ベッドが軋む音が聞こえる。とぎれとぎれに聞こえる女性の喘ぎ声がふたつ。
僕はそれを一枚の壁ごしに耳を澄して盗みきいていた。いや、正しくは、自然と耳に入ってきた。
深夜1時、空のお月様は半分欠けていてもまざまざと見せつけるかのような光を帯びていた。
その時はそんな夜だったんだ。とても静かで綺麗な夜だった。そして隣りの、隣りの壁の向こうでは、何が起きているだなんて僕は、起きるまでわからなかった。
この出来事が僕にとって、幸でも不幸でもある…辛い思い出になるなんて…
昨日は、美智留ちゃんの、掛け替えのない大切な独り娘の…父親の命日だった。その日は美智留ちゃんの旅立ちの日でもあった。あれから僕たちは再会し、シェアハウスでまた暮らしはじめて、2年の月日がたとうとしていた。
美智留ちゃんはずっと引きずって生きてきた。それをずっと励まし続けてきた。僕たち、そして瑠可と一緒に。
は
その夜だった。夜遅く9時頃だったろう法事から疲れて帰ってきた。すぐさまお風呂に入り、今夜だけ愛娘はエリーとオグリンが預かった。
今夜だけは独りでいたいんだろう…
それがはじまりだった。
夜11時、眠れなくて目が覚めてしまった。私はその原因のドアの前で立ち往生していた。部屋の中から啜り泣く声がかすかに聞こえる。
ドアはノックしない、ガチャリとドアを開けた。
「美智留…」
「!!」突然の来客に驚いたようだ。
「どうしたの美智留…?」
「何でもない何でもない…ごめんね。うるさかった?」彼女の目は少し赤く、頬には涙の跡がくっきりと残っている。
「何でもなかったら、美智留も泣いてないはずだよね…」
「えへへ!瑠可は全部お見通しだね!」無理して作り笑いをする彼女があまりにも
愛しくて、私は美智留を真正面から抱き締めていた。私はハッとして美智留の両肩を掴み軽く離した。
「ごめんわすれて」
「ありがとう、瑠可。本当は今日は独りは嫌だったの。自分が弱くなっていくのが怖くて…お願い瑠可、今日は、今夜だけは一緒にいてお願い。」
すでに私は、美智留の哀願するその潤んだ瞳に吸い込まれてしまっていて、美智留のその誘いを断わる事ができなかった。
床には、私の衣服が無造作に散乱していた。全部瑠可が脱がしてくれたものだった。私は、それを丁寧にたたみ直す、瑠可の衣服も。
すると、一瞬の間にとても温かい腕に包まれた。後ろから瑠可に抱きよせられる。
「美智留なにしてるの?風邪ひくよ。まだ夜明けだしもう少し寝ていよう」
「うん、ごめんねちょっと服が気になっちゃってw」
「早く寝よう」
「うん」
そう言いふたたび布団に入った。瑠可の体温が妙に心地よくて私はすぐに眠りに落ちた。