◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  
 
 冬の日没は早い。故に空が赤らんだ夕暮れ時になっても下校時刻を過ぎてはいない。  
 もちろんかといって生徒や教師は校舎に残っておらず、その殆どが寮の自室へと戻っている。  
「何の用ですか? 話って」  
 
 静かな教室、夕日以外の明かりは無く、黒と朱に染まっている。  
 秋晴は声の主を見る。自分が呼び出した幼馴染、彩京朋美だ。  
「……あーえーと……」  
 覚悟を決めたはずなのに、覚悟が鈍る。一昨日、カフェテラスで何も言えずに分かれてからほぼ丸二日話してないからか。  
「用がなければお暇させていただきますよ? 私も暇ではないですから」  
 重たい空気が広がる。その口調は秋晴と二人の時の幼馴染ではなく、他人がいる時の優等生だった。  
 自業自得だ、と口の中で呟きながら――伝えたい言葉を口にする。  
「朋美」  
 いつになく緊張しているのが分かる。一世一代の告白、と言えるほどのものではないかもしれないが秋晴の人生で一番重たい告白ではある。  
 そんな空気を感じ取ってか朋美の方も身構えている。  
「…………何」  
 互いの息遣い、心音まで聞こえそうなくらいに静かな教室。  
 少し動くだけで衣擦れの音が響く。  
 喉がヒリヒリと痛い。つばを飲み込んでもそれは変わらない。  
 少しだけ目を閉じて、目の前にいる朋美を見る。  
「みみな先輩と付き合ってる」  
 秋晴の言葉に朋美は顔色一つ変えない。それでも秋晴はそのまま続けた。  
「まあ、バレてたのかもしれないけど……今更なのかもしれないけど、嘘ついてたんだ。 スマン」  
 言いきって頭を下げる。それは謝罪というよりは怖くて朋美の顔が見れなかったから。  
 長い沈黙が訪れる。誰もいない校舎というものはこんなにも静かなのか、月並みな表現だが泊まった空間のようで時間がいつもより長く感じる。  
 頭を上げると頭を下げる前と何ら変わらない朋美がそこにいた。  
「いつから?」  
「去年の暮れ」  
「秋晴」  
「何だ?」  
 いつも通りの二人。  
 秋晴の緊張も清水の舞台から飛び降りるくらいの覚悟を持った告白もなかったように平然と淡々と交わされる会話。  
「わざわざそれだけを言う為に私を呼び出したの?」  
「ああ」  
 朋美は溜息を吐いて、口を開く。秋晴を改めて見直してから。  
「理由くらいあるのよね?」  
「ああ」  
 ゆったりと過ぎる時間。周りが静かだからか。それとも秋晴の感覚が緊張で狂ってしまっているのか。  
 徐々に日は落ちて影が伸びる。いつの間にか窓際の朋美の影は秋晴の足元まで来ていた。  
「あ、くだらない理由だったら分かってるわよね?」  
「…………ああ」  
 会話が始まってからずっと朋美の顔は変わらない。変わったのは口調くらいだろう。  
 対して秋晴はその表情も言葉も緊張のせいか定まらない。変わらないのは自分の覚悟くらいだろう。  
「理由はいくつかあるんだけど……全部聞いてくれるか?」  
「嫌だったら止めるわ」  
「……了解」  
 秋晴は今一度心を鎮めると朋美に話しかける。  
 
「一つは白麗陵に来てから一番世話になってるから」  
 秋晴は思いだすように語り出す。  
「転入してきて、誰よりも世話になってるから。 覚えてるか?俺が着衣水泳で溺れて……っつーかあれはどっかの誰かが原因の事故だったけど……」  
 一つ一つを懐かしむように。  
「正直朋美がいなけりゃ辞めてたと思う。 馴染めず何も分からず、そもそも初日で変質者扱いだったからな、あれもセルニアのせいだったけど」  
 一つ一つが大切な記憶だ。  
 セルニアという言葉に朋美が少しだけ反応した気がしたが秋晴はそのまま続ける。  
「もう一つは幼馴染として、かな」  
 今度は照れ臭そうにその言葉を口にした。  
「あー幼馴染じゃなくてもなのかもしれない。 なんて言えばいいだろうな……近いんだと思う」  
「近い?」  
 どこか照れつつ、言葉に悩みつつ、止めようと思っている耳の安全ピンを触る癖も意識せずに言葉を探しながら。  
「うまく言えないんだ。 親しいというよりは近い。 お前には嫌な表現って言われるかもしれないけど、感覚が近いっていうか、お前とだけしか共有できないものがあるっていうか親友とかは違うし……」  
 言いたい事がある、伝えたい思いがある。それを正しく伝えるために、一つ一つの言葉を選んで。  
「やっぱ幼馴染ってのが一番いい表現だと思う」  
 照れ隠しに少しはにかむように笑いながら。  
「…………そう」  
 上手く伝わったのだろうか、何というか旧知の存在というのはどうにもやり辛い。相手が朋美だからというのもあるのかもしれないが距離感が難しい。考えるのが苦手な秋晴には特にかもしれない。  
 秋晴の言葉を聞いても朋美はそのままだった。  
 教室に入った時のまま窓際に立っている。そこにいるのが当然と言うように、自然体で立っている。  
「まだあるの?」  
 会話は途切れていた、ただ終わってはいなかった。秋晴が本当に言いたかったことはまだ言えていない。  
「先に言っとく」  
「何?」  
「別に俺は自惚れてる訳じゃないし、勘違いだったら俺を蔑んで罵ってくれてもいいから」  
 それは秋晴の謙遜の気持ちと言うよりは臆病な結果、念のための逃げ道のような言葉。  
 ここまで来ても言わないでおこうと言う気持ちが芽生える。自分は何も気付いていないんだ、何も知らないんだと逃げたい気持ちが。  
 それでも前に一歩だけ踏み出す。  
「俺は――お前の気持ちに答えられないから」  
 その言葉を口にして最初に感じたのはやはり勘違いだったかという気持ちと言わなければよかったと思う後悔。  
 次に感じたのは――自分の考えが正解だったと言う確信。  
「どういう、意味?」  
「いや、勘違いならいいし分からないならいい。 言っちまえば俺のただの自己満足だから」  
 朋美は先程までと何も変わらっていない。  
「どういう意味なの?」  
「そのままの意味だよ」  
 朋美の反応は何も無く、先程までと同じだった。怒ることも呆れることもしていない。  
「俺は鈍感だけど、それでも好意を向けられてずっと気付かないなんてことは無いんだよ」  
 それはいつか秋晴が彼女自身に言われた言葉。  
「まるで私が秋晴のことを好きみたいな口振りね」  
 自分に向けられた従姉妹からの明らかな好意。  
「そう言ってるつもりだ」  
 あの時の自分はずっと逃げていた。目を背けていた。  
「最低ね」  
「知ってる」  
 朋美は先程までと何も変わっていない。  
「セルニアさんに言わせれば粗野で乱暴な庶民らしい貧困で救いようのない発想ね」  
「そうかもな」  
 
 秋晴の言葉に朋美は少しだけ呆れたように溜息をつく。  
 そのまま一瞬だけ目を閉じ、再びその目を開く。  
 その両眼は目の前の秋晴をしっかりと見ている。  
「秋晴」  
 言葉とともに朋美は一歩踏み出す。秋晴との距離をつめる。  
 一歩進むとまた一歩また一歩と進む。コツコツと朋美の靴の音が響き、合わせて少しずつ二人の距離が縮まる。互いの手を伸ばせば互いが届く距離まで。  
 並んで立つと十センチ以上も差があるために朋美が秋晴を見上げる形になる。  
「好き」  
 その瞳は微かに憂いの雫を帯びていて、宝石のように輝いている。  
 ただ秋晴が感じたのはその美しさよりも、そこから伝わる想い。  
「貴方が好き」  
 必死で、愚直で、難解で、複雑で、それでも伝えたいという気持ち。そして伝わる気持ち。いや、伝わりきってはいないのかもしれない。  
 他人の気持ちが分かるなんてのは嘘だと秋晴は思った。なぜならこんなにも気持ちが伝わってきてるのに秋晴は朋美の気持ちが伝わったなどと思えないから。  
「秋晴が、好き」  
 秋晴は受け止める。分からないなりに、伝わりきらないなりに。それのために今日この場所に来たのだから。  
「ゴメン」  
 言葉とともに目と閉じる。朋美の強い視線から逃げる。  
「いつ気付いたの?」  
「きっかけは一昨日だ」  
「一昨日……か」  
「まあ、あくまできっかけだし強いて言えばって感じかな。 確信なんてなかったし、ずっとセルニアと張り合ってるだけかもって思ってたし」  
 セルニアという言葉に朋美が反応する。  
「セルニアさんの気持ちも気付いてるの?」  
「…………正直もっと確信無いけどな」  
 秋晴の言葉は煮え切らない、迷いだらけのものだった。  
「なんて言うか、分かりにくいんだよ。 朋美と張り合ってるのか、俺に対してなのか……両方って言われたらそれまでなんだろうけど、それでも分かり辛すぎる」  
「四季鏡さんとかは?」  
「…………そこまで来ると完全に自信ないな。 嫌われてないって思うけどってレベルだ。 そこまで自分に魅力があるとは思って無いし」  
 薄々感づいている気持ち、ただそれを全部酌めるほど秋晴は万能でも大人でもない。  
「隠してた理由は?」  
「お前の言った通りそのままだ。 追加するなら先輩は別に気にしないって言ってくれてるけどどうしても俺が尻込みしたんだよ」  
 淡々と続けられる質問。朋美が淡々と疑問を口にしてそれに秋晴が答える。決められた台本のように淀みなく。  
 ただ、朋美が聞きたいのはそれでは無い。  
 本当に聞きたい言葉は違った。  
「何で言ってくれたの?」  
 そこで秋晴が止まる。即答してた口が閉ざされる。  
「違うな、何で私が最初だったの?」  
 同じように朋美の言葉も変わる。ただ質問していた言葉に想いが乗る。  
 少しだけ間を置いて秋晴が答える。  
「世話になってるし、幼馴染だったからってのも理由だと思う。 でもそれ以上にさ」  
   
「多分大事だったんだよ、朋美が」  
 
 それは秋晴の偽りない気持ちだった。向けられた好意を自分から断っておいた人間が言うには都合のいい言葉。それでも伝えたい言葉だった。  
 
「それはさ」  
 少しだけ朋美の頬が朱に染まっている。しかしそれは夕日のせいなのかもしれない。本人すらも分からないだろう。  
「もし桜沢さんより前に私が告白してたら私でもよかったって意味?」  
 恥ずかしそうに、楽しそうに、悪戯をした子供のように、いつも通りの朋美の顔でそう言った。  
「…………かもしれない」  
 たっぷりと考えて秋晴は正直に口にする。  
 迷ったのは自分の気持ちというよりはみみなに対しての罪悪感。  
「最低ね」  
「だよな」  
 当然の罵りを受けて秋晴は肩を落とし狼狽する。言わなきゃよかったかなーと考える。  
「ああ、多分勘違いしてるから」  
「は?」  
 顔をあげて見た朋美の顔は少し怒っているようでどこか楽しそうで。  
「さっきのもしって質問で『それでも俺はみみなを選ぶ』って言わなかったことを最低だって言った訳じゃないわよ? きっかけは知らないけど秋晴がずっと桜沢さんを好きだなんて思ってないし」  
「じゃあ秋晴の分際でよくも私をフったわね、ってか?」  
「それもあるかもだけど」  
 そう言うと朋美はくるりと背を向けた。今までずっと向き合っていた姿勢を初めて崩す。  
 
 
「フった相手を気遣うなんて最低よ。 嫌えないじゃない。 叶わなくても好きなままでいちゃうじゃない。 悪いと思ってるなら――嫌わせなさいよ」  
 
 
 顔は見えない。だから朋美の目に涙が浮かんでいるかは分からない。それでも秋晴は朋美は涙を流してないと思った。ただ、その声はどこか寂しそうで。  
「まったく、女心を分かってないんだから」  
 呆れている言葉。怒っている言葉。  
「秋晴らしいけどね」  
 そして安心したような言葉だった。  
 振り向いた朋美の顔には涙は無く、少し呆れたような笑顔が輝いていた。。  
 
 
「ありがとね」  
 日は完全に落ちて空には月が輝いている。  
 二人がいるのは教室ではなく寮の前。  
「何でありがとなんだよ」  
「言ってくれて、かな。 まあ、もっと早く言ってくれればもっと丸く収まったのかもしれないけど」  
 茶化すような朋美の言葉に秋晴は「うっ」と低く唸り少しだけ言葉に詰まる。  
「じゃあ、また明日」  
「あ、ああ、また明日」  
 また明日、か……秋晴は寮に入る朋美の後ろ姿を見送るとそのまま踵を返し自分の部屋へと向かった。  
 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  
 
「何だその山……」  
「…………知らない」  
「アッキーはホンマにあれやな……本来ならウッキウキで昨日の夜から寝れんでも可笑しくないのが普通の反応やで!? オレなんて二月になってから……いや、年が明けてから今日が楽しみで楽しみでしかたなかったちゅうのに」  
「それは慎吾君だけだから」  
「ミケもかいな…まったく……女の子だらけの楽園にいてそれはないやろ……そろいもそろって……」  
 特に打ち合わせをした訳ではないが従育科男子生徒四人はどうしても教室に来るタイミングが重なる。全寮制であるし男子生徒の数が少ないためにどうしても固まってしまう。  
 
 いつも通り四人が教室に入ったところ、大地の机と三家の机にラッピングされた箱の山が積まれていたのだ。ちなみに大地の机の山の方が倍以上も高い。  
 その山を見て、大地は溜息をつき、轟は今日という日に一喜し、自分の机には何もないことに対して一憂し、三家はそんな轟に苦笑していた。そして秋晴は今日と言われても思い当たる節は全くなかった。  
「んで、何なんだそれ?」  
「無視かいな……」  
 せわしなく動いている轟を無視し、起こっている異変(と言っても秋晴の机には変化なし)へ疑問と興味を向ける。  
「チョコレートだよ」  
 答えたのは少し照れながら箱を見ている三家だった。  
「……チョコ?」  
 チョコレート。カカオの種子を発酵焙煎したカカオマスを主原料とし、これに砂糖、ココアバター、粉乳などを混ぜて練り固めた食品である(某電脳辞典より)  
 何でチョコレート?  
「今日は二月十四日、聖バレンタインデーや!!」  
 首をかしげていた秋晴の疑問を氷解させたのは轟の一言だった。  
「あー………」  
 そう言えばそんなイベントもあった。今まで縁がなかったのとこれからも縁が無いと思っていたこと、そして最近いろいろと忙しかったことですっかり忘れていたことを思い出す。  
「っつーわけで俺は今からヤボ用やから失礼するでぇ!」  
「…………もうすぐ授業だっつーのに轟のやつはどこにいったんだ?」  
「多分、『きっと白麗陵の慎ましくも奥床しい大和撫子なお嬢様方や! 恥ずかしくて俺から言わんと渡してくれへんのや!』とか思ってるんじゃないのかな?」  
「うわーありそう」  
「というか朝、空のポスト見て言ってたから」  
「………………そうか」  
 何とも言えない気まずい空気が流れる。  
 何と言うか轟は存在自体が周りに何らかの悪影響を与えている気がしないでもない。  
 大地は机の上のものを凝視しながら「これは……いやでも……だからといって……」と何かを呟いている。  
 こうなった大地はしばらく何を言っても反応はしないと経験上知っていたので秋晴はそのまま自分の机に行こうとした。  
「おはようございます」  
「おはよう、彩京さん」  
「おはよう」  
「……おはよう」  
 背中から掛けられた声になるべくいつも通り挨拶をする。  
 秋晴が振り向くと予想通りの人物、彩京朋美がいた。  
「大地さん、三家さん。 どうぞ」  
 朋美はそう言うと笑顔で手に持っていた小さな包みを二人に渡す。  
「え……?」「………」  
「義理チョコです。 日頃お世話になっていますから。 まあ、お二人は他の方からも貰うでしょうので迷惑でなければ貰ってくださいと言う程度ですが」  
 丁寧にラッピングされた箱からは質素だが上品さが覗える、おそらくどこかのブランドのものなのだろう。  
「そんなことないよ、ありがとう」  
「………ありがとう」  
「どういたしまして」  
 二人に渡されたものを見ながら、当然自分には無いんだと秋晴は悟る。欲しい訳ではない。正確には欲しいが羨ましい訳ではない。というより貰ったとして秋晴はどう反応すればいいか分からなかった。  
 そんな様子を見ながら大地が呟いた。  
「…………日野には無いのか?」  
「え? ありませんよ」  
「………………何かしたのか?」  
「……………………まあ、いろいろと」  
 明らかに不自然だと思いながらも秋晴は渇いた笑いを浮かべるしかなかった。  
 
「………状況がつかめないんだけど」  
 秋晴は目の前の状況を見て思わず呟いた。  
 時間は午後のティータイム。前回の奉仕活動とは違い秋晴が担当の正規の時間の奉仕活動だった。  
 場所は秋晴の担当テーブル。年が明けてからは四人がけの小さなものだけでなく交代で大きなテーブルが回ってくるようになり、今日はその日だった。  
 そしてそこにいるのは自分だけではなく、みみな、ピナ、早苗、大地の四人だった。  
「ん? 妾は秋晴から話があると言われてここに来たのじゃが?」  
「私は日野さんから大事なお話があると聞いたのですでここに来たんですが…」  
「全く心当たりがないんだが………大地もか?」  
「………ああ、彩京から日野がどうしても話したい事があると聞いている」  
「朋美から?」  
 ここにはいない首謀者(?)の名前が出てきてドキッとする。  
「妾もトモミからじゃ」  
「私も彩京さんからです」  
 何やらそわそわしている大地にいつも通りのピナと早苗。そして少し怒っているみみな(なぜ起こっているかは不明で薮蛇になりそうで誰も話しかけていない)  
「…………………何考えてるんだアイツ」  
 色々とあった昨日の今日である。秋晴はどうにか朋美を避けたい。しかし彼女のためにできることがあるのであれば力になりたいという矛盾した気持ちがあった。  
「お待たせしてすみません」  
「遅かったじゃないか……ってセルニアまで……」  
 しばらくしてきた朋美は一人ではなく、なぜか赤いセルニアと一緒だった。  
「全く…私も暇じゃないんですのよ」  
 秋晴に挨拶もせずにそれだけ言うとセルニアはそのまま椅子に座る。  
「それで話したいこと何ですの?」  
 どうやらセルニアも秋晴から話があると聞いているんだろう。心当たりのない秋晴はみみなの隣座った朋美を見る。  
「朋美……」  
「あら? どうしましたか秋晴君?」  
 白々しい言葉。明らかに知っているのに自分は何も知りませんと言う主張。それを見て秋晴は彼女が何をさせたくてこんな状況にしたのかを悟る。  
 はぁ、と深い溜息をつく。  
「別に改まって集まって貰ってまで言うことじゃなかったんだけどな」  
「何ですって!? わざわざ私を呼びつけたというのにどういう事かしら!?」  
 秋晴の言葉を聞いてセルニアはキッと睨みつけた。呼びだされてそんな風に言われては腹が立つ。  
「あー誤解だ。 そもそも俺が呼んだ訳じゃないというか……いや、都合がいいっちゃ都合がいいんだけどな」  
「どういうことですの?」  
 セルニアだけでなくその場にいる全員の視線が秋晴に向く。  
 一呼吸置き、覚悟を決める。昨日一度通った道だ、怖いものは何もない。  
 
「少し前から、みみな先輩と付き合ってる」  
 
「「「「「「え!?」」」」」」  
「んなっ……やっぱり貴方嘘をついていたのですね!」  
「え? 日野さんが桜沢さんと……えっと、おめでとうございます?」  
「秋晴……ロリコ…みなまで言うまい。 はっ! まさか妾も狙って…!!」  
「………そうか……」  
 五者五様というべきかそれぞれがそれぞれの反応をする。  
 セルニアは憤慨、早苗は祝福、ピナは何やら妄言を、そして大地はなぜかショックを受けているようでみみなは驚きのあまり声を失っている。既に事実知っている朋美は無反応でニコニコと黙っている。  
「いろいろあってな。 言わなかったのもいろいろあったんだけど……ただ、やっぱり言っとくべきだと思って」  
 しまりのない秋晴の言葉とともにセルニアの糾弾と早苗の質問攻めが始まった。  
 
「朋美」  
 十分ほど(秋晴の体感では何時間も)続いたセルニアの怒りは多少鎮静化し、早苗の興味も落ち着いたらしくその対象は秋晴からみみなに向いたらしい。二人の言葉に圧倒されながら「…うん…」とか「ええと、それは…」と答えている。なぜか向かいの大地も興味深々の様子だ。  
 そんな状況で平然と秋晴の用意したダージリンを飲んでいる人物が一人。  
 この状況を作った首謀者の彩京朋美だ。  
「何?」  
 秋晴の視線に気付き少しだけ不機嫌そうな言葉を放つ。  
「ありがとな」  
 礼を言うのが正しいのかは知らない。それでも秋晴は感謝するべきだと思った。  
「お礼をなんていいわ」  
 そっけなくそれだけ言うと朋美はティーカップを置いた。  
 あれ?と秋晴は違和感を感じる。何だろうこの違和感は。  
「もう少しセルニアさんが怒ったり何か反応すると思ったんだけど……」  
「……そんな目論見があったのか」  
「そうなったら面白いかな程度にはね。 本題は別にあるし」  
 少し不機嫌だったのはこのせいか。そして秋晴は気付く。ここにはセルニアや他の人間がいるのに、いつものように小声で話している訳でもないのに朋美の口調が余所向きの言葉では無い。  
 さっき感じた違和感はそれだった。物腰はいつも通りの優等生に近いがいつもは隠している素の朋美が出てしまっている。いや、朋美は隠すのを止めたのだった。  
「はい」  
 何で急にそんなことを?と考える秋晴の疑問をよそに朋美は小さな包みを出した。  
 目の前に出されたのはシンプルな包装の包みだった。  
「………何だこれ?」  
「チョコレート」  
 秋晴は少し考えて、朋美が自分にバレンタインチョコを渡していることに気付く。  
「………朝教室で俺の分は無いって言わなかったっけ?」  
「ああ、あれは義理チョコだったから」  
「…………………………………は?」  
 朝三家や大地に渡していたのとは明らかに違う包み。あれを義理チョコと言っていた。それとは違う包みなのだから義理チョコでは無いのだろう。  
 ではこのシンプルな包みはなんなのだろうか?まるで店に売っている自分で作ったお菓子を包装するデザインの包みは一体何チョコなのだろうか?  
 秋晴を余所に朋美はそのまま席を立った。  
「え? あ、ちょ……朋美?!」  
 秋晴の動揺で四人の意識がこちらに向く。何があったのかと疑問符を浮かべる中、みみなだけが秋晴の手の中にある包みを見て現状を理解する。  
「桜沢さん」  
 自分の手の中の包みと朋美の顔を交互に見ながら戸惑っている秋晴を無視し、朋美はみみなの方を向く。  
 みみなと朋美の視線が交差すると朋美は優等生の仮面を外した、一人の女としての宣戦布告をした。  
 
「私、諦めませんので」  
 
 

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