ゴンドアの谷の朝は早い。窓から差し込んでくる朝日が瞳に染みた。階段を降りると彼が顔を洗って  
いる。パズーの後姿に向かってシータは階段から声をかけた。  
 「おはようパズー、早いのね」  
 濡れたままの顔を振り向かせた青年の瞳は黒く輝いていた。  
 「あ、おはようシータ。今日は朝から刈らないと大変だからね。ぼくもう先に行ってくるよ」  
 そう言って顔を拭いて玄関に走っていったパズーは、同じ速度で戻ってきてシータの前で立ち止まった。  
目の前でにぃっと笑うパズーにシータは柔らかく微笑んだ。  
 「なぁに?」  
 「エヘヘ、シータ、おはようのチュウしていい?」  
 「まぁ!」  
 シータの顔に輝くような笑顔が生まれた。彼女が黙って目を閉じて顎を上げるとパズーは屈んで  
鳥がくちばしを合わせるようなキスをした。唇を離すと満面の笑みと少し赤らんだ頬を携えてパズーは  
ドアの向こうに消えていった。その背中を幸福に満ちた瞳でシータは見つめていた。  
 
 シータを救出し、ラピュタが崩壊してから五年の歳月が流れていた。  
狂気の笑いを繰り返すムスカの近くに再びランチャーを放ったときラピュタの崩壊は始まった。  
パズーは急いでシータを探した。よっぽど殺してやろうと思っていたムスカをパズーは放置した。  
ランチャーの余波で彼の眼鏡が割れ、それで目を傷つけていた彼は「目がああっ!」と叫んでそのへんを  
うろつき出した。彼はどうやらラピュタ崩壊後も生き残ったらしいが、目の見えない状態で空の城を  
さ迷っているにちがいない。そのまま朽ちればいい、パズーは彼をあえて助けなかった。  
 『飛行石の間』で発見されたシータは既に心を失って倒れていた。巨大な飛行石が禍禍しいほど  
光り輝いて辺りを照らしていた。パズーは横たわったシータを抱きかかえ涙を零した。  
 「あの言葉を使ったんだね。そうなんだね?シータ」  
 虚ろな瞳を虚空に投げるだけの彼女は答えなかった。パズーは彼女を強く抱きしめて動かなかった。  
 「ごめんねシータ。助けてあげられなかったよ。ぼくがもっとしっかりしてたらシータをこんな目に  
遭わせなかったのに。ごめんねシータ。せめて一緒に死んであげるからね。もうシータを置き去りになんか  
しないよ。ごめんねシータ。ごめんね。ごめんね・・・」  
 
 既に生ける亡骸となっていたシータを抱きしめたまま自分も亡骸になろうとしていたパズーは、  
自分たちが生き残った不思議を考えた。殆どの木々を焼き払ってしまったムスカはなぜか『飛行石の間』  
だけは木を残していた為、木の根っこに救い上げられて二人は落下を免れていた。  
 シータをゴンドアの谷へ連れかえったパズーは心をどこかへ飛ばしてしまった彼女と一緒に  
生活することにした。彼女を救い出してから三年経ってようやくシータは正気を取り戻し、現在では  
普通の生活をすることができるようになった。そうなってようやく謎であった様々なことがが鮮明な  
真実としてパズーに理解されるようになる。シータはラピュタで起こった事を少しずつ彼に話した。  
 最初の子供を流産したあとシータの繁殖力を疑ったムスカが多産家系の女性を地上から献上させ子を  
産ませようとしたこと。その女性たちがいずれも妊娠せず、逆上したムスカが腹を裂いて次々と殺して  
しまったこと。シータが二度目の子供を死産し、その胎児が奇形であったことを知ってからムスカが完全に  
狂気に走ったこと。それを契機にシータも心の均衡を失ってしまったこと。正気のなかったシータが  
なぜかパズーの侵入に気づき、その一瞬だけ僅かな精神を取り戻して滅びの呪いを唱えたこと。  
飛行石への影響を恐れて『飛行石の間』だけは根を焼き払わなかったこと。  
 そういったことを話すとき、シータは静かな瞳で落ちついて言葉を紡いだ。  
 「事実だったことは覚えているの。二年も続いたことも知っているわ。なのに夢でも見ていたような  
気がするの。思い出すとなんだか他人の姿を見ているようだわ」  
 シータは強い子だ。前から思っていたことだったがパズーは改めてそう思った。二度と正気になれない  
ほうが自然なくらい辛い思いをしたのに彼女はちゃんと戻ってきた。二年の悪夢を三年かけて流したのだ。  
三年かけて輪郭をぼかし、ビジョンを不鮮明にすることで彼女は心を取り戻したのだ。  
 
 彼女が通常の精神を取り戻してから二年。現在二人は朝起きたらキスをして抱きしめ合うくらいの  
男女の仲になっていた。ラピュタで引き裂かれる以前は三日間しか同じ時間を共有しなかった二人だが  
その三日のうちに決定的なものをお互いの中に刻み付けていた。それは絆であり、いずれ男女の感情へと  
研磨される情動の原石であった。パズーの中で、シータだけが他の女性たちから隔絶されていたし、  
シータの心はパズーで彩られていた。パズーが潜在的に女の子に求めているものがシータの中に詰まっていた。  
シータが憧れるものをパズーはたくさん持っていた。様々な事情が絡んで発展が遅れてしまった二人だが  
互いが互いの特別になることを疑問に思ったりはしなかった。  
 だが寄り添う以上の事が二人の間に起こる事は未だになかった。パズーが意識的に避けていたのである。  
不思議とシータは男性恐怖症になることはなかった。パズーの裸を見てしまうという日常のアクシデントが  
これまで何回かあったがそれでも彼女は怯えたりしなかった。むしろパズーが恥ずかしがって怯えた。  
彼女の中であの男とパズーが『違うもの』として認識されていることが良い方向に働いているらしい。  
ドーラ一家の連中とも仲良くやっていけるが、これは「そういったことが起こらない」対象として  
彼女が認識している結果だと思われる。ただ暗所恐怖症で、背広や眼鏡をつけている人を見ると  
極度に怯える後遺症は残っていた。だからパズーはシータを家から遠くへは連れていかなかったが、  
むしろシータはパズーだけを見つめて過ごす日常に幸福を感じていた。  
 ある日、夕日がゴンドアの谷を黄金色に染め上げた夕方、草の上に佇みながらシータは言った。  
 「ありがとうパズー。パズーはわたしのために今までいろんなことをしてくれたわ。本当にありがとう」  
 夕日を見つめるシータの横顔を見ながらパズーの心に不安が灯った。  
 「シータ、まさかぼくから離れていこうとしていない?」  
 「お礼を言いたかったの。言うだけじゃ足りないのわかってるけど言いたかったの」  
 『ラピュタのこと忘れて』、そう言われた七年前をパズーは思い出した。そのときの悲痛な喪失感が  
苦い記憶となって彼の心の寒い場所にしまわれていた。  
 
 夕日を見つめた視線をパズーの顔に移動してシータは囁いた。瞳がなぜか濡れていた。  
 「パズー。わたしパズーのこと好きよ」  
 「ぼくも・・・大好きだよシータ」  
 シータの黒い瞳から涙が零れた。  
 「わたし、もうちゃんと生活できるわ。だからパズーは鉱山に戻って」  
 心の傷の痛みが復活する。パズーの顔が悲壮に彩られた。  
 「シータ・・どうして」  
 「パズーは今までわたしのために時間も苦労もかけてくれたわ。私これ以上パズーに苦労させたくないの」  
 「どうして?ぼくシータと居たいんだ。シータと一緒に居たいんだよ」  
 「でもここにはパズーの好きな機械もないし、親方さんやおかみさんやパズーの大事な人たちはいないわ」  
 「シータがいるよ」  
 「いつか自分の作った飛行機を飛ばすのが夢だって言ってたじゃない。ここじゃぁ・・」  
 「ぼくの夢はシータだよ」  
 シータの両腕をパズーの手が少し強く掴んだ。シータのおさげを揺らす風が彼女の涙をさらっていった。  
 「シータ、ぼくと過ごした三日間のことちゃんと覚えてるって言ったよね?じゃあぼくがこんなこと  
言ったの覚えてない?地下に潜って一緒にパンを食べながら、『君が降りてきたとききっとステキな事が  
始まるんだって思った』って。ぼく、今でもそう思ってるんだよ?シータの居ない二年はぼくも辛かったけど、  
あのときシータに出会わないでいたよりもずっとずっと幸せだよ。ぼく親方も大事だし鉱山で働くのも  
好きだよ。機械も飛行機も好きだけど、シータはもっともっと好きなんだ。シータがいてくれればそれでいいよ。  
それでいいよ。シータがずっと一緒にいてくれたら、こんなステキなこときっと見つからないよ」  
 しだいに震えてくる声でパズーはシータに語りかけた。涙を零してシータはパズーにすがりついた。  
二人は泣きながら互いを抱きしめる。シータはパズーの暖かさと優しさが怖かった。彼の優しさに  
甘えて溺れてしまう自分がシータには卑怯に思えていた。  
 
 「パズーに悪いと思うのはお前の勝手だがね、それで体を与えようなんざ筋違いな考えだよ。  
相手に悪いと思ったら夜を共にしなくちゃならないなんて、世の中の女はどれだけの男を  
相手にしなくちゃならないってんだ」  
 「でもおばさま、わたしパズーにしてもらうばっかりで何も返せないんです」  
 「だからお返しに体をあげようってのかい?ばっかばかしい。そりゃあね、むしろパズーに失礼だよ」  
 パズーとシータが暮すゴンドアに約半年ぶりにドーラたちが訪れてきた。彼らは定期的にパズーたちの  
様子を見にここに停泊していた。ドーラの豪奢な部屋でシータは彼女に相談した。  
親のないシータとパズーにとってドーラは精神的な駆け込み所となっていた。  
 「パズーに?」  
 「そうだろうよ!お前に惚れて体張ってきたってのに『私の体が欲しいのね、それならあげます』  
なんて言われてごらんよ。それまでの苦労が水の泡のいいところじゃないか。お前それで本当にパズー  
が喜ぶとでも思うのかい?」  
 シータは俯いて黙ってしまった。彼女はパズーがそれ以上の関係について何も言ってこないのをいつしか  
申し訳なく思うようになっていた。確かに自分には求めにくいだろう。自分の暗い過去を知って  
いても変わらず自分を大事にしてくれるパズー。そんな彼に求められれば応えられる状態がシータの  
精神に形成されつつあった。ただパズーが自分からは言えないだろうことはわかっているし、かといって  
自分ではどうしたらよいかわからないのだった。  
 「シータ、お前にとっちゃあれはさぞかし嫌な行為だと記憶されてると思うがね、惚れ合ってるん  
だったら嫌なもんか。パズーとしっかりした心を持ってやればどうってことないだろうよ。問題は  
お前がパズーを欲しいかどうかだよ」  
 「私がパズーを?」  
 「そうさね。なにも女が男のものになるだけじゃないんだよ。そりゃあお前はパズーのものになるだろうがね、  
パズーもお前のものになるんだよ。パズーが欲しいと思ってないんだったらやめときな。  
あと世話になったお礼に寝てやるってのもあたしゃ気に入らないね」  
 「おばさま」  
 「なんだい?」  
 「おばさまの旦那様って・・皆さんのお父様ってどんな方だったんですか?」  
 ドーラは少し遠い目をして一言だけ答えた。  
 「バカな男だったよ」  
 
 シータが部屋を辞した後、ドーラに呼び出されたパズーは全身をドーラに一睨みされて戸惑った  
 「おばさん?」  
 「船長とお呼び。大きくなったじゃないか。体だけは立派なもんだね」  
 少年だったパズーは今や立派な青年だった。精悍な瞳が魅力的な男になりつつある。  
 「パズーや、お前シータを押し倒したりしたのかい?」  
 彼の心に心臓を握られるような苦痛が走った。  
 「しないよ。できないよ、そんなこと」  
 パズーにとってシータはいつでも壊れ物だった。ほんの少し振れただけでも崩れて風にさらわれて  
いってしまうような気がしてとてもシータにそんな野心は抱けなかった。  
 「そりゃあシータの過去を気にしてるのかい?それとも勇気がないだけかい?」  
 パズーは苛められたかのような視線をドーラに向けた。  
 「・・・両方・・・・」  
 「フンッ、じゃあ勇気があったらできるのかい?お前ちゃんと女をどうしたらいいか知ってるんだろうね?」  
 青年の顔が真っ赤になって噴火した。パズーはムキになって声を荒げる。  
 「しっ知ってるよ!ぼくだって男なんだから!」  
 「なーまいき言うんじゃないよ。そういうことは女を幸せにしてから言うもんだね」  
ムキになって言い返したはいいがドーラににべもなくそう言われパズーは二の句が出てこなかった。  
確かに知識という知識はあるが、経験がないし、ちょっと・・・かなり自信がない。ドーラは豪華なタンスを開け  
中から一冊の本を取り出してパズーに投げた。受け取ったパズーは見なれぬ本を様々な角度から観察した。  
 「なぁにこれ?」  
 「そりゃあね、東洋の性技書の翻訳だよ。とりあえずそれを読んどきな。言っとくけどシータに  
無茶なことや無理矢理なことをしたらこの世から叩き出すからね」  
 パズーは再び噴火した。  
 
 その日、パズーが街に買い物に行っているあいだシータは家でご馳走を作っていた。  
シータの誕生日でもないしパズーの誕生日でもない。七年前の今日、二人が出会った記念日だった。パズーは  
1ヶ月も前からこの日を祝おうとシータに話していた。夕食の芳香が家から香ってきてパズーは誘われる  
ように足早に帰ってきた。買って来たものを片付けたあと、包装された箱をパズーはシータに渡した。  
 「シータ!これ、プレゼント!」  
 驚いたシータに箱を押しつけるように渡すと「開けてみて」とパズーははしゃいだ。出会った頃と変わらない  
子供みたいな彼の仕草にシータは暖かい愛しさを感じた。プレゼントを開けると中には青い服が入っていた。  
 「まぁ!きれいなドレス!どうしたのこれ?」  
 「えへへ、シータに着てもらおうと思って」  
 「でもいつもは勿体無くて着れないわ」  
 「いいよ。たまに着て見せてくれれば。ね!着てみて!!」  
 派手でもなくそれほど高価でもないが、質素な中に清潔さと洗練された美しさのある青いドレス。それを着て  
2階から降りてきたシータを見てパズーは嬉しさと恥ずかしさが混ざり合うのを感じた。  
 シータの暖かくておいしいご馳走と、パズーが買って来たシャンパンで彼らは二人だけの記念日を祝った。  
青いドレスに身を包んだシータを眺めてパズーは彼女と出会った頃の事を思い出した。あの時も青い服を着ていた。  
青い服を着て空から降りてきた女の子。可愛くて、可憐で、純粋で、絶対守ってあげなくちゃと思った。それでいて  
いざとなったら強くて、お転婆なところもあって。パズーはいつのまにかシータのために命を賭けることが自然な  
ことのように思われていた。要塞の塔から飛び降りたシータを受けとめたとき、「この子はぼくが守るんだ」と彼は  
強く思った。絶対に守ってあげるんだ、泣いていたら慰めてあげるんだと、幼いながらも彼は男としてシータを  
受けとめようと決心していた。あれから死ぬよりも苦しい思いを散々味わったが、それでもシータが  
自分の人生に関わらないまま終わってしまうようなことにならなくて良かった。彼は心の底からそう思った。  
 「シータ、ぼくシータに会えて良かったよ。本当に・・良かった」  
 
 まっすぐパズーの瞳に見つめられたシータは自分の中で予感がざわめくのを知った。  
彼女は自分の胸に手を当てて抑えた。そうしなければ心がパズーへ向かってあますところなく流れて  
いってしまうような気がしたのだ。彼女の中にあるパズーへの深い想いが堰を切って  
溢れていってしまいそうなのだ。ふとシータは思った。それでいいのではないか?抑える必要は  
ないのじゃないか?今こそ彼へと流れる心の激流を、流れに任せて堤防を壊し、届けてしまうべき  
じゃないだろうか?シータは席を立った。黙って彼の前まで来るとパズーの瞳をじっと見つめた。  
 「シータ?」  
 パズーは立ち上がってシータを見つめた。出会った頃から変わらない聡明な瞳が彼を見つめた。  
 「パズー、わたしあなたが好きよ」  
 シータの気持ちをパズーは知っていたが、こうやって改めて言われると驚いてしまう。この世で  
一番大事な女の子・・もはや女性だが、彼女に告白されるとその都度、新鮮な嬉しさがこみ上げてくる。  
 「ありがとう・・・ぼくもシータが大好きだよ」  
 照れ臭そうにそう言ってはにかむパズーを見て、シータの中の彼への愛しさが次から次へと溢れてきた。  
もうここには溜めておけない。外に出してしまわないとパンクしてしまう。  
 「パズー、私あなたにあげたいものがあるの。ううんあげるんじゃないわ。あなたにして欲しい事があるの」  
 彼女の言葉にいくらかの矛盾があって戸惑ったパズーだが笑って答えた。  
 「なんだかよくわからないけど・・なんだってするよ」  
 「本当?」  
 「うん、なにをしてほしいの?シータ」  
 それまでは普通だったのにそれを聞くと急に黙りこんで俯いてしまったシータを見てパズーは訝んだ。急に  
恥ずかしくなって緊張しはじめてしまったシータはどうしたらいいかわからなくてパズーに体をよせた。彼女を  
受けとめたパズーにシータは全身の力を振り絞って一言呟いた。  
 「あのね、パズー・・今夜は・・私の部屋で・・寝て欲しいの・・・一緒に・・・・」  
 
 彼女が普段と変わらぬ様子で言ったのならパズーは気づかなかっただろう。シータの俯いた頬が  
赤くなっていることに気づいたパズーはシータの言わんとしている事を理解して驚愕した。  
一瞬、息が止まったようになって思わず彼女の両腕を掴んだ。  
 「そんなっ・・・だっだめだよシータ!そんなことしたらシータがどうなっちゃうか・・」  
 「大丈夫よ、わたし平気。パズーならわたし大丈夫よ」  
 「でもシータ!そんなこと・・・言ったって・・・」  
 「パズーはいや?わたしのこと抱きたくない?」  
 「そっそんなことないよっ!ぼくだってっ!・・あっ・・いや・・その・・・」  
 パズーは耳まで真っ赤になって俯いた。情けないことに彼のほうが女のようにうろたえていた。  
 「その・・・シータが嫌じゃなきゃ・・ぼくは・・・・」  
 「本当?」  
 「うっうん・・・・」  
 確かにパズーはシータが欲しかった。ただそれをシータに望むのは贅沢で無茶なものだと彼は思っていた。  
思っていただけに突然目の前で彼女が自分を差し出そうとしてくれているのが信じられなかった。  
これ以上ないくらい真っ赤になったパズーの顔を見上げながらシータは静かに囁いた。  
 「パズー、わたしパズーのこと好きよ。ただの好きじゃないの。男の人として好き」  
 彼の頭は麻痺寸前だった。シータへの愛しさがこみあがってきて何を言ったらいいのかわからなかった。  
 「シータ・・ぼくだって・・・」  
 耐えきれなくなったパズーはシータを抱き寄せて自分の唇をシータのそれに押しつけた。二人は  
病気になったような熱い体を抱きしめあい、唇をよせあった。  
 「シータ・・・もし本当に嫌になったり、嫌なこと思い出したりしたら、ちゃんと「嫌だ」って言ってね」  
 「うん」  
 シータの愛しい体を抱きしめながら、パズーは彼女への愛しさだけで全身が熱くなるのを感じた。  
 
 「えっと・・じゃあ・・あっ先にお皿片付けようか?」  
 「ううん。このまま行きましょう」  
 「あ・・そう・・あ、うん。じゃあそうしよう」  
 しばらく抱き合ったあと真っ赤になったままパズーはしどろもどろに話した。夢のような現実を  
前にして彼のほうがシータよりも緊張してしまっていた。  
一緒に2階へ登っていくときシータは何気なく話した。  
 「そういえば前におばさまに聞いたことがあるの。男の人が女の人にお洋服を送る時は  
それを脱がせたい時だって。パズーもそうだったの?」  
 階段の中ほどからパズーは勢いよく転げ落ちていった。  
 「パズーーー!!」  
 頭を抑えながらパズーは頼りなく笑った。  
 「あ・・チィイタタタ・・シータ、あの・・・そんなんじゃ、ないからね?・・ハハハッ・・・」  
 
 
 

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