「うわ!」  
 吹っ飛ばされた。鳥に。  
 受身も取れずに地面に顔から突っ込んだため、口の中に砂が入ってしまった。  
 あれだけ大声を張り上げてなんとか鳥を捕らえようとしたのに、これじゃ恥ずかしすぎる。  
 僕は照れ隠しのために、すぐには起き上がらず、そのままの姿勢で砂の上を滑ってみた。ズザー。  
「クラウス!」  
 タチアナさんが僕を呼ぶ。心配してくれているのだろうか。  
 そうだ。鳥は。  
 肝心な事を思い出した僕は、急いで顔を上げた。  
「…」  
「…」  
 唇が重なった。  
「ごめんなさい」  
 即謝罪してみた。  
 タチアナさんは一瞬呆然として、すぐに顔を真っ赤にした。赤は怒りの感情色。  
 先の展開が読めたので、僕は『覚悟』することにした。『覚悟』は幸福なことだと思う。  
「がっ!」  
 グーで殴られた。パーだと思ったんだけど。チョキよりはマシか。  
 タチアナさんは僕を殴った後、肩を怒らせながらどこかへ去っていった。  
 
 夜。砂漠の夜は寒い。今夜は特に。  
 本当に命に関わるほどの低温環境だったので、僕とタチアナさんは身を寄せ合って寝ることにした。  
 二人でヴァンシップに寄りかかって、毛布をかぶる。  
 もちろんタチアナさんは頑として拒否し続けたけど、僕の必死の説得によって今に至る。  
 
「何かしたら本当に殺すわよ」  
 そう言って、タチアナさんは僕が手渡した折りたたみナイフで僕の首を突っついた。  
「わ、分かってますよ。だからそれ渡したんでしょ?」  
 タチアナさんは膨れた顔をすると、ナイフを畳んで胸ポケットにしまった。  
 ため息をついて目を閉じるタチアナさん。僕も寝ようと努めるが、不可能。  
 隣に女の人がいる状態で眠れるほど、僕は大人じゃないのだ。  
 それでもなんとか目を閉じてみる。数十分もそうしていると、さすがに眠くなってきた。  
「クラウス…」  
「あ、寝てなかったんですか?」  
 僕がそう尋ねると、タチアナさんは恥ずかしそうに言った。  
「隣に男がいて平気で眠れるほど、私は大人じゃない…」  
 ん、デジャブ?  
「クラウス…」  
「なんでしょう」  
「帰れるかな、私たち」  
「……タチアナさんは帰りたいですか?」  
「当たり前だろう!」  
「じゃあ、帰れますよ」  
「…」  
 タチアナさんはそこで黙ると、なんと僕の方に体重を傾けてきた。リアクションに困る。  
「…」  
「…」  
 二人ともなにも語らない。でも、なんだかタチアナさんの気持ちが流れ込んできて、僕の気持ちも相手に流れて…。  
 僕たちは、今度は同意の上、唇をあわせた。  
 柔らかい。ここのところ水分を取っていなくて、少しかさついているけど、それでも。舐めたら溶けてしまうのではないだろうか。  
 僕は舌をゆっくりと差し出した。唇に触れる。水分不足な部分を潤すように、舌で撫でた。  
「ぁ…」  
 タチアナさんは声を漏らして、僕の背中に手を這わせた。  
 僕は唇の味を堪能して、今度は口内に差し入れた。すると、彼女も舌を差し出してきて、僕たちの舌は重なる。  
 その瞬間に彼女はビクっと体を震わせたけれど、すぐに唇全部を僕に押し付けてきた。ギュっと抱きしめられる。  
 
「ん…んふ…は、ん…」  
 舌を絡ませる。唾液を交換して、飲みあう。僕たちの口の隙間から少し零れて落ちた。  
 とろけそうだ。タチアナさんはすごくキスがうまい人なんだな。どれくらい経験してるんだろう。  
 そうしてしばらくお互いに舌を貪っていると、タチアナさんの方から唇を離した。  
 彼女の口の周りは、二人の唾液で濡れている。僕の口も。  
「…長い」  
 タチアナさんは不満そうに言った。  
「…すいません」  
 僕は謝って、口の周りを袖口で拭いた。そして、迷う。  
「あの、いいんですか?」  
「…何がだ?」  
「その、えっと…しても」  
 僕の言葉に、タチアナさんは顔を朱に染めた。月明かりがソレを蒼く光らせて、不思議な色合いになっている。  
 しばらく俯いていたタチアナさんは、僕の顔を見ずに言った。  
「…今日は、寒いからな」  
 よく分からないが、いいということらしい。そこで、僕は重大な事実に気がつく。  
「僕は初めてなので…よろしくお願いします」  
 一番最初の人がタチアナさんか。文句なしだ。  
 そして僕は服を脱ごうとして、タチアナさんの驚いたような表情が目に入った。  
「…なんですか?」  
「うそ…」  
「は?」  
「はじめて、なの?」  
「ええ、まあ。生まれてこの方、そんなチャンスが無かったもので。モテないんですよ、基本的に」  
 なんか誰かの前だったら怒られそうなセリフを自分で言った気がする。  
「そんな…だって、さっきのキス…」  
「キスがどうしました?」  
「…その、上手だった…」  
 褒められてしまった。  
 
「はあ…いや、必死だっただけですよ。それに、タチアナさんがリードしてくれた感じだったし」  
 そう言うと、タチアナさんは複雑な表情をした。  
「タチアナさん?」  
「な、なんでもない! さ、さっ、さっさと脱げ!」  
 何故か怒っているので、僕は言われるまま服を脱ぎ始めた。脱ぎにくいつなぎを脱いで、下着一枚になった。  
 というか、寒い。むちゃくちゃ寒い。早く温まりたい。  
 しかし彼女はモゾモゾと、時間をかけて脱いでいた。  
「あの…寒くて死にそうなんですけど…」  
「わ、分かってる!」  
 タチアナさんはそう言って、怒りながら服を脱いだ。  
 ベタな表現だけど、僕たちは生まれたままの姿に。  
 僕は寒さと興奮で、すぐにタチアナさんを抱きしめた。  
「あ…」  
 あたたかい。柔らかい。いいにおい。三拍子そろっている。  
 僕は我慢できなくて、背中に回していた手を彼女のお尻に持っていった。  
「ひゃっ!」  
 タチアナさんは素っ頓狂な声をあげると、目を見開いて僕を見た。  
「……」  
 しかし何も言ってくれない。僕はかまわず、彼女のお尻をなでた。  
 赤ん坊のようにスベスベしていて、少し力を込めると、信じられないくらいの柔らかさだった。  
 彼女を砂の上に寝かせる。僕はその上に覆いかぶさって、しっかりと毛布をかけた。  
「え…と…」  
 何をすればいいんだろう。分からないので、素直に聞いてみた。  
「何をすればいいんですか?」  
 質問が悪かったのか、タチアナさんは顔をカッと赤く染めて怒鳴った。  
「そ、そんなの、知るか!」  
 知るか、と言われても。僕が悩んでいると、タチアナさんはため息をついて、小さな声で言ってくれた。  
「だから、その…触ったり…」  
 そうか。触ればいいのか。どこを? と聞くと流石に殺されてしまいそうなので、勢いでいってしまうことにした。  
 まず、形のいい乳房を視界に入れる。大きくはないけど、決して小さくもない。  
 胸の筋肉が発達しているからか、寝ていても形が崩れず、お椀の形を保っている。  
 そして先端には、暗くてよく分からないけど恐らくはピンク色の蕾がぷっくりと乗っかっていた。  
 
 手を伸ばす。触る。驚く。  
「なんでこんなに柔らかいんですか?」  
「う、うるさい!」  
 また怒鳴られた。確かに調子に乗りすぎたと思う。  
 力を入れる。簡単にひしゃげる。ムニムニと柔らかく、それでも指を押し返すこの弾力。  
 経験がないのでこれでいいのかどうか。  
 僕はこの際あまり気にしないことにした。今度は唇を伸ばす。  
「あ…」  
 タチアナさんが声を漏らす。気持ちいいいのだろうか。  
 僕は勝手に解釈して、乳輪を舐めたり、乳首を吸いたててみたりした。  
「んぁぅ…ゃぅ…ぁっ…」  
 猫みたいだ。  
 僕はしばらくそうして、目線を下に下げる。  
 彼女の髪の色と同じ茂み。申し訳程度に生えているけれど、  
 彼女の一番大事な部分を守っているかのようにその存在感を示していた。  
 指先で軽くその部分をなぞる。  
「ふゃ…」  
 さわさわしていて柔らかい。僕は本当に彼女が猫なんじゃないかと思えてきた。  
 ならその奥。茂みに覆われていて、ピッチリと閉じたその門。  
 結合部分をなでるように触って、少しだけ指を押し込んでみた。  
「うわあ…」  
 感動する。少しだけのつもりなのに、指がどんどん埋まっていく。  
 少しだけ水気のある感触がして、僕は指をタチアナさんの眼前に晒してみた。  
「これが濡れるってことですか?」  
「…ゃぁ…」  
「タチアナさん?」  
「恥ずかしいよぉ…」  
「…ご、ごめんなさい…」  
 
 泣き出してしまった。  
 僕はそのことに驚いて、それでいて彼女が何時もの彼女じゃないみたいに思えて。  
「ほんとうに、ごめんなさい」  
 真剣に謝った。そして、彼女の涙を唇で拭う。  
「ぁ…」  
「好きです、タチアナさん」  
 僕はそう言って、彼女の秘所へ顔を埋めた。  
 もはや毛布はその意味をなさず、僕たちの横に落ちた。  
「あ! ゃ、クラウス!」  
 舐める。猫が自分の体毛を舐めるように、僕はタチアナさんの茂みを舐めた。  
 甘い香りが僕の鼻を刺激した。  
 段々と僕も興奮してきて、指を使って彼女の堅く閉じられた門を開いてみた。  
「あ、広げたらだめ…」  
 あえて無視。  
 想像していたよりグロテスクだった。  
 でも、僅かな月の灯りでさえ分かるような、鮮烈な肉の色。  
 とても複雑な形をしていて、絵にかけ、とか言われたら絶対に無理だった。  
 中身を舐める。  
「んあ、やぁぁ!」  
 不思議な味。女の子そのものの味。  
 舌先に感じるおうとつ感は、僕の性器をいやがおうにも反応させた。  
「だめだ、我慢できない…」  
 僕はそう呟くと、いきりたったそれを彼女の膣に擦り付けた。  
「え、や、だめ! そんないきなり…!」  
「ごめんなさい、でも早くタチアナさんを愛したいんです」  
 彼女の中に入りたかった。そして思い切り抱きしめたい。  
「いきますよ…」  
 僕は緊張しながら、彼女の膣の中へと、入り込もうとして。  
「初めてだから、優しくして」  
「はい……………はい?」  
 
 彼女の顔を見る。恥ずかしそうに横を向いていた。  
「タチアナさん、しょ、処女なんですか?」  
「そ、そうだ。だって、しょうがないだろ。私は立派なアナトレー軍人になるために、日々精進して…」  
「出会いがなかった、と」  
「…うん。あ、言っておくが、体だけじゃないぞ、そ、その、キスだって…」  
「でも、あんなにうまかったのに」  
「それは、こっちのセリフでもあるのよ?」  
 確かに。っていうか、初めて同士でうまいとか分かるのか。  
「…なんか、いいんですか?」  
「なにが?」  
「初めてが、僕で」  
「…」  
「こんな状況だから、もしくは、墜落したのが自分のせいだと思って、こんなことしてません?」  
「…」  
「もしそうだとしたら、僕はあなたの事を抱けないし…少し、不愉快です」  
「! ち、違うの!」  
 彼女の思ったより大きい声が夜の砂漠にはじけて消えた。  
「これは全然、責任感とか、罪の意識とかじゃなくて」  
 たどたどしく言葉を紡ぐタチアナさん。  
 まるで小さい女の子みたいな表情で…あ、また泣き出しちゃった。  
「ぅぅ、だから、あなたと、ひぅ、こう出来るのが、嬉しくて、ぅ」  
 僕は彼女の目から止め処なく流れる涙を、指で拭った。きりがない。  
「あなたがぁ…好きになってしまったみたいなんだぁ…!」  
 告白されてしまった。  
 なんだか僕もさっきは雰囲気だけで告白した感があるけど、  
 これって一応両思いってことでいいのだろうか。  
 なんだか、急に彼女がかわいく思えてきた。  
「あ…」  
 抱きしめる。あたたかい。やわらかい。いいにおい。  
 彼女の唇に、僕の唇を押し当てた。  
 
 舌を使わないソフトなキス。  
「タチアナさん…」  
 僕が呼びかけると、彼女はだだをこねるように首を横に振った。  
「タチアナって呼んで…!」  
「…タチアナ」  
 すると彼女は納得して、自ら足を開いた。  
「…いくよ」  
「…おおきい…」  
 彼女はそんな事を呟いた。  
「…大浴場にはいると、注目されます」  
 と、なぜか自分でも分からないが自慢話。自分話か?  
 僕はそこで会話を打ち切って、自らのものを握る。  
 パンパンに張り詰めて、いつもより一回りくらい大きいかもしれなかった。  
 慎重に、先ほどのように僕自身を彼女に押し付ける。  
 熱い。  
 僕の下腹部を彼女の下腹部に押し付けるように、狙いを定めて押し込んでいった。  
「く…ふぅ」  
 埋まっていく。先端が、そして、その先も。  
 本で読んだみたいに何かを引きちぎる感触っていうのはなくて、  
 ただ特別に堅い部分を抜けた感じがあった。  
「う、う、うぁぁ…」  
 タチアナさん、タチアナは、堪えきれずに声をあげた。  
 さらに押し込む。ぷりぷりと、ゼリーのような感触がして、なおかつギュウギュウと締め付けてくる。  
「入った…」  
 思わず呟いてしまう。  
 入り込んだ部分は、痛々しく広がっていて、少しだけ出血していた。  
「大丈夫?」  
「く、すごく痛い。でも…ぁ、うん、なんだか、切なくて、嬉しくて…」  
 彼女は涙を浮かべながら、そう言って微笑んだ。  
 僕は堪らなくなって、少しずつ出し入れした。  
 
「あ…ああ…」  
 苦痛に顔を歪めるタチアナ。  
 でも、ひしと僕に抱きついて、離れない。  
 僕もなんだか抑制が効かなくなって、少しずつ強く、彼女の中に出入りした。  
「あ、ああ、う、あ、あ、あ、…」  
 柔らかい。なんだかこの世のものとは思えないほどの柔らかさ。  
 デコボコした膣内が、僕の性器を丹念にしゃぶりあげ、撫でる。  
 一言で言うと、  
「気持ちいい…」  
 思わず声にだしてしまった。かなり恥ずかしいが、タチアナはそんな僕を見て、また笑った。  
 その笑顔を見ていると、なんだか僕はきゅんとなって、それから慌てた。  
「く、だめだ、そろそろ…」  
「あ…クラウス、あの…」  
「大丈夫、中には…」  
 僕はゆっくりと彼女の中から引き抜いた。  
 出てしまうかと思ったが、なんとか。  
 僕の性器はさっきよりもさらに張り詰めて、ぬらぬらと月明かりを反射していた。  
 僕が息を荒くしていると、タチアナさんは僕の性器に口を寄せた。  
「!?」  
「…はむ」  
 咥えられる。口内で舌を先っぽあたりに這わしてくる。  
 だめだ。耐え切れない。  
「タ、タチアナ…!」  
「え?」  
 僕の声に反応してタチアナさんは口を離した。  
 けれど、もう限界だった。  
「わ、きゃ…!」  
 絶頂。僕の性器は大量の白濁液を吐き出して、彼女の顔を汚した。  
 
「んぁう…そんな…」  
 彼女はどうしていいのか分からず、ただ顔についた体液を指で少しずつすくっている。  
「ご、ごめんなさい!」  
 僕は慌ててヴァンシップからタオルを取り出して、彼女の顔を拭った。  
 
 月明かりの下で、僕たちは眠る。  
 今度は毛布をしっかりとかけて。  
「私たち、帰れるよね」  
 ふと、タチアナが言った。  
「タチアナは、帰りたい?」  
「…うん、あなたと一緒に」  
「僕もだよ」  
 寒い砂漠の中。  
 僕たちは身を寄せ合って、眠りについた。  
                            完  
 
 
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