「明里ちゃんにならフラれてもいいって、お兄さんは思ったんですよ」
私を膝の上に乗せてそっと抱きしめてくれながら、告白してくれた時、
ずっと心の中で抱えていた想いが溶け出して、嬉しくて涙が出てしまった。
そんな私を可愛いと言って朝まで愛してくれた事、
思い出すたびに一人で顔を熱くしている。
あれから2週間、今日は私のバイト終了に合わせて、
万里さんがジムでのトレーニングを早く切り上げてくれ
久しぶりに会えることになった。
お疲れの万里さんのために、今日は私が夕飯を作る約束。
バイト帰りの買い物に手間取り、約束の時間が迫ってしまった。
時間が気になり、スーパーを慌てて飛び出したら、
雨がポツポツ降り出している。
「えっ、どうしよう・・・」
一瞬悩んだけれど、万里さんのおうちはここからすぐだし、
強い降りではなさそうだから思い切って走り出す。
いつもならのんびり歩いて5分の道のりも、視界が悪いし、
傘を差し始める人の流れに遮られて、思うように進まない。
(ああ、せっかく新しい服着てきたのに〜)
そのうち、どんどん雨の降りが強くなって、
マンションにに着く時にはかなり服が濡れてしまった。
「明里ちゃん?」
部屋の前まで来たら、玄関にジャージのままの
少し息の上がった万里さんが立っている。
きっとトレーニングが終わってそのまま帰って来たんだろう、
と思っていたら、万里さんがちょっと怒ったような顔で
私にがばっと抱きついて来た。
「ちょっ、ちょっと万里さん、何?」
いきなり抱きしめられ驚いた私が、その腕から逃れようと藻掻いても
万里さんの腕は更に強く私を囲って行く。
「その格好はダメだよ」
「えっ?」
万里さんがダメ出し?新しい服、気に入らないのかしらなどと
考えていたら、
「ブラが透けてる」
と耳元で言われてしまった。
薄くて柔らかい素材のオフホワイトのチュニックが
そんな事になっているとは。
全然考えていなかった私は、あまりの恥ずかしさに
呆然となって固まってしまった。
目を合わせられない私に、万里さんはいつもの柔らかい声で
「そんな姿、俺以外に見せないでよ」と、片方の腕だけで
私の体を抱えるようにしながら、鍵を開けて中に入れてくれた。
「私、遅くならないように夢中になってしまって・・・」
「俺こそごめん、雨が降り始めたのだから、
迎えに行けばよかったんだよね。でも今日に限って携帯忘れて、
行き違いになるかな、とも思ったし。気にしないで、
俺こそ言い方が悪かったよ。」
好きな人の目の前で、なんてみっともない姿なんだ。
体を隠すように腕を組み背を丸めながら、自分への怒りと
恥ずかしさで言い訳をし始める私に、
万里さんは先程とはうって変わって朗らかに私を慰めてくれた。
一頻り自分への呪詛の言葉を心の中で投げかけ、
おかげで落ち着いてきた私をよそに、万里さんは忙しなく動き回り、
部屋を暖めたり、タオルを出して来て髪を拭いてくれている。
毛先の方の滴を拭くため、少し屈んだ万里さんの頭が目の前に来て、
あまりの近距離にドキドキしてしまう。
ふとみると、万里さんの髪も濡れているようで、思わず手を伸ばして
触ってみた。
「うっっわ、何してるんですか、あなたは!」
いきなり触られて驚いた万里さんは、そのまま後ろに仰け反って
一歩離れてしまった。
「ご、ごめんなさい、万里さんの髪も濡れているのかと思って・・・」
いきなり過ぎたかと、小さな声で呟きながらますます
私は小さくなってしまう。
「ああ、俺のはほとんど汗だから。ジムから直接来たし」
やっぱりな、きっと私を待たせないように急いで来てくれたんだ。
雨が降って冷えているから風邪ひいたら困るのに、
万里さんはホントに優しいんだから。
「明里ちゃんを待たせないように、と思ってシャワー浴びずに来たん・・・
そうだ、一緒にお風呂に入ろうよ」
そうね、それなら私も万里さんもすぐ暖まって・・・ってええっ!
万里さんの気遣いに心を打たれて、ジーンとしてる間に、
彼の衝撃の発言をあやうく聞き流してしまうところだった。
「じゃあ、早くお風呂、お風呂」
「ちょっと待って! 無理、無理ですから!」
「な〜んで?」
「いや、察して下さい」
「だからな〜んで?」
抵抗する私を引っ張りながら、彼はどんどんバスルームに近づいてゆく。
いよいよ脱衣スペースに入り、服を脱ごうと手を離した彼の隙をつき、
私はもう一度逃げだそうとした時、
「どこ行くの?」
しっとりとした彼の体が、私を包んで来る。
一瞬で私たちの体温が交じり合い、私は動けなくなっってしまった。
「こんなに冷たい体、早く温めないと風邪引いちゃうよ」
「恥ずかしいです…」
消え入りそうな、辛うじて出せた声で呟いてみる。
その瞬間いきなり体が回転し、万里さんの胸の辺りが正面に来たと思ったら、
俯いた私の顎に手をかけ上を向けると、彼は唇をふさいだ。
「う・・・う、ん」
万里さんの唇はいつも、私の気力も意思も吸い取るように力強く熱い。
唇を合わせ、舌を絡められるとゾクゾクッとして背筋に電気が走り、
私の頭の中まで沸騰してもう何も考えられなくなった。
唇を塞ぎながら、彼の手は私の体をそっと撫で始め、
切ない声を上げ始めた私に満足げにそっと唇を離した。