『愛ゆえに愛する人を取り返しの付かない程損なってしまうことがある。  
それは二度と回復することのない大きな傷として生涯残ることになる』  
 
『そうね。そうかもしれない。でもね、それでも私はその傷を  
抱えたままこの無慈悲な世界で生きてゆかなくてはならないの―』  
 
カヴァレフスキー・コヴロフ 「帝國の黄昏」  
 
長時間締め上げられていた首の骨が悲鳴を上げる。  
汗と体液。うっすらと白い皮膚の上に滲む鮮血。  
暮れかかった晩秋の光が最期の輝きが  
まるで何事もなかったかのように  
汚れきったからだをささやかに照らしていた。  
 
午後から始まった宴は、わたしの失神で終幕を迎えたようだった。  
その後の記憶は無い。  
下腹部に乾いた体液の跡があったから、一応  
達することはできたらしい。  
手首を締めていたロープは解かれ、無造作に放置されていた。  
 
「まるでぼろ雑巾」  
悲しくはなかった。  
むしろ今の自分の姿が滑稽で、思わず吹き出した位だった。  
汚れた下腹部を湿らせた紙で丁寧にふき取る。  
再び水気を帯びた体液が、独特の臭気を発した。  
「これを出せないと終われないなんてね」  
指にアルカリ質特有のぬめりが絡みつく。  
わたしはしばらくの間、裸のまま血さえ拭かず、ただぼんやりと  
指のぬめりを弄んでいた。  
 
この数ヶ月、週末ごとに宴が催され、  
わたしはその度に宴の中心にいた。  
たったひとりのゲストを満足させるために。  
 
最初は恐怖と苦痛。そして、悲しみがわたしを襲った。  
自己嫌悪から何度も自ら命を絶とうとさえ考えた。  
しかし、時が経つに連れ、徐々にではあるが  
深い諦念と、薄明の月のような無感覚が満潮のように  
わたしを包み込んでくれた。  
 
「これでなんとかわたしは死なずに済むかもしれない」  
 
安らかな安堵感。  
少なくとも来週末まではわたしは生きているだろう。  
来週までは・・・・。  
 
「お願いだから、やめて!」  
殴打された右頬が酷く痛む。両手首はロープできつく縛られ、  
そこから血が滲んでいる。  
「もう抵抗しない。黙ってうけいれるから・・・。」  
手首を締め上げたロープがきつく締めあがる。  
「ぐぐうぅぅ・・はああっつ」  
「やめて、やめ・・て」  
そして、ロープの端を古いベッドの金具に結ぶ。  
わたしのからだはベッドの上で身動きできない状態になってしまった。  
「タチアナ、お前のような女はな、」  
「もう、我がヴィスラ家の娘でもなんでもない」  
「屑のようなメス犬が!」  
 
「そんな事言わないで、お父様!」  
「お・・・願い・・・」  
今度は左頬にきつい平手が飛んだ。目の前が一瞬真っ白になる。  
その返す手で父はわたしインナーシャツに手をかけた。  
胸ぐらをつかまれたかと思うと、たちまち薄手のシャツは  
無残に引き裂かれてしまった。  
 
「嫌あっ・・・・・・・」  
わたしは恥ずかしさと恐怖で、露になった胸を必死に隠そうとした。  
「・・・・・・・」  
「タチアナ、今どんな気持ちだ?このヴィスラ家当主、そして  
お前という存在を、この世界にもうけた実の肉親に愛されるのは」  
父は全く感情のない声で静かに問いかけた。  
 
「愛しているのならどうしてこんなにも酷いことをするのですか?」  
 
「お前を愛しているからだ」  
 
父の視線はわたしを眺めてはいるものの、実際には  
わたしではないどこか遠くの何かを見つめているようだった。  
 
春の終わり。暖かいと言うにはいささか暑すぎる日差しが  
部屋に射し込んでいた。  
光が部屋の中で奇妙に拡散してうすぼんやりとフィルターが  
かかったように全てが白っぽく飛んで見えた。  
 
だけどこれはもしかしたら殴打された時に視覚が少しおかしく  
なってしまったからかもしれないけれど。  
 
長い間、父は黙ってわたしの姿を眺め続けた。  
そして、おもむろにわたしの白い小さなショーツに手をかける。  
この前は父がショーツに手をかけた瞬間、  
わたしは反射的に足を跳ね上げ、父の顎を蹴り上げていた。  
その直後、わたしは気を失ってしまうくらい父に打ちのめされていた。  
だからわたしはもう抵抗しないことにした。  
そうしないと、父は本当にわたしを・・・・。  
 
年老いた初老の男が、15歳にもなってない少女の、  
しかも実の娘の淡い茂みをかきわけ、小さな割れ目に舌を這わせる。  
それは、おぞましくもあり、滑稽で、そして余りにも寂しい光景だった。  
 
父の指がわたしの割れ目を押し広げて尿道のあたりを  
強く刺激した。何かを確かめるように、丹念に指でヴァギナを撫で回すと、  
おもむろに、舌を差し入れてくるのがわかった。  
 
「ひ、あっ・・・」  
ぴちゃぴちゃ・・・・。ゆったりとした舌の動き。時折、茂みの  
中から、吐息ともつかない人いきれが聞こえる。  
「・・・・・・・」  
「・・・・あ」  
 
「まだ小娘の分際で・・・濡れてきおった」  
「本当に下賤の血が流れているとしか思えんなお前は」  
本当に父は嬉しそうにわたしを罵る。  
こんなに喜びに満ちた父の姿を、わたしはこれまで  
見たことがあっただろうか・・・・。  
それは、わたしを辱めることによってのみ、喜びを感じ、  
愛することができる、哀れな男の姿だった。  
 
父の中にある卑屈で惨めな魂は、悪意という狂気をもって  
わたしを損なうことに救いを見出していたのかもしれない。  
荒ぶる魂が、自らの苦悩を静めるには、己のなかにある  
大きな問題と同じ根を持つ愛する者の  
何かをもってしか救うことができないから。  
 
何故ならわたしを酷く打つ手が、浴びせかける罵りが、  
嫌な臭気を発する体液が、それらの父という存在を織り成す  
全ての行為に、これまで一度たりとも見たことのない父の  
わたしに対する深い愛情が感じられた・・・。  
 
「タチアナ、このわたしが欲しいか?」  
「・・・・・」  
「さあ、わたしが欲しいと言え」  
「わたしと深く交わることによって真の救済が  
得られるのだと・・・」  
父は、右手でわたしの胸を掴みながら、もう一方の手で、  
茂みからクリトリスにかけて無造作にまさぐっていた。  
だがそのようにぞんざいに扱ってはいたものの、  
父は直接指を挿入するようなことは決して無かった。  
「・・・・・・お・父様・・」  
「わ・た・・しに・・・・、・・慈悲を」  
このひと言が全てを決めた。  
父の表情からほんの一瞬、あの深い苦悩の闇に一条の光が見えた。  
 
「・・・・・わかった」  
父はおもむろにズボンのベルトを外し、下着姿になる。  
そしてわたしの隣に腰掛け、手を縛っていたロープを解いた。  
「タチアナ、このわたしが救ってやろう」  
「・・・・・・」  
「お前のように何も価値の無い下賎な者には」  
「こうすることによってしか」  
「救われる道はない」  
そう言うと父は下着から屹立したペニスを取り出すと  
有無をいわさずくわえさせた。  
 
「んっ・・・・・」  
口の中いっぱいに嫌な味が広がる。  
塩分を含む体臭を煮詰めたような酷い臭気は、  
思わず胃の中のものを戻してしまいそうになる。  
「んはあっ・・・・、んんうっ」  
「丹念に、磨き上げるんだ」  
「・・・・ぐう・・・はああっ」  
時折、頭をはたかれる。  
「つっ!歯を立てるなといっただろう」  
「・・・・・・・」  
この瞬間に何度も父のペニスを根元から噛み切ってしまおうかと  
思った。そうすれば、わたしはこの悪夢から解放されるのに。  
 
だが、できなかった。そもそも父自身もこのように自分が  
一番無防備な状況にあるというのに警戒していなかった。  
この瞬間、これまで自ら陵辱し、欲望の犠牲にしてきた愛娘が、  
のどの奥までくわえ込んだペニスを噛み切ったとしても  
何らおかしくなかったというのに。  
 
「タチアナ、お前はよくやっている」  
「やはりヴィスラ家の長女、いや、わたしの娘だな・・・」  
「愛しきタチアナよ」  
父はそう言うとさんざんわたしを打ち据えてきた右手で、  
上下するわたしの頭を優しくなでてくれた。  
「・・・・・・・・・」  
 
わたしが父のペニスを噛み切るには余りにも  
タイミングが遅すぎたようだった。  
もう、わたしに父を殺すことはできない。  
 
わたしはもう一度ベッドの上に寝かされた。  
「さあ、足を開いて・・・」  
言うとおりにする。  
そして、おもむろに横になっているわたしの腰を抱え上げた。  
わたしの下半身は宙に浮くような格好になった。  
 
父はゆっくりと、わたしの股間に自身を重ねてきた。  
何度経験してもこの瞬間だけは怖い。  
いつも思わず足を閉じてしまいそうになる。  
 
しかし、父はわたしに足を閉じさせる暇など与えずに、  
すばやくペニスをあてがった。  
 
「・・・・・・・お父様・・・はうっ・・」  
父はわたしの湿ったヴァギナの上でペニスを何度も  
こすり上げた。  
長く太いペニスが何度もヴァギナの上をスライドした。  
しかし、父は最期に交わった時まで一度もペニスを  
ヴァギナに挿入することはなかった。  
 
時折父が満足げな嘆息を小さく上げている。  
上気した初老の父の姿。何歳も若返ってさえ見える。  
わたしは感慨深くその姿を眺めた。  
 
「まるで、あのころのよう・・・」  
父はもうわたしが何を言っても聞こえていないみたいだった。  
「かつて、近衛艦隊の旗艦に座乗していたころの・・・」  
父の姿がそこにはあった。  
いつも優しく、愛情に溢れ、不正を憎み  
公正を自身に厳しく課していたあの父が。  
だが、不慮の事故により多くの部下を失い、自身も大怪我を負った。  
そして事故の責任者として責任を取らされ、結果強制的に  
退役せざるを得なくなった。貴族としてのヴィスラ家の名も地に落ちた。  
以来、父は塞ぎこみ深酒に溺れ、母やわたしたち家族に  
つらく当たるようになった。  
 
「・・・・パパ・・」  
ふいにわたしの頬を涙が伝った。  
「もう・・・・いいのよ」  
父の息が激しくなる。  
「お願いだから・・・」  
 
その時これまで目を閉じていた父が目を大きく見開き、  
無言でわたしを見つめた。  
しかしその目はとても平板な、奥行きの無い奇妙な色を  
湛えているだけで、そこにかつての父の姿は無かった。  
 
もうあの頃の父はいない。  
既にそれは激しく損なわれてしまったあとだった。  
そして、そこには初老の、荒みきった荒野を  
自らのうちに抱えた惨めな男しかいなかったのだ。  
 
わたしはとても切ない気持ちになる。  
こんなにも酷い陵辱にあっているのに、  
こんなにも酷く損なわれているというのに、  
こんなにも酷く愛しているというのに・・・。  
だが、全ては遠い彼方に消えてしまっていた。  
 
「さあ・・・タチアナ、受け取りなさい」  
「・・・パパ」  
「これが、わたしのしてやれる唯一の救済・・・」  
「はあうっ・・・!!」  
 
今でも父のことを思い出すと、損なわれたわたしの魂は強く彼を憎む。  
そして、同時に同じくらい彼のことを愛している自分が  
いることにも気が付く。  
父と娘との間で、本当なら起こるべきではなかったことが  
あった故に、わたしは初めて彼の内にある荒廃を知った。  
そして、その荒廃は、わたしの知っていた世界そのものであったのだ。  
 
涙は途切れることなく流れ続ける。  
それは、もはや失われてしまった日々に手向けられた  
レクイエムのようだった・・・・。  
 
『いつもそこには父親なるものがいる』  
                
There will aiways be a father.  
 
ゲイリー・ギルモア 末期の言葉より。  
 
マイケル・ギルモア 「心臓を貫かれて」  
 
終わり  

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