『This is my daily life』  
 
 
「えーと」  
「…………」  
「何でこんなことになってるんだ?」  
「…………」  
「みみなさーん……」  
「…………」  
「無言で睨まないでください………」  
 どうしてこうなったのか、秋晴は全くついていけない状況に頭を悩ませていた。  
 ちなみに『こう』とはどうか。端的に言うと秋晴はアトリエのダブルベッドに寝転がされていた。トランクス一枚と手錠でその両手を後ろ回されて。  
 今日はバレンタインデー。授業が終わり奉仕活動の際に朋美の策略により知人一同にみみなと付き合っていることを発表した(させられた)。  
 奉仕活動の後、明日の休みにさっそく泊まりがけでアトリエを使うからと言われ、夕食の後、着替えと夜食用の食材と飲み物を用意して(朝は寮に帰ってきて食べる予定)そのままアトリエへと向かった。  
部屋を出る時に「今日は帰らない、深閑には言ってるから」と大地に言ったらすごい顔で見られたのを覚えている。  
 そこまでは覚えている。正確に言えばそこまでは思い出せる。別に秋晴は記憶喪失で今の状況に至った訳でも気を失って気付いたらこの状況になっていた訳でもない。  
 冷静になれと自分に言い聞かす。目の前では本日(知人に対して)公式発表した愛しの彼女、白麗陵の小さくて年上の先輩こと桜沢みみなが座った目をしてこちらを見ているが気にしない。というか気にしたら冷静になんてなれない。  
 数分の距離をみみなと手を繋ぎながら歩き、その時のみみなはいつも通りだった。今日の事はなんとなく触れないようにしてアトリエで落ち着いて話そうと思っていた。が、アトリエに入ったとたん、みみなに引っ張られそのまま寝室へ。  
後に服をはぎ取られたと思ったら、ガチャリと音がした。ガチャリ?なんの音だ?と思ったら手首に冷たい感触。そして思い出す、授業で一度だけ使った鉄の腕輪、手錠の感触を。  
 そのまま今の状況に至る。  
 
 
 秋晴はほぼ裸の状態で手錠で拘束されてベッドの上。それを行ったみみなは無言で秋晴を見ている。  
「あー………怒ってるのか? 今日のこと」  
「…………怒っては、ないよ」  
 たっぷりと間を置いてみみなのからの返事。  
 怒って『は』ない。その言葉を聞いて秋晴は安堵をする。同時にそれが原因だとも悟る。やっぱり一度みみなに相談するべきだったかな、とぼんやりと考えてから――  
「それにしたってコレはおかしいだろう……」  
 ――と我に返った。手錠で縛られてってどんな状況ですか?そもそもどこからこんな手錠を手に入れたんだ?と考えながら秋晴は本格的に文句を言おうとその体を起こす。が、その口からはみみなに対しての文句は出てこなかった。  
「今日は、嬉しかったんだよ」  
 みみはな先程までの表情を緩め、恥ずかしそうにその胸の内を語り出す。  
「不満、はなかったよ? みんなに話すって前もって言って欲しかったけど……言ってくれたこと自体は嬉しかったし」  
 小さな体は震え、その可愛らしい瞳には溢れんばかりの涙がたまっていた。  
「……みみなは小さくてお子様みたいだから、付き合ってるなんて恥ずかしいのかなって思ってたんだよ? だからみみな、今日は本当に嬉しかったの」  
「そんなこと………スマン」  
 そんなことないと否定しようとして秋晴は言葉に詰まる。それは秋晴が少しでもそう思っていたとかでは無くて、みみなを不安にさせる要素として自らのコンプレックスがあったからだ。秋晴がそんなことを思っていないと分かっていても考えてしまう。  
 そこまで考えて秋晴は改めてみみながどれだけ我慢してきたかを悟る。どれだけ不安だったかを悟る。抱きしめようとしてその手を伸ば――せない。  
「いや、でもそれとこれとはどう関係があるんだ? 何で俺は脱がされて手錠をつけられたんでしょうか?」  
 思わず動かそうとした体が動かないことで秋晴は冷静になる。みみなの表情に流されてしまいそうになったがほぼ裸手錠なのは変わらないしその理由にはならない。  
「ご褒美」  
「…………ご褒美?」  
 先程まで決壊寸前のダムみたいな顔をしていたみみなが真っ赤なリンゴのように赤く照れる。相変わらず表情がクルクルと変わる子供のようで可愛らしい、じゃなくて。自分の思考にツッコミを入れながら耳を疑う。今ご褒美と言ったか?  
「うん、ご褒美。 いつもみみなばっかり、気持ちよくさせてもらってる気がする、から……キミを…キミを、気持ちよくさせたいなって思って……お礼、のが分かりやすいかも」  
「………そういうことか……」  
 今度は不安ではなく恥ずかしさが爆発寸前なのかみみながくるりと後ろを向く。全ての言葉がはっきりと聞こえなかったがようは嬉しさを伝えたいってことなんだろう。  
「ん? やっぱり縛るの関係なくないか?」  
「だってキミは縛らないと暴れちゃうかもだし…みみなを触っちゃうでしょ?」  
 
「あー…………」  
 振り向いたみみなの顔は真っ赤なまま切実に語る。そして秋晴は心当たりを思い出す。行為に入る前は秋晴は消極的だったが入ってからは積極的になる。むしろ主導権は常に秋晴にあるために気付けばみみなに与えてばかりだった。  
 それを回避するために手錠。みみなの目的からすればある意味正しい。正しいのだけれど――  
「……いくらなんでも手錠はな……」  
 気乗りがしないと言うよりはこれが普通の反応なのだろう。むしろ自由な方が秋晴は嬉しい。少なくとも秋晴にはそういう趣味は皆無だ。  
「でも……それがいいって、描いてあったし……言われたし」  
「今何て言った?」  
「み、みみななにも言ってないよ?」  
 みみなが明らかにしまったと言う顔をして首を横に振る。しかし秋晴はみみなの口から漏れた小さな小さな独り言を秋晴は聞き逃さなかった。  
「描いてあったし言われたしって言ったか?」  
「……いじわる……」  
 恨めしく見るみみなを見る限りやはり聞き間違いでは無いらしい。描いてあった言われたと言う事は誰かに介入されていると言うことだ。特に前半、描いてあったという事は……。  
「あれか、原因はオタク姫かダメ理事長辺りか……」  
「…………」  
 思いついたのは白麗陵きってのダメ人間コンビ。そしてその思いつきは当たりらしい、無言のみみなの顔がそう言っている。嫌な予感がするというよりは嫌な予感しかしない。あの二人から得た知識アドバイスなのであれば御免被りたい。  
というか一切関わりたくない。替わりに深閑の特別猛特訓(特が二回なのはわざとだ)を受けることで間逃れられるならそちらを選ぶくらいに全力でお断りしたい訳なのだが……。  
 そこまで考えて秋晴は溜息をつく。  
「………情報の出所が半端なく不安だけど……お手柔らかに頼むな」  
「い、いいの?」  
 先程までのこの世の終わりのようなみみなの顔を見て拒否できる人間などいるのだろうか?いるはずはないだろう。自分にできることで自分が彼氏なのだから仕方ない、と秋晴は思った。  
「みみながしたいって言ってるならそれを尊重してやるべきだと思うし、痛かったり俺の嫌な事はしないだろ? ならまあ、いいかなって」  
「ほんとうに?」  
 先程までの絶望の表情は一転して輝いた宝石のようになる。この笑顔が見れるだけでもイエスと言った価値はあるのかもしれない。  
「ああ。 ………でも手錠は外してくれないか?」  
「ダメ」  
 流れで持っていこうとしたのだがやはり無理だった。諦めるか、と秋晴は思いながら一つの結論に至る。手錠が罰則の道具だってことは当然みみなだって知っているはずだ。ならばみみながこんなにもこだわる理由は――  
「…………もしかして、怒ってるのか? 朋美のこと」  
「…………………………怒っては、ないよ」  
 長い長い沈黙の後にみみなから返ってきた言葉は表情とは裏腹の否定の言葉だった。  
 
 秋晴はああ、やっぱりかと思い、冤罪だが同時に自業自得だとも考え、手錠を受け入れようという気分になる。  
 そして秋晴は腹を括る。時間稼ぎのような会話はそろそろ終了しなくては。どうせ夜は長いし、今日を逃せばまた次の機会にと身に降りかかる何かが遅くなるだけなのは分かっている。それでも心の準備くらいは欲しいと最後に一つ聞いた。  
「一つだけ教えてくれるか?」  
「何?」  
「みみなは今から何をするつもりなんだ?」  
「オンナのコに攻められるのも気持ちいいらしいよ」  
 みみなの顔が一瞬だけ自分の幼馴染のように見えたのは、混沌とした状況に秋晴の頭が働かなかったせいだろう。きっとそうであると秋晴は信じている。  
 
 
「ここは、どう?」  
「………あぐ……」  
 触れる力が強くなる。幹を根元からギリギリ先を触れない場所まで絞り上げるように小さな手が動く。  
「痛いの?」  
「……違っ……けあぅ……」  
 触られているのは体の一部なのにまるで全身を掴まれているように体が騒めくのを感じる。  
「じゃあ………気持ちいいんだ」  
「っつあ……ぐ……」  
 みみなの「秋晴へのご褒美」宣言の後、秋晴は新しくとりだされた手錠でベッドと両手を拘束する手錠の二つを繋がれた。つまりベッドに縛り付けられて身動きが取れない状態にされた。  
秋晴が抗議をしても結局それは解かれることなく、そのまま最後の砦であるトランクスも脱がされる。  
 いつになく楽しそうな笑顔を浮かべているみみなが怖い。自分は何をしたのだろうか?後悔をしても何も見つからない。どこで道を間違ったのかも分からない。結局秋晴は縛られたままいつの間にか服を脱いだみみなの手によって愛撫を受けていた。  
 正確に言うとみみなは服を全て脱いでいる訳ではない。その身に淡いパステルブルーのベビードールをつけて秋晴の目線の先にいる。見た限りフリルやレースは最小限にとどめられており、生地も上等なものだと言うのが一目で分かる。  
非常にシンプルなデザインで着る人間によって綺麗に可愛くも妖艶にも見える。  
そして今のみみなは――小さな手で秋晴を愛撫し、触られているでもないのにその白い肌と頬を朱に染め、上目遣いで秋晴の表情をじっと観察している。秋晴の反応を見るたびに愉しそうに口が緩み、その大きな瞳がきらりと輝く。  
端的に言うとその見た目とは裏腹にあり得ないくらい官能的だった。  
 ゆっくりと上下させられる手の動きは徐々に徐々に追いつめるように秋晴を刺激する。動けない状況でこれは辛い。最初は感じていた羞恥もそれどころではない。  
 そして今日はその手だけの刺激では無かった。  
 いつも通りの手での愛撫に加え、その小さな口と舌で秋晴の体のいろいろなところを舐めているのだ。  
 首、耳朶、鎖骨、乳首、臍………などなど。更には脇の筋、肘の裏や股関節なんかも狙われた。時に柔らかな唇で吸われ、時に小さな舌で舐められ、時に優しく口でアマガミをされる。  
しかも目線は可能な限り秋晴の顔を凝視しており、その表情を片時も見逃すまいとしているのだ。  
既に秋晴の体にはいくつかのキスマークやみみなの唾液が至るところについており、しばらくは迂闊に上着も脱げないレベルだ。そして両の手は当然のようにある場所の刺激を続けている。  
 気持ちいい、確かに気持ちいい。今まで感じた中でも一番というくらいに。しかし、これでは――拷問だ。じわりじわりと周りから徐々に攻められている。最初にこそばゆいだけで感じなかった部分も今では気持ちいいと思えてしまう場所もある。  
 このままでは不味いと思い、秋晴はささやかな抵抗を試みた。  
「そんなもの、どうやって用意したんだよ……」  
「そんな、もの? ……これのこと?」  
 何のことだろうとみみなは首を傾げた後自らの体に目を移した。その間も手の動きは止まることなく秋晴を攻め立てる。  
「これのこと、かな? えっとね、買ったの」  
「………いや、まあ……そんなもん貰ったりとかはしないと思うけどさ……」  
 当然秋晴が聞きたいのはそういうことではないのだが、今の秋晴はそこまで口が回らない。ゆっくりと動くみみなの手からは強い刺激と弱い刺激がランダムに襲ってきて油断ができない状態なのだ。  
 
 そんな様子を察してかみみなは続けた。  
「少し前に、買ったの。 恥ずかしかった、けど……」   
「何でまた……」  
「こういうの、好きかなぁって思って……」  
「あー……」  
 恥ずかしそうに俯くみみなを見て秋晴は理解する。つまりこの服は秋晴が交際宣言の公式発表をしていない段階に、少しでも秋晴の気を引くようにと用意したものだったのだ。  
言われてみれば体のラインを強調するようなデザインだし、何も着てないのが分かるが中は見えないと言う絶妙な透明感がある。  
端的に言うとエロイ。元々ベビードールという下着は実用性や機能性よりも嗜好性やデザイン性を重視されたものだというのだからそれに則したものなのだろう(ちなみになぜか必須知識として授業で習った。轟だけ異常に興奮していて気持ち悪かった)  
 そんなベビードールを着けてご褒美をくれているみみなの姿はそういう趣味が無い秋晴でも当然興奮してしまうものだった。そしてその見た目以上に自分のために頑張ってくれたという思いに体が反応する。  
「みみな、そろそろ……」  
 繋がりたい。と言おうとして流石に恥ずかしいと思い秋晴の言葉が詰まるとみみなはその反応を見て次の段階へと行動を移す。  
 みみなは恥ずかしそうに、しかしどこか嬉しそうに笑うと秋晴の胸板にキスをしていた顔を徐々に下ろしていった。  
 小さな口から舌を伸ばし、這わせながら静かに下へ下へと移動する。臍を通り、下腹部に近付くと名残惜しそうに舌を離すと秋晴の体に透明な線が引かれていた。そしてそのまま線の先にあるモノ、自らの両手の中にあるモノの先端へと軽いキスをする。  
「っぅあぐ」  
 秋晴は今まで以上の刺激に歯を食いしばってこらえる。一瞬の衝撃が収まると次に来たのは恥ずかしがり屋なみみなが口でするという驚き。口でするというのは存外抵抗があるもので人によってはどんなに望まれていても拒否する場合あるらしい。みみなだってそうだろう。  
 ペロリ。  
 今度は舌で舐められる。舌の先から漏れているそれを舐めとるように。秋晴の体が自然と跳ね上がる。その反応を見たみみなは満足そうだ。  
 やばい。今まで手とみみな自身でしか刺激をしらなかった自分に未知なる刺激の誘惑が手を拱いている。軽くキスをされただけで、少し舐められただけであれだけの衝撃が走ったのだ。本当に始めてしまったならどうなるのだろうか。  
「ねぇ」  
 みみなの言葉に我に返る。気持ちよさに、その行為に期待を抱いてしまっていたらしい。そしてそんな秋晴の動揺を更に揺さぶる――  
 
「口でして欲しい?」  
 
 ――恋人からの甘い誘惑。秋晴の考えは全てみみなに見抜かれていた。  
 どうしようかと考えて、再び訪れた刺激に体が反る。みみなの舌がほんの一瞬だけ伸びてきたのだ。秋晴の先端からでた液を抄うように。  
 この状況で断ることなどできず、甘美な誘惑に屈するように頷こう、そう思い、秋晴は体を起こしてみみなの顔を見る。そして後悔をした。  
 みみなの顔が愉しそうに笑っていたからだ。  
 普段のような無邪気な子供の笑顔でも、時折見せる慈しむような大人の笑顔でも無い、男のための女の笑顔。そしてその大きな瞳に秋晴は既視感を感じる。いや、違う。あの目と同じ目を見たことがある。  
状況は違えど全く同じ目だ。幼馴染である彩京朋美が誰かをいじめて愉しんでいる時の目だ。  
朋美が秋晴やセルニアをからかって困らせている時の目をみみながしているのだ。  
 その目を見て秋晴は悟る。自分の最愛の人に変なスイッチが入ってしまったことを。  
「キミは、どうして欲しいの?」  
 返答の無い秋晴の痺れを切らしたのかみみなは同じ質問をする。秋晴は少し考え――全てを裏切るように頷いた。ああ、誘惑に負けてしまった、とやり場の無い情けなさを感じていると……何も来ない。  
みみなはそのまま愉しそうに秋晴を見ているだけで何もしてこないのだ。正確には手をゆっくりと動かしている。  
それは今の秋晴には物足りない刺激であり、それどころかもどかしくなってより欲しくなる。  
「み、みみな?」  
「どうしたの?」  
 秋晴は嫌な予感を払拭するように恋人の名前を呼んだ。しかし返ってくるのは何のことか分からないと言ったような聞こえだけは無垢な言葉。  
 
「どうしたの? 苦しそうだよ?」  
 明らかに状況を理解した愉しそうな声。  
 当たらないで欲しい事柄ほど当たるのはどうしてだろう、と嫌な予感が正解だったことに秋晴は気付いた。もしかしたら手錠と同じでどこかのダメ人間コンビの入れ知恵かもしれない。むしろそうであって欲しい。  
「みみな」  
 秋晴が冷静で無い頭で状況を分析している間にもみみなの手は決して止まることなく動いていて、秋晴は限界に近い。だから秋晴は――  
「口でしてくれ」  
 ――その要望に従った。  
 返事の代わりにみみながその小さな口を開き、ぱくりと秋晴のモノを咥える。味わったことのない温かさと柔らかさに包まれてそれだけで達しそうになる。秋晴の反応の大きさにみみなが驚いて口を離す。いきなりだったせいか溜まっていた唾液が口の端からぽとりと垂れる。  
「そんなに気持ちよかったの?」  
 衝撃としてはみみなの中に初めて入った時くらい、いや、ある意味それ以上の衝撃だった。秋晴は恥ずかしさで頭が茹でダコのように真っ赤になる。  
「…………ああ」  
 答えながら今日のみみなが悪魔に見える。いつだったかピナが持ってきた小悪魔のコスチューム(ビニール製の尻尾と羽と角)がついている幻覚すら見えそうだ。  
 みみなはその返答に満足そうにほほ笑む。  
「そうだった。 みみなはこういうの初めてだから、気持ちいいところとか、して欲しいところとか……あったら言ってね?」  
「………………」  
「なにか、言いたそう……」  
「……………………いや、何も」  
 たしかにみみなは初めてだろう。しかし絶対に下調べとか予習とかその他諸々をしてるに違いない。思えばみみなと付き合ってから引っ込み思案だと考えていたみみなが実は積極的だった……そしてそれはこれにも適応されるらしい。秋晴は完全に諦めモードになる。  
いや、川の流れに身を任せるモードなのかもしれない。ただしその川は大激流なのかもしれないが。  
「みみな……えと、その………もっと、してくれるか?」  
「……うん」  
 言葉とともに再び口で咥えられる。  
 元々大きくない口をそこまで開いていないせいで咥えられているのは先だけで、薄く柔らかい唇がちょうど首の境に収まっていてる。更に温かい咥内で先端がザラついた舌で舐められる。更に口に入っていない部分は手で扱かれる。  
「ぐ、ぁあ」  
 神経を直接撫でられるような快感が襲う。電気が流れるように全身を駆け抜ける。適度に硬く柔らかい舌と唇の感触が経験したことの無い衝撃を秋晴に与える。  
 仰け反った体を立て直すと自らのモノを咥えたみみなと目が合う。その表情は少し不安そうだ。  
「……気持ちいい。 というか良過ぎだから…もう少し、優しくしてくれ」  
 秋晴の言葉にみみなの不安は消え去ったようだ。秋晴の言葉を確認するとみみなは秋晴の顔を見たまま口を動かす。  
 舌は舐めとるようにクルクルと先端を回り出し、首に収まっている唇があむあむと甘噛みを始める。手の動きもみみなの口から漏れる唾液で滑りやすくなり、より一層刺激を与える。  
「ぅがああ、ちょ……みみ、あ」  
 もはや秋晴の声は途切れ途切れで何を言っているかが分からない。呼吸を荒くしながら何とかみみなの顔を見ると――明らかに愉しんでいる。こちらがあまりの気持ちよさに苦しんでいるのを確実に分かっている。  
 体からの芯から湧き上がる感覚。根元から搾り取られるように、体の芯から出る感覚。  
「こ、れ以上は……で、で……」  
 
 後ろ手にされた手が強張り、背筋が仰け反る。秋晴の感覚が昇りつめてそのまま絶頂に達する――その瞬間にみみなの口が離された。これ以上ないタイミングで、秋晴が達する直前で止められた。  
「か、は……」  
 直前で消失した快楽に体が耐えきれずに肺から息が出される。荒い呼吸とともに強張っていた体から力が抜ける。  
「まだ、だめ」  
 秋晴がよろよろと顔を向けるとその顔はお菓子をねだる子供のような顔だった。  
「みみ、な……流石に…今のは辛いん、だけど」  
「…………出したいの?」  
「……ああ」  
「…………どうしても?」  
「お願いします」  
 秋晴の言葉に満足そうに笑う。その顔は子供をあやす大人のようで――そこまで考えて気付く。本人が意識してるかどうかはともかく、みみなは年上として主導権を握りたいのかもしれない。  
見た目はどうあれみみなは十九歳、秋晴は十六歳という歳の差。そして普段はその言動のせいもあって彼女は子供のように扱われる。  
彼氏である秋晴自身もそれに漏れず彼女を基本子供扱いしてしまう(と言ってもプレイベートな付き合いの中でみみなの年相応の部分を感じているのだがそれは全体からすればほんの一握りだった)もしかしたらその裏返し、仕返しなのかもしれない。  
「………………キミは仕方ないなぁ」  
 その言葉に秋晴は理不尽さを感じる。そもそもこれは秋晴に対するご褒美ではなかったのかと。  
「出そうな時は言ってね、心の準備があるから」  
「へ? 心の準備ってえ、あぐっ」  
 秋晴の疑問を無視してみみなは三度開始する。言葉から察すると秋晴が一度果てるまで止まらないようだ。そしてその宣言通り、口の動きは今まで以上に激しいものだった。  
 小さくない秋晴のモノが根元近くまでみみなの口に咥えられる。当然咥えられるだけでなくそのまま吸われる。それだけでも秋晴は引き剥がされるような強烈な感覚に襲われる。  
 そのままみみなの顔がゆっくりと上下をする。いつの間にか溜められていた唾液が鈍く淫らな音を立てる。  
 咥える時は根元近くまで一気に吸われ、先端に当たる口の裏側の感覚が気持ちいい。逆に戻る時は口から出ていく秋晴を名残惜しむように強く吸われ、更に舌が裏側をザラリと舐め刺激する。その上しっかりと先までを一旦出すためにその全てが刺激される。  
「――――っ!!!!」  
 秋晴の口からは既に言葉にならない悲鳴しか聞こえない。喘ぎ声でも悲鳴でも無い叫び声。その体は激しく悶え、手錠がガチャガチャと音を立てる。  
 そんな秋晴の様子を気にも留めずにみみなは一心不乱に頭を動かし、更に追い詰めるために徐々に速度を上げる。  
「――みみ、な――で、る」  
 言葉とともにみみなは秋晴の腰に手を回す。秋晴の強張った体を抱きかかえるように。そして今まで以上に秋晴のモノを咥え、吸う。  
 みみなの行為に合わせて秋晴も達する。一度ギリギリで我慢させられた全てを放つように。  
 秋晴の体は小刻みに震えいつも以上の量がみみなの口に出される。量だけでは無い。一度我慢させられたからか、それとも初めての行為だからだろうか。ビュクビュクと出る勢いは音が聞こえてきそうなほどだ。  
 秋晴の荒い息だけが静かに響き渡る。  
 しばらくして、秋晴の震えが止まるとそれを確認したかのようにみみなの口が外される。その際も吸われたままでチュポンと小気味いい音を立て、それに合わせて秋晴が反応する。  
 放心状態の秋晴はそのまま目を閉じて力無く倒れてしまう。余韻に浸れないほど真っ白になった頭でボーっとしていると、顔の前に気配を感じる。ゆっくりと目を開けると、そこにはみみなの顔があった。  
 恍惚とした表情を浮かべ、口を真一文字に結び、目は愉しそうに恍惚とした表情を浮かべている――あれ?秋晴が出したモノは一体どこに………?  
 
 
 秋晴がそう考えた瞬間に、ゴクン、とみみなの喉が大きく鳴る。  
   
   
 秋晴が呆気にとられているとみみなはそのまま舌を出し、自らの唇を舐める。  
「苦いけど、美味しいって思えるの……キミの、だからかな?」  
 秋晴の首に小さな手を回し、そのまま秋晴の耳元に吐息が当たるほどまで唇を近付ける。  
「次は………次はみみなに、してくれるよね?」  
 
 
 
「やっぱりさ……」  
「ん?」  
 あの言葉の後、何がどう行われたのかは二人だけしか知らないことである。それでもあえて語るのであれば最初も入れて計三回、とだけ。  
 互いの呼吸も落ち着き、そのまま入浴を……と考えたみみなに引きとめられて秋晴とみみなは裸のままタオルケットに包まっていた。  
「みみなはエロい」  
「うぅえっ!!」  
 秋晴の力強い断言に大きく反応してしまうみみな。その反応は恥ずかしそうで先程までの面影はないが、どこか楽しそうな顔だ。  
「あ、いやさ。 もうなんっつーか……明らかにさ」  
「そ、それは……」  
「それは……?」  
「………不安、なんだよ…」  
 小さな声で、寂しげにみみなは呟いた。  
「………不安?」  
 秋晴は首をかしげる。彼女が震えているのが分かる。  
「キミはさ、みんなに優しいし……みんなと仲がいいから」  
 俯きながら、小さな小さな声でみみなはそう言った。  
「……………」  
 秋晴はその言葉、その表情で全てを理解する。  
「今日思いっきり皆の前で俺が公式宣言した上に、この前と言ってることが同じじゃねーか」  
 途中まで感傷に浸っていた自分が情けない。  
「…………あはっ☆」  
 みみなは冬だと言うのに大輪の向日葵のような笑顔を浮かべている。  
 明らかに遊ばれている。いや、秋晴で遊んでいる。  
 秋晴はまるで年上に遊ばれているような感覚に襲われる。いや、まあ、年上なんだけど。  
「そうだった」  
 みみなは思い出したように自らの荷物を漁る。  
 都合悪クナッテ話ヲ変エマシタ?  
 秋晴の抗議の視線は完全に無視されている、というか背を向けられている。  
「………別にそういうみみなも嫌いじゃないからいいけどさ……」  
 ため息交じりに小さく呟く。いじられるのが好きな訳では無くて、エロイみみなが好きという訳では無くて、そういう年相応のみみなも好きだと言う意味だ。  
「はい、これ」  
 秋晴の心の葛藤を無視して手渡されたのは小さな包みだった。  
 英字の茶色い包装紙に包まれたシックな包み。  
「何これ?」  
「………今日は何の日?」  
「あー………ありがと」  
 秋晴は薄々感づいていたが聞いてみた。というか今日の出来事があって何の日か忘れられる人間はいないだろう。それにみみなは誰よりも秋晴が貰うべき相手なのだから当然である。  
「どういたしまして」  
 ベッドに戻りタオルケットを巻くとみみなは照れ臭そうに言った。  
「どうかしたのか?」  
「開けないの?」  
「へ?」  
 秋晴はそのまま貰った包みをサイドテーブルに置こうとしていた。どうせ中身はチョコレート、すぐに食べる気にはならなかったのだ。  
「こういうものは貰ったらすぐに開けるのが礼儀だよ?」  
「そうなのか……」  
 
 秋晴はそんなものなのか、と思いながらプリプリと可愛らしく怒るみみなに言われるままに包みを開ける。  
 リボンを解くと見なれないシックなデザインのメーカーの包み(おそらく高級店のチョコレート)ともう一つ別のものが出てきた。  
「あれ? チョコだけじゃ……ない」  
 もう一つは純白の細長い箱。チョコレートが二つ、ということはないだろう。秋晴はそこまでチョコが好きな訳ではないし、明らかに形が違う包みだ。  
「開けてみて」  
 みみなは細長い方の箱を指さす。どうやらチョコレート以外にもプレゼントが入っているようだ。  
「…………チェーン?」  
「うん」  
 細長い包みのの中には銀色のチェーンが入っていた。輪の大きくないシンプルなタイプでチェーン自体もそこまで長くない。シャツの中に隠れるくらいで、仮に服の外に出しても長すぎて邪魔にならないちょうどいい長さだろう。  
 材質はシルバーかと思ったがおそらく感触的には白金だ。貴金属関係の授業はまだ数回しかやっていないがおそらくは。  
 すごいものを貰ってしまった、と思いつつ一つおかしいことに気付く。ペンダントトップがない。ネックレスとしてはデザインも大人しすぎるし細すぎる。  
 秋晴がそんなことを考えているとみみなの手が秋晴の右耳に伸びてくる。そのまま右耳につけた三つの安全ピンにそっと触れる。  
「安全ピン、嫌いなわけじゃないけど……危ないから。 それなら首にかけれるでしょ?」  
「なるほど」  
 安全ピンをペンダントトップ代わりにということなんだろう。実際秋晴も安全ピンを外したくないが授業の関係で外す機会も何度かあったし、その度に戸惑っていたのを思い出す。  
 みみなは既に秋晴の安全ピンの理由を知っている。伊達や酔狂でつけている訳ではない確固たる強い思い。だからこそ外して欲しくないが世間的に見ればやはり印象は良くない。それを考えてくれてのプレゼントなのだろう。  
 優しいみみななりの気遣いがうれしい。  
「ありがとな」  
「えへへへ」  
「つけていいか?」  
「もちろん」  
 秋晴は右耳の安全ピンを取るとチェーンに通す。首にかけようとしてふと止まり、ベッドの端に脱がされたままの上着に手を伸ばし、チェーンを首にかけた。  
「似合うか?」   
「あ………」  
 真新しく輝くチェーンの先には少し汚れた三つの安全ピンと、少し綺麗な四つ目の安全ピンがついていた。  
 一つ目は母親の分まで頑張ろう。二つ目は一人でも負けないように強くなる。三つ目は誰かを支えられる人間になろう。ならば四つ目は……。  
 秋晴が新しく何を決意したかみみなは知らない。聞いても恥ずかしがって答えてくれるか怪しいくらいだ。でも何を決意したかなんて分からないはずがない。  
「うん、とっても似合ってる」  
 そういって秋晴の胸に飛び込んだ。  
 似合ってるよ、四つ目の安全ピンも、そのチェーンも。とみみなは心の中で小さく付け足した。  
 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  
 
「アッキー聞いたでー。 怪しい怪しいと思っとったらあの桜沢先輩と付き合っとぶふぁっ」  
「うわぁ……」  
「いきなり何すんねん!」  
「あまりにも……つい」  
「あまりにもなんや!」  
 場所は食堂。いろいろあったバレンタインデーの次の次の日の朝。  
 ちなみに轟は昨夜何も持たずボロボロになって帰って来たらしい(三家談)  
 
「今のは慎吾君が悪いかな…で、本当なの?」  
「ああ、少し前からな」  
「そうなんだ」  
「まさかアッキーがロリぶぐふぁっ」  
 集まっているのは従育科一年男子四人。いつからか朝食は用事がない限り四人でとる習慣になっていた。  
「次は本気でやるからな」  
「…………了解や……」  
 轟がボケ、秋晴がツッコミ、三家は観客、大地は傍観者、いつも通りの四人だった。  
 
 
「ところでアッキーあれってホンマなん?」  
「あれって何だ?」  
「子供の頃に性的な事すると体の成長がぶっがああああ」  
「轟、次は無いって言ったよな?」  
「慎吾君………」  
「待って、待ってくれアッキー。 最後まで聞いてくれ! 後生やから、後生やから」  
「…………」  
「いや、さっき言ったのはそういうんらしいんけどな、その逆ってホンマなんかと思ってな」  
「………逆?」  
「子供の頃に性的な事するとホルモンバランス崩れて体の成長が遅れるらしいねんけど、何らかの事情で成長せんまま大人になるとめっちゃエロくなるらしいって話」  
「うわぁ……慎吾君。 頭大丈夫?」  
「酷いなミケ。 なんや大地、その疑り深い目はっ! いやいやいや、ホンマやねんて。 そもそも子供の頃にそういう事すると成長ホルモンより女性ホルモンが出て……ってアッキーどうしたん?」  
「日野……?」  
「どうしたの? 黙っちゃって」  
「あ、いや……」  
「ま、まさかアッキー………思い当たる節がぎゃあああああ」  
 
 
Next?  
 

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!