寝苦しさを感じてエリは、ふと目を覚ました。  
寝返りを打とうとして、自分の隣に潜り込んで眠っている人物に気付いて身を起こした。  
「…誰っ!?」  
一瞬、恐怖したが短く整えられた髪と、こちらに背を向けるように眠る、  
その横顔を見て安堵の表情を浮かべ甘えるようにその背中に抱きついた。  
 
「ル〜カ、おかえり」  
「…ん」  
夢の中のルカを起こさないように素早く頬に唇を落とすと、  
ルカを背中から抱き締めてエリは再び眠りについた。  
 
ルカは夢を見ていた。満開の桜の木の下でルカは誰かを待っていた。  
相手は中々やって来ない。  
仕方がないので桜の木のまわりを回ってみた。  
ぐるぐるぐるぐる。  
ぐるぐるぐるぐる。  
 
こうやってぐるぐる回ってるうちに溶けてバターになったトラの童話があったっけ。  
あんな風に、何かに変身したら面白いのにな。  
例えばそう、男の子に…。  
男の子になって、強い男になればあの子を守ってあげられるのに。  
 
「お父さんがお母さんをぶつの…」  
 
さっき掛かってきた電話、涙声だった。  
大丈夫、私があなたをきっと守ってあげるからね。  
だから、早くおいで。  
抱き締めてあげる。  
 
だけど、彼女は来なかった。  
荒れ狂う父親から逃れて、母親の故郷に共に身を隠したらしいと、数日後に知った。  
大丈夫なのか、元気にしてるのか、ご飯はちゃんと食べているのか、  
学校には行かせてもらっているのか、馴染めているのか、友達は出来たのか…。  
知るすべもなく日々は過ぎていった。  
出来れば、そばにいて見守っていたかった。  
例え、一生届かぬ想いでも、どんな表情も見逃さずに一緒に笑っていたかった。  
 
会いたいよ。今でも会いたい。すごく、会いたい。  
 
「…ル……ル、カ?」「…ん、どした?エリ…つか、いま何時?」  
目を覚ますと心配そうな顔をしたエリが覗き込んでいた。  
 
「んと、7時前」「何だ、まだそんな時間?」  
「だってルカが泣きながら寝言言ってんだもん、目が覚めちゃったよ」  
「えー、寝言なんか言わないもん、わたし…。  
つか今日、休みだから、もうちょっと寝る…エリは?」  
 
言いながら、ごく自然にエリの腰の辺りに足を乗せて、  
ぐっと抱き寄せるルカに苦笑しながらエリは答えた。  
「あたしも今日は休みだからもうちょい寝るよ」 「ほい、おやすみー」  
「起きたらさ、どこか出かけようよ。買い物行こう?」「あー、わたしパス」  
「えー、もう付き合い悪いんだから」「…だって、疲れる…」  
「もう、ルカのバカ」  
すぐに寝息を立て始めたルカに向かって舌を出しイーっと悪態をつくと  
エリも三たび目を閉じた。  
 
「って眠れないよー、もう…。ねぇ、ルカぁ」  
鼻を摘んだり、軽くデコピンしてみたりするがルカは一向に起きない。  
「よぉーし、そのつもりなら…」  
悪戯っぽく笑うと、そっとルカのTシャツの裾から手を差し入れた。  
わき腹に手を触れてみる。反応はない。  
「起きないのが悪いんだからねー。よーし、いつもの仕返しをしてやる」  
 
ゆっくり手を伸ばし、そのまま上に向かっていく。  
少しくすぐったそうに身をよじるが、まだ起きない。  
あばらを数えるように、その感触を楽しみながら、エリはその次のことを考えていた。  
普段は絶対触らせてくれないルカの身体。それどころか身体を見たこともない。  
ワクワクとその胸の膨らみにまさに届こうという瞬間、低い静かな怒声が飛んできた。  
「エリ、今すぐやめないとガチで殴るよ?」  
 
あまりの迫力にエリは飛びのいた。  
「ご、ごめん…」  
思わず謝ってしまったがすぐに思い直す。  
「なんだよぉ、だってルカが悪いんじゃん…。  
 寝言で起こすから眠れなくなっちゃったんだよ…」  
「まーた言ってる。わたし寝言なんて言わないから」  
「言ってたよぉ。ルカ、言ってた。子供みたいにポロポロ涙流してさ」  
 
その言葉にさっきの悲しい夢を思い出して何も言えなくなったルカを  
エリはそっと抱きしめた。  
「ごめん。きっと悲しい夢を見てたんだね、ごめんねルカ…」  
少し痛んだ短い髪をなでると、ルカの目から涙がポロポロこぼれた。  
無言で涙を流すルカにエリの胸は少し締め付けられた。  
こんなに震えて、ルカ…。  
 
「って笑ってる?ルカ?」  
「なーんちゃって」  
あっけに取られるエリに向かって少年のような笑顔を見せると  
体勢を逆転させてエリを組み敷いた。  
「わたしを泣かそうとしたお仕置きをしまーす」  
 
言うや否や、素早くエリのパジャマをまくり上げながら首筋に唇を寄せた。  
「ちょっ、ルカ、やだ!」  
「え?やなの?じゃあやめようか?」  
そう言いながらもルカの手はすでにエリの乳房をつかみ、指先でその先端を弄んでいた。  
 
「…っや、ちが、あっ…う…キスぐらいちゃんとしてよ」  
「あー、ハハ、忘れてた忘れてた。じゃあ、口開けて」  
聞いたことのない要求にエリはポカンと口を開けてしまう。  
 
何をするのかと思っていると  
「はいはい、素直ないい子だね、エリちゃんは」などと  
エリの口を間近で観察でもするように見だした。  
「エリって歯並びいいよねぇ。特にこの奥歯が…」  
「何か恥ずかしいんですけど。っていうか普通にキスしてよ」  
 
エリを腕の中に閉じ込めてルカは楽しそうだ。  
「えー、どうしようっかなあ。じゃあさ、エリからしてよ」  
「は?」  
「だから、エリからキスして」  
ん…と口を突き出すルカに半分笑いながら、下から噛み付くようにキスをした。  
 

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