玉のような汗を帯び、熱く薄桃色に紅潮した肌が、タチアナを包む。
幾度と無く達したその身体からは、震えと、抗えるだけの体力が奪われていた。
―――タチアナ、いくよ?
クラウスの声が、タチアナの目の前に浮かぶ優しい表情から降り注ぐ。
気付くと、タチアナの両膝は、覆い被さるようなクラウスの両腿でM字に開かれていた。
その制御する足の間から、凶器の如き一物が、しとどに濡れた小さな峠へと降りてくる。
そう言えばさっき、想像もしなかった大きさに震えていた・・・
クラウスの『男』への恐怖と受け入れる事への戸惑いを、虚ろな思考の中、思い出す。
まだ覚悟が決まったわけではない。しかしもう、拒否するだけの体力も気力も私には無い。
きっと私の女としての器はこれで壊れてしまう。最初で最後の情交。クラウスとの交わり。
ずっと望んでいた愛の営み。愛しい人に捧げる、私の身体。
壊れても、クラウスはまたこれまでみたいに接してくれるだろうか。
壊れても、クラウスのモノだけならまた受け入れる事が出気るだろうか。
壊れても・・・クラウスの子を身籠もる事は出来るだろうか。
数多の疑問や不安や、消え去りそうな甘い期待が、タチアナの、白く靄む頭の中を巡る。
結合寸前の下腹部を見るタチアナの両目の端には、零れ落ちる涙の通り道が出来ていた。
クラウスの先端が、濃桃色に濡れる扉の中心に触れ、侵入を始める。
入口がミリミリと広げられ、滑るように押し入ってくる異物感。激痛の前兆。
傘の部分が埋まりきる前に、タチアナの視点は既に結合部から離れていた。
クラウスの顔を見る。クラウスが、語りかけるように何か言っている。何を言ってるの?
怖い。やっぱり怖い。助けて。助けてクラウス。信じていいの?信じていい?信じる。
クラウス、信じてる。信じてる。信じてる。愛してる、クラウス。信じてる。信じてる。
痛い。クラウス、痛い。でも信じてる。痛い。信じてる。クラウス。痛い。痛い!痛い!!
「うぁ!・・・ぁ・・・!」
ゆっくりと、だが確実に。肉の剣が、窮屈に締め付けるタチアナの中へと沈んでいく。
せめぎ合い滑りゆく臓器に、プチプチと何かの千切れる感覚が混ざる。
声を押し殺すタチアナの膝に、クラウスの侵入を拒もうと力が入る。
クラウスを突き放せない手がシーツを掴み、上体の方へ逃げようと藻掻く。
しかし、芯まで気を遣り尽くした直後の身体に、そんな体力が残っている筈も無かった。
タチアナの膝は、クラウスに密着する事しか出来ない。
シーツを掴む手は、ベッドの上を滑る事しか出来ない。
肉体的苦痛に、無意識の内に足掻くタチアナ。しかし、クラウスの沈坑は止まらない。
溢れ続ける涙に潤むその目は、瞼裏の闇、焦点の合わぬ空間、クラウスの顔を映していた。
荒い息を奏でる口は、時として歯を食いしばり、時として呻くような声を絞り出した。
タチアナにとって最初の永遠となる数秒は、その最奥への到達をもって終わりを迎えた。
―――タチアナ。一番奥まで、来たよ。
痺れる程の激痛の中、それでもタチアナの心は既に充足感で満ち溢れていた。
クラウスを受け入れる事が出来た。
クラウスと私は今、一つになっている。
クラウスのパートナーに、私もなれる資格がある。
その満足感は、痛みだけで無く、更に続く行為をも、一瞬、タチアナから忘れさせた。