『AWE OF SHE』  
 
「ちゅー、して?」  
 微かなその囁きはしかし、秋晴の脳を――思考を確かに揺さぶった。  
 喉が鳴りそうになるのを堪えて、秋晴は朋美の唇へと、ゆっくり自らのそれを近付けていく。  
 後数センチという距離になって、朋美の瞼が閉じられる。薄い瞼を縁取る睫の一本一本すら確認できるその距離は、秋晴の血圧を更に高める。  
 掠める吐息の暖かさに、今度こそ秋晴の喉が鳴った。  
 ひりつくほど渇いた喉を唾液が濡らす。それでもやはり喉は渇きを訴え続けた。  
 不意に、重ねた掌を朋美が動かした。一瞬離れるのかと思い、追いすがりそうになった秋晴の手を再び朋美の手が捉える。今度は指を絡めて。  
 重ねられた掌。その接触面がじっとりと汗ばむ。  
 それでも離す事はせず、むしろ愛撫するように指を蠢かせ、すり合わせる。  
 秋晴が恐る恐る力を込めれば、朋美が握り返し、密着してくる。  
 求められている。その確信は秋晴の背中を押し、決心を促した。  
 躊躇いが薄まり、思い切って唇を近付け、触れあわせる。  
「ん……」  
 重ねた唇の僅かな隙間から漏れる朋美の声と、ぷっくりとした柔らかさ、暖かさに秋晴の動悸が跳ね上がる。  
 ばくばくと聞こえそうな程に激しく脈打つ心音を聴きながら、それすら気にならない程秋晴は重ねた唇に意識を集中させていた。  
 自然な衝動として、ほぼ無意識の内により、強く唇を押し付ける。不慣れな秋晴のその動作は互いの歯の衝突を引き起こした。  
 かちり、と歯がぶつかって軽い衝撃が互いを襲う。  
「……へたくそ」  
「悪い……」  
 謝る秋晴に対して朋美が取った行動は笑いを零すというものだった。  
「嘘よ。これで慣れてたら本当に怒ってたけどね」  
 くすくすと笑う朋美に、秋晴の方も肩の力が抜ける。  
 ひとしきり朋美が笑うと、再び手に力が込められた。  
「もっと……して?」  
 ぐ、と息を飲む。  
 甘えるような声音、縋る視線、やわやわと絡ませた掌。  
 まるで恋人にするような仕草だが、どこかぎこちなさもある。  
(そりゃ、“ごっこ”だもんな)  
 考えないようにして更に唇を重ねる。柔らかさを確かめるような慎重なキスはやがて、互いの柔らかさを求めるようなそれに変わっていく。  
「んん……」  
 時折漏れる声に、甘く痺れるような陶酔を感じながら無心に口付ける。  
「ふ……は」  
 ようやく秋晴が唇を離すと、今度は朋美の方からキスをしてきた。  
 
 互いに昴ぶりを隠せないまま、キスを繰り返していく。  
「ん……、ん……」  
 ちゅ、ちゅ。と啄むような口付けを交わしたかと思えば、唇を擦り付けるように押し付ける。  
 ようやく、今度こそキスを止ませると荒い息を吐きながら朋美が俯いて囁いた。  
「……どうだった?」  
「ぅ……え?」  
 余韻に惚けていたせいで気の抜けた返事をすると、朋美が幾分責めるような口調になる。  
「だから、キス……してみて」  
 上目遣いに恥ずかしげに問う朋美に少しだけ胸を高鳴らせながら秋晴も照れ混じりに正直な答えを口にする。  
「あぁ……なんていうか……驚いた」  
「驚いた?」  
「いや、気持ちよくて……」  
「……私も」  
 顔を真っ赤にして背けながら、手はむしろ強く握って朋美が答える。  
「ね、秋晴……」  
「……なんだ?」  
「ぎゅって……して?」  
 朋美が絡めた手を解き、両腕を差し出すように広げる。胸が締め付けられるような感覚。  
 そっと、身を寄せて包み込むように抱き締めてみる。  
「ふあ……」  
 吐息の漏らした吐息が首筋を撫で、ぞくりとする。  
「なんかね?」  
「おう」  
「……ほっとする」  
「……俺も」  
 躊躇いがちなやりとりの間に、朋美の腕が秋晴の背に回される。  
「……ん〜」  
 やんわりと締め付けられ、体の密着度が高まった。  
 朋美の女らしい柔らかさや匂いがより感じられるようになって、思わず秋晴も腕に力を込める。  
「ん……っ」  
「悪い、痛かったか?」  
「ん〜ん、……もっと」  
「お、おう」  
 容易く潰れそうな柔らかさにおっかなびっくり抱き締める力をきつくする。  
「これくらい……か?」  
「ん……」  
 はふ、と朋美が息を吐く。  
「……なんかさっきから子供みたいだな」  
 甘えた口調、態度からそんな事を零す。  
「そうかな? ……そうかも」  
 朋美はぼんやりと呟いて、それを恥じるでもなく更に要求を重ねた。  
「もう一回、ちゅーして?」  
 言葉にはせず、行動で応える。  
「ん……っ」  
 口付けをした瞬間、朋美の身体が微かに震えて硬直するが、すぐに積極的なキスと抱擁をしてくるようになった。  
 重ねた唇と、寄せ合った身体。その柔らかさ、ぬくもりに否が応にも本能を刺激される。  
 これ以上は理性が保たない。そう判断して秋晴は身体を離す。  
「ぁ……」  
 名残惜しげに漏れた声を黙殺して秋晴は告げた。  
「ここら辺でよくないか?」  
「どうして……?」  
 
「どうしてって……これ以上エスカレートするわけにもいかないだろ?」  
「嫌なの?」  
「……っ! 嫌じゃないから困るんだろうが!」  
 思わず声を荒げて秋晴が答える。  
「……悪い」  
「…………」  
 朋美がしばらく考える素振りを取る。  
「う〜ん……。……えいっ」  
「ぅのわっ!?」  
 いきなり強く肩を押され後ろに倒れ込む。ベッドの柔らかさのおかげで痛みを感じる事はなかったが、面食らったお陰で思考も動作も停止した。  
 その隙を突いて、秋晴の身体に朋美の身体がのし掛かった。  
「……私もね? 嫌じゃないよ?」  
「は……?」  
 秋晴が何かを答えるより早く、唇が重ねられる。  
「んむ!? ん……んん!」  
 抵抗しようにも華奢な身体をどう扱ったものか考えあぐね手が出ない。  
 そうこうする内に首に腕が回され、折り重なるように身体が密着していく。  
 胸も腰も何から何まで当たっているというのに朋美は更に身体を触れあわせてくる。  
 再び本能のぐらつきを感じる。危険だと思う間にも、身体は反応していく。  
「やめ……ん、止めろって! んむぅ!?」  
 抵抗を口にしても、その合間にキスを重ねられ上手く喋る事が出来ない。  
 いよいよ下半身へと流れ込む血液の集中を止められなくなってくる。意志の力も限界が近い。  
「ちょ……っ、これ……んぅ! 以上はっ……ん!」  
「ん……いいから」  
 何が、と問う前に秋晴は遂に自分の下半身が硬さを得た事を自覚した。  
 羞恥が頭を染める。せめて気取られぬようにと身体を動かそうとして、しかしそれは朋美に機先を制された。  
 ぐり、と半ば膨張した部位に、朋美の腰が押し付けられた。  
 更にそれは断続的な動きとして秋晴を刺激し、より硬い吃立を促す。それに抗う事が出来る筈もなく硬さはどんどんと増していく。  
「ぅくっ!」  
 与えられる刺激に声を上げてしまう。それを見て朋美の口端が吊り上がり、嗜虐的な笑みを象った。  
「ん……」  
 首筋に朋美の唇が触れる。小刻みにキスを重ねられると、背筋がざわついて総毛立った。  
「朋……美……」  
 みるみるうちに最高潮まで膨らんでいく股関は、既にその存在を隠す事は出来ない程で、朋美の押し付けられる腰は迷いなく的確な動きになっていく。  
「ぅく……っ!」  
 痒痛にも似た快感が走り、声を漏らす秋晴を、朋美がじっと見る。  
 どう動けば秋晴が感じるのかを一つ一つ探るようにしていく。  
 
 時折、思い出したようにキスをするが、その頻度が徐々に落ちていった。  
 違和感を感じて朋美の表情を観察してみる。  
「ん……ん……」  
 微かに口から声を零しながら、その表情は陶然としていた。  
 それは嗜虐の喜びだけでなく純粋な悦楽に濡れているように見えた。  
 感じているのか。そう思うと朋美と目が合った。  
「…………」  
 声に出したかどうかすら曖昧に朋美が唇を動かす。  
「え?」  
「なんでもない」  
 言って動きを再開する。触れ合った部分が熱いのは摩擦か体温か。判然としないそれをぼんやりと感じる。  
「……したい?」  
 唐突な問い掛けだったが、その意図はすぐに知れた。この状況だ、連想は一つしかない。  
 意図は分かる。分かるからこそ答えられない。  
「だんまり?」  
 更に問う朋美を睨むようにして秋晴は沈黙を貫く。  
「……意地っ張り」  
 拗ねたように朋美が言って、動きを止ませる。  
 身体が離れていくのに安堵したのも束の間、下半身に朋美の手が伸びてきた。  
 手際良く動く朋美の手に、ろくな反応も出来ないままに下半身を晒す事になってしまう。  
 秋晴が抗議しようと口を開こうとすると、朋美が狙い澄ましたかのように唇を奪う。  
 驚いて硬直する間に、更に舌が滑り込んで来る。  
 ぬるぬると口腔を這い回る肉の塊。柔らかいその感触と、自分の物ではない唾液の味。  
 たっぷり秋晴の粘膜を蹂躙してから朋美が離れていく。二人の唇に掛かる透明な糸を驚愕と混乱を抱えたまま秋晴は見ていた。  
「な……ん……」  
 秋晴が言葉にならない疑問をぶつけても、朋美は何も答えない。代わりに朋美が剥き出しとなった下半身に跨るように腰を下ろす。  
 違和感――いや、分かっている。  
「お前……いつの間に!?」  
 晒された下半身に触れたのは下着越しではない直接の粘膜。微かにぬかるんだそれが、音を立てて滑った。  
「キスしてる間に」  
 それだけ言って朋美が越しを揺り動かす。今度ははっきりと秋晴を擦り上げ、未知の感覚に腰が震えた。  
 堅くなった幹を朋美の愛液が濡らす。濡れた箇所が空気に触れるとひんやりとして、まるで痺れたようだった。  
「ん……」  
 眉根を寄せながら、朋美が割れ目を押し付ける。一層ぬかるんだその部位は更に高く音を立てる。  
「……っはぁ」  
 熱の篭もった吐息が鼻先を掠める。ひくりと分身が疼いて、情動が沸き立つ。  
 気が付けば秋晴は、自分からも動きを起こしていた。  
 
「んっ……ふ……はっ……ぁ」  
 秋晴も、朋美も無心だった。触れ合った粘膜が卑猥な音を立てるのも構わず擦り付け合う。  
 熱が高まるのを抑える事も出来ずに秋晴は快感を貪る。  
 激しくなっていく動きに刺激は増す一方だったが、ある一点でそれが止まった。  
「……入りそう」  
 朋美が呟く。  
 その言葉通り、大きく腰を引いた秋晴の切先は朋美の中心を捉え、身を埋没させようとしていた。  
 潤んだ花弁から幹へ、雫が伝い落ちていく。  
「秋晴……したい?」  
「いいのか?」  
「うん……」  
 朋美の答えを聞いても躊躇いは消えなかった。  
 それを察してか、先に動いたのは朋美だった。  
「……っ」  
 秋晴に朋美の体重がのし掛かる。腰を沈めようとしているが、抵抗と痛みからだろう。それはなかなか進まない。  
 唇を噛んで受け入れる痛みに耐える朋美に胸が痛む。  
「無理は……」  
「無理じゃ、ないっ」  
 更に腰が沈む。  
 先端に感じる抵抗が更に増し、やがて肉を裂くような感覚に取って代わる。  
「ぁく……っ!」  
 不意に取っ掛かりが消えたかのようにすとんと朋美の腰が落ち、根元まで飲み込まれた。  
「はい……った……」  
 証拠とばかりにきつい締め付けが起こり、秋晴にも実感を与える。  
 結合部からは血が滲むように流れ、純潔が散った事を示している。  
「あきは……る……っ」  
 目尻に雫を浮かべて見詰める朋美を見て胸が痛む。  
 ――俺が……朋美の初めてを奪ってしまった。  
 想いを確かめた訳ではない。  
 付き合ってもいないのに、好き合ってもいないのに。  
「朋美……」  
 自分が萎えていくのが分かる。そっと朋美の体を押し退けようと肩に手をかける。  
「嫌……だった?」  
 朋美の声がそれを制する。  
「……嫌なわけじゃない。けどよ、これで良いのか? 付き合ってる訳じゃないんだ。恋人ごっこ……なんだろ?」  
「……っ」  
 朋美が秋晴をきつく抱擁する。僅かに震えた体を抱き返そうとして、しかし躊躇いがそれを許さなかった。  
「私は……好きなの」  
「え?」  
「好きなの……秋晴が。だけど、答えを聞くのが怖かった……。秋晴の心が誰を向いてるか分からなくて。  
 だからこんな騙すみたいな事したの。もっと優しくして欲しいの。秋晴が欲しいの。秋晴に欲しいがってもらいたいの」  
「朋美……」  
 
「だめ、なの? ならそう言って。謝るから……」  
「……朋美っ!」  
 あらんばかりの力で朋美を抱き締める。その事に躊躇いはもうなかった。  
「俺は……嫌なんかじゃねえよ。お前は……、誰よりも頑張って、誰よりも我慢して、誰にも弱音吐かないで……。  
 それだけだったらすごい奴で終わりだった。  
 ……でも、俺に愚痴ってるお前見て、すごいけど普通の奴なんだなって思った。完璧なんかじゃない、普通に弱さも持った人間なんだって。  
 支えたいって……思ったんだ」  
 朋美の肩を支え、僅かに体を引き離して、じっと瞳を見詰めて秋晴は言う。  
「支えさせてくれないか? お前を。ずっと誰かを支えたいって想ってた。その誰かが分からなかったけど、今は分かる」  
 
「朋美。お前を支えたい」  
 
 朋美の顔が、くしゃりと歪む。  
「秋晴……ぅ……っ」  
 嗚咽を遮るようにキスをする。優しさと慈しみを込めて。  
「ん……ぅ、ん……ちゅ」  
 愛おしい。愛おしい。愛おしい。  
 心に溢れる想いを伝えるように、朋美の暖かさを求める。  
「俺を、朋美のものにしてくれ」  
「うん……っ、うんっ」  
 萎えた自身はとうに硬さを取り戻していた。  
 その幹をなぞるように、朋美の秘部がゆっくりと上下する。甘さと痺れのない交ぜになった快感が脳髄を刺激する。  
 抜ける直前まで引き抜かれ、また最奥へと埋没していく。  
 肉の滑る感覚。潤んだ柔肉に包まれ扱かれる官能。  
 それは今まで感じたどんな快感よりも強く、秋晴を陶酔させる。  
 たどたどしい抽挿は徐々に小慣れた動きになり、一層の心地よさを与える。  
 幹を伝う鮮血すら潤滑液となって二人の結合を助ける。  
「あき……はる」  
「朋美……っ」  
 互いの名前を呼ぶことすら心を昴ぶらせ、悦楽を呼び覚ます。  
「痛く……ないか?」  
「……ちょっと。でも、気持ち良いよ?」  
「……そうか」  
 強がりだとは分かっている。分かっていて敢えて指摘する事はしない。  
 ただ少し優しく動く事を心掛ける。それだけで十分だ。  
「んっ……! く……っ、ふぅ……っ!」  
 熱に包まれ、愛液により滑らかな摩擦が繰り返される度に絶頂へとじりじり追いやられる。  
 亀頭がざらついた粘膜を擦り上げると、秋晴の背筋に悪寒めいた快感が走り、朋美の方も内壁を収縮させる。  
「そこ……いい……っ」  
 無言で頷いて、そこに集中的に当たるようにしてやる。  
 
 効果は覿面で、朋美の声に甘さが混じり、繋がった部分は潤みを増した。  
「ぁ……っ、あき……は、る……っ!」  
 しがみつくようにして名前を呼ばれる。背に回した腕に力を込める事で応えやると、朋美の甘い嬌声が上がった。  
「ん……っ、あっ! あ……はぁ……っ!」  
 ぬちゃぬちゃと卑猥な音を立てる結合部と、微かに涎で濡れた唇から零れる嬌声とで聴覚を刺激される。  
 重ねた肌、触れた柔らかさ、朋美の匂い、蕩けた痴態。唇を重ねれば微かに甘くすら感じる唾液。  
 五感全てが心地良かった。  
 全身の器官が性感帯にでもなったかのように、あらゆる一つ一つが互いを絶頂へと追いやっていく。  
 腰がぶるりと震えた。  
「朋……美っ!」  
「でる……? でちゃう?」  
「あぁ……っ」  
 答えた刹那、朋美の秘壺がぎゅっと締まる。そのまま出せと言わんばかりの動きに、また腰が震える。  
「朋美……ヤバい……っ」  
「うん……、うん……っ!」  
 最奥を押し付けながら擦り付けられる。亀頭の先端がぐりぐりと押し潰され、射精感が限界に近付く。  
「ちょ……このままじゃ……膣中にっ!」  
「いい……から、いいから……出して」  
「あ、あ、あぁぁっ」  
 頭が真っ白に爆ぜる。次の一瞬には下半身が激しい脈動と共に精液を朋美の胎内に吐き出していた。  
「は……はぁ、は……っ」  
「んん……っ、く……ぅ」  
 肺が酸素を求めて激しく喘ぐ。徐々に呼吸が落ち着いていくのを確かめてからようやく秋晴は朋美を見た。  
 陶然と満たされた表情を浮かべる朋美に問いを投げ掛ける。  
「良かったのかよ……膣中に出して……」  
「……さぁ?」  
「さぁ? っておい」  
「支えてくれるんでしょ? それともこういうのは範疇外?」  
「いや……そういうわけじゃないけど」  
「……大丈夫な日よ」  
「え……あ?」  
「私がそこまで考えてないわけないじゃない」  
 朋美がしたり顔で笑う。  
「出来ちゃったらもったいないじゃない。秋晴と出来なくなっちゃうし」  
 そこまで言うと今度は照れた様子で「ま……いずれは欲しいけど」と呟いた。  
 秋晴はしばらく呆けていたが、すぐに苦笑を浮かべた。  
「……ったく。まあそん時はそん時で責任とるつもりだから、引っ掛けみたいなのは無しにしてくれよ?」  
「……うん。ありがと」  
 お互いなんとなく可笑しいような、幸せなような空気に包まれて、笑みを浮かべる。  
 ひとしきり笑うと、不意に朋美が照れながら言った。  
 
「その、さ。今日大丈夫な日だし。私も落ち着いたからさ……あの、したかったら……良いのよ?」  
 言われて、秋晴は自分がまだ朋美から引き抜いておらず、しかも硬さを残したままだった事に気付いた。  
「あ〜、じゃあ……いいか?」  
「うん……」  
 そっと朋美を抱き締めて、今度は自分が上になるように体を重ねる。  
 そっと口付けて、秋晴は朋美を再び求めていった――。  
 
 † † †  
 
「痛ぇ……」  
「私も……」  
 昼も近い、遅い朝。目を覚ました二人に襲いかかったのは筋肉痛だった。  
「やっぱり普段使わない筋肉使うんだな……内股が痛ぇ」  
「そうね……私なんかまだ何か入ってる気がする。……嫌ではないんだけど」  
 嫌ではないの一言に気恥ずかしさを覚えて、秋晴は赤面を誤魔化すように切り出した。  
「あ〜……、そろそろ帰るわ」  
「え? ゆっくりしてけば良いじゃない」  
「いや、さっき見たら携帯に大地の着信が何件も……心配かけるのも悪いし帰るわ」  
「そう……」  
「……大地に、ってか周りには黙ってた方が良いか?」  
「そうね……私も一応卒業までは優等生の仮面被らなきゃだし……あ〜〜っ!」  
「ど、どうした!?」  
「うっさい! 本当はもっと学校でもイチャイチャしたいのに我慢しなきゃいけないんだもん!」  
「ばっ……馬鹿っ! そんなんこっちも……」  
「う〜……っ」  
 呻きを溜め息に変えて朋美が言う。  
「でも我慢する。我慢するから秋晴」  
「なんだ?」  
「頑張れるようにちゅー」  
「……分かったよ」  
 全く仕方ないお嬢様だ、と秋晴は苦笑する。  
 でも、頼って貰えたり、甘えられるのは悪くないとも思う。  
 自分の存在で支えられる相手が居ることは嬉しい。  
 だから秋晴はキスをする。  
 
 愛しい、自分の敬う少女へと。  
 
了  
 

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