日野秋晴から見た、四季鏡早苗という人物について。  
 前向きで明るい性格。  
 そして、一番の特徴は『ドジ』で『天然』  
 それも壊滅的と枕詞をつける程度だと、ワッフルに蜂蜜をかけるぐらい甘いレベル。  
 まあ、だからといって「もうフォローをするのが嫌だ」とか「関りたくない」とか思ったりはしない。  
 何故か放っておけない、そんな雰囲気を持ったヤツ。  
 そして――  
 
 
 ★★★  
 
 
 そろそろ朝起きるという行為が辛くなってくるぐらいに寒くなった日。  
 期末テスト終了後の短縮授業期間とはいえ、そんなものは従育科には関係なく、 何時もどおりの午後の特別カリキュラムと奉仕活動がある。  
 そして、ここ数日の特別授業は『掃除』だ。  
 というかテスト後の特別授業のテーマは2学期に習った事の総合演習なんだろう。  
「今学期に習った知識を活用して、実際に動きを体で覚えてもらいます」  
 なんて事を深閑が言っていたし。  
 一人一人が場所を指定され、そこを『整頓』『整理』『掃除』『維持』をする。  
 そして終われば報告し、他の人を手伝う。そんな授業だ。  
 今学期の初めの方では、洗剤の種類を覚える事から始まったことを思えば、着実にステップアップしていると言えるだろう。  
 とはいえ――  
 
「流石にこれは――先を考えるだけで憂鬱になるな」  
 秋晴は溜息をつきながらそんな事を呟いた。  
 視線を上へと向けると、目に入るのは茶色を基本としながらも様々な色を見せる背表紙。  
 自分の手を最大限伸ばしても、まだ頭一つ分ぐらい高い本棚。   
 秋晴が指定された場所は図書館の一角だった。  
 
「――まあ、図書館全部をやれと言われないだけでも良しとするべきだな」  
 そう思わないとやっていられない。  
 深閑から聞いた話では、隣り合った書籍や図書館という特殊な空間の関係上、こういった広い場所での書籍の管理については  
 全部を一度にするというわけにはいかないそうだ。  
 何箇所かに区分けして月毎に、順繰りにやっていくというのが手間的にも、書籍の保存状態の維持的にも一番良いらしい。  
 本来なら指定された業者が毎月来るらしいのだが、今回は授業の実習で従育科の生徒がやることになった。  
 曰く「主人の使う書籍の保持管理も従者の仕事」らしい。そんな事を、具体的手段とともに、授業で習った。  
 
「とりあえず、書籍のチェックから始めるか……」  
 まあ、調理室を指定された岡や、庭園の手入れという地雷を見事引き当てた轟よりはマシだろう。  
 特に、割り振り前に、明らかに邪なオーラを出しつつ「体育館!」とか叫んでいた轟はざまあみろ。  
 そんな『下には下がいる』という間違った慰めを自分にしつつ、作業を開始する。  
 
 どうやらこの付近だけでなく、全体的にそこまで本が借りられたりしていない様子だ。  
 手早く背表紙を確認し、書籍のチェックはサクサクと進んでいく。  
 秋晴の中では、令嬢→深窓の令嬢→静かな図書室で一人で読書、みたいな図式があったので  
 あまり本が利用されている様子がないというのは、若干意外に思いつつ――加えてちょっと残念に思いながら、作業を終わらせる。  
 と言うか、自分の周りの上育科生見ていたら、深窓の令嬢なんてのは物語の中だけの存在だって理解できるけどな。  
 ギリギリでそう呼べる可能性があるのは、アイシェやみみな先輩、あとは鳳ぐらいか?  
 その三人にしても『図書室で一人読書』なんて姿は、いい意味でも悪い意味でも思い浮かばないし……。  
 でも、有り得ないなんて解っていても、深窓の令嬢なんてフレーズには  
 男として夢を覚えざるを――って轟あたりに思考が毒され過ぎているな、これは。  
 
 頭を振って思考を切り替えて、次の作業に進む。  
 次は一番の大仕事である保存状態の確認――傷み具合のチェックと、傷まないようにする為の処理だ。  
 深閑から渡された『溶剤』を手に掴みながら、秋晴は手順を頭の中で思い描く。  
 この『溶剤』は書籍の経年劣化をマシにする特殊なモノらしいが、傷んでいないものに塗布すると早く傷んでしまうという効果もあるらしい。  
 だから、塗布するべきかどうかの判断。  
 それに加え、本の交換自体が必要――塗布してどうにか出来るようなレベルの傷み具合がないか。  
 そういったチェックを一つ一つしていかないといけない。    
 
 
 そんな作業をしながら秋晴が考えるのは、ここ最近の事。  
 特に――沙織さんと行ったグアムで経験した出来事には、色々と考えさせられている。  
 自分の中で、白麗陵の中でトップクラスの『残念な人』という認識だった理事長ですら、ああいう風に物事をちゃんと考えて行動している。  
 ――もっと言えば、思慮深い一面を持っているということには少なからず驚きを覚えた。  
 そして、ああいうぽけーとした人であっても、裏側ではキリッと一人立ちしている事実は、驚きだけでなく、多少の動揺も秋晴に与えていた。  
 自分が執事になるために辿り着かなくてはならない場所への、かなりの『遠さ』。  
 加えて、ああいう領域へ辿り着いた自分が想像出来ないという現状。  
 一つ一つ目の前のことをやって行くことしか出来ない、近道なんてない事は理解しているのだが、それでも秋晴には『焦り似た何か』を感じてしまう。  
 
 
 それに、『残念な人』、ぽけーとした人と言えば――理事長と双璧である沙織さんの言っていた言葉も悩みの一つだ。  
 あの時は、直後のドタバタや次の日以降の忙しさでそのまま流してしまっていたが、日本へ戻ってきて落ち着いて思い返してみると、かなり色々と考えてしまう。  
 あの言葉は何なんだろう?  
 何を意図していたんだろう?  
 聞き間違い――ではないだろう。  
 そうだとしたら嫌過ぎるし、ここ最近ずっと悩んでいる自分がバカらし過ぎる。  
 だからと言って、俺に好意を抱いている――なんて直球で受け取るのも都合よく考えすぎている気がする。  
 自分をからかっているとまでは言わなくても、ただの社交辞令という可能性も十分あるだろう。  
 
 それに、あの言葉をそのまま真面目に受け取ると、沙織さんだけじゃなくて、  
 四季鏡の好みの人間=自分という事にもなる。  
 沙織さんは、四季鏡の感情に対して刷り込みでないと言っていたけれど、正直、半信半疑どころか二信八疑と言った感じだ。  
 まあ、普段の生活を考えると、ある程度好ましい感情を持たれていると思うけれど、それが好意や恋心なんて呼ぶものかは、かなり疑問だ。  
 そう言えば、姉と思い人が一緒にいるなら嫉妬するような心もあるとか、  
 身内やそれに準ずる人の役に立ちたくて目を輝かせるとか、甘えたがりとか  
 そんな事も、沙織さんは言っていた気がする。  
 だから、逆説的に言うと、そういった面を俺が見ていないという事は、  
 まだ好意と呼ぶべき感情が育っていないという事じゃないだろうか?  
 やっぱり沙織さんの勘違――  
 
 
 あれ?  
 ちょっと思い返せ。  
 沙織さんには「意外だ」と答えけれど、落ち着いてよく考えてみれば、自分と一緒の時の四季鏡はそういう傾向がないか?  
 
   
 流石に甘えたがりや嫉妬云々についてはピンと来ないけど、  
 身内の役に立とうと手伝いたくて目を輝かせる――こっちについては意外でもないんじゃないか?  
 少なくとも、自分の中での、四季鏡像というモノからは乖離してはいない。  
 突発料理試験の時などを含めて、こちらから頼んだ事に対しては、喜んで引き受けてくれる。  
 その上、特に俺に対しては、自分から積極的に仕事を求めて動く事も多々ある。(結果は別として)    
 
 
 それだけじゃない。  
 
 
 雪山での授業のときや放課後の特訓なんかの例を挙げるまでもなく、  
 かなり自分は四季鏡に頼られていると思う。それはまあ、紛れもない事実だ。  
 だけど、よくよく考えてみると、四季鏡のフォローをする人間は、従育科の中に沢山居ても、  
 四季鏡自身からフォローを積極的に頼まれたり、何か頼られたりする人間は、俺以外に居なくないか?  
 
 
 そして――それも一種の「甘え方」と言えるんじゃないか?  
 
   
 それを前提に、先日の理事長達を見習って色々と物事の類推をしてみる。  
 例えば、以前、大地と岡と四季鏡で行ったスケート。  
 あの時、四季鏡は何時もどおりの失敗続きだったけど、必死になって滑られる様になろうとしていた。  
 挙句には大地の真似までしようなんて無茶なことまでしていた。  
 あの時は「同じ初心者の大地に影響されすぎだろ」なんて考えていたが、  
 あれがもし――  
 
 
 四季鏡早苗という人間が、日野秋晴という人間に対して、  
 少しでも良いところを見せようとしていたなんて考えてみるとどうだろう?  
 
 
 いや――流石にそれは恣意的に考えすぎている。  
 理事長と深閑が互いにやっていたように、相手の行動の真意を読むとかいう行為には程遠い。  
 鼻で笑うべき考え。  
 それこそ轟のバカ並に現実逃避レベルの高い妄想だ。  
 こんなことを思っていると、大吉クラスの自意識過剰な人間になりかねない。  
 でも――そもそもほとんど恋愛経験なんてない自分が、「有り得ない」と判断できるほど上等な立場にいるか?  
 
 ――思考が何時の間にか、沙織さんのことだけじゃなくて、四季鏡の事へと移ってしまっている。  
 しかもかなり真剣に考えてしまっていた。  
 作業を進めていた秋晴の手は、さっきから止まりっぱなしだ。  
 どうしてここまで四季鏡の事を考えている?  
 
 思い浮かぶのは四季鏡の顔。  
 ドジをして、コケて眉根を寄せる四季鏡。  
 それを「しょうがないな」という苦笑を浮かべながらフォローにまわる自分。  
 俺の手を取り、一瞬申し訳なさそうにしながらも、すぐに笑顔を浮かべ、切り替える四季鏡。  
 どんなに失敗しても、笑顔を浮かべることが出来る四季鏡。  
 結果とかはともかく、自分なんかとは違い、先のことなんて一切気にせず、目の前の事にただただ全力でぶつかる――そんな姿が眩しく感じて……。  
 
 いや、だからちょっと待て。  
 どれだけ普段から四季鏡を観察してるんだよ、俺。  
 つーか沙織さんの言葉に、なんでここまで動揺してるんだ。  
 その上その言葉を、発展させてどれだけ先走りしてるんだ。  
 そもそもあの純粋無垢という言葉に服着せて歩かせたような人間と、『恋愛』というものが中々繋がらない。  
 まあ、別にそういう対象として全く見ていないというわけじゃないけど。   
 いや、だからそういう話じゃなくて。  
 ああ、もう――  
 色々な思い、考えが頭の中で交錯し――  
 
 
「あの〜。日野さん、いますか?」  
 
 
「ッ!」  
 
 ドサッ!  
 入り口から聞こえた声に、思わず持っていた本を落としてしまう。  
 本が落ちた音が聞こえたのか、こちらへパタパタと駆け寄ってくる音が聞こえる。  
 『誰が』なんて問うまでも無い。  
 聞きなれた声、そして足音だ。  
 
「四季鏡早苗、只今到着しまし――って、日野さんどうしたんですか?」  
 秋晴が振り向くと、予想していた通り、そこには四季鏡が立っていた。  
 何時もと変わらぬ笑顔をこちらへと向けている。   
 
「……い、いや、ちょっと考え事をしていたから、驚いて本落としただけだ」  
 まさかお前の事を考えていたなんて、言える筈もない。  
 
「つーか、四季鏡。どうしてここに?」  
 とりあえず、話を変えようと、落とした本を拾いながら秋晴は質問する。  
 そのついでに、気付かれない程度に呼吸を深くして息を整える。  
 ってなんで、こんなに微妙に緊張してるんだよ。  
 何時も顔を合わせている相手だし、ついさっきも普通に話をしていただろ。  
 
「私の持ち場が終わったので、深閑先生に報告したら、次はここに来るように言われました!」  
 ビシッと敬礼するかのような勢いで四季鏡がそう言う。  
「もう終わったのか……」  
 なんというか、四季鏡が悪いというわけじゃないけど、微妙に敗北感が……。  
 まあ、俺の場合、あの深閑から、  
「大変な場所ですが、時間はかかってもいいですから丁寧に頑張ってください」  
 みたいなことを直々に言われるようなところを指定されたから、終わる時間に差が出るのは仕方がないんだが……。  
 それでも、四季鏡に負けたのは若干やるせない気持ちになる。  
「はい! 今日はもの凄く順調に出来ましたっ。とっても調子がいいです! だから何か、お手伝いできる事はないですか?」  
 何時になくテンションが高く、従育科の中で一番大きい胸を反らせながら、キラキラした瞳でそう問いかけてくる。  
 まるで尻尾をせっせと振る子犬みたいだ。  
 
「……手伝いなあ」  
 そう言いながら秋晴は右耳の安全ピンを撫で、考える。  
 真っ直ぐそう言う事を言ってくれるのはうれしいけど、そのまま残りを分担するのは……ダメだな。  
 悪い予感しかしない。  
 具体的にいうと、溶剤ひっくり返して書籍全部にぶちまけるとか。  
 予感というより予言だけど。しかも的中率7割強。  
 となると――  
「そっちの棚は、上二段が残ってるんだけど――そこの書籍を上からチェックしてくれないか?」  
「……チェックですか?」  
 顎に指をあて首をかしげるように四季鏡が聞き返してくる。  
 そんな普段と変わらぬ仕草に、秋晴は何か心ざわめくのを感じるが、それを無視して話を続ける。  
「書籍の保存については習っただろ? で、あの時授業で出てきた溶剤がコレ」  
 手の中のそれを軽く振って四季鏡に見せる。  
「で、効率よく終わらせる為に、お前は上から溶剤を使うべきかどうか、授業で習ったようにチェックしてくれ。で、塗布したほうがいいやつや交換するぐらい傷んだやつはむこうのテーブルに置いておいてくれると助かる」  
 まあ、溶剤の容器が一つしかないから、こういう分担の仕方が最も効率がいいのは嘘じゃない。  
 モチロン理由はそれだけじゃないけど。まあそれは方便という事で。  
「解りました! 頑張りますっ!」  
 ほどほどになと突っ込みたいが、野暮すぎるので控える。  
 という訳で、分担して作業を再スタートさせた。  
 
 
 ★★★  
 
 
 シーンと静かな図書室の中、自分と四季鏡の作業の音だけが、時折響いている。  
 そんな中、秋晴が考えているのは先ほどのこと。  
 
 ――やっぱ、沙織さんの勘違いじゃね?  
 
 そうとしか思えない。  
 まあ、女性との付き合いなんて、今までの人生で皆無な人間だから、正確なところは解らないけど。  
 それでも、好意を抱いている人と一緒にいたら、意識してしまうのが普通だという事ぐらいは解る。  
 図書室。異性。二人っきり。  
 どこかの恋愛漫画かと言いたくなる様な絶好のシチュエーション。  
 だが、四季鏡はマジで何時もどおり。  
 トークを弾ませようと無駄に話しかけられることもないし、過度に痛い沈黙が続くわけでもない。  
 普通に解らないところがあれば聞きに来るし、楽しそうに作業している。  
 本当に普段どおり。  
 なんというか、過剰に意識して、四季鏡の動き一つ一つを目で追っている自分が馬鹿らしくなってくる。   
 って、これだとまるで俺が四季鏡の事を――  
 
 その瞬間秋晴は気付く。  
 脚立を降り、本棚に背を向ける四季鏡の頭上。  
 そこへ、『古語大辞典』と書かれたとてつもなく分厚い辞書が落ちようとしているのを――  
 
「四季鏡ッ!」  
 
 手に持っていた溶剤と書籍を無意識の内に、手から落とし――駆ける。  
 落としたそれらが、床へとぶつかる音よりも早く、四季鏡の肩を掴む。  
 一瞬の内に、引っ張るよりこのまま勢いに任せて向こう側へと押す方が早いと判断。  
 そのままラグビー選手のような感じで、二人して床へと倒れる。  
 
 ドスンッ!  
 
 ――危ねえ。  
 書籍が落ちる音としては、不適当過ぎる落下音だ。  
 流石に、無駄に丈夫な四季鏡でも、あんな物が当たったら保健室行きは免れなかっただろう。  
 いや、下手をしたら大怪我の可能性もあった。   
 
「大丈夫か? 四季鏡」  
「あっ、は、はい」  
 
「急だったから、床に何処かぶつけたりしてないか? 痛いところとか――」  
 そう言いながら、顔を向け、気付く。  
 
 
 顔近っ!  
 一緒に倒れたから当たり前なのだが、秋晴はドキドキしてしまう。  
 改めてよく見てみると、睫毛長いし、顔の肌の白さきめ細やかさも尋常じゃない。  
 その白さに映えるような赤い唇も艶かしい。  
 それに両手で掴んだ肩も細い。力を込めなくても、無骨な自分の手が触れるだけで折れてしまうような華奢な感じ。  
 やっぱ沙織さんと血が繋がっているんだという事を実感する。   
 沙織さんが『美人』なら、四季鏡は『可愛い』という言葉が似合う美少女だ。  
「……」  
「……」  
 ――と、そこで微妙に雰囲気がおかしくなっているのに気付く。  
 まるで映画のワンシーンのような状況。  
 
 ああ、この顔はどこかで見たことがある。  
 あれは確か――秋葉原で、みみな先輩と遊びにいく約束をした直後、自転車を避けようとした時だ。  
 そう。あの時のみみな先輩と同じような顔をしている。  
 ――って、何時まで、四季鏡を見続けているんだ。  
 それにずっと四季鏡の両肩を掴みっぱなしだし。  
 不躾にもほどがある。  
 
「っと、スマン」  
 そう言いながら手を離し、起き上がる。  
 そして恥ずかしさを誤魔化すように、本棚のほうに少し目を向ける。  
「あっ……」  
「大丈夫か? 立てるか?」  
 四季鏡が何か声を上げた気がするが、取りあえず手を差し出して立たせる。  
「は、はい。だ、大丈夫です」  
 珍しく、おずおずといった感じで俺の手を掴み立ち上がる四季鏡。  
「ひ、日野さん、ご迷惑――」  
「いや、気にするな」  
 何時もの事だし。  
 それにさっき恥ずかしさから本棚に目を向けたときに気付いたが、どうやら落ちてきた辞書の横にあったモノが、辞書ではなく辞書本体の入っていない収納箱だったみたいだ。  
 あれのせいでバランスが崩れて落ちてきたというのが真相といったところ。  
 流石に、それを予期するのは深閑ですら無理だろう。そんな事を考えていると――  
 
「あっ!」  
 四季鏡が、驚いたような声を上げた。  
「ん? どうした?」  
「ひ、日野さん。ち、血が出てますっ」  
 そう言って四季鏡が俺の右頬を指差す。  
 指し示した場所を、秋晴が指先で触れてみると微かにヒリっとした感触。  
 どうやら、床に倒れこんだ時に右頬の下のほうを擦ってしまったらしい。  
 とりあえず、ティッシュか何かで血を拭こうと思い秋晴が内ポケットに手を伸ばそうとすると――  
「あっ日野さん、動かないで下さいね?」  
 そんな言葉が聞こえて目線を向けて見ると、四季鏡の手が秋晴の方へと伸びてくる。  
 何を――と問いかける間もなく、秋晴は頭の後ろを押さえられ、顔を固定された。  
 そして、先ほど見蕩れた四季鏡の顔が近づいてくる。  
 目に付くのは赤い唇。  
 そしてそれを割って出てくる赤い舌。   
 その赤い舌が近づいて――  
 
「ちょ――」  
 
 ピチャ。  
 くぅ――と秋晴は思わず呻き声を上げそうになった。  
 塗れた舌が、頬の傷の部分を舐め上げている。  
 ピチャ。ペチョ。  
 最初はピリッと微弱な電流が流れるような痛さを感じたが、それは直に『熱さ』へと変わっていく。  
 何かが這うような動き。その感覚の後には、唾液で湿った部分に四季鏡の息があたりひんやりとする。  
 その一連の感覚に連動するかのように、背筋にゾクッとするモノが走る。    
 傷を負った部分を慈しむような繊細で丁寧な舌の動き。  
 その舌の動きから感じられる全ての感覚を脳が『快感』という情報として受け取る。  
 
 ――ヤバイ、勃ってきた。  
 ただ傷口舐められてるだけなんだぞ!?  
 秋晴がそう思う心とは裏腹に、 四季鏡に与えられる感触が、  
 ダイレクトに脳髄を刺激し、下半身にはみるみるうちに血が集まり始める。  
 
 ――これ以上はマズイ。  
 これ以上やられたら押さえが利かない。  
 だが、そう思いはしても体の方は微動だにすら出来ない。  
 まるで金縛りにあったかのようだ。  
 そして焦る心を無視するかのように、性的快楽に呼応して、心の奥底で『目の前の女性を犯したい』という欲求が鎌首を擡げる。  
 
 ――ダメだ。  
 そんな事をやっていいはずがない。  
 あまりにも自分勝手な雄の本能。そんなものに屈して四季鏡を如何こうしていいはずがない。  
 ぐずぐずに溶けた『理性』でなく、『四季鏡を傷つけたくないという感情』が秋晴の本能に制止をかける。  
 
「し、四季鏡、もう大丈夫だ! 止めろ。止めてくれ」  
「え? 気持ち悪かったですか!? それとも痛かったですか!?」  
 微妙にズレた答えが返ってくる。  
 もしかすると四季鏡の偽者じゃないかなんて可能性も思っていたけど、今ので本人だと確信した。  
「そ、そうじゃなくてだな。と、とにかくストップ。ストップ」  
 四季鏡の肩を抑え、とりあえず顔と顔の距離を離す。  
 そして深呼吸を数回繰り返す。  
 ぶっちゃけそれぐらいで、完全に平静に戻るわけじゃないけど。  
 しかし、それでも先ほどよりは幾分落ち着く。  
 
「質問なんだが、お前、なんでいきなり、その……舐めたりしたんだ?」  
 もうなんか、今の雰囲気で『舐める』なんて発音したくないのだが、それ以外の言い回しが思いつかないぐらい焦っている。  
「お姉ちゃんが『好きな人が怪我をしたら、その部分を舐めて差し上げるのが嗜みですよ』って言っていたんですが、やり方間違ってましたか?」  
「……」  
 何が悪いのかすら解ってないような様子に、沈黙しか返せない。  
 まあ、予想通り――沙織さんの入れ知恵か……。  
 けど……流石にこれは、ちょっとやり過ぎだ。  
 自分が格別、理性が強い部類だとは思わないけれど、それでも自分以外の人間なら勘違いして襲われても文句を言えない行動だ。  
 だから、ここは四季鏡のために、多少この後の関係がギクシャクするとしても、忠告するべきだろう。  
 少し――いや、結構心が痛いけれど。   
「四季鏡――えっとさ。たとえ、好きであってもそういう行動するのはどうかと思うし、まず何より、お前の俺に対する『好き』っていう感情は、沙織さんが言っているのを真に受けた勘違いだと――」  
 
 
 言葉の途中で、四季鏡は秋晴の手を取り首を振る。  
 その顔は怒っているのでもなく、悲しんでいるのでもなく、当たり前の事をするような表情。  
 自明の事を一つ一つ確認するような雰囲気。  
 こんな四季鏡を秋晴は見たことがある。  
 あれは確か――ピナがみみな先輩を勝手に着替えさせて揉めた時だ。  
 その時、ピナに言い聞かせる四季鏡が、今と同じ雰囲気を纏っていた気がする。  
 そんな四季鏡の様子に秋晴が戸惑っていると。  
 
「始めの切欠はお姉ちゃんに言われたからかも知れません」  
 そこでふっと一息をつく四季鏡。  
 そんな仕草にも秋晴は色気を感じてしまい、ドキっとする。  
「雪山で本当に心配して泣きじゃくった時かもしれませんし、もしかするとそれよりも前、カレーをぶつけた時からかも知れません。正直……始まりなんてよく解らないです」  
 カレーをぶつけた――そう言えば、そんな事もあった。  
 思い返せば、あれが四季鏡との出会いだったんだ。  
 初めから今までずっと変わらず、そんな関係だった。  
 
「でも――今の私の想いはお姉ちゃんに言われたからじゃないです。絶対にそうじゃないです」  
 秋晴だけでなく、ここに居ない何か――神様とでも言うべき者にも、宣誓するかのように四季鏡は言葉を紡ぐ。  
 
「お姉ちゃんにもお母さんにも誰にも、この思いだけは譲りたくない。それぐらい私は、四季鏡早苗は――日野さんのことが大好きですっ」  
 いや、お前の母親には会った事ないし、まずそれは不倫だとか、普段なら即座にするツッコミが出来ないぐらい、頭の中が真っ白になった。  
 
 好き?  
 誰が誰を?  
 四季鏡が俺を?  
 刷り込みでもなく、勘違いでもなく?  
 ちゃんと色々考えて、自覚して?  
 ということは今のは――告白?  
 
「え……あっ……」  
 思考が散り散りになって何も言葉を紡げない。  
 え? え? え?  
 落ち着け。落ち着け。  
 四季鏡が俺のことが好きで。  
 沙織さんとかにも譲りたくない、と。  
 落ち着け。  
 これは告白って言うヤツだ。  
 で、告白されたという事は――返事をしなきゃならない。  
 返事? 返事って――何だ?  
 俺が四季鏡の事をどう思っているかって事か?   
 俺は四季鏡のことが、嫌い? 好き?  
 好きだとしても、それは恋愛感情か? どういう風に好きなんだ?   
 俺は、おれは、オレハ。   
 とにかく何か喋らないと――  
 
「し、四季鏡、俺は――」  
 カラカラの喉から出るかすれた声。  
 そんな混乱の極みにある俺の言葉を遮るように、艶やかな白い指先で四季鏡が俺の唇を抑える。  
 
「急ですよね? こんな話」  
 確かにそうかもしれないけど、それに頷く事は出来ない。  
 少なくとも今、非なんてものがあるとすれば自分の方だろう。  
 四季鏡の思いを軽く扱った自分。  
 女性からの告白にまともな返事一つ返せない自分。  
 本当に――情けない。  
 
「一つだけ聞かせてくださいっ――私のこと、嫌いですか?」  
 今までの雰囲気と違い、何処か不安そうな瞳と、儚げな表情でそんな質問をしてくる四季鏡。  
 でも、そんな言葉に対する答えなんて決まってる。  
 
「――嫌いなはずないだろ」  
 そう、嫌いであるはずなんかない。  
 正直、迷惑なんてかけられまくってる。  
 でも、見捨てる気になんて全くなれないし、ならない。  
 もし『嫌い』ならとっくの昔に見捨てているし、関りたくないと思ってるだろう。  
 多少迷惑なんてものを被むっても、見放せない。  
 そんな存在だ。  
 
 
「だったら私、頑張ります! 今、好きと思われていなくても――日野さんに好きになってもらえるように頑張ります!」  
   
 
 何時もの授業で気合を入れるような時のように、四季鏡は宣言する。  
 
 ああ――そこで秋晴は気付いた。  
 
 ただ、やるべき事を真っ直ぐに出来る人間――それが四季鏡なんだ。  
 細かい理屈なんてのはどうでもいい。  
 可能かどうかすらどうでもいい。  
 俺のことが好きで、俺に嫌われていない。  
 だから好かれるように行動する。  
 四季鏡にとっては、理由なんてそれだけで十分。  
 良くも悪くも 前向き。  
 とてもシンプルで――単純だからこそ眩しい。  
 そう、それは――秋晴が『こういう風に行動したい』と思う、一種の理想系。  
 そして、打算なくそんな行動が取れる四季鏡をとても素敵だと思う。  
   
 ――そんな考えに至った瞬間、秋晴は、  
 
「え……日野さん」  
 四季鏡を抱きしめていた。  
「あー、えーと」  
 無意識に近い自分の行動にしどろもどろになる。  
「……」  
 そんな自分の様子を、じっと子犬のように見つめて待ってくれる四季鏡。   
 
「――正直、お前の事が好きなのかどうか解らない。状況に流されてるだけかもしれない」  
 思っていることを素直に、包み隠さず話す。  
「と言うかそもそも『好き』という感覚がよくわからない」  
 過去のロクでもない出来事が原因なのか、そこら辺はあまり解らないが、好意に対しての好意への返した方がよく解らない。  
 
「でも、それでも――今こうやって、お前を抱きしめたいと思ってるのは本当の気持ちだ。そして俺は――お前とずっと一緒にいたい」  
 それが偽りの無い本心だ。   
 これを恋だとか愛だとかいうのかは解らない。  
 雰囲気に感化されてそれらしい言葉を口に出しているだけかもしれない。  
 だが、今は間違いなくこう思っている。それだけで理由は十分。  
 そう、細かい理屈はいいんだ。  
 今、自分が『四季鏡を抱きしめたい。ずっと一緒にいたい』思っている。  
 そして、四季鏡に嘘を言いたくないと思っている。  
 だから、それを――偽りの無い本心を伝える。  
 それが――何より大切な事なんだ。  
 
「ひ、日野さん。嬉しいですっ」  
 そう言いながら、自らも手を回して抱きついてくる。  
 うわー。その顔は反則だ。  
 瞳をうるませて、頬を若干赤く染めて、嬉しい笑顔ではなく――嬉しさを堪えきれない笑顔。  
 加えて、むぎゅーっと擬音が聞こえてしまいそうなぐらい抱きしめてくる。   
 その直線的過ぎる感情表現にダジダジしてしまう。  
 
 でも、心臓がドキドキしているのに――何故か心が落ち着く。  
 何処か懐かしい感覚。  
 ああ――そうか。  
 もう遠い昔。自分にも『家族』と言える存在が居た時に感じていた感覚。  
 自分が帰るべき場所にあった雰囲気。  
 失って初めて大切なものだと気付いた。永く感じていなくて、もう二度と感じることは出来ないと思っていたモノ。  
 そこに思い至った時、秋晴は不覚にも涙が出そうになった。  
 泣きそうになるのなんて、何年ぶりだ。ああ糞、情けない。  
 取り合えず、涙を零したりしたら四季鏡に無駄に心配かけてしまうのは、火を見るより明らかなので少し目線をズラす。  
 
 と、そこで――秋晴は見てしまった。  
 上から見た四季鏡の胸――谷間が出来てる。  
 
 いや……何度か腕を挟まれたり、頭を挟まれたりした事があるから、一般女性の平均から大きく逸脱しているのは知っているけど  
 この厚手のメイド服でこれだけラインが浮き上がるのは想像の範囲外だ……。  
 つーか、改めて見てみると、大きいだけじゃなくて形も凄ぇ。  
 それに――スケートの時にも感じた事だけど、ふわっと沸き立つ甘い匂いが脳の奥を痺れさせてくる。  
 
 香水というわけじゃない、ああいう風に鼻につく感じじゃない。  
 花の香りとでも言うのか、お菓子の香りとでも言うのか。  
 この匂いが四季鏡の香りなんだ。  
 そんな少し変態的な事が脳裏を掠めた瞬間――下半身に熱が移動してくる感覚が生じる。  
 
 ――マズイ。  
 一度意識してしまうと、途端に先程まで感じていた獣欲の炎が燻りはじめる。  
 今こうやって抱き合っている感触も、触れている胸の柔らかさも、自分の心臓の鼓動も全部興奮を煽る。  
 そしてもちろん、こんなに密着した状態で、そんな風になれば――  
「あっ――」  
 どうやら、四季鏡にも気付かれたようだ。  
 目線を下にし、ある一点を凝視している。  
 そこにあるのは、小山と表現すると語弊があるぐらいそり立ったモノ。   
「……」  
「……」  
 痛い沈黙。  
 ううっ。スゲー恥ずかしい。  
 そして何より、幻滅させたかもしれないという恐怖もわきあがってくる。  
 その想像だけで、体が震えそうになるような絶望感が込み上げる。  
 と、そこで四季鏡が、朱に染めた顔を上げて、こちらを見つめてくる。  
「日野さん。これ、痛くないんですか?」  
「え゛?」  
 ナニヲイッテルンデスカシキカガミサン?  
 今日一番の混乱に、秋晴が陥っていると――四季鏡がしゃがみ込み、恐る恐るといった感じで、下半身に顔を近づけてくる。  
 
「おま――何を――」  
 止める間もなくガチャガチャとベルトを外される。  
 ちょっと待て。  
 授業で男女のモノという区別を問わず、着物とかまで含めて、着せ方と脱がせ方は、衣服の構造とともに習ったけど、この場面で使うようなものじゃねえ。  
 
「私は本気ですからっ。本気ですから何だって出来ちゃいます!」  
 そう叫ぶと下着ごと下げられる。  
 そうすると、戒めを解かれた男根が、勢いよく飛び出してきた。  
 元々サイズとしては若干大きい方であるが、今は 秋晴自身から見ても、かつて無いほどガチガチに凝り固まったいる。  
 カサも大きく開き、竿の部分にも所々血管による凹凸が艶を浮かせ、臍付近まで反り返っている肉棒。  
 
「わぁ……」  
 それを食い入るように四季鏡が眺める。   
 異性に見られていると思うと、強烈な羞恥を覚え、顔が熱を出した時のように火照ってくる。  
 しかし、その羞恥心さえも興奮を煽り、さらに秋晴のペニスは硬くなっていく。  
 そんな何かの角のように雄雄しい秋晴のモノに、四季鏡が手を近づける。  
「ちょ――そこは汚」  
「日野さんの体で汚いところなんてありませんっ」  
 小さい子供に言い聞かせるような声色でそう言われる。  
 
 そして――四季鏡の白い手が、亀頭の部分に触れる。  
「うっ……あ……」  
 秋晴は思わず声を洩らしてしまった。  
「あっ……い、痛かったですかっ? 日野さん」  
 そう言ってパッと手を離す。  
「い、いや気持ちよすぎて声が出たんだ」  
 正直に気持ちいいなんて口に出すのは恥ずかしいが、思わず本音が出てしまうほどの激感だった。  
 すらっと絹のような手。自分の陰茎よりかなり冷たい感覚。羽で撫でられるような感触。  
 どれも秋晴の想像の範囲外で、間違っても痛いはずが無い。  
「あっ――良かったです」  
 心底安心したかのようにそう言って、息を吐く。  
 その息が、亀頭部分に当たり、ピクンと反応してしまう。  
 そしてまた伸ばされる柔らかい手。それが秋晴のペニスを掴み、しごき始める。  
 しゅっ……しゅる……。  
 力加減が解らないのか、少し握り方が強い。  
 だが、そのぎこちなさが逆に秋晴の性欲を刺激する。  
「硬くて……とっても熱いです……」  
 裏筋、亀頭、カリの窪み、先端。  
 不規則な動きで、予想もしない場所を撫でられる。  
 自分でするのとは全く違った快感。  
「ここ……気持ち良いんですよね? 日野さんのがピクピクってしてます」  
 一つ一つ、感じる場所を見つけ、その部分を重点的に責める様な愛撫に、陰嚢から熱い欲望が込み上げ、あっさりと先走りの液を洩らし始める。  
 ネチャ、ヌチャ。  
 愛撫に混じり始める、淫猥な粘着音  
 
 と、そこで四季鏡が手を離す。  
 
「し……き鏡?」  
 秋晴の口から掠れた声が出る。  
 あまりにも『いい場面』での唐突な中断に、思わず空腰を振ってしまいそうになる  
「ちょっと待って下さいね」  
 秋晴をあやすようにそう言って、四季鏡は立ち上がり、メイド服の後ろの結び目をほどき始めた。  
 そして、若干メイド服を肌蹴させる。胸の部分を少し下げ――  
 ぶるんっ!  
 そんな音が聞こえるかのように、服の抑え付けから解放された双乳が飛び出してくる。  
 雪のように白く瑞々しい乳肌に、小豆のような薄紅色の乳首が恥ずかしそうに自己主張している。  
 というか――  
「……ちょっと待て。四季鏡、お前ブラは?」  
「え、と。そ、その中等部の時まではあったんですけど、サイズが合わなくなって、それ以降簡単に買えるお金も無いので……」  
 恥ずかしそうにそんな事をいう四季鏡。  
「……」  
 なんというか、どう反応していいか解らない話だ。  
 お前はそんな状態の胸を人に押し付けていたり、そんな格好で外に出ていたりしていたのかよ。  
 そして、何より恥ずかしがるタイミングが間違ってるって。  
 今度、下着を買ってやろう。そんな事を秋晴は決意する。  
 ちなみに、その後、女性用の下着――特に大きいサイズのモノがかなり高価なことを、秋晴は初めて知ることになるのだが、それはまた別の話。  
 
 そうこうしている内に、四季鏡がこちらへ向かってきて膝をつく。  
 うわあ。間近で見ると尚更凄い。  
 この御時世、女性の胸なんてのはエロ本とかで容易に見る事が出来る。事実、秋晴もそういうものを『使った』事がある。  
 だが、『本物』の持つ迫力には圧倒された。  
 メイド服のエプロン部分に負けないような白さ。スイカのような大きさでありながらプリンのような滑らかさ。  
 それに、所々汗が浮いてテカっている様子と、精一杯背伸びしている乳首が、四季鏡も性的に興奮している事を示していて嬉しく思う。  
 魅惑的な二つの塊に、思わず、手が伸びてしまいそうになるが、なんとか理性で押さえつける。  
「おま――何を――」  
 ここまで来たら何をされるかなんて、おおよそ見当がつくけど、そう聞き返す。  
「え、えっと『ぱいずり』って言うんでしたっけ? 男の人の夢なんですよね?」  
「……お前は、何処でそんな知識を仕入れてきてるんだよ!」  
「男の人は胸で挟まれるのが、人生の目標の一つだってお母さんが教えてくれました!」  
 沙織さんの結婚騒動や先日の特訓で多少解っていた事だが、祖母に母親……。  
 四季鏡家の教育方針は絶対おかしいだろ。  
 元とはいえ上流階級として、そういうのはどうなのかとツッコミたいが、どうせロクな答えが無いのは解っているので自重。  
 
 秋晴の困惑もよそに、四季鏡が自分の胸を脇から抱えるようにして、脈打つ勃起を挟み込む。   
「くぅおっ……」  
 思わず奥歯を噛み締めてしまうような快感が下半身に走る。  
 形が無いかのように変形しながら、柔らかく、それでいてペニスを包み込み、適度に圧迫する確かな質感。  
 相反する二つの感触に陰茎が歓喜に震え、トクトクと先走りの液が量を増し始める。  
 そんな様子が嬉しかったのか、四季鏡は頬を染めて目を潤ませた。  
「んしょ……んしょ……んっ……んっ……」  
 透明で糸を引く先走り液と自らの汗を潤滑油として、四季鏡は自らの巨乳をゆっくりと上下させ始める。  
 冷たかった肌が、秋晴の温もりを吸ったかのように、程よい温かさとなっていき、ペニス全体を愛撫する。  
「くはぁっ! ……んっ」  
 激しい快感によって、秋晴の体から徐々に力が抜けてくる。その反面、一段と硬さを増していく男性器。  
 まるで全身の緊張が、そこに集まっていくような快楽に、頭の奥のほうから痺れてくる。  
「初めてですけど……日野さんが気持ちよさそうで良かったです」  
 四季鏡が、額にうっすらと汗を浮かべ、嬉しそうにそう言う。  
 異性の同級生が、嬉しそうな顔をしながら、自分に傅いてる。  
 そして、陶磁器のような巨乳で、自分の醜悪なペニスが包み込まれて快感を貪っているという事実。  
 そんな視覚的要素やシチュエーションがまた、秋晴の興奮へと油を注ぐ。  
 ヌチュル、クチュル、ヌチュ、プチュル。  
 
「ぐう……ふっ……はっ――」  
 徐々に強くなっていく摩擦運動。  
 動きの幅が大きくなった事によって、双球の間から、赤黒い怒張が姿を見せる。  
 突けば破裂するんじゃないかと思わせるぐらい、パンパンに膨らんだ秋晴のペニス。  
 
 それを四季鏡は――ためらいなく口に含んだ。  
 ――はむっ。  
「うおっ!」  
 最も敏感な部分に新たに発生した快感に、秋晴は反射的に仰け反った。  
 亀頭が熱い温もりに包まれ、ざらっとしたものが裏筋に触れる。  
 そして、尿道の何かを吸いだすように吸引してくる。  
「ひのふぁんふぉ、おひしひでふ」  
「ちょ、くぅ、あっ、加えて、喋るなあっ、ぐぅぅ……」  
 四季鏡が喋ると、口腔が絶妙に振動し、それがペニスを振るわせる。  
 腰がとろけてしまいそうな感覚に、秋晴はただ翻弄されることしか出来ない、  
「んちゅ……ちゅば……むちゅう」  
 一層激しくなる奉仕。  
 そう、『奉仕』。  
 何より相手を気持ち良くさせようとする『心』がこもっていて、まさに『奉仕』と呼ぶに相応しいようなパイズリとフェラチオ。  
 手だけでなく、肘の反動も使い勢いを増す乳圧。  
 自らの巨乳に顔を埋めるように動かす四季鏡。  
 舌で亀頭の淵を舐めながら、大きなバストで海綿体の根元から先端まで絞る。そして、裏筋を舐めながら顔を出した亀頭に吸い付く。  
 その一連の動作に、秋晴は魂を抜き取られていくような錯覚を感じる。  
 
 ――やばい。そろそろ限界だ……。  
 限界まで張り詰めた熱い怒張に、それ以上の熱いモノが競りあがってくるのを感じる。  
 腹筋と尻に力を入れるが、徐々に上がってくるそれには完全に抗うことは出来ない。  
「し、四季鏡、これ以上はっ……はあぁ」  
 出てしまう、と目で合図しながら、秋晴は腰を引こうとする。  
 しかし、四季鏡はそうはさせないといった感じで、双乳で圧力をかけグイッっと秋晴を引き寄せる。  
 そして、その谷間へ舌を突き出した。  
「ぐあっ、で、でるっ!」  
 ざらついた舌が、尿道口にめり込んでくる。その異物感による快楽があっさりと射精のスイッチを押した。  
 太股、尻、腹筋、そしてペニス。それらに制御不可能な痙攣が走り、熱いスペルマが尿道内を駆け上がってきた。  
 
 ビュルッ、ビュルルルンッ、ビュクッ、ビュクビュクビュク。  
 脳裏に点滅する白い光。背筋を駆け上がるゾクゾクっとした陶酔感。   
 秋晴自身かつて無いと思うほどの量の白濁液がぶちまけられた。  
 白くて汚い液が、白くて綺麗な四季鏡の肌を汚す。  
「すごい……ベトベトです」  
 何処か嬉しそうに、そんなことを呟く四季鏡。  
 時折、唇を舐めているが、その下の動きが妙に生々しくもの凄いエロさを感じる。  
 
 自分の胸にぶちまけられた汚濁を見ていた四季鏡が、こっちへ向きそこで動きが止まる。  
「……日野さん。もしかして、お、収まってません?」  
「……ああ」  
 そこにあるのはギンギンに固まったままのペニス。  
 髄液まで出たかのように感じた射精だったが、それでもまだ、蓄積した欲望に対する放出量は足りなかったみたいだ。  
 まあ、寮生活で男同士とはいえ相部屋だし、その上相手は大地。  
 中々自分で慰める機会も無いから溜まっていると言えば溜まっている。  
 そして、何より――四季鏡から感じる魅力に、雄の本能が収まる気配を見せない。  
 
「日野さん――最後までしませんか?」  
「おま……最後までって――」  
 最後――その言葉が指すものなんてのは……。  
「セックスですっ」  
 ですよねー。  
 あまりにも直球すぎる言葉に、秋晴の方が赤くなってしまう。  
 普通逆だろう。  
「流石に、それは――やるにしてもこんなところじゃ」   
 ここまで散々やっておいて、躊躇するの情けないを通り越して、男としてどうなんだと思うが。  
 ただ、それでもやっぱり口淫とかと性交の間では、確固たる壁があるのは事実だと思う。  
 分水嶺というなら、ここが最後。  
 
「私は大丈夫ですっ。ここで全然構いません。それに日野さんの方も我慢できないですよね?」  
 それには頷く事しか出来ない。  
 正直、空気が触れる感触ですら精密に感じ取れるぐらい、敏感になってそそり立っている。  
「何より、私が日野さんの事を大好きだって――その証が欲しいんですっ。だから私は大丈夫です!」  
 
 もう、そこまで言われたら秋晴からは何も言えない。  
「――言っとくが、もう止まらないぞ」  
 そう言ってゆっくりと四季鏡を押し倒す。  
「はい、大丈夫ですっ。私の『初めて』を貰って下さい!」  
 
 なんて――殺し文句。反則だ。  
 本当に、いじらしくて、可愛すぎる。  
 そんな言葉を聞かされると――心の奥底から愛しいと感じてしまう。  
 
 秋晴はスカートを捲り上げる。そこにあるのはグショグショに塗れた秘裂。  
 それに凶悪なまでに勃起した男性器を宛がう。   
「いくぞっ……」  
「はいっ……」  
 そして秋晴は腰に力を込める。  
 ――ぐぅ……キツイ。  
 亀頭部までしかまだ入っていないのに、強烈な締め付けを感じる。  
 まさにねじ込むという言葉が似合うような行為。  
 秋晴は、反発する力に逆らい、一気に怒張を進ませる。   
 ズンッ。  
 何か障壁と呼べるようなものを突破したと感じた瞬間、秋晴の肉棒は全部、温かい何かに覆われた。  
 そして、数瞬後、乙女の証であった鮮血が結合部から垂れてくる。  
 
 ――くあぁ。凄すぎる。  
 ただ、挿れただけであるのに、秋晴はかなりの高みへと飛ばされた。  
 何千何百もの手で、同時に愛撫されているかのような錯覚を感じる。  
 と、そこで秋晴は、四季鏡が腰を動かそうとしているのに気付く。  
「うっ、四季鏡……何を――」  
「う、動かないと、男の人って気持ち良くないんですよね? だから――」  
「お、お前――む、無茶するな!」  
 破瓜の直後に腰を振るなんて、普通出来るはずが無い。  
 口の中の傷に歯ブラシを当てるようなものだ。  
「だ、大丈夫ですっ」  
「大丈夫なわけあるかっ!」  
 秋晴はややきつめにそう言って、強引に肩を持ち動きを止めさせる。  
 
 そんな風に目尻に涙を浮かべて大丈夫なはずがない。  
 それに肩を持った時に気付いたが、全身が微妙に震えている。  
 
 ああ、もうバカだ。  
 ――本当に俺はバカだ。  
 
 いくら『大丈夫』と繰り返しても、どれだけ覚悟をしても、女の子の初めてなんて恐いに決まっている。  
 ましてや、相手は四季鏡。  
 猪突猛進にして常識知らず。良くも悪くも真っ直ぐ。  
 相手のために何かしようとするなら、己の痛みなんて計算に入れるような人間であるはずがない。  
 それに、さっきも考えていた事だけど、スケートの時や普段の生活――こいつ自身の甘え方や弱みの見せ方が常人とは違う。  
「四季鏡……俺は、やっぱ俺だけじゃなくて――お前にも気持ち良くなって貰いたいんだよ」  
「日野さん……」  
 さて、とは言ったもののどうしようか。  
 抜く――という選択肢はないだろう。  
 痛いという記憶しか残らない初体験になってしまうし、何より、絶対に四季鏡が抜かせてくれないと思う。  
 となると動かないようにして、出来るだけコイツがリラックス出来るようにしないと。  
 この包み込まれる膣のうねりに対して、腰を動かさずに耐えることはかなり辛いけれど。  
 
「四季鏡、ちょっと顔こっちに向けろ」  
「え? あ、はい」  
 素直に秋晴の方へと顔を向けた四季鏡。  
 そして――秋晴はそっと唇を近づける。  
 
 チュッ。  
 
 唇が触れると同時に、ビクッと大きく震える四季鏡。ギュッと閉じた目の長い睫毛が、ピクピクと揺らいでいる。  
 そんな四季鏡の緊張をほぐすように、秋晴は、四季鏡の下唇を自分の唇で甘噛みをする。  
 そして、チロチロと唇の皺をなぞるように舌先を動かした。  
 そうすると、徐々に四季鏡の体から、力が抜けていくのが感じられる。  
 そう言えば――ここまで色々やったのに、キスはやっていなかった事に今更になって気付く。  
 それに心の中で苦笑しながら、脱力とともに半開きになった唇を、秋晴は舌で割って入る。  
 四季鏡の内頬を撫で、歯をくすぐる。  
 そうしている内に、四季鏡も自ら舌を絡ませてくる  
 互いに舌でつつきあい、唾液を交換する。  
 長い長い口付け。  
 どちらからともなく、唇を離す。  
 ツーっと唾液で橋が出来、自重に耐え切れなくなりプツンと切れる。  
 
「……凄いです。キスってこんなに気持ちいいんですね」  
 その言葉に、秋晴は静かに頷く。  
「痛みの方はマシになったか?」  
「はいっ。随分マシになりました――あっ、でも」  
「ん?」  
「――もう一度キス……してくれませんか?」  
 目を潤ませ、頬を染め、何処かのぼせたような雰囲気で四季鏡が、そう言う。  
 その言葉に秋晴は笑みを浮かべながら、もう一度唇を近づける。  
 今度は四季鏡のほうから舌を入れてきた。  
 上あごをくすぐられ、返す刀で歯の付け根を攻められる。  
 そして秋晴の舌をからめとる、唾液を吸い取る。  
「キス……んちゅう……大好きですっ。ぷちゅん……日野さんの……唾液美味しいです」  
 口の中を蹂躙されるその感覚が秋晴の興奮をさらに煽る。  
 産毛をチリチリと焦がされるような快感。  
 四季鏡のほうも、かなり感じているのだろう。目をとろんとさせ、何もしていないはずの膣が蠢く。  
   
「ひ、日野さんっ。動いてください。私ももう、我慢できません!」  
 唇を離し、そう叫ぶ四季鏡。  
 その言葉に秋晴は腰を動かすことで答える。  
「っ――大丈夫か? 四季鏡っ」  
「大丈……夫ですっ。まだちょっと……んっ、ピリピリするんですけど、……あんっ、気持ちいいです!」  
 その言葉に、安心をし、本格的な抽挿を開始する。  
 
 先ほどまで、とろ火であぶられていた快感を爆発させるような、力強く雄雄しい打ちつけ。  
 パンッ。パンッ。パンッ。  
 その腰振りと連動して揺れる四季鏡の巨乳。その光景が、また秋晴の興奮を倍増させる。  
「ぉくっ……はっ……」  
「好きぃ、好きっ、大好きです、日野さん大好きですっ」  
 箍が外れたかのように、長く綺麗な髪を振り乱し、四季鏡がそう叫ぶ。  
 そんな言葉も、上気して桜色をした肌も、淫欲に染まった顔も、何もかもが可愛いと思う。  
 粘り気の強い愛液で満たされた蜜壷が、複雑怪奇な愛撫を肉棒に与えてくる。  
 ヌチョリ、パンッ、ブチュル、パンパンッ。  
 左右前後、位置の感覚がおぼろげになるほどの快感。  
 もう、秋晴は自分の意思でピストン運動が制御できないくらいに昂ぶってしまっていた。  
「日野さんっああ、イキそうです。私イキそうですっ!」  
「俺も……ぐっ、イキそうだっ」  
 互いに高みへと昇り合う二人。  
 そして――偶然だろうか。  
 互いの腰の動きが絶妙に連動し、二人に得も言えぬ快感を与えた。  
 ギュウウッと絞るような膣と、グンと膨らむ陰茎。  
 互いに相反する力が反発しあう。  
 秋晴の背筋に焼いた鉄の棒を入れたような、灼熱感が走る。  
 四季鏡が、太股を痙攣させ、背筋をしならせる。  
「ぐっおっう、イクッ……!」  
「気持ちいいです! あーッ! イクッ、イキますッ! あーッ! ああああーーーーー!!!」  
 
 ドプドプドピュ、ピュルビュル、ドピュ、ドクドク。  
 二回目とは思えないぐらいの精液が、生まれて一番張り詰めただろう肉棒から出てくる。  
 そして結合部から、四季鏡の愛液と混ざって出てくる。  
 中々高みから降りないその絶頂感に、二人は抱き合う。  
 
 
「はあ、はあ、はぁ」  
 互いの荒い息遣いが、静かな図書館に響く。  
「ぁ、はあっ……。日野さん好きですっ……」  
「ああ、俺もだ……」  
 恍惚とした様子で呟く四季鏡に、優しい口づけとともにそう答えた。  
 
 
 ★★★  
 
 
 とりあえず、残っていた課題作業とともに『後始末』もどうにか終える。  
 まあこれだけちゃんとしていれば、深閑や朋美ですら、ここで何かあったなんて想像できないだろう。  
 
 というかよく考えれば、今まで誰もこの図書室に来なかったのは僥倖という他はない。  
 単純に、他にも、人手が居る部分があってここにまで回ってくる人員が居なかったというのが真相だろうけど。  
 まあそれも含めて、ここで四季鏡と二人っきりになれたことが運命だと思えたりする。  
 
 それに、例え誰かに見られて大騒ぎになったとしても、全部自分が責任を被って処分されるぐらいの覚悟は――もう出来た。  
 
 そんな事を考えながら、横目で四季鏡を見る。  
「スー……スー……」   
 正直、性交の後に寝てしまうなんて、小説や漫画の中での出来事だと思っていたが……こいつは。  
 本当に色々と王道すぎて規格外すぎる。  
 まあ女性の初めては、トンでもなく疲れるという話は聞いたことがあるけど。  
「……ん、日野さ……。それは……こう……する……です……よ」  
「俺がフォローされてるのかよ」  
 失礼な夢にもほどがある。  
 それに――  
「どうせ夢の中なら、『秋晴さん』とでも呼んでくれれば良いのに」  
 少し唇を尖らせながら、秋晴はそう言う。  
 こいつが起きたら、まず何より先に――『早苗』と呼ぶから俺の事も名前で呼べと言ってみようか。  
 そんな事を思いながら、秋晴は四季鏡の頭を撫でた。  
 
 
 ★★★  
 
 
 日野秋晴から見た、四季鏡早苗という人物について。  
 前向きで明るい性格。  
 そして、一番の特徴は『ドジ』で『天然』  
 それも壊滅的と枕詞をつける程度だと、ワッフルに蜂蜜をかけるぐらい甘いレベル。  
 まあ、だからといって「もうフォローをするのが嫌だ」とか「関りたくない」とか思ったりはしない。  
 何故か放っておけない、そんな雰囲気を持ったヤツ。  
 そして――  
 そして――自分にとって何より大切な女の子。  
 
 
 
END OF TEXT  
 

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