「たっだいま〜〜〜!!!」  
急に玄関がにぎやかになる。  
エリだ。  
「おお〜おかえり!うわ、大分買い込んだね」  
ルカは笑いながら大量の荷物をリビングへと運ぶ。  
「だってぇ、ミチルちゃんとタケルはルミちゃんと一緒に温泉行っちゃったんでしょ?」  
まぁ、そういうこと。  
私はレースが近いし、自分のコンディションを整えるためにお留守番というわけだ。  
「だったらいっぱい買い込んだほうがいいじゃん」  
「うん、まぁそうだね」  
「オグリンは出張だし」  
むっと膨れ面のエリを見て、ルカは微笑んだ。  
「エリ、ちょっと飲まない?」  
 
 
「はぁぁ、やっぱルカと二人っきりっていいなぁ、なつかしくって」  
「そう?・・・あぁ、そうだね」  
まだこのシェアハウスに二人きりだったころ。今思い出すと遠い昔のように感じる。  
まだ一年半くらいしか経ってないのに。  
「なぁんか、早かったねぇ」  
「いろいろ・・・・ありすぎたんだよ」  
ポツリ、とルカがつぶやく。  
「まぁ・・・これでよかったじゃん?」  
そう笑ってエリはグラスを傾けた。  
 
「あぁぁ、結構酔っ払っちゃったなぁ」  
気がつくと机の上には大量のビール缶やワインの空瓶が転がっている。  
「大丈夫エリー?」  
「ルカは強いなぁお酒に。いいなぁ」  
へへっとエリは笑い、ルカにもたれかかる。  
「エリー、いい加減酒癖悪いの直しなよ」  
ルカは笑っていたが、エリーの腕が自分の腕に絡まされると、表情が一瞬強張った。  
 
「エリー・・・?」  
 
 
「・・・エリー?」  
エリはルカにもたれかかったまま、長いため息をついた。  
「ルカって安心するなぁ」  
そういいながらエリは少し赤くなった顔でルカの首に腕を回す。  
「ちょっ・・・エリー、やめてよ」  
ルカ自身、エリーが酔うと多少のボディタッチが増えるのは承知していたのだが、  
ここまでは初めてだった。  
エリの顔がすごく近く感じる。  
「エリー・・」  
振りほどこうとルカはエリの腕に手をかける。  
「なにさぁ、ミチルちゃんには優しいくせに」  
「・・・」  
「ルカって、私のことどう思ってんの?」  
「・・・」  
ルカは黙るしかなかった。  
なんだか、忘れかけてた古傷が、疼くような感覚。  
「・・・ごめん」  
「?」  
「わかってるんだ、こんなこと聞くなんてどんだけバカらしいことかって。  
 それにルカ自身辛いでしょ、ごめんね」  
そう少し笑ってからエリはルカから体を離そうとした。  
その瞬間、ルカは離れていくエリの腕を引き、優しく抱きしめた。  
「ルカ?」  
エリはびっくりしたのか、少し声が震えている。  
「エリーのことは、好きだよ」  
エリはルカに抱きしめられたまま、黙っている。  
「一番、頼れるヤツだと思ってる」  
「ルカ・・」  
 
もしもミチルの存在がなかったら・・・  
わたしは、エリー、あなたに惹かれてたかもしれない。  
 
エリーはミチルとは正反対の性格。  
負けん気が強くて、はっきりしてる。  
でも、人一倍さみしがりやってとこは、ミチルと似てる。  
だから、だれかがそばに居てやらなきゃいけないんだ。  
 
ときたま寂しそうな顔をしてるエリーを見てて、何度も思った。  
私が、あなたのそばにいるからって。  
 
 
エリは何も言わない。ルカも黙ったままだ。  
沈黙。  
ただ、ときおり風で窓がかすかに音を立てる。  
ルカがエリを抱きしめている腕に少し力をこめると、それだ合図だったかのように、  
「ルカ」とエリが口を開いた。  
「私は、ルカのことはわかってるつもりだし、ルカのミチルちゃんに対する気持ちも  
 わかってる。ルカがミチルちゃんをすごく大切に想ってて、自分自身とちゃんと向  
 きあって生きていくって決めてることも」  
「・・・うん」  
ルカの声は消えそうなくらい小さかった。  
「だから、私はルカを応援する。引っ張っていけるくらいの力は無いかも知れないけど」  
「・・・」  
「・・・あの頃みたいに、ルカが苦しまないように、精いっぱいサポートするからさ」  
そういって、エリはルカの手に優しく自分の手を重ねる。  
 
いつか、オグリンにもしてあげたことあったっけ。  
 
「エリー・・・」  
顔は見えないけど、ルカの声はかすかに震えていた。  
泣いてる?―――めったに泣かない子なのに。  
「ルカ・・・泣いてるの?」  
エリはルカの顔を見ようと、体をよじった。  
その瞬間、唇に柔らかい感触を感じた。エリは思わず目を瞑る。  
ルカに口付けられたのは数秒だっただろうけど、すごく時が止まったみたいに感じた。  
男とはちがう―――でも、かすかに男を感じるキスの仕方だった。  
触れるだけの。  
 
そしてルカは、俯いたまま顔を離していく。  
「・・・・ありがとう、エリー」  
「・・え?」  
まだ少し動揺している様子のエリに、ルカは優しく微笑んだ。  
「いや・・・なんていうかさ・・・ありがとうとしかいえないけど・・・」  
ルカは照れたように笑った。  
「私は、エリーとはずっと親友だから」  
 
絶対、離れたりしないから。  
 
 
end  
 
 
 
 

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