大切なひとを失った時、人は一体どんな夢を見るのだろう。  
 
ルカは顔を洗いながら、今朝見た夢を思い返した。  
良い夢を見た時は、決まって真逆の、悪夢のような出来事が起きる。  
いつの間にか自分の中では変な決まり事のごとく定着していた。うってかわって、悪夢を  
見た日は絶好調、といった具合に。  
これは、夢の中で良い思いをしたのだから、現実をしっかりと受け止めろ、という神様の  
ひねくれた優しさなんだろうか。もしくは、良き出来事に嫉妬した小さな悪戯。神様なん  
て信じていないはずなのに、つい、引き合いに出してしまう。それほどこの妙なジンクス  
は当たるのだ。  
 
ミチルの時もそうだった。  
 
ふと、あの穏やかで花がほころびるような笑顔が思い浮かぶ。あの子がいなくなって、も  
うどれほどだろう。その年月を数える度に現れるこの胸の疼きは、一体いつになったら消  
えるのだろうか。  
 
あの日の朝は珍しく、起きてしまうのがもったいない。そう、感じた。  
あろうことか、ミチルに告白するという、現実では考えられないような夢を見たのだが、  
あの子は受け入れてくれた。信じられないほど嬉しくて、私が生まれてきた意味は、これ  
で充分、とさえ思った。  
それも学校へ着くまでの、ほんの一時だったけれど。  
あの日以来、もしかするとありえない夢を私が見たせいなんだろうか。幸せだと、感じて  
しまったから。どうしようもなかったことだとは分かってはいたが、何度も、何度も思っ  
た。自責の念は尽きなかった。  
 
だってあの子は、あの日、私の前から消えたのだから。  
 
「ルカー起きてるー?…はよー」  
 
エリーの声で我にかえった。  
鏡の中の自分がいつの間にか神妙な顔で睨んでいる。やりようのない気持ちをおさえつけ  
、深く、深呼吸をした。  
物思いにふけっている場合じゃない。早く準備をしなくては。今日をしっかり生きていく  
ために。例えあなたがいなくとも。  
 
「エリー、おはよ」  
「なんだ起きてんじゃん!」  
 
ミチル、久しぶりにあなたの夢を見たよ。あの日とは真逆の悪夢を。  
だとしたら今日はとびっきりの出来事が私を待ち受けているのかな。それなら、あなたに  
逢いたい。そして、可愛らしい、私を幸せにしてくれるあの笑顔で私の名前を呼んで欲し  
い。  
大好きなあの笑顔でもう一度。  
 
 

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