セルニア家で2日目に秋晴が酔ったらというIF  
 
 
                                       
「皆様、食後のワインなどいかがでしょうか」  
 
口論やらなにやらで大騒ぎだった夕食も一段落してセルニアたちが雑談していたところ、セルニアの家の使用人であるアンナがワインとグラスを載せたワゴンを押しながらそんなことを言った。  
 
「ちょ、ちょっとアンナ!なにをいってるんですの!?わ、わたしたちは未成年ですのよ!!!」  
 
言いながら、セルニアは自分の顔が青ざめていくのを感じていた。  
昨日あんなことがあったというのに、いったい、この使用人はなにをかんがえているのか。いや問うまでもない。  
顔にいたずらするときの子供のような笑みが張り付いている。アンナは主人であるこの自分をからかって遊ぶ気なのだ。  
そんなことを許すわけにはいかないし、なによりも昨日のようなことがあってはならない。  
だというのにアンナは  
 
「何言ってるんですか、お帰りになったときはのんだりするじゃないですか」  
 
「わざわざ言うことじゃありませんわ」  
 
まったくよけいなことを。昨日のことを知りながらいうのだから性質が悪い  
 
「あら、別に隠さなくてもいいじゃないですか。わたしだってワインくらいならのむこともありますし。秋晴君、大地君も大丈夫でしょう?」  
 
「いや,そういうもんだいじゃないだろ!」  
 
「そ、そうですわ!!」  
 
彩京さんは日野秋晴の酒癖の悪さを知らないのだろうか。親しかったのは小学生のころといっていたから知るはずないのだが、無責任に煽るところを見るとそのくらい知っておけ!とおもってしまう。  
 
「あら、セルニアさん何か問題でもあるのですか?」  
 
だがそんなふうに言われては、セルニアは何もいえなくなる。昨日のことをいう訳にはいかないし、また、今は秋晴が昨日のことを覚えていないからいいが、何かをいった拍子に思い出してしまうかもしれない。そうなったら顔を合わせることも出来なくなってしまいそうだ  
 
しかし、セルニアがそんなことをかんがえて、しどろもどろになってるうちに、秋晴と大地さんは彩京さんに言い負かされて、アンナがグラスにワイン注ぐままにしていた。  
 
こうなったらもう覆すのは難しいと考えて、以外に勢い良くグラスを傾ける彩京さんを横目に見ながらセルニアは席を立つことにした。  
 
「わたしは遠慮することににします。失礼させていただきますわ」  
 
敵前逃亡のようで腹立たしくはあるが彩京さんがいる所できのうのようになったらまずい。そう思い、部屋にむかうことにする。  
 
…彩京さん?   
……もし、秋晴がセルニアでなく、彩京さんと昨日のようになったら…。  
 
不意にそんなことを思いつき、胸に何か棘のようなものを感じたセルニアはドアに手をかけたところで立ち止まり、秋晴のほうを振り返った。  
 
…瞬間、後悔した。  
 
…・・・目が、あってしまった。  
顔を赤く染めて、ただでさえ悪い目つきを五割り増しで凶悪にした秋晴と。  
 
「おい 何でたってんだよセルニア。こっちこいよ」  
 
乱暴な声に、昨日のことを思い出して真っ赤になったセルニアはまずいですわまずいですわと考えながらも思わずしたがってしまう。  
 
隣に座ると同時に腰に回された秋晴の手に「ひっ」っと声をあげて赤面した顔をさらに赤くしてしまう。  
 
「おい 朋美も飲んでばっかじゃねぇか。なんかしゃべれって」  
 
頭の悪い発言にこめかみに手を当てながらセルニアが彩京さんを見ると、酔ったせいか、とろんとした目をほのかに潤ませ、ほんのり赤く色づいた頬をやわらかに緩ませて、気だるげにグラスを傾けた。同性ながら、艶っぽい仕草に一瞬見とれていると、  
 
「うっさいわね。わたしがどう飲もうと勝手じゃない。わたしに指図しようなんて、秋晴のくせにずいぶん偉くなったじゃない?そんなになかされたいわけ?」  
 
なんて言葉がでてきた。一瞬誰がそのせりふを言ったのかわからず、部屋を見回すと、大地さんと目が合ってしまった。  
恐る恐る視線で彩京さんを示すとひどく困惑、というか狼狽しながらもうなずいてくれた。  
どうやら信じがたいがやはりそうらしい。  
 
「昼間に十分泣かされたっての。つか、くせにってなんだよ。この腹黒女」  
 
なんと、秋晴は驚いていないようだった。そう言えばその後のことのせいで忘れていたが、昨日酔った秋晴が「彩京さんは腹黒い」ようなことを言っていた気がする。つまりこれが本性ということだろうか。  
                                                  
「あら 秋晴のくせに口答え?生意気ね。イラつくあまりうっかりくちがすべっちゃいそうだわ、小学校2年の6月のこととか」  
 
「すいませんでした調子乗ってました俺が悪かった頼むからそれだけはやめてくれ」            
 
俄かには信じ難いがそうらしい。まずいまずいこれはまずい、秋晴だけでも大変なのに、これはさすがにてにおえない。  
困惑のあまり、泣きそうになりながら救いを求めるように大地さんに目を向けると  
 
「…………ぁ…………」  
 
セルニアに気づくとぎこちないながらもはげますように微笑んでくれた。  
こんなとき、傍に同じ状況に身をおくひとがいるだけでこんなにも心強いのか。  
そんなことを思いながら、セルニアはどう収拾をつけようか頭を痛めた。                                      END                
 

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