を重ね、軽くさすってやる。
相変わらずルカは抱きついたまま、離れようとしない。
しばらく二人はそのままでいた。
ルカの穏やかな呼吸がかすかに首に感じられる。
「ルカ・・・寝ちゃった?」
さてどうしようか、とミチルがあれこれ思案していると、くぐもったルカの声が聴こえた。
「ミチル・・・遅いよ」
「えっ?」
「帰ってくるの・・・」
それをきいて思わずミチルは笑みをこぼした。だから飲んでたのか。
そういえば、今日はお互い朝が早くて電話もしていない。
「・・寂しかったの?ルカ」
ミチルが優しく聞くと、ルカは答えずに抱きしめる力を少し強めた。
ミチルは笑いながらルカの手を握り締めた。
「私も・・・早くルカに会いたかった」
ルカと二人だけの、この時間。
ミチルは自分の心の緊張が解け、温かさがしみていくのを感じた。
やはり、ルカは特別な存在だ。
私が、一番大切にしたいと思う人。
「ミチル」
不意に名前を呼ばれて、ミチルはゆっくりと体を捻った。
すばやく唇を合わせられる。
ミチルは少しびっくりしたが、そのまま眼を閉じた。
まるで、ルカの体温が唇からそのまま流れ込んでくるように感じる。
ルカ・・・
あなたがそばにいてくれて
私を大切にしてくれて
私を愛してくれて
いま、私は幸せ。
唇を離し、ルカは「ミチル・・・」と呼び、幸せそうに微笑んだ。
「愛してる」
―end―