エリーがシェアハウスにやってきた。  
何故だか夫であるオグリンをおいて、1人で。  
 
「なんだよエリー、オグリンと喧嘩でもしたわけ?」  
「あー、聞いてよあいつさー、かくかくしかじか」  
「何?あいつそんなこと言うんだ?へー意外。」  
「とにかく、実家に帰るって言ってココ来た」  
「実家なんだ、ここ」  
バレるの時間の問題だろ、と笑いながら話を聞いてやるうちに、  
エリーのビールを飲むペースはあがる。  
 
「エリーがずっと愛してあげるんじゃなかったの?」  
「んー、気分転換。」  
 
・・・やっぱ分かんないな、アンタのそういうユルさ。  
だけど、笑い飛ばしているけれど、ホントは傷ついてる。  
長い付き合いだ。それくらい分かる。だからこの酒の量も、許してやるか。  
 
「あれ?今日タケルとミチルちゃんは?」  
「今頃気付いたのかよ。タケルんとこの仕事場の、社員旅行。  
最初はミチル、ルミがいるからって断ったんだけど、  
連れてってもいいって言われてさ。」  
 
ミチルはこの家に戻ってきて、再びタケルと一緒の仕事場でアシスタントをしている。  
その間ルミは私が世話していたり、保育所に預けたりしている。  
寂しい想いをさせてしまうときもあるが、今は元気に育っている。  
 
それに、ミチルはやっぱりああいう仕事をしている方がいきいきしてる。  
一度髪を切ってもらったことがあるのだが、仕上がりを褒めたときの  
嬉しそうな顔といったら、こっちまで笑顔になるくらいだ。  
 
会いたいなー、なんて私らしくもない思考が巡る。  
 
「ねぇ」  
「ん?」  
「今ミチルちゃんのこと考えてるでしょ。」  
「・・・なんで?」  
「おっ、出たー。質問を質問で返すときは大抵YESなんだよね!  
この百戦錬磨のあたしを甘く見ないでよねー。で、やっぱり図星なんだ。」  
「・・・考えてちゃ悪いかよ。」  
なんだこの尋問。もう拗ねてやる。  
 
「ねぇ。もう忘れなよ、ミチルちゃんのこと。ずっと友達って決めたんでしょ?」  
「決めたよ。」  
「じゃあどうすんの?ルカはこれから。」  
「何もしないよ。結婚もしない。」  
「・・・」  
やっと口を閉じた。まったく酔ったエリーは厄介だ。  
普段はそんなに、人の領域に入り込んだりしないのに。  
 
 
「でもそれじゃダメだよ、ルカも幸せになんなきゃ。」  
「だからさぁ」  
「・・・ルカって、本気になればいくらでも女口説き落とせると思うんだよね〜。」  
「・・・は?」  
「じゃあさ、実験実験。私を口説いてみてよ。」  
自分を実験体として差し出している割に、なんだか随分楽しそうだ。  
っていや、そんな口説くとかしたことないんですけど。  
 
「ほらほら〜」  
こうなったらエリーはいうこと聞くまで大人しくならない。しかも酔ってる。  
 
適当にあしらったら満足して寝るだろうと思って、  
仕方なく後ろから抱きしめて、耳元で囁く言葉を懸命に考える。  
そういえば、オグリンと喧嘩したんだっけ・・・?  
 
考えていたら、酒の勢いも手伝ってか、なんだかノリ気になってきた。  
よーし・・・  
 
「ねぇ」  
抱きしめる力を強くして、耳元で吐息まじりに語りかける。  
エリーの手が私の手に重なる。  
 
「私にしときなよ」  
低く、優しく、甘く。だけどほんの少しの強引さも滲ませて。  
重なったエリーの手に指を絡ませながら。  
ゆっくりこちらに振り向いたエリーの瞳を見つめて。  
 
いやヤバい。マジでヤバい。  
たらしか。こいつ女ったらしなのか。  
だってそんな、今までの男で、一番口説くの上手いでしょ。  
いや男じゃないけど。っていうかもうなんなんだ。  
 
酔った頭での思考回路は、この緊急事態に対応し切れてないようだ。  
思わず熱っぽい視線でルカを見つめてしまう。  
 
そんなことも気付かずに、  
ルカは「エリーそろそろ寝なよ」なんて言ってビールの缶を片付け始める。  
こ、この鈍感。もしかしてアンタ、知らないうちにたくさん女泣かしてんじゃないの?  
 
そんな風に考えてる間に、あたしはいつの間にかソファーにルカを押し倒してた。  
床に落ちて響くアルミ缶の音が、酔った頭に酷くうるさかった。  
 
エリーに押し倒された。いやでもいくらエリーでも私を襲うって・・・。  
そう思ってエリーを見上げたら、本気のエリーの眼差しが私を射抜いた。  
 
このときにエリーを突き飛ばすこともできたんだ。  
だけど、林田さんは男だからいいけど、エリーは女で、  
女を突き飛ばすってそれはジェントルメンとしてどうなんだ。  
 
なんて考えが頭を掠めてるうちに、どんどんエリーの顔が近づいてきて、思考、停止。  
 
そんな私を満足そうに見て、  
「どうにかなっちゃおっか。」と言われて。  
 
次の瞬間には唇を奪われる。  
抵抗したけれど、いつの間にかしっかりと体を押さえられている。  
「ん、んっ!」  
体を捩じらせた拍子に開いた唇に、ここぞとばかりにエリーの舌が侵入する。  
強引に絡まる舌に、大きくなる水音、服の上から体中を這う手。  
「ふ、・・・んん、エ、リ」  
「どした?」  
「ていうか、不倫だろこれ。どうみても。そういうの、ダメだろ。」  
力でダメなら、言葉で説得しよう。エリーだって法を犯すような奴じゃない。  
 
エリーはふむ、と頭を悩ませている。よし、さあ早くどいて・・・  
 
「オグリンとは不倫で結ばれましたー」  
 
そうだった。あっけらかんと響いた声は、まだまだエリーが酔っていることを教える。  
「続き、させて」  
打って変わって、今度はねっとりと耳元で囁かれる。優しく耳に歯を立てられる。  
「ぁ・・・」  
焦らすように耳から離れた唇は首筋を伝い、鎖骨にキスを落とす。  
手が素早く服の内部に入り込んだ。  
 
「・・・!」  
びくりとして服越しにエリーの手首をつかむ。  
さっきまで力が入らなかったのが嘘のように、力強く握り締めていた。  
 
「ルカ。あたしは、ルカのこと好きだよ。」  
 
本当に酔ってるのかと疑いそうになるほどの、  
揺ぎ無く、澄み切った視線に、つい手の力を緩めた。  
はじめて、ミチル以外の人に胸を高揚させている自分に驚いた。  
だけどそれを否定してる自分もいて、もう何がなんだか分かんない。  
 
「ルカもさぁ」  
「なんだよ。」  
意識してしまったらまともに目なんか見れなくて、  
笑いを含んだエリーの声に顔を背けた。  
 
そのままエリーは顔を沈めて、耳を愛撫し始める。  
必死に声を抑える私に対して、余裕ありげに私の頭を撫でるエリーになんだか腹が立つ。  
 
ふと、何の刺激もなくなって、  
エリーの方を見上げると、がっちりばっちり目が合った。  
 
「あたしにしときなよ。」  
 
 
どくん、と大きく心臓が鳴った。  
 
 
「人間関係なんてさ、先はどうなるか分かんないよ。誰にも。  
だけどさ、少なくとも今のあたしは、ルカが何したって嫌いにならない。  
一人にしないよ?いなくなったり、しないから。」  
 
 
ずっとずっと、欲しかった言葉。求めてた言葉。  
 
 
柔らかな瞳で見つめられて、何も考えられずに頷いた。  
 
けど、重なった唇からの酒の匂いに、またどうしようもなく不安になって。  
なんでこんなに弱いんだろう、優勝したって全然弱いままだ。  
泣きそうな自分に、泣きそうになった。  
 
必死に涙を堪えていたら、エリーは  
「弱くても、いいから。そのままで、いいから。」と言った。  
 
そのまままたキスされて、今なら涙も見られないだろうと思い、ちょっとだけ泣いた。  
エリーは気付いたのだろうか、きっと気付いたんだろう。だけどそんな素振りは全く見せなかった。  
 
 
歯列をなぞられて、舌を甘く噛まれて、音を立てて唾液を吸われていく。  
エリーの喉からごくり、と音がして、急に顔が熱くなった。  
 
まだ唇は離さないままで、突然服を捲り上げられる。  
抵抗する間もなく、ブラまで外されてしまった。  
反論したって、ますます舌が絡み合うだけだった。  
 
撫でるように優しく、エリーの手が胸を愛撫する。  
「・・んっ、ん」  
「かわいい」  
「うっせ!・・ぇ・・ぁ」  
エリーが小ぶりなそれを見てニヤけるものだから、  
極力声を出さないように、全神経を集中させる。  
 
「誰も居ないんだからさ、声。いいじゃん」  
「・・・や、だ。」  
「強がり。」  
 
エリーは、段々と胸を刺激する力を強くしていく。  
そして、たちあがっているそれを舌で弾き、吸う。  
「あっ!・・・ふ、あぁ」  
「へー、ルカって意外と敏感なんだ?」  
「・・・んっ、やぁ、ぅ」  
 
 
酔いなんて、ルカにキスしたその瞬間から、とっくに醒めていた。  
なのに酔ったフリを続けるあたしは、案外ルカより弱いのかも知れない。  
 
 
今までのルカは、いつもビシッとしているイメージばかりだったから、  
こうやって、普段より高めのトーンで喘ぐ声も、真っ赤にした顔も、  
可愛くてしょうがない。  
 
もっともっと知らないルカを知りたくて、つい意地悪してしまう。  
 
胸を手と舌で揉んだり舐めたりしていると、ルカが無意識にあたしの肩に爪をたてた。  
短い爪だけど、痛いことは痛い。その痛みさえ甘く感じる本心とは裏腹に、  
「肩、痛いんだけど。」と文句を言ってみる。  
「え?あ、・・・だって。」  
「じゃあ、仕返しってことで。」  
 
そう言って、細くて白い首を噛んだ。そのまま強く吸う。  
「痛っ、ちょっと、やだ・・・エリー、いた・・い・・」  
ようやく唇を離すと、白に映える赤に、くっきり残った歯型。  
 
「うわ、ごめんちょっとやりすぎた?」  
そういって後からペロペロと舐めると、  
「あ・・・も、ばか・・・」と声がして、  
「あれ?ひょっとして気持ちよかった?」なんて聞いてみる。  
 
「そんなわけっ・・・ない、だろ・・。」  
「ふーん」  
また首筋を噛んで、舐めてを繰り返せば、  
「痛いって、ばっ・・やっ、うんっ」と身を捩るから、  
なんだか本当にルカを食べてるみたい。あー、首が弱いのかぁ。イイコト知ったわ。  
 
 

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