『Her wherever you like』  
 
 暖かな日差しの差し込む午後のカフェテラス、日増しに気温が下がる中で今日は比較的に暖かい。  
 今日みたいな日を小春日和と言うんだろうか。あと半月で今年も終わる。  
 思い返せばいろんなことがあった。白麗陵に来たこと自体もそうだがそれ以上に白麗陵に来てからは毎日がお祭り騒ぎで楽しかった。もっとも再開した幼馴染や身の敵にされている金髪ドリルや様々な苦難や困難の阿鼻叫喚もなかったと言えば嘘になるが。  
 それも最近は落ち着いてきて安定した平和とも言えなくもない日々を秋晴は送ることが出来てきた。  
 しかし――  
「…………今日も暇だ……」  
 ――秋晴は誰も寄りつかない担当エリアでぼーっとしていた。  
 誰も来ないとは言っても服や髪をビシッっとセットし、待っている姿勢も背筋を伸ばしている。誰がいつ来てもいいように。  
 ただ実際は誰も来ないのが現実だ。日常茶飯事とさえ言える。編入して半年以上経って知り合いは増えたものの秋晴に付きまとうイメージは未だに最悪なものだった。  
 普段ならば知り合いの誰か――特に最近はセルニアと朋美が競って訪れるのだがそれでも毎日ではないし、今日は互いに用事があるらしく誰も訪れず閑古鳥が鳴いている状態だ。  
 毎度のことと覚悟はしているがやはり辛い。それにやはり知り合いではどうしたって奉仕活動の本懐よりも別の部分の方が大きくなってしまう。全く知らない相手とは言わなくてもあまり知らない相手を迎えたい。現状それは無理な話であるが。  
 それでも一縷の望みと直立していると――  
 
『――……生徒の呼び出しを行います。高等部一年従育科日野秋晴さん、すぐに理事長室まで来て下さい。繰り返します、生徒の呼び出しをします――』  
 
 ――身に覚えの無い呼び出しがかかる。  
 何かしただろうか?秋晴は記憶を辿るが心当たりはない。それに自分が奉仕活動の最中なのはあのパーフェクトな深閑ならば把握しているはずなので呼び出しを受ける事自体がおかしい。  
 何か緊急事態でもあったのだろうか?時間を確認すると奉仕活動の終了時間はあと五分ほど。少し考えて――そのまま呼び出しに応じることにする。  
 幸か不幸か誰にも給仕をしていないので片付けるものもない。残り時間はあと少しで誰も来る予定がないのだから早めに切り上げても問題はないだろう。  
 秋晴は同じ従育科の生徒に先に抜けることだけを伝えて理事長室に向かった。  
 
 
「――という訳で日野さんには数日間、桜沢さんのお手伝いをしてもらいます」  
 理事長室で秋晴を待っていたのは部屋の主である天壌慈楓はおらず、呼び出した本人の深閑と予想外の人物――白麗陵で誰よりも年上で誰よりも年下な見た目で有名な桜沢みみな先輩だった。  
「……いきなりだな」  
「それは重々承知しております。しかし今回の限っては可及的速やかに事を運ばねばなりませんので」  
 深閑の口調はいつも通りだがその中に少しだけ、本当に少しだけだが焦りのようなものを感じる。  
 あの常に冷静で何事にも動じなであろう完璧超人が若干でも焦っている――これは相当な事態だと秋晴は判断する。  
「…………嫌……だった、かな……?」  
 状況を理解している秋晴が嫌がっていると思ったのだろう。いつものスケッチブックを持ったみみなが少し涙目になっていた。  
「いや、そうじゃない。嫌じゃない。ただ、あんまりにも急過ぎて……個展ってその…何日、それどころか何カ月も前から準備するものだろ?だから不思議に思ってさ」  
 焦って答えた秋晴の言葉にみみなは安心する。同時にみみなの機嫌が直ったことに秋晴は安心する。  
「確かに本来はそうです。そうなのですが――今回は非常に特殊なケースと考えてください。それと個展というよりはレセプションに近いものなのです」  
「まあ、そこら辺は別にいいんだけどさ…」  
 その言い方はどうにもバツの悪そうで……今日の深閑は本当に珍しい、なんて不謹慎なことを秋晴は考えていた。  
 
 深閑の話を要約するとこうだった。  
 一ヶ月後に白麗陵主催のパーティ、その筋の社会を主賓とした催しがある。その中に桜沢みみなの熱烈なファンも存在する。そして二ヶ月後に桜沢みみなの個展が開かれる事が決定していた。その流れでパーティの参加者が新作が見れるなら、と絡めてきたのだ。  
 来月にはちょうどみみなの個展が開催される予定であり、期間的には余裕もあった。ずっと活動を休んでいたみみなも悪いと思ってかその件に了承、そこまではよかったのだが――  
 いろいろあってパーティの日程がズレてしまったのだ。もちろんそれは誰の責任でもないし、誰もが期待していたみみなの新作が見れないと言うのは残念だが仕方ない、そう思っていたのだが――誰でもない桜沢みみながそれをよしとしなかったのだ。  
 もちろん立派な油絵なんかは新作として出すことはできないが、今からでも見せれるものはある。無論それは描けばいいと言うわけではなくて完成された作品でなくてはいけない。  
 白麗陵としてもみみなを利用するわけではないが本人の意思が元である。故に特例として授業休んでの作品制作の許可が出た。  
 そしてその間の手伝いとして秋晴に白羽の矢が立ったのだった。  
「期間としては今週末までを予定していますが、今週末まで必ずという限りではありません。桜沢さんの作品の目処がつき次第になります。その間日野さんにも授業を休んで頂く形になります」  
「その間の授業はどうするんだ?」  
「幸い今週から来週にかけての授業内容は今期の復習という形でしたので休んで頂いても支障はありません」  
 深閑が緊急事態とはいえ授業を休むなどと言う許可を深閑が出したのはそういう理由か。  
「それに従育科試験ではありませんがこういった事も必要な経験ですのである意味授業の一環とも言えます。ただ――当然強制ではありません」  
 強制ではない。つまりは断ってもいいと言うことだ。断れると言うことだが――秋晴はチラリと小さなみみなの様子を窺ってから聞いた。  
「仮に俺がいつもの授業に出たいですって言ったらどうなるんだ?誰かが替わりをするのか?」  
 おそらく自分が呼ばれたのはみみなの指名なんだろう。絵を描くなんて神経を使う作業に全然知らない他人を同伴させるなんてできないだろうし、お世辞にもみみなは知り合いが多いとは言えない。  
 その知り合いも考えてみれば朋美やピナや上育科が殆どのはずだ。従育科で知り合いとなると秋晴以外は四季鏡早苗くらいである。  
「その場合は桜沢さん一人で行って頂く予定です」  
 ああ、やっぱりそうなのか。秋晴は薄々感づいていた。もちろん四季鏡が役に立たないと思ったわけではない。  
 もう一度、みみなの方を見る。顔を真っ赤にして真剣にこちらを見ている。耳まで真っ赤だ。その目は涙目で、手に持ったスケッチブックは力いっぱい握りしめられている。  
 何もしていないのにこちらが悪物の気分になる。いや、何もしていないのが悪いんだろう。  
 とりあえずこの視線には耐えられない。何というか本当は欲しいお菓子を無理やり我慢させられている子供みたいな、無言の訴え。みみなの外見でやられてしまうと反則である。  
「どうしますか?日野さん」  
「……キ、キミが嫌ならいいんだよ?……復習だって、大切だし……授業を休むのは、よくないことだと思うし……」  
 ますますみみなの目が涙目になる。そして深閑の視線が痛い。いや、普段通りなのだがみみなを苛めている自分に対しての冷ややかな視線に感じられる。被害妄想だろう。  
「…………まあ、断る理由なんてないんだけどな。俺でよければ手伝うぜ、先輩」  
「本当っ!?」  
 一瞬でみみなの目が輝く。さっきまでこの世の終わりみたいな目をしていたと言うのに。  
「ああ、俺に力になれることなら何でも言ってくれ。よろしくな、先輩」  
 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  
 
次の日、いくつかの画材を持った秋晴とみみなは白麗陵の敷地内を歩いていた。  
 本来ならば授業が行われている時間なのでとても静かだった。  
「結構重いんだな……」  
「ゴ、ゴメンね……」  
 
「いや、先輩がいつもスケッチブックしか持ってなかった理由が分かった。絵描く人っていろいろ持ち歩いてるイメージだったからなんでだろうとは思ってたんだけどな」  
 秋晴は手に持った、そして一部担いだ様々ん道具を見る。初めて見るものばかりで、授業でいろいろな知識の造詣を深めたつもりだったがまだまだ自分の知識は底の浅いものだと実感をする。  
「にしてもいっぱい種類があるんだな。知らない世界だっとはいえ改めて驚いた」  
「……まだ何描くか決まってないからいろいろあった方がいいかなって……ゴメンね」  
「気にすんなって。その為に俺がいるんだからさ」  
「う、うん…」  
 本来ならばこの量の画材は必要ない。言ってしまえば秋晴は油絵や水彩画や他諸々の画材をまとめて持っているのだ。重いのは当然である。  
 それを理解しているみみなは悪い気がするし、逆にどれを何に使うか分からない秋晴には「こんなにもいろいろ使うって大変だな」と思うだけであった。  
 
「先輩は描くことだけ考えてくれればいいからさ。そっちは手伝えないしな」  
「…ありがと」  
「気にすんなよ。それに礼なら絵が完成する時まで取っといてくれよ」  
「う、うん……わかった」  
 元気のなかったみみなが笑顔になる。それを見て、  
「やっと笑ってくれたな」  
「え?」  
 何のことだか分からずにきょとんとしたみみなとは対照的に秋晴の表情は一安心した顔になり――  
 
「いや、朝からずっと元気なさそうな顔してたから気になっててな。やっぱ先輩は笑顔が一番だ」  
   
 と何の気なしに言った。  
 実際秋晴にはその言葉以上の意図はなかったし、その言葉以上の意味もなかった。しかしそれは聞く人が聞けば勘違いをする言葉だ。  
「えぇっ…………またキミはっ……そういうことをいう…………」  
 そしてみみなはその勘違いをする側の人間だった。  
 顔はおろか耳まで真っ赤にして照れてしまった。元々達者でない口もいつもに増して重くなる。  
 ここまで動揺してしまえば誰だって自分の発言を思い直し気付くのだ、気がきくのに抜けている、言ってしまえば朴念仁の秋晴にはそんな心配は無用だった。  
「だって落ち込んでたり俺に気を使ってちゃいい作品なんてできないだろ?」  
 重たいものを持っていた為にみみなの方を見ていなかったのも理由の一つではあるんだろう、秋晴はいたっていつも通りだった。  
「…………そっち…………なんだ……」  
 みみなは先程の動揺と違う方向で動揺した。もちろん秋晴の言葉は彼の本当の気持ちであって嘘ではないのだろう。  
 だからこそ過剰反応してしまった自分が情けない。  
「どうかしたのか?」  
「な、なんでもないっ」  
 なぜか落ち込んだり沈んだりといった方向の変化には敏感な秋晴はこういう時に厄介だ。  
 女心を全く持って分かっていない。  
「いや、でも何か、」  
「なんでもないのっ!」  
「……ス、スマン」  
 
 二人の間に微妙な空気が流れる。秋晴は原因が分からなくて、みみなは原因を分かってもらえなくて。秋晴がもう少し女心を理解すれば解決するのだが、それができればそもそもの行き違いは起こっていなかっただろう。  
 ただ歩いていても仕方ない、空気に耐えきれずに話しだしたのは秋晴だった。  
「あーっと…………ところで今日はどこか行く場所決めてるのか?」  
「…………えっと……」  
 またも動揺してしまうみみなに秋晴はなるべく口調がきつくならなように答えた。  
「特にないのか。んじゃ天気もいいし少し歩くか」  
「で、でも重くない?」  
「そうでも無いぞ。この前授業で持ったベッドのが重かった」  
「ベ、ベッド?」  
「ああ、『他の使用人の手が塞がっている時に時に突然主人が模様替えをしたいと言った時』の為にベッドを運んだんだ」  
「それは……すごい、ね……」  
「そんなことを言い出す主人には仕えたくないってくらい重かったな」  
「…………そうなんだ……」  
 また少し落ち込んでしまったみみなの様子を気にしながら秋晴は考える。  
 今日はどうやらいつにも増してみみなの感情の振れ幅が大きいようだ。この小さな先輩(と言うといつも決まって「また子供扱いしてっ!みみなはもう大人の女性なんだからねっ!」と全く説得力の無い言葉を言われる)は子供のようにコロコロと感情が変わる。  
 子供のようにと言うと語弊があるが口に出さないだけで不満や喜怒哀楽を隠そうとしていて明らかに顔に出てしまう。少なくとも秋晴はそう思っていた。セルニア辺りも表情が分かりやすいがこの先輩の分かりやすさはまた違っている。  
 そして今は不機嫌で元気がないダウナーモードだった。  
 このままで絵を描くなんて上手くいくはずもなく、どうにかしようと秋晴が思いついたのは――我ながら名案だった。  
「なあ先輩、何描くかって決めてないって言ってたよな?」  
「うぅ〜……えっと…」  
 みみなの反応は口籠り、目は泳ぎ、秋晴の顔を全く見ない。歩くスピードも遅くなり、何も決めてないのは明らかだ。それを隠せていないのも明らかで、むしろみみなが隠そうと言う気があるのか疑わしい反応だった。  
 いつもならこのまま秋晴が有耶無耶にして話が流れるのだが、今回ばかりはそれはみみなの為にも自分の為にもならないと苦渋の決断をする。  
「正直に言ってくれ、別に怒らないし急かしてる訳じゃないから」  
「……うん、ホントはあんまりあてがないの……」  
 あんまりと言うのもみみななりの気遣いだろう、正確には全く当てがない。  
 彼女には悪いがそれは秋晴の予想通りで、それはとても好都合だった。  
「んじゃさ、着いて来てくれるか?」  
 
 
「…………すごい……」  
「だろ? この前ランニングしてる時に見つけたんだ。いい景色だから先輩にも見せたくてさ」  
「うんっ。ありがと」  
「どーいたしまして」  
 二人がいるのは白麗陵の裏山を少し登った場所にある開けた空間で、崖と言うほど迫り出てはいないがその場所からは山の下に広がる景色を一望できる。  
 裏山自体が針葉樹が多く冬になってもその景観は失われない。それどころか澄んだ空気により視界がクリアになって感じ、紅葉の秋に勝るとも劣らない美しさがある。  
 そして目の前には白麗陵の立派な建物が広がっていて、簡単に言うと絵画のように綺麗な景色だった。  
 秋晴が案内したのはそんな場所だった。  
 以前大地とランニングをした際に見つけた場所なのだが寮からの距離もそこまでなく、またいつか来たいと思っていた場所だった。  
 山道を大量の画材を担いで登るのは大変だったが、この景色、そしてみみなの喜んだ顔を見れただけで充分だった。  
 秋晴はその顔を満足そうに眺め、少し離れたところに画材を置く。汚れないように、壊れないように細心の注意を払い、そしていつでもみみなに希望されたら渡せるように。  
 数分間の作業を終え、何をしようかと考える。よく考えれば今回は絵のモデルでもないしかといって何も持っていない。もし持っていたとしてもみみなの集中力を乱すようなことはできない。  
 必然的に手持ち無沙汰になり、みみなに目がいく。  
 景色の美しさにスイッチが入ったようで腰を下ろし一心不乱にスケッチブックを埋めていた。  
 その顔は真剣そのものでいつも子供のように笑っているみみなとは少しだけ雰囲気が違い、十九歳という年相応な雰囲気を持っていて、それでいて好きなことをしている時の人の一番いい顔だった。  
 いつもの振る舞いやその体躯からは想像もできない一面に思わず目を奪われる。ついつい、やっぱりすごい人なんだなぁ、と失礼なことを考える。  
 風景をスケッチするみみな、それを見つめる秋晴。それは互いに楽しい時間だった。  
 
 一時間半ほど時間がたつとみみなの顔が少しだけ険しい顔になり、手が遅くなる。集中力が切れたのか、何か問題があったのか、ついにその手が止まる。  
「先輩」  
「…………何?」  
 かつてないほどぶすっとした不機嫌なみみなの顔に一瞬秋晴は提案をためらう。  
「もし邪魔じゃなかったらでいいんだけど…休憩にしないか? 集中力切れてきたろ?」  
「……大丈夫だよっ、みみなは大人だからまだ頑張れるもんっ」  
 明らかに煮詰まっていて言っている内容が支離滅裂だ。  
「大人も子供も関係ないって……。さっきから見てたけど手が止まってるし」  
「…………さっきから見てた…ってみみなを?」  
「ああ、真剣に描いてるなーって思ってみてた」  
「……うぅ〜………」  
 みみなの顔がボンっと赤くなる。見透かされたのが恥ずかしいのだろうか?秋晴はあと一押しだと思い――  
「温かいココアもありますので休憩いたしませんか?」  
 普段の口調ではなくわざと奉仕活動の時の口調で話しかけた。  
 手には温かい湯気の出たココア。コート着用、その裏にはカイロがいくつもついているとはいえ寒い季節、風がなく日差しが暖かくても体は冷え切っている。  
 集中力が切れ、寒さも自覚してしまった今みみなの行動は一つだった。  
「うー……分かったよ」  
 もちろんもうすぐ休憩の予定だった。絵というのは存外体力も集中力も使う作業なのだ。ただそれを見透かされたのが悔しいのかみみなの頬はぷくっと膨らんでいた。  
「はー暖まるなー」  
「…………うん、ありがと」  
「いや、これも立派なサポートだから当然だ」  
 みみなは手のココアの熱を感じ、自分が意識していたより体温が低くなっているのを自覚する。  
 もちろんそれは絵を描いていない秋晴も同じでこの寒空の下にいれば体温は下がる。  
 休憩のタイミングは互いにとって絶妙だった。  
「ところでさ、もし嫌だったら答えなくていいんだけど……何でまた急に描く気になったんだ?」  
「え?」  
「たしか前にしばらくどこにも出さないとか言ってた気がしたし、最初に会った時に聞いた気がするけど誰かに期待されて描くみたいなの嫌いって言ってた気がしたからさ。今回の件なんてモロにそれだと思うし……」  
 秋晴は口に出してから、しまったと思う。いくら気になったからと言って今聞く話ではない。下手したらみみなのモチベーションを下げる結果になる。  
「え、えっとね……描きたくなったから……かな?」  
 返ってきた答えから安堵を得る。が、よく分からない表現だ。  
「描きたくなった?」  
「あのね……好きなものを描きたいってだけじゃなくて、私の絵を好きって言ってくれる人のために描きたくなったの。前と違って期待に応えなきゃって感じじゃなくて……あの、その……」  
 みみなの声は最初こそはっきりした口調だったもののどんどん自信を無くし、尻窄みになっていく。  
 ただそれは秋晴の疑問の答えとして十二分に満たしていた。  
「うん、なんとなく分かった」  
「うまく言えなくてごめんね」  
「いや全然問題ない」  
 
 みみなの気持ちの全てが伝わった訳では無い。ただそれでも嫌々描いている訳ではないし、何より描きたいものを描いていると言う気持ちが伝わる答えで、秋晴には十分だった。  
「でもそれがどうかしたの?」  
「いや、それならいいんだよ、前みたいに無理やりっていうか責任感とかからじゃなくて先輩が描きたくなったんならさ」  
 秋晴が心配していたのはみみなが嫌々描いている、嫌々とまではいかなくても押し付けられた責任で絵を描きだしたのではと心配したからだった。  
 半年ほどみみなとすごしてきて、目の前の彼女は大人であると知っていた。  
 見た目や行動が大人なのでは無く、考え方、行動原理と言うべきか根底に他人を気遣う気持ちがある。  
 世間的な見た目を気にする朋美や自分の家の誇りを気にするセルニアとはまた違った他人を気にする優しい、お人好しな部分がある。  
 だから秋晴は今回の話を聞いて少しだけみみなのお人好しな部分が責任感に駆られてしまったのかと思ったのだ。  
 杞憂に終わってよかった。そして心配事が解消した今、秋晴にできることは一つだった。  
「いい絵、描けるといいな」  
「うんっ」  
 みみなが頑張りたいと言うなら秋晴にできるのはみみなの応援をすることだ。  
 そして応援されたみみなは改めて頑張ろうと思った。  
 期待をしてくれてる人の為に、自分の為に、そして目の前のファンの為にも。  
 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  
 
 みみなの作品の締め切りが予定より早くなり秋晴をお供に白麗陵を闊歩することになる少し前の祝日のことである。  
 秋晴はトライアクアランドに来ていた。  
 もちろん一人ではなく、先日の秋葉原の散策の三人で前回来た時とは全く違うメンバーと来ていた。  
 ピナ、みみなとそれぞれ遊園地に行く約束をしていたこと、鳳にあの日のお礼をすると約束していたこと、そしてピナが招待券をまた貰ったこと、全てが都合よく滞りなく運んだ結果だった。  
 チケットを見た時に秋晴が「皆で行くんだな、誰と行く?」と言った瞬間、ピナの目がキッと睨むように強くなり、すぐにがっかりした顔になった。「どうかしたのか?」と聞いた秋晴に対して「何でも無いのじゃ」と落胆した顔でピナが返したのはまた別の話である。  
 とにかく秋晴はみみな、ピナ、鳳の四人で訪れていたのだが――今実際にテーブルに座っているのは秋晴とみみなの二人だけだった。  
 秋晴はそもそも前回の来園の際に全アトラクションを制覇してしまっていた。その上前日午後の従育科の特別授業によって体力の残りが少なかった。  
 一緒に行くと言うのは当然来園までを指すのではなく、一緒にアトラクションを回る事を指す訳で最初は行動を供にしていたのだ。  
 しかしここでアクシデントが起こる。アクシデントというべきか考えておけば予想できたことなのだが――小さな最年長、桜沢みみなの疲れてしまったのだ。  
 考えてみれば至極当然なことで、みみなは遊園地に来たことがなかった為に、絶叫アトラクションに限らず遊園地で遊ぶという行為にどれほどの体力が必要かを知らない。  
 その上みみなは病気は治っていてもずっと入院生活だったことで深窓の令嬢にすら敵わない体力の低さである。  
 更に更に出発前のことである、瞼の重そうなみみなと――  
「先輩眠いのか?」  
「だ、大丈夫だよっ」  
「楽しみで寝れなかったのか? 遠足前の小学生みたいに」  
「そ、そんなことないもん! みみなはもう大人なんだから楽しみで寝れなくなるなんてことないもんっ!」  
 ――秋晴が交わしたお約束の極みな会話が付け加わった末、みみなは数えるほどのアトラクションでダウンしてしまったのだ。  
 故に秋晴とみみなの休憩組、ピナと鳳の活動組に分かれる形になったのだ。  
 四人が別行動になって実に一時間ほど、そろそろ戻ってくるかと思いきや全く連絡がない。楽しんでいることはいいことだがこのままでは復活したみみなと合流する前に全アトラクションを制覇してしまうのではないだろうか。  
 
「にしても……そもそもピナは乗り物が苦手だって言ってた記憶があるんだけどな」  
「そうなの? なんかピナちゃんっていつも元気だから、ジェットコースターとか好きなイメージだったけど……」  
「まあ、言われてみればそうかもな。食わず嫌いならぬ載らず嫌いだったのかもな」  
 ここにいない二人のことを思い出す。自分の体調不良は気にしないでいて欲しいがみみなのことは考えてあげて欲しい。二人でアトラクションに行くことも考えたがそれでは入れ違ってしまいそうだ。  
「まあ……鳳が好きなのはなんとなく予想はしてた」  
「そうなの?」  
「ああ、思い当たる節があってな」  
「そう、なんだ」  
 思い出されるのは鳳、轟、セルニアと実質四人で受けた従育科試験のことだった。あの馬はすごかった。そして余計なトラウマまで思い出しそうになり頭を振る。  
「…………」「…………」  
 とたん、二人の間に沈黙が訪れる。こうして一時間ほど、みみなの調子が戻ってから三十分もこうして話しているのだ。いい加減話のネタも尽きてしまう。  
 そもそも互いに顔見知りであるのだが学年が違い秋晴は従育科の生徒であり、共通の話題などほとんどない。  
 お互いに顔を見合わせ気まずそうに目を逸らす。沈黙、そして空気の気まずさを一度意識してしまうドつぼに嵌る。ましてや二人は互いに積極的に話題を振る正確ではないし、ちょうどいいきっかけもない。  
 意を決して秋晴が話を切り出すが――  
「にしても秋ももうすぐ終わりだな。ってかもう冬なのか? 今日も座ってると寒いしな」  
「そうだね……」  
「だよなー、この前の授業の体力作りだって……いや、こんな場所で話すことじゃないか」  
 ――話の展開を上手く持っていけずに会話が途切れてしまう。  
 別に何かを話さないといけないなんて決まりはない。ただ、黙っていれば間が持たない。  
 そして何より、二人になってからずっとみみなの表情が暗い。体調が悪かったせいかと思ったがどうやら違うようで、体調が戻ってからも笑ったり喜んだりの明るい表情にも少しだけだが陰りが見える。  
 原因が分からない秋晴にはどうにもしようがないなのだが、どうしたって気になってしまうし一緒にいる以上笑顔でいて欲しい。  
 何を話そうかと考えて、あることを思い出す。  
「あ」  
「どうしたの…?」  
「えーと……」  
 思いついて口に出そうとするが寸前で躊躇う。それは今のみみなの話すことで機嫌が良くなる話題とは一概に言いきれなかったからだ。  
「…何もないなら、いいけど……?」  
 秋晴の躊躇に肩を落とすみみな。何か勘違いされてしまったようだ。  
 どうしたもんか、と思いもはやどうにでもなれと話を続ける。  
「いやさ、先輩に言おうと思ってたことがあったんだ」  
「みみなに?」  
 心当たりがないというみみなのきょとんとした顔色を疑いながら恐る恐る秋晴は続ける。  
「ああ、この前見たんだよ。ずっと見よう見ようとは思ってて……ただいろいろあって見れなくてさ。でもこの前やっと見れたんだ」  
 話を切り出しておいて自分の言葉が上手くまとまっていないのを自覚する。ずっとみみなに話したかったことなのだがどうにも言葉出てこない。  
「あれすごいな。何かこう……言葉じゃ表現できないものって感じでさ。見た瞬間電気が走った感じでさ。俺なんか言われても嬉しくないのかもしれないけどさ」  
「えっと…………何の話……?」  
 言葉を慎重に選びながら話す秋晴は伝えようと必死で対するみみなも一生懸命内容を把握しようとしていたが分からないでいた。  
 どうにも空回りした二人である。  
 
「先輩の作品……『落日の壁影』だっけ?」  
 秋晴の口から出たのはみみなの予想もしていない単語だった。  
 落日の壁影。それは白麗陵図書館に展示されているみみなの作品で白麗陵の生徒なら誰でも知っている。  
 みみなと秋晴は殆ど絵の話をしない。それはみみなに対する気遣いなのか話し辛いからなのかとにかく互いに話題を持ち出すことがなかった。  
 だから秋晴の口からその言葉が出たことにみみなは驚いていた。  
 そんなみみなを余所に秋晴は続ける。  
「今更なのかもしれないけどこの前見たんだよ。ホンットすごかったよ。芸術とか全然分からないと思ってたんだけど、純粋に感動した」  
「えぇ? あ、えっとっ……」  
「あースマン。俺一人だけ盛り上がっちゃってるな」  
 話しだしてすぐに上がったテンションについていけないみみなを見て落ち着く秋晴。言ってしまった後で、やっぱりみみなに絵の話を振らない方がよかったかと思いどうしたものかと耳の安全ピンを触る。  
「ちっ、違うの! あの……なんていうか……」  
 目のあった瞬間俯くように視線を逸らすみみな。ああ、これは本格的にやってしまったのかと思った。  
 しかし、よく見るとみみなの顔が赤い。頬が風邪をひいたように朱に染まり、耳まで真っ赤でゆでダコのようになっている。  
 そしてよくよく考えてみればみみなは自分の言葉に必死に答えようとしている。それはつまり――  
「……先輩、もしかしてだけど照れてるのか……?」  
「えぇ!? えっとっ……そ、そんなことないよ!! みみなは、それくらいじゃ…」  
「別に隠さなくてもいいと思うんだけどな。人間誰でも褒められたら嬉しいし照れるだろ? まあ、俺みたいに絵に疎いヤツに言われても嬉しくないのかもしれないけど」  
「うぅ〜……そんなこと、ないけど……」  
 急に出された話題に対応し切れず、しかもそれが自分を純粋に褒める言葉でその相手が興奮すらしてしまっている。  
 それに戸惑っていたのだ。  
 秋晴は考える。みみなは謙虚というか自分の感情を隠すことが多い。褒められたことや楽しいこと喜ぶことなど様々なことを隠す。今回も明らかに照れ隠しである。  
「嫌じゃないなら素直に照れてくれって……何か変なセリフだな」  
「そうだね」  
 まだ恥ずかしいのかみみなは顔を俯けてしまった。これでは秋晴がみみなを苛めているようだがみみなの顔は笑っていて元気がでたことに安堵をする。  
 みみなに対して絵の話題を持ち出すことは秋晴には冒険だった。  
 それはもちろん秋晴自身がみみなの作品を見たことがなかった事実にも起因するがそれ以上にどうしても話しづらかったからだ。  
 秋晴が彼女の作品を知る前からみみなの絵が誰からも絶賛されているのは知っていたし、誰からも新作や絵についての話を振られていると考えると絵の話題を振り辛かった。  
「キミは、みみなの絵がもっと見たいの?」  
「ん? ああ、見たいか見たくないかって言われれば見たいな」  
「そう、なんだ」  
 みみなが聞きたがっている、そう判断した秋晴は自分の感想をありのまま表現した。  
「ああ、さっきも言ったけど見た瞬間電気が走ったみたいになってさ。感動した。その日のうちに朋美に先輩描いた絵の写真とかありったけ見せてもらったしな」  
「えぇっ。えっと……うぅ〜」  
「いや、ホントすごいと思ったぜ? 正直昔は美術館とか退屈なだけだったし、今も行こうとは思わないけど先輩の絵があるなら行きたいってくらいだ」  
「そ、そんなに言われると……」  
「悪い悪い、また興奮しちまったな。まあ、そんなわけで俺も先輩のファンの一人だ。尤も期待はしても押し付ける気はないからな。新作見たいって期待はあるけど無理やり描いても先輩が楽しくないと思うしな」  
 秋晴の顔は真剣で楽しそうでお手伝いをした子供のようにみみなに話をした。自分の気持ちを話したくて仕方ない、と言った感じだった。  
 対してみみなはその素直な気持ちを話す秋晴に嬉しい気持ちを感じつつそれ以上の気恥ずかしさでいっぱいだった。  
 
「それに……先輩の絵ってさ。すっごい楽しそうなんだよな。絵が好きで好きでそれが根底にあるからなのかな? 絵からも楽しんで描いてますってのが伝わってくる感じで元気が出る。だから無理やり描いたって俺が好きな先輩の絵にはならない気がするんだ」  
「うぅ〜……キミは本当に……」  
 それは秋晴の心の底からの気持ちであり、重い期待とは違ったみみなの後押しをしてくれる確かな力の言葉だった。  
 思わず強く語ってしまった秋晴は少し恥ずかしくなりみみなから視線を外す。みみなはみみなでかつてないほどに真っ赤になって俯いてしまった。  
 気まずいというよりは気恥ずかしい沈黙が二人の間に流れる。  
「あのねっ、実は来年の頭に個展をする予定なの」  
 沈黙を破ったのはみみなの言葉で、その内容は秋晴にとって予想外だった。  
「…………マジか」  
 最初は何の話かピンと来なくて呆けてしまった。少しずつその意味をかみ砕きその言葉を理解する。  
「うん、予定通りなら一月の終わりか二月くらいの予定」  
「割とすぐ…なのか? 三ヶ月くらい先だけど個展って準備がかかりそうだし」  
 秋晴には絵の知識など無くし、そういった催しがどうやって準備されるかを知らない。しかしそれでも絵に時間がかかるだろうことは分かるし、ある程度の準備がいるのは当然なのも知っている。  
 それに記憶の限りみみなはずっと作品を描いていない。もちろん秋晴の知る限りだしスケッチは毎日しているようだから作品の元自体はあるのかも知ればいが。  
「少しギリギリかな? でもずっと休んでたから、描きたい絵はいっぱいあるから。それに…」  
「それに?」  
 何かを言おうとして止まってしまうみみな。やっとあった視線を逸らされてしまう。小さな横顔は耳まで真っ赤になっていて、何か都合の悪いことでもいいそうになったのだろうかと秋晴はぼんやり考えた。  
「なんでもないっ。お、大人にはいろいろあるのっ」  
「そうだったな」  
 必死になって取り繕うみみなに苦笑しながら秋晴は答えた。  
 それはみみなの照れ隠しなのかその言葉通りの意味なのか、秋晴には分からないがどちらもたいして変わらない。  
 彼女それで納得しているならそれでいいのだと思う。  
「見に来て、くれる?」  
 不安そうに上目遣いで聞いてくる。こちらの行動を一挙手一投足気にしていて瞬きすら注目されている気がする。  
 それは恰も子供が親に何かをねだるようで、言葉によっては一生ものの傷を負わせることができそうな弱々しい強制力があった。  
「モチロンだ。というか行かせてくれ」  
 秋晴の答えはもちろんそんな傷を残すような答えではなく、みみなの望む答えだった。  
 その言葉を聞いて涙目で不安そうだった顔は一瞬のうちの明るい笑顔になる。  
 みみなは子供のような満面の笑みの後、すぐにそれを取りつくろうと冷静を装った大人っぽい顔をした。  
「約束だからね? 来てくれなかったらダメなんだからね」  
「ああ、絶対行く」  
 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  
 
 みみなの作品作成の手伝いとして秋晴が同行して数日、結果的に言うと秋晴はみみなの役に立っていた。  
 一つは秋晴の予想通りの荷物持ちとして。上育科の生徒であり、更に本来病気で入院していたこともあり、みみなは体力的には周囲の人間にどうしても劣ってしまう。そもそも小柄な体躯の為の大きなものを上手に持つことができないかった。  
 もう一つは白麗陵の案内役として。様々な授業で白麗陵全体の施設を使う従育科に対して上育科の生徒の行動範囲は限られていて、一年多く過ごしているみみなよりも秋晴の方が白麗陵の敷地内を知っていたのだ。秋晴のお陰でみみなの知っている場所はぐんぐんと広がった。  
 そして最後にみみなの露払いとして。白麗陵での桜沢みみなの名は全ての生徒に知られていると言っても過言ではなく、その作品を見た人はもれなくみみなのファンとなっていた。その彼女が白麗陵内で個展の為の新作を描いていると聞いて興味が湧くのは当然であった。  
そして秋晴がそんな興味本位の生徒達を露払いする役になるのは必然の結果だった。  
 尤も、秋晴の勘違いされた悪名はいまだ健在で殆どの場合何かした訳ではなく秋晴の顔を見てすぐにどこかに逃げてしまうのだったが。  
 
「役に立ってはいるんだけど、じわりじわりと真綿で首を絞められてる気分だ」  
 昼過ぎ、秋晴とみみなは昼食と休憩を兼ねてカフェテラスにいた。つい先程も数人の上育科の生徒がみみなの姿を見つけ近付いてきたのだが、二人分の食事を持った秋晴が来るのを見て一目散に逃げ出してしまったのだ。  
「…………ゴメンね」  
「先輩のせいじゃないだろ? それに前から解ってたことだし…役に立ってる訳だからマシかな」  
 もう慣れてしまって溜息をつくのも億劫だ、とは思っていても気にならない秋晴ではない。しかしそれがみみなのせいでないことは明白だ。  
 作品制作が順調でないこともあるのだろう、みみなの様子は落ち込んでいていつもの状態とは程遠かった。  
 今は週の半ばで一応の期日である週末まではもう時間は少ない。どうにか力になろうにもみみなの創作意欲を刺激できるような場所は全て案内してしまったし、作品に対するアドバイスなんて秋晴にできるべくもない。  
できることと言えば荷物持ちと露払い、あとは精々気分転換の話し相手くらいだ。  
「んで、午後はどうする?」  
「えっと……」  
 とりあえず午後の予定を話そうとした二人であったが――  
 
「おおっ、アキハル! ちょうどいい所に」  
 
 ――予想外の乱入者もいる訳であり、必ずしもままならないことがある。  
「ピナ? どうしたんだそんなに急いで」  
 勢いよく飛びこんできたのは銀髪ツインテールのオタク王女だった。  
 いつも騒が……元気いっぱいの印象だが今日は一段と落ち着きがない。  
「とにかく妾を助けるのじゃ!」  
「またお前何かしたのか?」  
「誤解じゃ! 今度ばかりは妾に責任はない!」  
 秋晴はどうやらまた何かしでかしたらしいと理解して溜息をついた。少なくとも何か厄介事に巻き込まれているのは確実で、しかもこの流れは秋晴も巻き込まれる流れだ。これは困った。自分一人ならどうにかなるし、諦めもつくが今日は一人ではない。  
「先輩にいたずらしたって前科があるしな」  
「昔の事じゃ!」  
 昔のことと言うがあの猫耳事件は秋晴の記憶にも新しい。あれはあれで眼福だったのだろうがそういった趣味の無い秋晴にはどうでもいいことだった。  
「エストーさん、なぜ逃げるんですか?」  
 ゆったりとした独特の声。喧騒の中でも彼女だと把握できる特徴のある声が聞こえる。秋晴が振り向いた先にいたのは四季鏡沙織だった。  
 どうやらピナを追っていたの彼女らしい。  
「逃げるも何も嫌じゃと言っておるだろうがっ! 妾はサオリとは違うのじゃっ!」  
「でもものは試しと言いますし」  
「だから嫌じゃっ!」  
 二人がそろった途端に口論になる。口論と言っても沙織はいつも通りの口調の為に一方的にピナが怒っているように見える。  
「……誰かこの状況を説明してくれ」  
 従育科でも顔の知れた目立つ二人が目の前で騒いでいると自分やみみなも目立ってしまう。ただでえ面倒事は避けたいのに。その上秋晴には事の発端が分からないので動きようがない。  
「お姉ちゃん! やっと追いついた……日野さん? なぜここに?」  
「四季鏡まで……むしろ何でお前らがここにいるか聞きたいよ」  
 遅れてきたのは沙織の妹である四季鏡早苗だった。この三人とはまた不思議な組み合わせであるがそれ以上にトラブルの原因にしかならない凶悪な組み合わせである。秋晴は巻き込まれることを覚悟した。もっとも既に巻き込まれるているのだったが。  
「日野さんも説得してくれませんか? エストーさんが着れば似合うと思うんですけど」  
「だから妾は絶対にそんなものを着ないと言っておろうっ!」  
「と、とりあえず状況を教えてくれ」  
 沙織とピナの二人が秋晴に詰めよる。しかし秋晴は状況すらも知らないので何もできない。  
 
「サオリが嫌がる妾に無理やりそれを着せようとするのじゃっ!」  
「エストーさんに似合うと思って持って来たんですけどねぇ」  
 互いに互いの主張をする二人。これでは何の説明にもなっていない。  
「……四季鏡、お前が説明してくれ」  
 何一つ状況を掴めない秋晴は溜息をつきながら縋る思いで早苗に訊ねた。  
「えっと…今日は私とピナちゃんで衣装合わせの日だったんですけど…それを聞いたお姉ちゃんが手伝うって一緒に着てくれたんです」  
 衣装合わせとはピナの同人活動の一環のことだろう。それには秋晴とみみなも参加をしていてそう言えばそこに四季鏡も加わると言う話をしていたような気がすると秋晴は思い出す。  
「妾は許可した覚えはないがなっ! あまつさえあんなものを妾に着せようと」  
 たしかに沙織は参加するとは言っていない。本人曰く自重した結果というかそんなようなことを言っていた。そしておそらく今回の騒動の原因となったであろう単語に引っ掛かった。  
「あんなもの?」  
「これです」  
 沙織は手に持っていたものを広げ秋晴に見せる。  
 服である。白と黒がベースの普段から秋晴達が見な慣れた服、そうメイド服である。  
「うわぁ……」  
 そのメイド服を見て秋晴は絶句する。従育科の制服である為に白麗陵内では珍しいことはない。秋晴が驚いたのはそのデザインである。  
 全体的にフリルがあしらわれている、白と黒の配色がベースなのは従育科の制服と同じだ。しかし、その制服は異常な露出度だった。  
 何というかメイド服の雰囲気の水着と言った感じで、胸元が大きく開いていて長いスカートがついているのに太腿の辺りの布が存在しない。メイド服だと思ったことが間違いである気がするレベルの代物で少なくとも白麗陵の制服とは似ても似つかないものだ。  
 確かにこれを着るのは恥ずかしい。露出としては普段ピナが来ているディーバの衣装と変わらないが、普段見慣れたメイド服を露出方向に改造したと言える服だ。嫌がるのも無理はないと秋晴は思った。  
「エストーさんに似合うと思うんですけどね」  
 ニコニコと屈託のない笑顔で言う沙織を見てどうしたものかと秋晴は言葉に詰まった。ピナに助け船を出そうと思ったのだが何を言えばいいのかが思いつかなかった。  
 四季鏡姉妹には正直羞恥に関しての常識が通じないからである。特に姉の沙織に関しては何かにつけて気付いたら服を脱いでいることがある。というか何か問題があると脱いでいる。そんな彼女にピナの気持ちが分かるとは思えない。  
「えーっと沙織さん、これは……ピナじゃ……」  
「アキハル、何か言いたげな顔じゃな?」  
 秋晴の言おうとしたことに対して敏感に反応し、ピナは蛙を見る蛇のような目で睨みつけた。確かに秋晴の言おうとしていたことはピナにとってとても失礼なことだったのだが、それを先回りしたのだった。   
「いや、睨むな睨むな。お前は着たくないんじゃなかったのかよ」  
「むぅ、そうじゃが…」  
 しまったと思い、秋晴は明らかに不機嫌なピナを何とか落ち着かせる。ピナも秋晴を追求するより沙織の持っている衣装を着たくないという意志のが強いようでそれ以上の追及をしなかった。  
「ってか沙織さん、そんなものどこから?」  
「撮影で使ったんですよ。実際にはサイズが合わなくて私は着てないんですけれど、エストーさんがこういうの好きだったと思いまして貰って来たんです」  
 そんなもの持ってこないで欲しい。というかそれは可愛い程度の衣装では無い。  
「ピナはコスプレ好きなイメージがあるけど…それは微妙に違う気が」  
「その通りじゃっ!」  
「着ていただければ良さも解ると思うんですけどねぇ」  
「そんな良さなぞ分かりたくもないわっ!」  
 再び口論が始まってしまい諦めを覚えながらも秋晴はずっと見ていただけの早苗に話しかけた。  
「なあ、四季鏡。何で沙織さんはあんなに乗り気なんだ?」  
 いつになく熱心な沙織の理由さえ分かればこの事態を収拾できるのではないかと思い藁をも縋る思いの秋晴。  
「えーと、話せば長くなるんですけれど……そもそもピナちゃんが私に相談してきたんですよ」  
 早苗はとても言いにくそうに話した。  
 
 相談とはなんだろうか。正直ピナは交友関係が御世辞にも広いとは言えない。相談を持ちかけられるのはいつも決まって秋晴であるのだがそれを早苗に相談したと言うことは自分では駄目なのだろうか?  
 ピナに頼られていると自惚れている訳ではないが少しだけ自身がなくなってしまい、その相談内容と言うのが気になる。  
「相談? 何の相談だ?」  
 少しだけ後ずさる早苗の表情を見て秋晴は違和感を感じる。確かに自分が相談されたことをおいそれと他人に言うことはできない。しかし、よく考えれば早苗自身も多くの相談を秋晴に持ちかけることが多い。しかし今回はそんな話を聞いていない。  
 もしかしたら俺には相談できないのか?とも思うし、何か信用をなくすことをしたのか?とも思い気持が急いてしまう。  
「俺も力になれるかもしれないだろ?」  
 先程より強い口調で言う。  
 その真剣な目に気押されたのかピナと秋晴の方を何度か交互に見る。そして恐る恐るその口を開――  
「それが……もっと色気を出、」  
「サナエ! それそれは言ってはならぬ!!」  
 ――くことはできなかった。何か言おうとした早苗にピナが飛びかかりそれを阻止したのだ。  
 その内容がなんだったのかは語られなかったが余程の内容だったようでピナは焦っており、勢いよく早苗にぶつかった。もはや突進というレベルでそれを早苗が支えられるべくもなく、秋晴を巻き込んだ。  
「ひぁんっ!」  
「うわっ!」  
「のわっ!」  
 三人はそのまま床に倒れ込んでしまう。近くにいた沙織やみみなが巻き込まれなかったのが不幸中の幸いであろう。  
「いたたたた」  
「日野さん、すみませんっ」  
「いてててて……大丈ブッ!?」  
 ピナと早苗は秋晴の上に乗る形になり一方的に下敷きとなる。普段から従育科として鍛えている秋晴にとってそれ自体は問題でなく、傷も擦り傷程度でむしろ上に乗っている二人が怪我をしていないか心配だった。  
 そう思い視線を向け大丈夫かと訊ねようとしてそのまま止まってしまう。  
 上に乗ったままのピナと早苗も自分達の状態には気付いていなかった。  
「あらまあ」「…………」  
 そんな三人を見ていた沙織とみみなだけが正しい反応をする。と言っても本来なら早苗の反応は可笑しいもので顔を真っ赤にしているみみなが正しい反応なのだが。  
 秋晴は大の字になって床に寝そべる形になっていた。その体を両側から挟みこむように早苗とピナが座っていた。座ると言っても足から突っ込むような形でまるで秋晴の顔に膝蹴りを入れるているように見える。  
 そして二人のスカートはどういう力が働いたのか腰どころか胸の辺りまで持ちあがってしまっていて、端的に言うと秋晴の目の前に、数センチ先と言う眼前に二人の脚と下着が露わになっていたのだった。  
「「きゃあああああああああっ!!」」  
「いてええええええええええっ!!」  
 二人がほぼ同時に叫びその場から飛び退いた。もちろん下敷きになった秋晴のことなど気にもせずに。  
 その反応は年頃の女の子として当然なのだがその下にいた秋晴は軽いとは言え二人分の体重の衝撃をまともに与えられて一瞬意識が飛びかける。  
 地面で仰向けに唸っている秋晴の様子を気にしつつも互いに恥ずかしいのだろう。ピナと早苗は顔を真っ赤にしていた。  
「と、とにかく嫌なのじゃ!」  
「ピナちゃん……走ると危ないですよぉー」  
「早苗に言われとうないわっ!」  
「え? それはどういう……きゃあ!」  
 そして二人はそのまま走りだしてしまった。むしろ逃げ出したのかもしれない。まあ、仮にも異性にあんな姿を見せてしまったら仕方ないかもと秋晴は思いながらとりあえずは事態は収拾したのかと溜息をつこうとして何も解決していないことを思い出してより深い溜息をついた。  
 そしてこの場に残った張本人を見ていい加減慣れつつある沙織のある行動を指摘する。  
「何というか…。そして沙織さん何をなさってるんですか?」  
「…………ふぇっ!?」  
「色仕掛け……ですかねぇ?」  
 ピナに露出度大のメイド服を着せようとしていた張本人の沙織はなぜかその上着を脱いでいたのだ。その行動にみみなは顔を真っ赤に俯いている。  
 対して秋晴は何かにつけて脱ぐ癖がある彼女にもうだいぶ慣れていた。慣れていたと言ってもその姿を見ないのは礼儀だし顔が赤くなるのは例え慣れても変わらなかったのだが。  
 顔を背けて沙織の言葉を思い出す。彼女は今、色仕掛けと言った。おそらく言葉通りの意味だろう、そしてその対象はおそらく秋晴である。   
「…………意味が分かりません」  
 
「エストーさんを説得してもらおうと思いまして。着れば良さが解ってもらえると思うんですけど」  
 ああ、そうかと彼女の言葉に納得をする。直接話せば分かるし早苗のヘンテコ常識の大元である彼女の知識だ。これが彼女の常識なのだろうと、相変わらず間違った常識なんだと何度目かの溜息をつく。  
「冗談ですよ。実はさっき上着を少し引っ掛けてしまいまして、破れていないかの確認をしていたんです」  
「………………なぜこのタイミングで」  
 沙織の言葉に不信感を感じながらも秋晴が振り向くと既に上着を着ていた。どうにも本気なのか本気じゃないのか分かってるのか分かってないのか掴めない不思議な人だ。  
 とりあえずやっと落ち着いた状況を整理する。色仕掛けか本気だったにしろ嘘だったにしろ沙織があの衣装をピナに着せたいのは本気なようだ。  
「えーと……何でそんなに着せたいんですか? あんなにピナは嫌がってるのに」  
 沙織は勘違いされがちだが頭が悪い訳ではないし本人が嫌がっているようなことを無理強いするような性格ではない。そんな彼女がピナに無理に衣装を着せようとしていることは秋晴に違和感を与えていた。  
「本人の為だからです」  
「……ピナの?」  
「はい」  
 沙織は何の躊躇いもなく、笑顔のままで言いきった。  
 ピナ本人はとても嫌がっている、しかし沙織はピナの為だと言う。嘘ってことはないだろうし、勘違い思いこみという線もあるがそのどちらも違うようで、秋晴に思い当たるのは一つだけだった。  
「えーと、さっき言いかけてたピナの相談事が関係あるんですか?」  
「そうですね。日野さんに詳しくは言えませんけど…少なくとも私の口からは言えませんね」  
 自信なさそうな秋晴の言葉を肯定してくれた沙織にほっとする、が自分には言えないという言葉を聞き少しだけ落ち込んだ。先程もその相談内容を話そうとした早苗に飛びかかってまでピナは秋晴の耳に入るのを阻止した。  
「そうなのか……」  
 そんなにも信用がないのか自分は、と秋晴は目に見えて落ち込んだ。理由は分からないがとにかく秋晴には聞かれたくないらしい。  
「…………とにかく……本人が嫌がってるなら俺は説得できませんから」  
 何だろう、この表現できない喪失感は。ピナに信用されていた、頼られていたのを心の支えにしていた訳ではないが、どうしたって落ち込んでしまう。  
「色仕掛け失敗ですかねぇ、残念ですね。ではまた機会によろしくお願いします」  
 落ち込んだ秋晴にそんなことを言ってそのまま沙織は「失礼します」とその場を離れた。あの色仕掛けとやらは本気だったのか?と思えなくもないようなよく分からないセリフだった。  
 たった数十分にも満たないわずかな時間だったが秋晴の体感としては何時間以上もの疲労がたまっており、しかも問題は何一つ解決しておらずただ巻き込まれただけだった。  
「………………またなんてあって欲しくない……」  
 秋晴は誰に対してでもなく何に対してでもなくふと呟いたのだった。  
 騒ぎを深閑に知られる訳でもなく、一緒にいたら話が二重にも三重にもこじれてややこしくなるであろうセルニアや朋美がいなかったことは不幸中の幸いだった。  
 ピナには……どこか俺の知らないところで幸せになってもらおう。沙織はあれで年長者であるから何か考えがあるだろうし、助けるのは何かあってからでも遅くない。むしろこれを機にピナの自由奔放な性格が落ち着けばいいと思っていた。  
「まったく人騒がせな……先輩?」  
 そしてほぼずっと黙っていたみみなの存在に気付く。  
 
 ピナ達三人が来てからほぼ終始何も話さなかったから思わず彼女の存在に失念していた秋晴だったが、よく見るとその顔は涙目になっていて呆けた表情で何かをぶつぶつと呟いていた。  
「……キミは……やっぱりああいうのが………ふぇ?」  
「どうしたんだ? ぼーっとして」  
 いきなり脱ぎ出した沙織に対して固まっていた訳ではないだろう。何か考えているようにぶつぶつと呟いていたのだ。  
「な、何でも無いよっ!」  
「いや、明らかにぼーっとしてたぞ? 何か独り言、」  
「何でも無いのっ!」  
 いきなり声を荒げるみみなに秋晴は驚いた。なぜか急に激昂してしまったのだ。何か気に障ることでも言ったのだろうか?  
「な!? 何だよいきなり……」  
 みみなのあまりに急な変化に秋晴は原因を考える。あの三人が何かした訳で無いし、昼食前は別に機嫌が悪いと言うこともなかった。  
 しかし目の前のみみなは見るからに不機嫌で、涙目で唇を震わせて、静かな怒りを宿している。  
「今日はもういいから」  
「え?」  
 先程までの強い口調とは違い、一瞬で萎んだ風船のように落ち込んだみみなの落ち着いた言葉に秋晴は更に驚く。ただでさえ感情が高ぶった原因が分からないのにそれが一瞬で冷めてしまったのだ。余計に混乱してしまう。  
「今日は、止めにするのっ。今日は描かない」  
 冷たい口調で不機嫌そうにみみなは言う。  
「じゃあねっ!」  
 そしてそのままみみなはその場を後にしてしまった。  
「…………何だよいきなり……」  
 残されたのは大量の画材。人が少ないとはいえ取り残された秋晴に集まる奇異な視線。どう考えても自分が悪者だ。しかも今回は誤解ではなくおそらく自分が原因である。  
 とりあえず片付けるしかないよな、と思い荷物を整理する。  
 全てみみなの私物であり、みみなの部屋に行かなくてはいけない。ただ、先程のみみなの怒った原因が分からなくては再びみみなの機嫌を損ねてしまうだろう。  
 自分の行動を思い返してもどうしても原因が分からない。  
 頭を抱えていると、みみなの座っていた椅子に置いてあるものに気付く。  
「これは…………」  
 みみながずっと持っているスケッチブックであった。  
 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  
 
 時間は過ぎ、時刻は夕暮れ。  
 夜の帳が下りてきてどんどんと暗くなっていく。そして季節は冬、気温はどんどん下がっていく。  
 みみなは一人、お気に入りの場所である石碑を背に空を見上げていた。  
 この石碑の場所は自室よりもどこよりも落ち着ける場所である。が、それでもみみなの胸のもやもやしたものは無くならず、ずっとイライラしたままだった。いつもならばこの場所に来ただけで心が落ち着き、頭は澄んでいき透明になれる。  
嫌なことを全部忘れられる。そのはずだった。  
 原因は分かっている。もやもやしたものが何かも、その原因も全てを理解している。  
 ただしそれは認めたくない。認めたくないと言うのは少し違う。自分はどうすればいいのか分からないのだ。ずっと知識でしか知らなかった経験、ただ知っていただけの感情が自分に芽生えている。それを自覚してしまった時からずっとその扱いに困っていた。  
 考えるのを止めればいい、そう思ってこの場所に来たのだが――それは失敗だった。ここはみみなの秘密の場所であるが、みみなだけの秘密の場所では無い。全ての元凶とも言えるみみなと彼の秘密の場所なのだ。  
 ずっとそんなことを考えながら悶々と思考をループさせていた。  
「……寒い……」  
 思わず呟いてしまう。  
 石碑にしゃがみ込んでどれくらい時間がたっただろうか、最初は恥ずかしさや怒りや緊張や焦りや様々なものから熱くなっていた体温も今ではすっかり冷え切ってしまっている。寒いからと秋晴に貰ったカイロもすっかり冷たくなってしまった。  
 なぜだろうか、悲しくなって涙が出そうになる。何がきっかけだったのだろうか、何が悪かったのだろうか、どうすればよかったのだろうか、どうしかったのだろうか。いくら自問自答を繰り返しても今のみみなに答えが出るはずはなかった。  
 
 

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