「んっ、ふぁっ、……どうですか、日野さん?」  
「くぅぅっ……、あ、ああ……すごいよ……」  
 
 つい先刻まで陵辱の舞台となっていたベッドから、今は艶やかな喘ぎ声が響いてくる。  
 
 丁寧に敷き直されたシーツの上、再び汗にまみれた肢体を絡ませ合うのは二人の男女。  
 秋晴と深閑である。  
 
 仰向けになった秋晴の上に深閑がまたがり、繋がりあった腰を淫らにくねらせながら淫熱に蕩けた笑みを浮かべて秋晴を見下ろしている。  
 日々の鍛錬によって引き締まり、それでいて肉付きのいいというある種の矛盾を超越した全身を歓喜に染め上げ、深閑は秋晴への奉仕に没頭していた。  
 
 事の顛末を知り、楓へのお仕置きの第一段階を済ませた深閑は、次こそ自分への報復かと怯える秋晴に対して彼の想像とまったく逆の提案をした。  
 それがすなわち、今の状況。  
 
 楓にそそのかされたとはいえ、それまで深閑に行っていた蛮行を謝罪する秋晴に深閑が望んだのは、今度は自分から愛したい、ということ。  
 いつのまにか完璧なベッドメイクが成されていた寝台の上に寝ころがされ、深閑からの徹底的な奉仕を受けることを願い出られて一も二もなく承諾した秋晴は、今こうして深閑が騎乗位の形を取って繋がっている。  
 
 秋晴の胸に手を置いて、上下に弾む深閑の身体。  
 秘所からとめどなくあふれる愛液と、内腿ににじみ出る汗のため、ただでさえ滑らかな深閑の肌の感触がさらに極上の絹にも勝るものとなり、肌が触れ合うだけでも脳がチリチリするほどの刺激となる。  
 激しい動きに深閑の巨乳はもちろん盛大に弾み、丁寧にまとめられていてもなお振り乱された髪の幾筋かが深閑の顔や肩に張り付く姿も、それを時折指でかき上げる仕草もたまらなく興奮を誘う。  
 
 目が合えば、それだけでも嬉しいというかのように膣が一層引き締まり、上体を伏せて秋晴との口付けをねだってくる。  
 秋晴の両頬を押さえ、ゆっくりと近づいてくる唇に秋晴から口を寄せてやると、貪るようなディープキスをされた。  
 唇が触れればすぐに熱い吐息とともに滑らかな舌が差し入れられて秋晴の歯茎をなぞり、頬の内側の粘膜をくすぐって舌を絡めあう。  
 
 唾液を注ぎ込もうと口内に溜めれば、すぐに察した深閑は卑猥な音を立ててすすり上げ、秋晴に聞こえるようにわざわざ大きな音を立てて嚥下する。  
 その間も絶えず深閑は身体を揺さぶり、受け入れた秋晴のペニスをしごき上げ、従育科の授業で鍛えられたたくましい胸板に自分の豊かな胸をこね回すように押し付ける。  
 
 秋晴も深閑も、互いに脳髄が焼け付くような快感に晒され、そろって限界へと駆け上がっていく。  
 
 
 しかし、秋晴の思考には快楽の波に揉まれながらもいまだ冷静な部分があった。  
 
 というよりも、ただただ状況に流されてしまうには異質すぎるものが秋晴の意識の一角を占めているのである。  
 夢中になって貪るように口付けをしてくる深閑から視線を外し、ベッドの端に目をやる。  
 
 自分達が睦みあいしわくちゃになったシーツから手を伸ばせば届くほどの距離から、再びシーツに皺が生じている。  
 その上にいるモノのせいで、秋晴はどうしても深閑の奉仕にひたすら耽溺する、ということが出来ないのであった。  
 
「ふーッ! んふーーーっ! んんんんふぅぉおおおおおおおおおっ!?」  
 
 そこにいるのは、天壌慈楓。  
 ただし、マトモな格好ではない。  
 
 まず服を着ていない。  
 言うまでもなく服を奪ったのは深閑であるが、部屋着はおろか下着の一枚に至るまで全て剥ぎ取られ、しかも先ほど深閑がされていたような拘束具も付けられている。  
 
 腕は後ろ手に回され、固められた皮の手錠で結ばれている。  
 口にかまされた猿轡は楓の小さな口を痛々しいほどに広げ、まともな声を上げることを許さず、さらに首に掛けられた黒い首輪が今の楓の姿をより一層屈辱的なものとしていた。  
 
 深閑の場合と異なり、目隠しこそされていないもののその窮状は変わらない。  
 しかも、ろくに身動きも取れないそんな状態でベッドの片隅に放置されている楓だが、深閑による「お仕置き」はその程度で済むはずもない。  
 
 ベッドの上で仰向けになった楓の身体には、いたるところに楓を責め立てる道具が使われている。  
 
 楓のなだらかな胸の頂には、両方ともテープで固定された小型のローターが振動し続け、肉付きの薄い楓の身体を揺らしている。  
 膣には楓の小さな身体に不釣合いなほどに太いバイブが根元まで突き込まれ、さらにアナルにも刺さった細いバイブとともにうねるように動き、そのたびに楓の奥から愛液を噴出させている。  
 
 既に下半身には力が入らないらしく、投げ出された両足は自身の愛液塗れになり、生まれたての子鹿のようにがくがくと震えていた。  
 
 深閑と異なり目隠しはされていないが、その目は既に空ろで光はなく、涙をたたえて秋晴と深閑の行為を写している。  
 
 ちなみに、今楓の身体を攻め立てている道具類は、全て深閑がこの部屋の引き出しなどから引っ張り出してきた。  
 つまり、元々の所有者はこの部屋の主である楓ということになる。  
 
 そのこと自体は秋晴も驚かなかった。  
 いわゆるオタクの気の強いこの理事長代理は、今までも秋晴と行為に及ぶ際に、ネットで購入したというこの手の道具を使うことがあったし、その縁で秋晴も年齢に不相応なほどそれらに詳しくなってしまっていた。  
 
 道具を使う前に深閑は楓に無理矢理何かの錠剤を飲ませていたようだが、秋晴は気にしない。  
 気にしないから覚えていない。  
 
「さあ、次はコレです」  
「ッ!? ご、ごめんなさい! 謝る、謝るから、み、深閑ちゃん! それだけはやめてぇぇぇぇッ!?」  
 
 その薬を飲ませるにあたって、そんなやり取りがあったなどという記憶は存在しない。  
 しないったらしない。  
 
 
 そんなわけで、深閑の艶やかな肉体に奉仕の限りを尽くされている秋晴ではあったが、隣で生気を失った目をして痙攣しつづける楓の存在によっていま一つ没頭できないでいた。  
 
「んっ、秋晴……さん。……そっちばかりっ、気に、してないでっ、もっと、私を、んっ!」  
「あ、ああ、すまん」  
 
 楓を気にしていると、深閑が拗ねたような声をかけてくる。  
 秋晴の気を引くためにより一層腰をくねらせ、官能に蕩ける表情を隠そうともせずまっすぐに秋晴の目を見つめてくる。  
 常から凛としている深閑が、自分だけに見せる極上の娼婦でもかなわないほどに淫靡な姿。  
 そんな姿を見せられて、秋晴の中の征服欲が急速に満たされる。  
 
 そのことを全身で感じ取ったのだろう。深閑の表情は歓喜に蕩け、ラストスパートとばかりに身体を起こし、再び全身を弾ませて秋晴の剛直を自らの膣襞でしごき上げる。  
 
「くぅっ、……み、深閑、もう……ッ!」  
「は、はいっ、秋晴さんっ! 私もっ、ですからっ! 出して、私の中に、一杯、出してえっ!!」  
 
 深閑は弾む胸の先から汗の雫が飛び散るほどに身体を揺らし、秋晴はそれに合わせてたくましく腰を突き上げる。  
 
 二人の動きが合わさって、それまでよりもつながりが一層深くなる。  
 
 そうして、秋晴の先端が深閑の最奥への入り口に届いた瞬間、二人は同時に限界を迎えた。  
 
 
「くぅあああぁぁ……ッ!」  
「あ、はぁぁぁぁぁあああ――――――――――――ッ!!!」  
 
 深閑と秋晴の二人は、絶頂後の気だるい時を折り重なって息を整えながら過ごしていた。  
 結合部からは深閑の中に納まりきらなかった精液が白く泡を立てながらこぼれ出て、ゆっくりとシーツに滴り落ちていく。  
 
「ハァ……ハァ……深閑」  
「んっ、はぁぁぁぁっ。……秋晴さん。ん、……ちゅ、んむ」  
 
 秋晴の声に従い、深閑は唇を重ねる。  
 行為の最中と異なりゆっくりと舌を絡め、余韻に浸る。  
 
 深閑は何もかも忘れて秋晴に奉仕する瞬間とならんで、こうして優しいキスをしてもらうのが好きだった。  
 
「あー、ところでさ、深閑?」  
「はい……なんですか、秋晴さん?」  
 
 唇が離れると、秋晴は困ったような苦笑いで問うてくる。  
 そんな表情すら愛しく思えることを嬉しく思う深閑であった。  
 
「えーと、あの、そろそろ理事長代理はどうするのかなー、なんて……思ったり……」  
 
 ちらちらと、隣でいまだ先ほどまでと変わらずにいる楓を見ながら秋晴は言う。いや、同じではないか。  
 秋晴と深閑との熱烈な行為を間近で見せられて、その目からは大粒の涙がこぼれている。  
 
 誰が見ても哀れを誘うだろうその有様。  
 
 きっと自分の愛する優しい人は、そんな姿に同情しているのだろう。  
 深閑は秋晴のそんな表情を見て、胸の中により一層の愛しさが満ちるのを感じていた。  
 確実に惚れた弱みである。  
 
 だが、まだ終わりはしない。  
 
「そうですね、そろそろいいでしょう」  
 
 最後に一度、秋晴と軽く唇を合わせた深閑はゆっくりと起き上がり、楓の元へと向かう。  
 楓の頭のすぐ横に腰を下ろし、口を塞いでいた猿轡を外す。  
 
「理事長代理」  
「……んはぁっ! はぁっ、……はあ、ああああ、いやぁ……」  
「反省、しましたか?」  
「……っ!した、……しましたぁ。反省しましたっ、もうしませんッ。だから……許してぇ!」  
 
 焦点の合わない空ろな目のまま、それでも必死に謝り、許しを請う楓。  
 さすがにそろそろ深閑も許してやるだろうと秋晴は考えた。  
 
 しかし。  
 
「では」  
「あうっ」  
 
 深閑は身体を起こしてことの推移を見守る秋晴の前で楓の首輪を片手で掴み、そのまま容赦なく引っ張って、楓の頭を秋晴の方へと引き寄せた。  
 首輪が喉に食い込んで悲鳴を上げる楓と、何がなにやらわからぬままに楓の頭が自分の太ももの上に放り出される秋晴。  
 
 楓の目の前には、先ほどまでの深閑との行為を感じさせないほどに屹立した秋晴の剛直。  
 それを見て、楓の瞳にはわずかな光が戻ったように見える。  
 
 秋晴に目を奪われ、わずかに垣間見えた希望に必死に縋る楓には、深閑が浮かべた陵辱者の表情を捕らえることができなかった。  
 

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