ガチャン  
 
タケルのマグカップの持ち手がとれ、床に落ちた。  
ルカとタケルの出会いのきっかけになったマグカップ。  
胸騒ぎがしてタケルはしばらくキッチンに立ちつくした。  
 
モトクロスの練習で転んだんだと頬に切り傷をつけて帰ってきたルカ。  
夕食の時も、その後みんなでコーヒーを飲んでいる時も  
いつも通り明るくふるまうルカ。  
でも何かが違う。  
いつもみたく目がキラキラしてない。なんとなく曇ってる。  
ふとした時に見せる、放心したような表情。  
エリーもミチルちゃんもきっと気づいてないだろう微妙な変化。  
でも俺には分かる。ずっときみを見てきたから・・・  
―ルカの身に何か起こったんだ  
 
コンコン。  
みんなが寝静まった後、タケルはルカの部屋の前にいた。  
「・・・誰?」  
「俺。」  
「・・・・・・どうぞ。」  
 
ルカはベッドに仰向けに寝転がっていた。タケルと視線を合わせようとしない。  
「ルカ・・・今日何があったの?ちゃんと話して。その傷だって、ほんとに練習で転んだ  
 の?ルカ今日帰ってきてからずっと変だったよ。」  
タケルが近付きベッドの端に腰掛けると、ルカは起き上がりタケルに背を向けてしまう。  
「いや別に・・何もないよ。本当に転んだんだ・・ほんとに・・」  
ルカの肩が細かく震えている。  
「・・・ルカ?」  
「・・・」  
「・・・あいつに会ったの?」  
「・・・うん、呼び出されたんだ。家に。」  
「行ったの!?一人で!?!?危なすぎるよ!なんてこと―  
「だって守りたかったから!ミチルもタケルもあんな目にあって・・・  
 なんとしても守りたかったんだ。」  
振り返ったルカの目から涙が溢れる。  
「でも・・・かなわなかった。力じゃかなわなくて・・逃げようとしたけど・・」  
「・・・・・どういうこと?」  
ルカは何も言わずタケルの胸に倒れこんだ。  
タケルのシャツを強くつかみ、口からは嗚咽が漏れる。  
「ルカ・・・」  
タケルはソウスケの部屋で何が起こったのか察した。一番起きてはいけないこと・・  
ルカになんてことを・・・  
タケルは傷ついたルカをただ抱きしめることしかできなかった。  
「あいつに中傷されようが、殴られようが、ミチルのためなら何でも我慢できる。タケルがいるから何も怖くない。頭ではそう思ってるんだ。でも・・」  
「・・・」  
「体が、体にまだあいつの感触がはっきり残ってて・・・」  
「ルカ・・」  
ルカはふいに顔を上げ、タケルの目をまっすぐに見た。  
「もうこんなこと一生言わない。こんなこと言うの最初で最後だから。  
タケル・・・私を抱いて欲しい。あいつがつけた跡を全部消してほしいんだ。」  
「・・・!?」  
 
タケルはルカの真っ直ぐな視線を受け止め、じっと見つめ返す。  
どれくらい時間が経っただろう。タケルは一つ息をした。  
「ルカ、分かったよ。」  
 
 
使われていない部屋の一室。  
備え付けの家具しかない、何もないこの部屋のベッドの上にふたりは向き合っていた。  
カーテンもない窓からは深夜の満月が輝き、部屋に降り注いでいる。  
ふたりはそれぞれ、自分の身につけているものを脱いだ。下着も何もかも。  
素っ裸になったお互いの姿を月の薄明かりが照らしている。  
それぞれの心臓が高鳴りを続ける。もしかしたら聞こえてるかもしれない・・  
タケルは瑠可の肩に手を置く。瑠可はタケルの背中に腕を回した。タケルは瑠可に聞く。  
「・・俺が上になっても大丈夫?」  
「__そのためにこうしてるんだろ」と笑った。タケルも笑みを浮かべる。  
そしてタケルはそっと瑠可を押し倒した。  
唇を軽く重ねた後、そのまま瑠可の首に唇を滑らせた。鎖骨、胸元まで降りる。  
「ルカ、胸触って平気?」と聞くと、瑠可が吹き出して、  
「いちいち聞くなよ、好きなようにしていいよ」と笑った。  
タケルも笑いながら「そっか、ごめん」と言った。  
 
瑠可の胸に触れてみる。小ぶりだけれど柔らかい。  
「ルカ」  
「ん?」  
「心臓がドキドキ言ってる」  
「ほっとけ・・」  
タケルは心臓の鼓動が波打つ胸に唇を滑らせ、舌でそっと触れてみた。  
瑠可の呼吸がかすかに溜息に変わった。  
もう少し舌で触れてみる。瑠可の溜息がすこしづつ大きくなる。  
瑠可はタケルの首の後ろに両腕を回しながら頭を撫でる。  
タケルは唇を胸から離すと、もう一度瑠可の唇を塞ぐ。  
互いの舌が段々纏わりつく。  
タケルは瑠可の唇を塞ぎながらもう一度瑠可の胸に触れる。  
塞いだ唇をゆっくりと離す。  
「・・タケル・・下がなんかゴツゴツする・・」  
「え?あ、ごめん」と瑠可の身体から離れようとすると、  
「いいんだよ、離れんなよ」  
瑠可はタケルの首に回している両腕で離れるタケルを抱き寄せた。  
「タケル」  
「・・ん?」  
「・・・・いいよ、はいっても」  
「・・・ルカ」  
「・・わかんないけど、今ならできそうな気がする」  
「でも・・ほんとに、いいの?」  
「タケルだからいいんだよ・・だけど、妊娠は勘弁な」  
「・・馬鹿」  
タケルはそう言って笑った。瑠可も笑う。  
 
タケルは上体を起こすと瑠可の両脚を広げ、自分の身体を寄せると、  
瑠可の中に入りやすいよう体勢を整えた。  
「ルカ・・いくよ」タケルは恐る恐る入る。  
瑠可に痛みが走る。思わず身体が弓なりにこわばってしまう。  
宗佑の時のような激痛はないものの、まだ痛い。  
思わず痛みで声が出てしまう。  
「・・・っ」  
タケルはハッとしてやめようか迷い、  
「ルカ・・やっぱりよそうか」と言うと、  
瑠可は頭を振り「いい・・大丈夫」と拒んだ。  
 
タケルはこれ以上瑠可が痛くならないよう、そのままじっとした。  
瑠可は動かずじっとしているタケルに、  
「・・なにじっとしてんだよ」と言った。  
「__ルカがこれ以上痛くならないように」  
「でも・・ここで我慢しなきゃ次いけないからさ・・いいよ、動いて」  
「・・ほんとに、大丈夫?」  
「遠慮すんなって・・」とタケルに微笑む。  
タケルはそうっと動いた。瑠可は思わずタケルの背中にしがみつく。  
痛い。でも、タケルは瑠可に気遣いながらゆっくりと動いてくれる。  
しかし、何度か動く内に次第に瑠可の痛みが和らいできた。  
そしてしばらくすると、背中からぞわぞわと這い上がる感覚を覚えた。  
痛みが嘘のように消えてゆく。その代わり、響くような甘美な衝撃が襲う。  
「・・・・・」瑠可が何か言いかけている。  
「・・・ルカ、まだ痛い?」  
「・・ううん、なんか、・・へんな感じ」  
「へんな感じ?」  
「・・なんか、これって、気持ちいいかも・・・」  
「・・・もう少し、早くしてもいい?」  
「・・いいよ」  
もう少し動きを早めてみる。ただし、また瑠可が痛くならないようにそうっと。  
 
次第に瑠可の溜息が吐息に変化してきた。  
「ルカ・・・もしかして、気持ちいい?」  
「・・うん、なんでだろ・・・タケルだからいいのかな・・・」  
「俺も・・ルカだから、大丈夫だ・・・」  
瑠可はタケルに微笑んだ。タケルは動きながらも少しづつ間隔を早めてみる。  
しばらくすると、吐息混じりで瑠可が話しかけてきた。  
「・・・タケル」  
「・・・ん?」  
「あたし・・・なんか、またへんだ・・」  
「・・え?」  
「・・なんか、奥から・・くる・・あぁ・・」  
瑠可はそう言うと、身体を仰け反らせながら小刻みに痙攣した。  
そして瑠可の目から一筋涙がこぼれた。  
「・・ルカ・・泣いてるの?」  
「・・・なんだろ、なんか涙が出た・・・」  
「__ルカ・・なんか俺も・・へん・・・」  
タケルもそう言うと動きを早めた。もう瑠可は痛くなくなっていた。  
タケルの首の後ろに手を回す。  
「・・ルカ」タケルは軽く吐息を漏らしながら瑠可の名前を呼ぶと、  
そのまま瑠可の上にくずれ落ちた。ふたりとも息を弾ませている。  
「・・・タケル・・大丈夫か?」  
「・・うん」  
「・・・もう、これで大丈夫だな・・」  
「俺・・これで姉さんにも、女の人が怖いのも、きっと大丈夫だ」  
「あたしも・・これでアイツに勝った」  
そう言うとふたりで顔を見合わせ、笑いあった。  
「・・なあ、タケル」  
「ん?」  
「もっと早く、出会いたかったな。・・そうすれば、こんな回り道しないで済んだのにな」  
「そうだな」そう言うとお互い笑い唇を重ねると、ギュッと強く抱きしめ合った。  
 
 
 

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