タケルの絞り出す様な声をルカは聞いていた。
今日美人に話しかけられ、すっと顔が青ざめたタケルを見た。
ルカはその女性を知らなかったし、
いつもの穏やかさとはかけ離れた、その時のタケルの表情を初めて見た。
問いつめると彼は苦しそうに話し始めた。
自分の過去のこと、それが原因で今まで愛する人と一つになれなかったこと。
「…でも大丈夫。そういうことができないからって、人を愛せないわけじゃないし」
そう言って彼は、いつもの様に微笑んだ。その深みに寂しさを潜ませて。
自分と同じだ。どんなに愛していても、一つになれない苦しみ。自分への悔しさ、葛藤。
ルカはタケルが傍にいてくれることで180度世界が変わった。
自分を認めてくれる存在による安心感。
でもタケルは?
今まで何も気付かなかった。
そう思うと猛烈な切なさが込み上げてきて、ルカは深く考えもせずに聞いていた。
「私でも?」
「え?」
タケルは一瞬ぽかんとしてルカを見たが、すぐにその意を悟った。
「何言ってんの、ルカ」
そういう行為が、自分達にとって絶対にありえないとでも言うように、タケルは笑った。
一方ルカは自分の発言に驚いていた。タケルの言うとおりだ、ありえない。
でも、症状を克服することさえできれば…せめてそのきっかけになれば…
ルカはコーヒーを入れ始めたタケルに近づき、後ろからそっと抱きしめた。
あのとき自分を解放してくれたタケルの様に。
タケルはルカに触れられるとビクッと震えた。
それは好きな人に触れられたからではなく、
女性の体を持った他人に触れられた事に対する反射動作だった。
体が金縛りにあった様に動けないタケルを、怖がらせないようにルカは優しく触った。
「大丈夫だよ、タケル。」
弱い力でタケルはルカから抜け出そうとした。
「ルカ、やめて。こんなの違うよ」
ルカはタケルの目を見た。そしてわかった。
こんな状況でも、こんなに震えているのに、タケルはルカを気遣っている。
ルカが、ルカ自身にどんな嫌悪感を抱くか、そして屈辱を受けることになるかを考えている。
こんなに強く優しい人を自分は知らない。
決意を固めると、ルカはタケルの背中に唇を落とした。
怖がらせないように、布越しに、何度も何度も。
永遠とも思える時間の、ルカのその行為で、少しずつタケルの震えが小さくなっていく。
タケルを自分に向かい合わせ、また布越しに唇を触れさせながら、一つずつボタンを外していくルカ。
タケルに話しかけるように、包み込むように、笑いかけるように、ルカはタケルに触れていく。
「ルカ…っだめだ…」
タケルは依然動き難い自分に苦しんでいるようで、ルカの腕を振りほどこうとした。
しかしその寸前でタケルの胸板にたどり着いたルカは、露になった突起に優しく触れた。
タケルが大きく体を震わせたその隙に、ルカはそこに顔を寄せる。
始めは頬を触れさせるだけ、唇、舌の先端と、長い時間をかけて慣らしていく。
どれくらい時間が経っただろう。
タケルの震えが、恐怖のみからではなくなってきているのにルカは気づいた。
胸への愛撫はそのままに、思い切って手を下に伸ばし、タケルの膨らみに触れた。
「っ…ルカっ…」
苦しげに、でも息を押し殺して、タケルは感じ始めていた。
そしてルカの愛撫の間に、タケルはルカの決心が揺るがないものであることに気づいていた。
タケルが声を出したことでルカが油断した間に、タケルはルカに覆いかぶさるように体位を変えた。
タケルは自分から恐怖症を克服しようと無意識の内に動き始めていた。
「!?…タケル?」
驚いた目でルカはタケルを見た。
その目を見てタケルは我に返り、逡巡した。
その隙にルカはタケルの頭を自分の胸に抱きかかえた。
タケルの腕を掴んで自分の胸に導こうかという考えが一瞬よぎったが、ルカはできなかった。
「タケルのやりたいようにやってみて」
ルカの真っ直ぐな視線を受け止めて、タケルはルカの衣服に手を伸ばした。
ルカの首筋、胸元、お腹へと、ぎこちなく唇を滑らせていく。
タケルの動きを後押しするように、ルカが甘い声を出す。
その声は普段一緒にいるルカからは想像もできないようなもので、タケルは初めての感覚に襲われた。