『This is my daily life』  
 
「みみな?」  
 秋晴は振り向かず、その手をほどかずに聞き返す。それは疑問であると同時に答えが分かっているのだからただの意地悪だ。  
「………分かってるくせに」  
 それを察してかみみなも少しだけ膨れたように呟く。もっとも恥ずかしさが勝っているのかその声は小さかった。  
「そんなことしたらこの場所使用禁止になると思う」  
 みみなが望むことは秋晴が望むことだし、秋晴が望むことはみみな望むことである。しかしだからと言ってその望みをそのまま受け入れる訳にはいかない。が、しかし秋晴の否定的な言葉を聞いたみみなの手が力無く離れていく。  
 何事かと思い、秋晴が振り向いてみみなの顔を見ると――そこにはこの世の終わりを見たかのように落ち込んだ少女が一人。  
「…………そんなに落ち込まないでくれよ」  
 今にも零れ落ちそうなほどの涙を瞳に溜めて潤ませ、さらに唇はプルプルと震えている。余りの反応にこちらが悪者になった気分だ。  
「べ、別に……」  
 何とか絞り出したであろうみみなの声は震えている。そんなにもショックなのか、と秋晴は小さな溜息をつき、みみなの顔に右手を伸ばす。  
 優しく頭を撫でる。猫のような柔らかい髪が心地いい。ずっと撫でていたいくらいだ。  
 しばらくしてみみなの表情が緩み、落ち着いた。目を閉じて頬を染め、照れ臭そうに秋晴の手の感覚を楽しんでいる。  
 その様子を見ながら秋晴は右手をすばやくみみなの頬まで下ろし、そのまま眼を閉じて唇を重ねる。  
 数秒間の軽い挨拶のようなキス。  
「ま、バレなきゃいいんだけどな」  
 とからかうような笑顔をみみなに向ける。  
 目の前のみみなは驚いたように目を丸くして、頬を更に赤らめる。  
「……いじわる……」  
 頬を膨らましながら訴える言葉はどうしても年相応に見えない子供の仕草である。  
「みみな」  
「…………なに?」  
「大好きだ」  
「う……ずるい……」  
「みみなは?」  
「もちろん」  
 みみなは秋晴の胸に飛び込むように頭を預け、その体に手を回す。  
「大好きだよ」  
 秋晴は胸の中から聞こえてくる声に確かな幸せを感じた。  
「さて、んじゃ移動しますか」  
「うわっ」  
 秋晴は言葉と同時にみみなの背中と太腿に手を入れて立ち上がる。いわゆるお姫様だっこの状態だ。  
 みみなは少しだけ驚き、目を閉じて体を秋晴に預ける。  
 
 それを合図に秋晴は歩き始めた。  
「そういえばさ。 前から聞きたかったんだけど」  
「なぁに?」  
「みみなってよく目を閉じるよな。 まだ恥ずかしいのか?」  
「え? あ、ぅうーん、と……」  
 手からみみなの緊張が伝わる。言い難いことなのだろうか。  
「あ、無理に聞きたいわけじゃないから」  
「別に隠すようなことじゃないんだけどね」  
「そうなのか?」  
「うん。 まあ、恥ずかしいのもあるんだけど……目を閉じるとはっきりするからかな」  
「…………はっきりする?」  
「触られてる手の感覚とか、抱きしめられた時の体温とか……」  
 相当恥ずかしいらしくみみなの声が少しずつ小さくなっていく。  
「下ろすな」  
 そんなことを話している間にベッドに辿りつく。秋晴はみみなを優しく下ろし、ベッドの端に座る。  
「制服が汚れて…ん」  
 制服が汚れても困るから先に脱ぐか、という秋晴の提案は途中で遮られた。  
 ベッドの上にペタンと座り込んだみみなに顔を抱きしめられる形で振り向かされ、そのまま唇を奪われたのだ。  
 柔らかい唇の感触が伝わりそのまま口の中にみみなの小さな下が伸びてくる。  
「ん……ちゅ、っつ……」  
「ん……はぁ……」  
 先程のキスとは違う舌を絡ませた濃厚なキス。元が仮眠室なのだろうか、そして広くない部屋に二人の吐息と湿った音が響き渡る。  
 キスをしながら首に回されたみみなの左手が秋晴の心臓の腕を撫で、右手に向かう。秋晴はそれを迎え入れるように右手で包み込み、指を絡ませる。  
 掌に力がこもる。それはきっと互いに待ちきれないという意思表示。  
 秋晴は空いた左手でみみなの右手を優しく解いてからみみなの顎を持ち、彼女の体を離す。  
 深いキスは終わりを迎え、互いの唇から透明な糸が伸び、ゆっくりと繋いだベッドに落ちる。  
 みみなはそれを満足そうに眺めていた。  
「制服が汚れると困るからちゃんと脱ごう、な?」  
「………はい」  
 子供に言い聞かせるように言うと秋晴はモーニングコートを脱ぎ出す。  
 タイを緩め、上着とシャツを脱ぐ。ズボンを脱いだところでふとトランクスまで脱ぐべきか迷い、チラリとみみなの方を見る。  
 
「…………」  
「…………」  
 みみなも下着姿で秋晴を見ていた。どうやら互いに最後の一枚(みみなは上下二枚だが)をどうするか迷っていたようだ。  
 こういう行為は流れがあるし、慣れるほど行っていても勢いが無くては始められない。微妙な雰囲気で止まってしまった場合はきっかけが必要だ。秋晴はそのきっかけを作るのが苦手だった。  
 それはこういう行為自体に苦手意識、とまではいかなくても積極的になれない理由があるからだ。理由は二つ、行為の頻度ととみみなの容姿である。  
 付き合い始めてから秋晴とみみなのそういう行為の回数は多い、秋晴はそう考えている。世間一般がどうか知らないが、付き合い始めてから週に三日はことに及んでいた。必ずしも最後まで…という訳ではなかったのだが、白麗陵という環境においてこの頻度は多い。  
 思い当たる節はいくつか、作品制作につきあってほぼ毎日一緒にいたこと、そもそも始まりの日にそういう行為をしてしまったこと、最初が外だったために外でも気にならなくなってしまったことなどなど。  
とにかく回数が多い気がするし、まるでそのために会っているんじゃないかと言われてもおかしくないくらいだった。もちろん秋晴だって嫌な訳でないが、そもそもまだ高校生であるからそういう行為はもう少し自粛するべきだと思っている。  
 そしてもう一つの理由はみみなの容姿が原因の背徳感だった。みみなの容姿、それはお世辞にも十九歳とは思えない小学生と見られてもおかしくない体型、言ってしまえば子供なのだ。頭では年上だと知っているし、秋晴としては相手を子供などとは思っていない。  
しかしどうしたってその見た目に影響されるし、それ相応の行為をするとなれば犯罪を犯しているような背徳感を持たざるを得ない。  
 今だってそうだ、簡素な白の下着に包まれた体は女性特有のものと表現するべきより少女特有と表現すべきだ。  
 胸は思春期の少女のふくらみかけでそれは小さいと言うよりは成長途中という表現が正しい。腰や太腿の肉付きは女性の指に張り付くような柔らかさではなく、少女のプニっとした指を弾く柔らかさであるし、そもそものパーツが細くて美しいと言うよりは小さくて可愛らしい。  
 今伸びてきているこの手だってそうだ。手のサイズは身長の近いピナや朋美、セルニアと比べたってそこまで大きな違いはない。しかし、その掌から来る印象は小さな子供のようで――あれ?  
 とそこまで考えて秋晴は気付く。秋晴が自分の押しの弱さを尤もらしい理由で肯定しようとしているうちにみみなの手が秋晴の腰、正確にはその下着の中にあるモノへと伸びていたのだ。  
「ちょ……」  
 動揺した秋晴を無視してみみなはそのまま手を伸ばし、トランクスを下ろす。  
「んー……もうおっきくなってるね」  
「………嬉しそうだな……」  
 下着から出てきたモノを見て、恥ずかしそうにみみなは喜ぶ。対して秋晴はそんなみみなに呆れ、更に散々女性というより少女と表現するべきだ考えたみみなの下着姿だけで元気になっている自分に呆れる。  
 情けない、そう思いながらも秋晴はみみなの顔を引き寄せて、先程よりももっと深いキスをした。  
 ちゅぷちゅぷと唾液の水音が響き、互いの吐息が漏れる。  
 それはキスと言うよりは深い深いクチヅケ。互いを貪るような、互いの口内を刺激し合うクチヅケ。そしてそれが始まりの合図となった。  
 秋晴はクチヅケをしながらみみなの胸に右手を伸ばす。慣れた手つきで胸にあるブラを外し、その胸を優しく撫でる。  
「ん……」  
 小さな反応とともにみみなの鼓動が速くなるのが分かる。優しく包み込むように触れると柔らかい胸の奥からトクントクンと脈打つ心臓の感触が心地いい。  
 ふくらみを確かめるように指を這わせる。本人は小さいと気にしているが秋晴は体つきからすれば妥当だと思うし、手のひらに収まり自由にできるほんのりとしたみみなの胸が好きだった。  
 
「んぅあ……」  
 胸の感触を楽しんでいると外に出ているモノの刺激に情けない声を出してしまう。秋晴と同様、みみなが手を伸ばしてきたのだ。ただし胸では無く、先程トランクスから解放されたモノに。  
 硬くなり大きくなった竿、そして先端の部分を小さな掌で包まれ、丹念に撫でられる。本来ならいくら準備ができていても痛い行為であるが、みみなは既にどこまでが痛みでどこまでが快感になるのかを知っている。  
 そして更に感じる違和感。みみなの小さな手は明らかにぬるっとした粘液で覆われている。秋晴からでたものではない、ならばそれは何なのか。一つしかないな、と思い秋晴は空いた左手を伸ばす。  
 前からではなくみみなの背中側から左手を回し、下着の中に手を入れ、みみなの秘所へと辿りつき、心の中で驚く。そこはもう準備ができていて、ただ割れ目を触るだけだったつもりが指がツルンと入口に導かれてしまう。  
「んぁ……ぁんっ……」  
 胸だけではなく体の芯から来る快感でみみなの口が離れてしまう。  
「みみな……濡れ過ぎ」  
「だ、だってぇ……」   
 既に二人の声はいつも通りの声では無い。互いが互いにしか見せない心の底から出す悦びの音。  
「脱がすぞ……もう遅いけど」  
「……うん」  
 秋晴は手早く脱がすとみみなの背中へ左手を回し、そのまま下へと伸ばす。右手を胸に、左手を秘所に置き、みみなを抱きかかえたような格好になる。  
 みみなは胡坐をかいたの秋晴の足の中に座り、その手で秋晴のモノを撫でる。  
 掠れる吐息、唾液よりももっと粘着質の液体の音が互いの体から聞こえてくる。  
「気持ち、いい?」  
「もちろん」  
 みみなの愛液で濡れた手は秋晴の先から少しずつ出てきた液体と混ざりあい、更に秋晴の体を刺激する。徐々に強くなる感覚に体が高ぶるのを感じる。  
「みみなは?」  
「……えっと……」  
 聞き返す言葉にみみなは答える余裕がないのかはっきりと言葉にされない、が少しだけ違和感を秋晴は感じた。みみなの体から感じるのは余裕がないと言うよりは小さな不満。  
「ああ、ゴメン。 ここもか」  
「ああああっ!」  
 胸に伸ばしていた右手に力を込めて、その指の間に硬くなっている中心部を挟む。するとみみなの体がビクンと跳ねる。一瞬だけその手の動きが止まる。  
「強かったか?」  
「いきなり、だったから……大丈夫」  
 その言葉とともにみみなの手が再び動き始める。  
 無言で互いの体を愛し合う。時折思い出したようにどちらからともなくキスをするが集中できずに離れてしまう。  
 触れている部分は多くない、抱きあっている訳でもない。それでも全身が溶けて互いに一つに繋がったような錯覚に陥る。  
 ただ、それでもその先を知っている人間には物足りなく、この行為すらただの準備だ。  
 秋晴はみみなの入り口を撫でていた左手の触れ方を変える。唇を撫でるように触っていた手に力を込める。人差し指と中指の二本を中へと入れる。  
 二本の指はクチュリと水音を立てるとみみなの中へと吸い込まれる。  
「ふぁあっ!」  
 先程よりも強い反応でみみなの体が弓形に反る。その瞳はトロンとして焦点があっておらず、口の端には唾液が少し。唾液が顎を伝って下に落ちる前にキスで吸うと、秋晴はわざと意地悪そうに質問をする。  
 
「イったのか?」   
 その言葉で我に返るとみみなは真っ赤な顔を秋晴に押し付け、隠すようにして「……少しだけ……」と小さな声で呟く。  
「……ひ、久しぶり、だった……かんっ、あっ……」  
 みみなの言い訳は秋晴の手の動き、そして彼女自らの体から響く水音によって遮られる。胸とその中心、そして下半身の中と外で感じる部分を刺激されているのだから無理もない。  
 みみなの中はその体のわりに大きい。いや、大きいと言うよりは中が広い、と秋晴は思っている。自分はみみなしかしらない訳だが四十センチ近い体格差で、決して小さくないだろう自らのそれを根元まで飲み込めるのだから。その広い中を更に広げるように指を入れる。  
 壁をなぞるように、奥を撫でるように、みみなの中を暴れまわる。  
「ひっ、ぐぅぅ……」  
 敏感になったばかりの体を更に快感が襲い苦しそうな声を出すがこれは悦びの悲鳴であることを知っている秋晴はその指を止めることはない。徐々にその動きを激しく、その中の全てを撫でるように動かす。  
 それどころか親指を動かし、既に硬くなっている小さな突起を探し当てる。そのまま親指の腹を押し当て、三本の指でみみなの体を挟んで持つように刺激する。それも座ったみみなの体が少し浮いてしまうくらいに強く。  
「〜〜〜〜っ!!!!」  
 もはやみみなの反応は声にならない。快楽に耐えるために体はしなり、既に止まっている手は秋晴の太腿を強く握りしめている。先程よりも強い衝撃にガクガクと小さな体が揺れるとそのまま倒れ込む。  
 白い体は全身が火傷しそうなくらいの熱を持っており、朱に染まっている。呼吸は完全に乱れてその体重を全て秋晴に預けている。  
 秋晴はしまったと思い「…………やり過ぎたか?」と聞きながら優しくみみなの体を抱きしめる。  
 話すのも辛いのだろうか、胸の中でみみなの頭が小さく縦に振られると調子に乗り過ぎたことを理解する。  
「ごめん、俺も久しぶりだから、つい……」  
 少しでも落ち着くようにと右手を頭に乗せて優しく撫でる。  
「……激し過、ぎだよ……嬉しい、けど………激し、過ぎ………」  
 途切れ途切れの言葉。反省したばかりで抑えた気持ちが膨れ上がる。そして同時にそれはみみなの体へ集中していた意識を自らへと引きもどしてしまう。  
「もう……我慢でき、ないよね……?」  
 確かめなくても分かる。秋晴のモノはみみなの愛撫、そしてみみなの乱れた姿によって痛いくらいに膨れ上がっている。  
「………みみなも、もう…指じゃ我慢できない………」  
 みみなはゆっくりと顔を上げ、秋晴の胸から彼の顔を見上げる。その目は既にいつもの少女の目では無い。完全にスイッチが入っている秋晴だけのみみなの目だ。大きな瞳は底から来る快楽と内から来る感情に耐えきれず艶やかに水気を帯びて秋晴の顔を映し出している。  
 
 
「秋晴、くんのが……欲しいよ」  
 
 
 潤んだその瞳に吸い込まれるように。  
 呟かれたその言葉が神経を直に触れそれだけで達しそうになる。  
 脳が揺れ、心臓が破裂し、四肢の感覚が消失し、みみなを愛する部分だけに意識の全てがいく。  
 その全てで奪われてみみなを感じたい。  
 
「俺もみみなに入りたい」  
 それだけ言うと秋晴はみみなの体を抱きしめてそのまま小さな体を持ち上げる。  
 膨れ上がった秋晴と濡れて待ちかまえているみみな、二人の敏感な粘膜がピトリと触れ合うとそのまま繋がる。  
 
 限界まで大きくなっていたモノがそのまま一気に最奥へと導かれる。  
「うぁ……ぁん」  
 みみなの口から空気が漏れる。秋晴も予想以上の快楽に歯を食いしばる。  
 先程まで指で広げられていたにも関わらず、みみなの中は小さく戻っていて入った際にズブリと壁が削れかと思うほどの抵抗を感じる。そして秋晴を受け入れた瞬間に抱きしめるように収縮をする。みみながまた達したらしい。  
 秋晴もその抱擁に一瞬で達しそうになる。それを避けるためにもみみなの中を指で広げていたのだが無駄な抵抗だったようだ。  
 みみなの体の震えが止まるのを確認すると秋晴はみみなにキスをして、その体を抱きしめる。興奮している体を一度落ち着かせるようなキス、理性を取り戻すためのキス――そしてそれはこれから先は果てるまで止まらないと言う合図。  
 みみなは答えるようにその手を秋晴の背中に回し、強く強くしがみつく。繋がっている部分だけでなく、胸も腰も腹も全てが触れる。  
 触れた部分から相手の熱が伝わる。触れた部分から相手の想いが伝わる。  
 もっと感じたい、もっと知りたい、もっと触れたい。  
「ぁん……ぅあぅ……」  
 秋晴の動きに合わせみみなの口から微かに漏れる矯正。それは徐々に力のない虚ろなものへとなっていく。秋晴に痛いくらい巻きついていた腕も徐々に力が抜けていく。  
 反対に秋晴の動きは徐々に力強く、速く大きくなる。互いが求めるものへと近付くために。  
 焦点の合わない力の抜けた瞳、気持ち良さそうに呆けて開いた半開き口、高揚して真っ赤になった顔、その全てが愛おしく、残った理性を駆逐する。  
 秋晴はその口内に舌を伸ばす。するとみみなは目を閉じて秋晴の口内へとその小さな舌を侵入させてくる。まだ自分は物足りないと言っているように。  
 それに答えるように秋晴は何度も何度も体を動かし、みみなの入り口を、その壁を撫で、その最奥にあるモノへのキスを行う。  
 互いの体液の粘度が上がり過ぎて音が小さくなっていく。グチュリと鳴っていた水音は小さな低いボジュとした音に変わり秋晴とみみなの肌の音に掻き消されるくらいだ。  
「ん……はぁ…みみな……んぅ……」  
「……いぃ……よぉ……きてぇ……」  
 口を離さずその舌を絡めながら互いの限界を確認すると秋晴は動きを変える。常に上下させていた体を奥に触れる際に止め、自らの先端とみみなの奥をくっつけすり合わせる。  
「あああ」  
 最後の刺激を受けみみなの体が力を取り戻す。それは手だけでなく、秋晴を包み込んでいる部分、そしてその最奥すらも秋晴を求め吸いつくようになる。  
 徐々に最奥での時間を長くしていく。それはまるで始まりに徐々に長く長く何度もしていたキスのようだ。  
「くぁ……でるっ!」  
「ぅんっ、うんっ!」  
 言葉とともにその全てをみみなの一番深い場所へと注ぎこむ。  
 二人の体が何度もビクンと動き、しばらくして止まる。  
 荒い息をしながら口を少しだけ、数センチだけ離し、互いの目を見る。  
「愛してる」  
「みみな、も」  
 そう言ってもう一度キスをした。  
 
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  
 
 激しい行為が終わった後、二人はそのまま眠ってしまった。  
 意識が覚醒したのはピピピピという電子音。鳴っているのは自分の携帯ではなくみみなの携帯からのようだ。時間を見ると寮に戻るべき時間の四十分程前。  
 
 自分の横でゆっくりと覚醒して携帯のアラームを止めているみみなを見ながらこういうところは抜け目なくしっかりしているな、と感心しつつ明らかにそのつもりだったんだと複雑な気分になる。  
 一緒に入るのは恥ずかしいというみみなの意見を受けて準備のかかる(であろう、理由:女の子だから)みみなを先にシャワーへ送り出すと、汗やシワや口には出せないもので洗わざるを得ないシーツの処理をする。  
 そのそも置いてあるのがダブルベッド(二段)だけ。更に寝具は一式が三つもある。いろいろバレてしまっているんだろうな、これは深閑の忠告兼配慮なのか、もしくは楓辺りのいたずらなのか。  
 少しだけ考えて意味がないと悟りそのままありがたく使わせてもらう。表示を軽く確認し、手早く処理。授業で習っていることが役に立って少し嬉しくなる。  
 ゴウンゴウンと回る洗濯機を見ながら秋晴はぼーっと考える。結局流されてしまったこととかそれでもやっぱり気持ちよかったこととか今日はみみなはどうだったんだろうか、とそこで重大なことに気付く。  
 今日は突発的なものだった(秋晴はすることを考えてなかった)  
 今日初めて来た場所であり、あるのは家具や食器などの基本的な調度品のみだった。  
 流されてそのまましてしまった。  
 秋晴はすぐさま浴室に走りそのドアをガラリと勢い良く開け――  
「みみなっ! さっき俺思いっき――  
 
 ゴン。と鈍くて硬い音が響いた。  
 
 秋晴の言葉を遮ったのは用意されたプラスチックの手桶だった。もちろん投げたのは既にタオルでその体を隠しているみみなだ。  
 みみなは飛んできた手桶に茫然としてドアを閉める気配のない秋晴を見ると一言だけ低い声を出した。  
「入浴中」  
「ス、スマンっ! って、それどころじゃ――  
「入浴中」  
「…………ゴメンナサイ」  
 秋晴は足元の手桶を中に入れ、ドアを閉め外に出る。桶の当たった頭が痛い。  
「それで…どうしたの? 女の子の入浴中に飛び込んでくるほど慌てて」  
 先程よりはマシだが明らかに機嫌が悪くなっている声が聞こえる。  
「えと、いや……ゴメン」  
「……いいよ、何か大事な用事があったみたいだし…」  
「いや、そうじゃなくて……さっきなんだけど」  
 どうやら伝わっていないようで秋晴の謝罪も浴室を覗いた(突撃した)ことに対してだと思っているらしい。  
「……中で、しちゃったろ」  
 そう、秋晴が気付いた重大な問題とはそれだ。最初の時こそ生でしてしまったがそれ以降、行為をする時はしっかりと避妊具をつけていた。それはお互いのためにと当然の行為だった訳で無い時はしていなかったのだが、今日は勢いに負けてそのまましてしまったのだ。  
 まだお互いに高校生であるし、それ以外だって問題は山積みだ。将来的にそういう関係になったとしても今は注意するべきだ。  
「ああ、大丈夫だよ」  
「大丈夫って……だって……」  
「みみなは今日は大丈夫な日だから」  
 
「…………大丈夫な日?」  
 深刻な顔をしている秋晴の耳に届いたのはいつも通り明るいみみなの声だった。  
「安全日って言えば分かりやすいかな? もちろん百パーセントじゃないけど、ちゃんとみみなは基礎体温だって測ってるし、そういうのは気にしてるから」  
 安全日。基礎体温。秋晴もその単語は知っているし、そもそも「主人の体調管理も重要な仕事」と授業でいろいろと習っている(他の男子が真っ赤にしている中、轟だけは興味心身で興奮していた)  
 急に出てきた単語を頭で噛み砕き、理解すると大きな溜息をついた。  
「安心した?」  
「ああ、言ってくれれば……といっても俺も流されてたからみみなを責めるのは筋違いだけどさ」  
 考えなしな自分、焦った自分、そして今安堵している自分の全てを情けないと思い再び深い溜息をつく。  
 とりあえず懸念したことは一応は大丈夫なようだと安心し、秋晴はその場を離れようとする。  
 そこでふと、みみなのいる方、浴室のガラスを見る。  
 磨りガラスガラスは曇っていて見えるのは明かりと人影だけ。  
 そこで秋晴は気付く。  
「スマン。 勘違いはしないで欲しい。 嫌な訳じゃないんだ。 まだ責任が取れないし、今は流石に不味いから……」  
「大丈夫、みみなだって分かってるよ。 ちょっといじわるしたかっただけ」  
「………ならいいけど…」  
 返ってきたみみなの声はやはりいつも通りのもので、ただその行動自体はいつも通りのみみなではないようなズレを感じる。  
 秋晴は少しだけ考えてそのままその場を後にした。  
 
 
 みみなの入浴の後、秋晴がシャワーを浴び、シーツを干し、そのまま二人で寮へと向かった。日はもう落ちていて暗いため、互いに手を繋いでいる。  
「やっぱりさ……」  
「ん?」  
「みみなって……」  
 秋晴が控えめな声で呟いた。とても言い難そうに。  
「みみなって?」  
 急に言われて何の話か理解できないみみなはきょとんとしている。  
「…………何でも無い」  
 秋晴は何度かみみなの顔色を疑いその度まで出かけた言葉を内に止めた。  
「……気になる………」  
 みみなは振られた話をそのまま引っ込められて肩すかしをくらったような気分になる。しかもさも何かありそうな雰囲気で何でも無いと言われれば気になるのは当然だ。  
 歩きながら無言で不満な視線を向ける。  
 ああ、思わず口に出してしまったがうっかりしていた。恋人の無言の圧力が辛い。仕方ない、と秋晴は思い――  
「いや、多分言ったら怒る」  
 ――と正直に答えた。  
 ああ、また「もう、なにそれっ!」とか頬を膨らませながら怒られるんだろうなーと思っていたが予想した反応は来ない。繋いでいた手がスッと静かに話される。みみなが歩くのを止めてしまったからだ。  
 秋晴が振り返ると少し離れた位置にみみなが立っていた。  
「ん?どうし……」  
 秋晴は振り返りながら謝罪の言葉を口にしようとしたがその言葉は最後まで言えなかった。  
 
 
「………怒るようなこと言おうとしたの?」   
 
 
 秋晴は口をパクパクと固まってしまう。  
 
「…………………」  
 セルニアの激しい火山のような怒気とは違い分かりやすいものではない。  
「何を言おうとしたの?」  
 朋美の冷たい吹雪のような怒気とは違い心を擦り減らされるものではない。  
「何を言おうとしたの?」  
 自分の意識を持っていかれそうな感覚。  
「何を言おうとしたの?」   
 三度同じ言葉が告げられる。  
 かつて初めてその状態の彼女見た時、みみなだと秋晴は思えなかった。普段の明るい様子はなく、目は笑っているが焦点があっていない。一瞬で空気が重くなったのを覚えている。  
 みみなと付き合うようになって知った隠れた一面――本気ギレモードだ。  
 秋晴は覚悟を決めて思った言葉を口にした。  
「…………いや、結構エロいよなーって」  
「ぅえっ!」  
 予想していなかった秋晴の言葉に一瞬でみみなの様子がいつもに戻る。同時にいつも以上に慌てだす。暗くて距離もあるのに顔が赤くなっているのが分かる。  
「あ、いやさ。 今日とかも一週間も間空いてなかったと思うんだけど……」  
「そ、それは……」  
 先程までの不機嫌はそれどころじゃないらしく、恥ずかしそうに秋晴と距離を空けたままだ。  
「それは……?」  
「………不安、なんだよ…」  
 小さな声で、寂しげにみみなは呟いた。  
「………不安?」  
 秋晴は首をかしげる。彼女が震えているのが分かる。  
「キミはさ、みんなに優しいし……みんなと仲がいいから」  
 俯きながら、小さな小さな声でみみなはそう言った。  
「……………」  
 秋晴はその言葉、その表情で全てを理解する。この二カ月でみみなと自分の距離は近くなったと思っていた。現に近くなっていた。それでも、それでも二か月前と変わっていないものがあったのだ。  
 自分の大好きな彼女を不安にさせている自分に歯がゆさを感じながらも、その不安を掻き消せるのは自分だけだと知っている。  
 空いてしまった距離をつめ、みみなを抱きしめる。寒さでは無い別の理由で震えていた彼女をぎゅっと強く抱きしめる。  
「俺が好きなのはみみなだけなんだけどな」  
 耳元で優しく、それでいてはっきりと伝わるように自分の気持ちを言葉にする。  
 緊張からでは無い、世界で一番大切なものを抱きしめている興奮から鼓動が速くなる。  
 それはみみなも同じなんだろう。トクントクンと感じる音が心地いい。  
「ぅうー……知ってるけど……」  
 顔を見なくてもどうなっているのかが分かる。ただ、それは自分も同じだ。  
 秋晴はみみなの震え収まるのを確認し、「さ、遅くなる」と言って手を繋いでまた歩き出す。みみなも安心したように小さく頷くと秋晴の手を握りしめて歩き出した。  
 見上げると冬の澄んだ空気の中で、真っ暗な夜空に星が散りばめられていた。  
 ただ秋晴が考えていたのは美しい星では無くて、深い深い天井の無い夜空のこと。澄んだ空気のせいでより一層その深さを感じる。澄んでいるからこそ見えないその先。  
 彼女の不安を消すために自分がしなくてはいけないこと、そして彼女のために自分がしなくてはいけないこと。  
 秋晴はそれを思い浮かべた。  
 

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