「全世界の愚民共よ、今こそラピュタの科学力の前に跪く時が来たのだ!」
高らかにそう言い放ったムスカのせせら笑いが『飛行石の間』に響き渡った。
それを少し離れたところから聞いていたシータは険しい視線を彼に送っていた。
ラピュタが発見されてから約2ヶ月。全世界にムスカの世界征服宣言が公布され、
それに反抗すべく数カ国の連合艦隊がこの空の島に攻め入ってきたがいずれも敗退していった。
ムスカは名実共に人類の王となったが、その居城であるラピュタに現在生活しているのは
彼ともう一人の少女二人だけであった。二人は古代ラピュタ文明の最後の子孫であり
王家の直系と分家の生き残りであった。
「君もいい加減、反抗的になるのはやめたまえ。我々は既に至尊の冠を戴いているのだ。
これからはラピュタ人と非ラピュタ人という図式が世界を支配することになる。つまり
征服民と被征服民という図式だ。わかるかね?君はその征服民なのだよ」
ラピュタ最後の王女シータはムスカの言葉には感知しなかった。彼女の関心はこれから
支配されるだろう地上の人々の安否と、そして一人の少年の消息だった。
自分のために命を賭けてくれたパズーの消息をシータは知らなかった。おそらく自分を
助ける為にあの時もラピュタにいたのだろう。だがそれからどうなったのか、無事でいるのか
それとももはやこの世に居ないのか、それすらシータはわからなかった。ドーラたちの消息も
また同様である。シータが心の中の少年に思いを馳せていると、ムスカはおもむろに近づいてきた。
「君ももっと私に協力的になってくれればこんなものは外してあげられるのだがね」
ムスカの手がシータの手に触れた。少女は手を後ろに縛られていた。それも何重にも
縄がかけられて完全に緊縛されている。この二ヶ月間シータが何度もラピュタからの脱出を
謀り、そして失敗した結果であった。ムスカはシータに顔を近づけ目線を合わせた。
目を逸らしてやりたい衝動を抑えてシータは彼を正面から見据えた。彼女はこの男の視線が
初めから嫌いだった。全身を蛇のように絡め取るこの男の視線はそれだけで底冷えする
おぞましさがある。シータは少女とは思えぬ落ちついた声を吐き出した。
「征服民になってどうするの?ここで生活していくのだって大変だわ」
「女官を下の連中から献上させればいい。工夫に限っては上層部の復旧作業にラピュタへ
上がる事を許可してやるつもりだ」
「食料はどうするの?」
「それも献上させれば済むことだ」
「わたしをどうするの?」
「言ったはずだがね、私に協力すれば君は私と同じ征服民として遇される資格があるのだよ」
「何に協力しろと言うの?」
「わからんかね?君はもはや最後のラピュタ人の末裔だ。私と同様にね。
その君にわたしが望む事といったら一つしかないと思うがね」
ムスカの瞳に不気味な光を見た直後、シータは服を彼の手で引き裂かれた。
おぞましい驚愕がシータの全身を突き抜けた。
「いやあああああああっ!!」
咄嗟にムスカと距離をとろうとしたシータは、しかし足元の草の根に躓いて倒れてしまう。
床に広がる水がシータの背中を濡らした。ムスカは彼女に覆い被さり、シータの残った衣服を
次々とちぎっていく。男の高笑いとそれに対抗する少女の悲鳴がコダマした。
「いやあっ!いやあああああっ!!」
「ははははっ!もっと叫びたまえ!誰も助けには来れまい!」
シータの脳はたちまちウイルスに感染されたように恐慌状態になった。必死に体をよじるが
そもそも腕が使い物にならないのでムスカの魔手から逃げられない。そうしているうちにシータの
小ぶりではあるがはっきりと輪郭を打ち出している幼い胸が露になった。そしてズボンも
剥ぎ取られ、全裸にさせられてしまうとムスカの両手がシータの胸を握り締めた。
「きゃああああああっ!!」
「はははっ君の胸はまだこんなものかね!?」
そのままムスカは乱暴にシータの小さな胸を揉んだ。あまりに乱暴に握り締めたまま揉まれて
シータは痛みと凄まじい悪寒に身悶えた。
「いやああっ!いやっいやっやめてええええっ!!」
そしていくらも胸を揉まないうちにムスカは少女の股の間に手を滑りこませ、いきなり指を
幼い穴に突き入れた。激痛がシータの全身に走った。
「あああああっ!!」
なんの下地も無しに指を入れられたシータの体はあまりの圧倒的な痛みに痙攣した。
そんな彼女にもとより構う気のないムスカはさらに指を少女の中に押しこんでぐりぐりと
えぐった。シータは拷問を受ける虜囚のように苦悶し絶叫した。
「くああっ、あああっひいいっあああああっ」
哄笑を響かせながらムスカはシータのまだ幼い秘口を蹂躙した。
「あの小僧とはこういったことはしなかったのかね?え?どうなんだねリュシータ王女!」
激しい苦痛に全身が麻痺していくなかシータはパズーの顔を思い浮かべた。たった三日しか
一緒にいなかったパズー。それなのに全てを賭けてくれたパズー。シータの恋うる気持ちと
救いを求める心がパズーに向かってほとばしっていた。
しかしそんな彼女を救えるものはなにもなかった。ムスカは喉が枯れるほど悲鳴をあげる
シータの口に彼女のおさげ髪を突っ込んだ。
「舌を噛んで死なれては困るのでね。君にはこれから山ほど子供を産んでもらわなければ
ならない。崇高なラピュタ人の純潔種をな!」
ムスカはいつのまにやら奮い立たせていた男の証をシータに突き入れた。
少女の体は一度大きく痙攣し、その後全く動かなくなった。
「これがラピュタ人の×××かぁ!!すごいっすごいぞぉっ!はははははははっ!!」
ムスカの腰がシータの腰を何度も打った。シータは目を見開いたまま涙を流し、
時折、瀕死の魚のように口をパクパクと動かすだけの四肢となった。
ムスカに処女を踏み荒らされながら、薄れていく意識の中でシータはパズーを想った。
『シータ!待ってろ!!』
(パズー・・・・・・)
ムスカが人類の王になってから二年経った。その間、地上はラピュタへの献上品を
生成するだけの畑と成り下がった。何度か各国の艦隊が編成隊を組んで天空の城へ
攻撃をしかけたが、『ラピュタの雷』と戦闘用ロボット兵の前に虚しく破れていった。
空を見上げるたびパズーが思うのは「あの虚空の向こうにシータが居る」という
望みだった。二年前、シータを奪われたまま助けることのできなかったパズーはいま
彼女を助ける為だけに生きていた。彼は炭坑には戻らずそのままタイガーモス号の乗員
となった。そしてドーラたちから戦闘技術を習い、海賊稼業に参加した。それは海賊に
なることが目的なのではなく実戦技術を磨くためだった。彼はいつかシータを奪い返す
時のために自分を鍛えた。不思議と軍隊に入る考えは浮かばなかった。巨大な組織の中の
一粒になってしまってはかえってシータから遠ざかってしまう気がしたのだ。
「パズーや、お前に言っておく事があるよ」
8ヶ月ぶりに各国の連合艦隊が再びラピュタへ侵攻するという情報を手に入れたドーラは
それに合わせてラピュタへ行く準備を進めていた。『あの宝の山を見て引き下がろう
なんざ海賊の風上にもおけないね」などと言っているがシータを救出したい気持ちを
ドーラも確かに持ってる。パズーはそれをよく知っていた。
「お前の話だとシータはラピュタの王族の最後の生き残りってことになってるね。それは
つまり、ラピュタ人の生き残りはシータとあのムスカの二人だけだって事だ。そうなると
ムスカはどうあってもあの子を殺したりはしないね」
「うん、わかってるよ」
「そうかいわかってるのかい。それじゃあそのムスカがシータに何を望むかということも
わかっているのかい?」
息を詰まらせたパズーを見てドーラは目を細めた。
「ムスカにとっちゃシータは自分と同じ種族の最後の女ってことになる」
「おばさんやめて・・」
「船長と呼びな。あの妄想壁の青二才ならラピュタ繁栄のために必ず種族を残そうと
するだろうね。それも純血の。そうなると・・・」
「やめてくれよっ!」
悲鳴のような声がパズーの口から飛び出る。青年になりつつある少年の沈痛な顔を
ドーラは黙って見つめた。パズーは泣きそうな顔を床に向けて言葉を零した。
「おばさん、今はシータを助ける事だけで精一杯なんだ。シータを助ける事だけ
考えていたいんだ」
傷みに震える声を零したパズーにドーラはそれ以上の追及はしなかった。
夜の雲海を眺めながらパズーは苦しい息を吐いた。年月は彼を少しばかり大人にした。
時は彼に努力に見合った力を与えもしたが、同時に残酷なものも贈与した。パズーは
ドーラの言わんとしている事をよくわかっていた。それは時が経てば経つほど残酷な
リアルさをもって理解されていった。
シータはもはや綺麗な体ではなくなっているだろう。
そのことが大人になればなるほど、男になればなるほど解ってしまうのだ。
パズーは昔よりも筋肉のついた自分の腕を見つめた。前よりも大きくなった。前よりも
強くなった。でもこれは今じゃなくて、あのときに欲しかったんだ。
ラピュタで重要なのは上半球ではなく下半球であることを知っていたパズーは
ムスカが連合艦隊に気をとられている隙にフラップターで飛行型ロボット兵の
射出口に近づき、そこから内部に侵入した。うまく『聖域』に入りこんだパズーだが
そこで目にした異様すぎる光景に思わず圧倒されてしまうのだった。
「誰かと思ったら君か。よくここまでこれたものだ。それについては褒めてやりたい
ところだが、君は王の前にいることを忘れているな。態度を慎みたまえ」
『玉座の間』は女性の死体で埋め尽くされていた。皆全裸で腹を突かれたか裂かれた
後が無残に残っている。死臭が充満する空気の中ムスカは全裸で玉座に座っていた。
頬はこけ、爬虫類のような目が突き出ている彼の姿はとても王として君臨している
者とは思えない風体だった。
「シータはどこにいる?」
聞きたい事は山ほどあった。この女性の死体はなんなのか、なぜムスカは憔悴しているのか、
そしてなぜ武器も携帯していないのか。しかし異常の世界ではパズーは一言ひねり出すのが精一杯だった。
だから最も大事なことだけ聞いたのである。
「言葉を慎みたまえ。畏れ多くも王の妃の名をみだりに口にしてはならない」
ランチャーを打ち、ムスカの至近で炸裂させた。パズーは新しい弾を篭めてムスカを睨んだ。
静かだが確かな怒りがパズーの瞳に宿っていた。
「シータを返せ」
「もともと君のものだったかね?」
パズーは唾を飲みこんだ。たしかにシータはパズーのものだったことはない。でもこいつと
一緒に居るよりは良いに決まっている。そう思うことにして彼はムスカと対峙した。
「シータはどこにいる?シータは無事なのか?」
この言葉を聞くとムスカは突然狂ったように笑い出した。冷や汗が背中を落ちていくのをパズーは
感じた。もともとどこかおかしい男であったが、その笑い方は尋常ではなかった。もしかしたら
この男はもう狂ったのではないだろうか?そう思いながらランチャーを構えた。
「生きているとも!死んでなどいない!だが起きてはいないがね」
「どういうことだ!?」
「あの女は役立たずだ!」
ここまでパズーは怒りの渦を内包させていたものの、少なくとも頭の一部分に冷静さをもっていた。
しかしムスカの半狂乱の叫びを聞いたとき彼の精神的均衡は崩れていった。
「私とラピュタ人の純血種を残さなければならないというのにあの女は二度も私の子を流したのだ!
この女たち以下の役立たずだ!発狂したまま死んでしまえばいい!ヒャハハハハハッ!!」
パズーの心は急激に崩壊していった。目の前がぐらつき、足がふらついて涙が零れた。
「嘘だ・・・」
例え心臓を抉られるほど辛い事実だとしてもシータが既にムスカに嬲られているだろうことに
対しては心に備えがあった。しかしあの少女が二度も子を身ごもり、そして流してしまったという
事実にはなんの予防線もなかった。まさかそこまでむごい真実が待ち構えていようとは彼は
到底信じられなかった。
(そんな・・・そんな・・・)
「シータを返せ・・」
もはや笑うだけの体となっているムスカに、パズーは怒りと哀しみの激流を叫んだ。
「シータを返せぇーーー!!」