少し開いた窓から入ってくる心地よい風に、私の膝の上にある頭の短い髪の毛がかすかに揺れる。
床に反射する陽射しも気持ちよくて、なんだか私まで眠たくなってくる。
私の膝枕ですやすやと穏やかな寝息を立てるルカの姿は、いつものルカじゃないみたい。
なんだか違う自分を私だけに見せてくれてるみたいで、ちょっと嬉しい。
まるで少年のような整った横顔に、しばらくミチルは見惚れていた。
ルカの頬にすっと指を滑らしてみる。
吸い付くような肌の感触に、おもわずミチルは笑みをこぼした。
いつだったかな―――
ルカと愛し合った後、私はこんなことを聞いた。
「・・・ルカ、自分の体を見るの・・・やっぱりイヤ?」
ルカは一瞬眼を宙にさまよわせ、ちょっと寂しそうな表情で、笑ってた。
行為の後、いそいそと服を身に着けてから、ベットの中で抱きしめてくれるルカ。
いつも、服を着るその背中を見てると、ちょっぴり悲しくなった。
ルカ・・・全部を見せてくれるかな・・・?
ミチルの心に、小さな悪戯心と、好奇心が芽生えた。
ミチルはルカの頭をなでていた手を止め、ルカの横顔をじっと見つめた。
夢の中なのだろうか、深い眠りに入っているようだ。
しばらく、起きないかな・・・
ミチルは顔をゆっくりと近づけ、ルカの頬にちゅっとキスを落とした。
それでも起きないルカを優しく見つめながら、ついばむようなキスを何度もルカの頬に落とす。
そのとき、「ん・・・・」といってルカが寝返りを打ち、真上を向いた。
起きる気配は、ないけれど。
「ルカ・・・」ミチルは小さく名前を呼んでみる。
ミチルの中で、急に愛しさが込み上げてきた。
ルカ・・・いつか言ってくれたよね。
ミチルには本当の幸せを手に入れて欲しいって。
ルカ、本当に今、わたし幸せだよ。
「ルカ・・・愛してる」
ミチルは小さく呟いて、ゆっくりとルカの唇に自分の唇を合わせた。
唇にルカの温もりを感じる。
しばらく、こうしていたい―――
いつもルカとキスすると、私も、ルカも、生きているって感じる。
なんでだろう、変なの。
思わず、ミチルは笑みをこぼした。
ルカの寝顔を愛しげに見つめながら、ミチルはゆっくりと唇を離す。
そのとき、「ん・・・・」といってルカの長い睫毛が揺れた。
「ルカ・・」
「あ・・れ・・ミチル・・?」
ルカはまだ意識がはっきりしていない様子で、ミチルの顔を見ている。
いつものルカからは想像できない、安心しきった顔。
ミチルは何も言わず、優しくルカを上から抱きしめた。
ミチルはルカを抱きしめたまま、ルカの胸に耳をあてた。
トクン・・トクン・・と規則正しい鼓動が伝わってくる。
ルカの存在を、再確認できる。
ルカ、あなたがいて良かった。
あなたがこの世に生を受けたことに感謝してる。
でもね・・ルカ
私はまだあなたに壁を感じる。
私は、こんなに愛してくれるあなたの中の壁を、取り去りたい。
私はあなたがすべてを見せられる存在になりたいの。
「ミチル・・・?」
胸に頭を乗せたまま動かないミチルを不思議に思ったのか、ルカは首を傾けミチルの顔を覗きこむ。
「ルカ・・・」
「ん?」
ミチルは先ほど思ったことを聞いてみた。
「いつか、ルカに『自分の体を見るのがイヤ?』って聞いたことあったでしょ」
「・・・」
ルカの顔が一瞬曇ったのを、ミチルは見逃さなかった。
「・・・やっぱり・・イヤなの?」
「・・・うん」
ルカは目を背けた。
まるでミチルの視線から逃げるように。
ミチルは、息を吸い込んで、ゆっくりと口を開いた。
「・・・私に見せるのも・・・?」
一番、聞きたかったこと。
なんでだろう、答えを聞くのが怖い。
手が、かすかに震えてる。
「ルカ・・?」と少し掠れた声で呼んでみると、ルカは俯いていた顔をゆっくりと上げた。
「ミチル・・・私は・・」
ミチルは知らず知らずのうち、ルカを抱きしめる腕に力を込めていた。
すごく、緊張してる。
ミチルはルカの言葉を遮るように言った。
「ルカ、私ね・・ルカのありのままの姿が見たいの」
「ミチル・・・」
「ルカの苦しみは、わかってる・・・私は、その苦しみを和らげてあげられる存在になりたい」
ルカの目が、変わった気がした。
言葉では、うまく言い表せないけど。
不安とか、悩みとかの曇った色が、嘘みたいに消えた。
「ありがとう・・・ミチル」
ルカは微笑んだ。
「私、今まで・・・この体は自分の体じゃないって思ってた。でも、ミチルが望むなら、向き合える」
「ルカ・・・」
「これでいいんだ・・・これが私なんだって、思える」
ミチルの頬に一筋、涙がこぼれた。
悲しいからじゃない、嬉しいからこぼれた涙。
あわてて涙を拭い、笑った。
「ルカ・・・愛してる」
何度でも、言いたい。
ミチルはゆっくりと、再びルカに口付けた。
ゆっくりと、お互いを味わうようなキスだった。
歯列をなぞり、舌を絡める。
ミチルはルカの唇を吸い上げ、ちゅっと音を立てた。
ミチルはルカのTシャツの裾に触れる。
今までは、一瞬戸惑いの表情を浮かべてたルカも、今は安心したように目を閉じた。
「ルカ・・・大丈夫?」
耳元で囁くと、ルカは優しく微笑んだ。
ミチルはルカの首筋に唇を寄せながら、Tシャツの隙間から手を滑り込ませた。
そしてわき腹に指を這わす。
ルカが少しくすぐったそうに体をよじった。
ルカのきれいな顎のラインをなぞるように、ゆっくりと唇を上に滑らせていく。
そして、形の良い耳にたどり着く。
ふっと軽く息を吹きかけると、ルカの体がわずかに揺れたのが分かった。
ルカの耳朶を優しく甘噛みし、口に含み、転がす。
「・・んっ・・ミチル・・」
そのまま舌を尖らせて、浅く中に入れると、ルカは大きく息を吐いた。
ルカ・・いいんだよね?
私はあなたのすべてを見て。
これくらいの力で、優しく・・優しく・・・
傷付けないように・・・
私を、もっと感じて・・・ルカ・・・・
ミチルはTシャツとタンクトップを優しく脱がす。出来るだけ、ゆっくりと。
ルカも、ミチルの優しさに気付いているのか、体を預けてされるままになっている。
初めて見た、ルカの白い肌。
なめらかで、吸い付くような感触。
ミチルはルカをそっと抱きしめてみる。
ルカの体は、思っていたよりもずっと細くて、少し力を込めれば折れてしまいそうだった。
自分の体に伝わってくる、ルカの温もり。
「ルカ・・あったかい」
ミチルはもっとルカを感じようと、鎖骨、胸、腹にまんべんなくキスを降らした。
その一つ一つの形を、自分に刻み付けていくように。