<シータを助けられないままラピュタから逃げなければならなかったパズーのシーン>  
 
 爆風に吹き飛ばされたパズーの小さな体は空気に嬲られながら落下していく。  
さっきまで掴んでいた巨大な木の根が視界の中で小さくなっていった。  
 「うわあああああっ!!」  
 天の青と海の青をめまぐるしく逆転させながらパズーは宙に散っていく。  
それでも必死に手を伸ばして彼は小さくなる天空の城を掴もうとした。  
城の輪郭に少女の残像が重なった。  
 (シータッ!)  
 彼が少女の名前を念じた瞬間、全く反対方向に体が吸引された。混乱した頭で目を凝らすと  
いつのまにか自分はドーラの大きな腕でフラップターの中に放り込まれていた。  
 「おばさん!」  
 「ボケっとしてるんじゃないよしっかり掴まりな!みんな逃げるよ!」  
 三機のフラップターが定員を越えた乗員を乗せて迫ってくる。  
それを引き連れるようにパズーを乗せたフラップターは旋回して飛翔した。  
城の黒い下半球に背を向けて進むフラップターにパズーはしがみついた。天上の城が遠ざかっていく。  
 「待って!シータがあそこにいるんだ!シータがまだあそこにいるんだよ!  
おばさん!ぼく助けに行かなきゃ!」  
 渾身の訴えを吐き出すパズーにドーラは振りかえらなかった。  
 「バカ言ってんじゃないよ。いまこの状況で何ができるって言うんだい!?  
さっさとズラからないとみんな死んじまうよ!」  
 
 今やラピュタの黒い半球体は雷の巣となっていた。凶悪な閃光を撒き散らし、  
ロボット兵で近寄るもの全てに破滅を齎そうとしている。  
恐怖の閃光を避けて飛ぶだけでもかなりの飛行技術が必要だ。今は逃げるしかない。  
しかしパズーは雷の雨の中から逃げようとしなかった。  
 「そんなっだめだよっ!まだシータがいるんだ!ムスカに捕まってるんだよ!  
おばさん、ぼくだけあそこに戻して!」  
 「バカな!死にに行くようなものじゃないか。放っといてもあの男はシータを殺しはしないよ。  
唯一の生き残りだってお前も知ってるじゃないか」  
 「でも助けなきゃ!今行かなきゃだめなんだ!」  
 「死にたいのかい!?」  
 「死んでもいいからシータは守るんだ!」  
 ドーラの懐に突進してパズーは操縦桿を奪った。  
無理矢理操縦席を占領してフラップターを旋回させる。パズーは再び恐怖の城に向き直った。  
 「シータっ!シータァァァッ!!」  
 全身に走った衝撃にパズーは倒れた。少年の後頭部へ手套を食らわせたドーラは  
意識を失った少年の体を受けとめて再び旋回し、今度こそ城から離れていった。  
 
 
 天空の城が視界の中で鶉の卵よりも小さくなった頃、パズーは意識を取り戻した。  
かつて父の遺志を受け継いで憧れ続けた夢の城は、強暴な光を撒き散らして脆弱な地表を蹂躙していた。  
絶え間なく閃光を放つ巨大帝国の忌まわしい遺産がパズーの目の前で遠ざかっていった。  
もはや近づく事もできない。まして侵入する事など夢のまた夢だ。  
青い閃光と対称的な紅色の夕日が景色を染めていく。  
パズーは空中停止しているフラップターの床に崩れ落ちた。あそこにあの少女がいる。  
空から降ってきた女の子がいる。パズーは震えた。どうしても助けなくちゃいけない子が、  
どうしても守らなくちゃいけない子があそこにいるのに、自分はその子を残して逃げてきてしまった。  
握り締めた拳の上に悔し涙が染み込んだ。  
 「いつかあの子を助けてやりゃいいんだ。それまでお前は生きなきゃいけないよ。  
お前が死んだら誰があの子を助けてやるっていうんだい。強くおなり。強くなって  
いつかあの子を助けてやるんだね。それまでお前は簡単に『死んでもいい』なんて言うんじゃないよ」  
 ドーラの言葉を聞きながらパズーは涙を零した。夕日の赤が目に刺し込んできて少年の涙腺を破壊した。  
彼は豆粒よりも小さくなった少女を隠す城に向かって声の限りに叫んだ。  
 「シータァァァッ―――――!!」  
 城に重なる少女のイメージに向かって彼女に届くように叫んだ。  
 「絶対助けるからっ!絶対助けに行くからあああっ!」  
 俯いて肩を震わせる少年の頭にドーラは手を置いた。  
必死に大声で泣くまいとして歯を食いしばる少年にドーラは男の片鱗を見ていた。  
 「好きなだけお泣き。そしてこれで最後にするんだね。男は必要なとき以外に泣くもんじゃないよ」  
 少年の嗚咽がフラップターの騒音に混じって流れる。  
人生で最大の壮絶な挫折感がパズーの心にざっくりと刻まれていった。  
 
 
<シータを助ける為に海賊をしていた頃のパズーのワンシーン>  
(一部ジャ●ラック避けのため伏字になっています)  
 
 
地球は●わる 君をか●して 輝く● 煌くとも●火  
 
 歌を歌いながらパズーは崖の上に立っていた。ある地方の昔から伝わる民謡である。  
海賊稼業をやって各地を回っているうちに覚えた歌だった。  
特に派手な歌ではないが切なげな旋律が頭に残る。これを呟くように歌うとパズーの心の傷が疼いた。  
『君をかくして』という部分に妙に感情移入してしまうのだ。  
夕日を浴びながらパズーは虚空を見つめた。現在は無闇に飛行船などに乗ると  
ラピュタに遭遇して打ち落とされるのでほとんどの人間が地表に這いつくばっていた。  
少しでもラピュタに近づけるような飛行機械は次々にムスカの指令で破壊されている。  
彼もまた、新しいタイガーモス号が谷間に隠れているのを発見されないように崖の上から  
見張っているのである。真っ赤な夕日が辺りを染めて地平に落ちていく。  
こんな夕焼けを見るとシータを助けられなかったあの日の挫折を思い出す。胸の奥が軋んだ。  
パズーは空に向かって囁く。彼が空へ、シータへ語りかける事は二年前から日課になっていた。  
「シータ・・いまどうしてる?ちゃんと生きてるの?」  
シータが空から降ってきて以来、パズーは彼女の為だけに生きていた。  
彼女の為だけに呼吸し、走り、生きてきた。  
その彼女がいるだろう空の彼方に向かって、パズーは囁いた。  
「シータ…必ず助けに行くからね。絶対にシータを迎えに行くからね。  
だからお願い、死なないで。ぼくが助けに行くまで生きていて」  
 赤い夕日を吸いこむ地平線。その彼方の地平をパズーはいつまでも見つめていた。  
 
 
<シータとドーラの会話のシーンの直後>  
 
「なぁ・・おめーシータと×××なんかしたのか?」  
最初にそれを聞いたのは次男のルイだった。シータがドーラの部屋で何事か話しているのをいいことに、  
ドーラの息子、部下たちがパズーをまるで恐喝でもするかのように取り囲んだ。  
船上生活で滅多に女性と交流を持てない彼らはほんの少しのあいだ船に乗っていたシータに  
一様に憧れていた。さすがに年の差がありすぎるので本気になる者はいなかったし、  
皆パズーとの仲を認めてはいたがやはり面白くないらしい。パズーはあんまりな内容に  
耳まで顔を赤く染めてしまい、その反応がまずかったのか結果的に彼らを煽ってしまった。  
「したのか!?おまえしたのかこの野郎!」  
「やったな!?やったんだな!?」  
「しっしっしてないよお!そんなことするわけないじゃないかぁ!」  
「でもキスはしてるんだろうバカ野郎!」  
「この口か!?この口がシータにあんなことやこんなこと」  
「ひひぇひゃいっひぇ、ひっひぇるひゃひゃいひゃ!(※してないって言ってるじゃないか)!!」  
「チクショウやっちまえ!」  
「わああああっ!!」  
でかい図体をした情けない大人たちが一斉にパズーに襲いかかった。  
本気で殴り合うわけではないが、今しもタコ殴りに遭う寸前、ドーラの一喝が空間を制した。  
「いい加減にしな!」  
聞くが早いかドーラ一家の連中はたちまち直立不動になった。  
ドーラの命令が骨の髄まで染み込んでいるらしい。見るとドーラの後ろに控えめにシータが立っていた。  
どうやら『相談』は終わったらしい。パズーはシータが何をドーラに相談したのかは知らなかったが、  
彼女が思い悩んでいる様子のないことに安堵した。するとドーラがパズーに向かって指で手招きした。  
「パズーや、ちょっと来な」  
 
<パズーとドーラの会話のシーンへ>  
 
 
<初めての×××の直後の二人>  
 
パズーはそのまま彼女の上に崩れ落ちた。汗だくになったパズーを受けとめて、  
シータは彼と共に汗を共有しこのまま溶けていくような感覚を覚えた。  
そのまま二人はしばらくのあいだ荒い息を室内に木霊させていた。  
やがてパズーが僅かに体を動かせて彼女の中に刺し込んだものを外そうとすると、  
それを止めるようにシータがパズーに強く抱きついた。  
 「待って」  
 「シータ?」  
 「もう少し・・このまま…」  
 彼女の熱願の通りにしてパズーは彼女を抱きしめた。  
心身ともに繋がれて結ばれた二人は互いの肉体を愛しんで抱いた。  
 「パズー…わたし・・幸せよ・・」  
 絶頂を過ぎたというのにシータの顔は恍惚に彩られていた。パズーは彼女に口付けた。  
舌と唾液でシータへの深い愛情を伝える。二人は快楽とは違う心の絶頂で絡みあった。  
パズーとシータの心には自分たちを包む光が見えていた。  
 
 
<二人が結ばれてから1年後にやってきたドーラたちとのシーンの直前>  
 
 二人が結ばれてから約1年たった。  
 その日、野良仕事から帰ったパズーは家中に満ちた夕食の芳香に鼻腔をくすぐられた。  
 「おかえりなさいパズー。ごめんね夕食まだなの。もう少し待ってて」  
 「うん!」  
 エプロンを付けて夕飯の仕度をするシータが笑顔でパズーを出迎えた。  
顔と手を洗ったパズーは手持ち無沙汰になり、皿を出すのを手伝おうかと思っていたが  
ふと彼は別の行動に出た。シチューを掻き回すシータの背後にゆっくり近づいて  
後ろから彼女に抱きついた。  
 「シ―――ィタッ!」  
 「きゃあっ!!」  
 驚いてシータは器具を落としそうになる。抱きつかれたからではなく、  
いきなり後ろから両胸をパズーに掴まれてシータは仰天した。頬と頭に一気に血が上る。  
真っ赤になったシータの頬や顎や耳にキスの雨を降らせながらパズーは  
彼女のふっくらとした胸を揉んだ。シータはたちまち硬直して震えてしまう。  
 
 「あ・・だめ・・パズー・・お夕食が先・・」  
 「夕飯も食べたいけど、早くシータを食べちゃいたいな」  
 「ああ・・だめ・・だめよパズー・・あん・・」  
 「ンン―――、シータ・・」  
 「ああん、パズゥー…」  
 若い二人は甘い誘惑に引きずられて今しも燃えあがろうとしていた。  
そんな二人に水を差したのがゴンドアに響き渡ってきた轟音で、  
それが収まったころ家のドアが乱暴に開かれた。  
 「シータ!!元気だった?!」  
 なだれ込んできたシャルル、ルイ、アンリらドーラ一家の面々に  
パズーとシータは一様に唖然とした。  
 「みんな!いつのまに・・」  
 声をかけようとしたパズーを押しのけて彼らはシータの元へ駆けよっていった。  
いつも彼らはシータに一目散に駆けていき、最後についでのようにパズーに挨拶する。  
慣れているのでパズーはそれについてはどうとも思わなかったが、  
ちょうどシータの無いも同然な抵抗が本当に消えていよいよ侵襲の形に移行しようと  
していただけに中断された行為が惜しまれた。  
 (なにもいま来なくたって…)  
 
<パズーとドーラの会話のシーンへ>  
 
 
<ラストシーンの直前>  
 
 ある日、パズーはシータにいつかプレゼントした青いドレスを着て欲しいと頼んだ。  
シータはそれを承諾し、いつもよりいくらか豪華な夕食のときにそれを着てパズーに見せていた。  
彼がシータにこれを着るよう頼む時はいつも何か特別なことがあるときだった。  
シャンパンを飲み、シータは微笑んでパズーに聞いた。  
 「今日は何の日なの?パズー」  
 自家製のパンに噛り付いていたパズーはそれを口に放りこむとニッコリ笑った。  
そしてそのあと笑顔を沈静化させて穏やかな微笑を見せるパズーにシータの鼓動は高鳴った。  
 「シータ、今日はね、シータの心が戻ってきた日なんだよ」  
 眉間の奥が熱に揺れる。シータはパズーの微笑みにいくらかの哀しさが  
含まれているような気がした。彼女が心を取り戻したとき、  
涙を流してすがりついてきたパズーの言葉がシータの心に蘇ってきた。  
 『シータ・・ぼく・・ずっと・・待ってたよ…・。シータのこと・・待ってたよ』  
 「ぼくシータともう三年も一緒にいるんだ。シータが辛かった時よりも1年も長く  
一緒にいられたんだよ。だから……お祝いしてみたかったんだ」  
 パズーにとって、シータがムスカと過ごした時間よりも長く共に居る事は大事なことだった。  
あまりに辛い二年ではあったがそれよりも多くの時間を彼女と共有する事で、  
自分にとっても彼女にとってもその記憶が薄まっていく事を彼は望んでいた。  
シータにとってあまりに大きな二年が『小さな二年』になってくれる日を祈って、  
彼はシャンパンを飲んだ。しかし視線の先でシータの涙が彼女の白い頬を濡らしているのに気づくと、  
彼は席を立って彼女の元へ行き、彼女を抱きしめた。  
 「シータ、シータごめんね。嫌な思いさせちゃった?」  
 「ううん。…・パズー・・」  
 「ん?」  
 落涙をパズーに見せてシータは彼に懇願した。  
 「キスして」  
 
 哀しいほど彼女が愛しくてパズーはシータに口付けた。  
パズーと熱いキスを交しながらシータは泣いた。  
今までどれだけ彼を傷つけてきただろう?  
ムスカと過ごしたよりも1年多く過ごしただけでそれを貴重と思ってくれるパズー。  
意識を取り戻したシータにとっては三年だがパズーにとってはすでに6年目である。  
シータは暗黒の二年間よりも彼を傷つけていった6年、ひいては8年間を思うと胸が軋んだ。  
自分は何のために彼の人生に現れたのだろう?ただ傷つけるために出会ったのだろうか?  
自分など捨てて別の女性と幸せになる未来もあっただろうに。  
だがもはや自分がパズーを手放せないことをシータは知っていた。  
そしてパズーもシータを離せないことはわかっていた。パズーの舌が歯列を舐めてくる。  
彼の腕が背後に回って、ドレスの紐をほどき始める。シータは彼の背中に腕を絡めた。  
パズーはこの青いドレスをシータから脱がす事に今夜初めて成功した。  
 いつか彼が言った『シータの居ない二年はぼくも辛かったけど、  
あのときシータに出会わないでいたよりもずっとずっと幸せだよ』という言葉が  
シータの心の底から浮上してくる。いま同じことを聞いても彼は同じように答えるだろう。  
自分以外の女性と幸福を掴む選択をしなかったパズー。  
そんな彼のために自分は何ができるだろう?  
パズーの腕に抱かれ快楽に悶えながらもシータはその答えを捜し求めていた。   
 
<ラストへ>  
 
 

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