――全く、落ち着かない。
彩京朋美の部屋で、大地薫はベッドに腰掛けてそんな事を考えていた。
彩京朋美の頼みで秋晴を部屋に一人にしてきたが、正直納得をしたわけではない。
それでもこうしているのは朋美の言葉に誑かされたと言うしかないだろう。
『秋晴くんの秘密を知りたくはないですか?』
その言葉は確かに薫の心を揺さぶった。
そうして躊躇いを見せたのが不味かった。朋美の重ねる言葉に揺さぶられ、渋々とは言え了承してしまった。
「しかし、日野の秘密……か。一体何なんだ?」
あれだけ説得を続けた朋美も、遂にそれを語ることはしなかった。頑なにひた隠しにし、全て済んだら教えると言うだけだった。
正直な話をすれば交渉において、彼女に勝てる気がしない。それは今回の事で確信に変わった。
改めて思うに納得は出来ない。しかし既に約束はしてしまったのだ。だからこそ、こうして朋美の部屋に居るのだから。
「……秘密、か」
なんとなく、自分が抱えた秘密の事を考える。
自分に限らず、誰にだって秘密はあるだろう。それを一方的に暴き立てるのは悪い事だ。
「でも……気になる」
ちっぽけな自分の欲望だけでそうするのに罪悪感が無いわけでないが、それを止める事は出来なかった。
「まだまだ修行不足だ」
呟きを窓の外に捨てるようにして零した時、眼下に人影がよぎった。
「あれは……フレイムハートさんか?」
それは、特徴的な二本の巻き髪をなびかせ、セルニア=伊織=フレイムハートが小走りに駆けていくところだった。
† † †
多少の不安が無かったと言えば、それは嘘になる。
いつもの秋晴ならどんな些細な内容でも、文字を打つのに手間取ってメールの返信が遅れはしても、必ず返してくれた。
それが今日に限ってメールを始めてすぐに返信が無くなった。
だから身だしなみもそこそこに、急いで秋晴の部屋へと向かった。普段歩かない、従育科の寮がある方向は暗闇も相まって迷いかけたりもした。
それがマズかったのかも知れない。
もっと早く、秋晴の部屋にたどり着いていれば、もしかしたらこんなものは見なくて済んだのかも知れない。
――でも、見なかったからと言ってなんだと言うのだろう?
きっと何も変わりはしない。
事実は事実として起こってしまったのだ。もしもを考えるのは無駄な事だ。
それでも思ってしまう。
――もしも、これが夢だったら。
どれだけ救われるだろうか?
そう、もしもこれが夢なら。
夢なら、早く覚めて。
† † †
「な……」
呆けていたのは一体何秒だろうか。
セルニア=伊織=フレイムハートが現実から逃れる事を止めた。
「なにをしてますの貴方達はっ!」
怒りと絶望と涙を目に浮かべ、セルニアが叫ぶ。
答えたのは朋美だった。
「別に、何もしていませんよ?」
白々しく言う朋美にセルニアは激怒の炎を燃やす。
――そんな事、誰が信じるものか。
下半身を晒している秋晴。その上に身を重ねる朋美。微かに香る性臭。
何かがあったのは確かで、それでもその何かを信じたくなくて、セルニアは聞いた。
「何がありましたの。秋晴?」
「だから何でも――」
「貴方には聞いていませんわっ!」
割って入る朋美を叱責で制して、セルニアは秋晴の言葉を待った。
秋晴が答えないまま数分が経っても、セルニアはそれ以上問うことはせず、沈黙を守った。
「……正直俺もよく分かってない。風呂から上がったら朋美が居て、それからお前に負けたくないとか言い出したんだ。
そんで抱きつかれて、後は……なんつうか……」
言葉を濁す秋晴に、セルニアは手で遮って言った。
「大体は分かりましたわ。……彩京さんも異論はなくて?」
朋美は観念するように溜め息を吐き、肩を竦めた。
「そうですね。秋晴くんは正直に話したと思います」
「では聞きます。私に負けたくないとは?」
「――嫉妬、ですよ」
朋美は不意に真摯な視線を真っ直ぐセルニアに向けた。
「そうですね、折角ですから宣戦布告しておきます」
挑むような、苛烈ささえ滲ませた強い瞳。それは、秋晴の良く知る朋美の貌。
「秋晴君は、渡しません。付き合っていても構いません。奪い取ります」
「あなたはっ……! 何を言っているか分かっているのですか!?」
「分かってますよ?
――負けたくないんです。誰にも。特にセルニアさん、あなたには」
「それは秋晴が好きではないと……なのに対抗心からするのだと、そういう事ですか?」
「好きですよ。きっと、貴方が考える以上に、私が自覚する以上に。だから負けたくないんです」
睨み合いを続けながら言葉を交わす二人の少女に割り入る事も出来ず、勝手に進展する事態に追い付けない秋晴はただ、それを見ている事しか出来なかった。
「まぁでも……今日の所は帰ります。話し合いする雰囲気でも、まして喧嘩をする気分でもありませんし」
「……帰って下さいっ! あなたのことなんてもう……っ」
見たくない。そういうより早く、朋美は踵を返すと部屋を退出していく。ドアを開けた所で朋美は振り返った。
「ではお休みなさい、セルニアさん。――秋晴」
今まで人前では絶対にしてこなかった呼び捨てで秋晴の名を呼んで、朋美はドアを閉めた。
二人きり、残された秋晴とセルニアは、ただそれを見ていた。
† † †
ドアが締まる音の余韻が薄らぎ、二人だけになった部屋に沈黙が落ちる。
二人ともただ混乱していた。
互いに共通するのは彩京朋美という人間だ。彼女はもっと冷静に理性をもって事にあたる人間だったはずだ。
それがこんな強攻策に出るなんて、誰が予想出来ようか。
そうさせるに足る理由が、自分達にあるというのか。
その思考を先に切り替えたのは秋晴だった。
意識を目の前の少女に向けて話始める。
「……セルニア」
「…………」
「本当、悪い。なに言っても言い訳にしかならないとは思う。けど――」
「証明を……」
遮って、セルニアが涙混じりで言葉を紡いだ。
「私を好きだという、証明をして……」
浮かぶのは疑心暗鬼。寂しさと不安がセルニアにのしかかる。
その重みに耐えるように肩は小刻みに震え、囁く声は揺らいでいた。
「……セルニア」
秋晴は己の愚かさを呪う。
何故、どうしてセルニアをこんな風にさせてしまったのだろう。
いつもの、凛と立つ気高き花のような彼女が好きだったのに。
「本当に、ごめんな」
そっと抱き寄せて、セルニアを腕の内に収める。想うのは後悔と、二度と揺るがないという決意。
その想いを載せて、優しく口付ける。
求められた事の、何よりの証明として唇を触れあわせる。
「ん……」
微かに震えるセルニア。その柔らかい唇の感触に陶然となって秋晴は一時、後悔を胸の内にしまう。
今はそれよりも、今在る彼女への想いを大切にしたくて。
薄く瞼を開くと、偶然だろう。同じ様にしていたセルニアと目があった。
急に恥ずかしくなって、それを誤魔化すように、一層強く唇を重ねる。
「んぅ……っ」
微かにセルニアが吐息を漏らす。胸元をぎゅっと掴まれ、甘えるようにセルニアが引き寄せてくる。
普段は強がりなくせに、こういう事になると途端に甘えだすセルニアだが、今日はあんなことがあったからか一層と甘えてくる。
無論それが嫌な筈もない。好きな女に甘えられて嬉しいのは当然だった。
だから秋晴はセルニアを抱く力を少しだけ強くして応えてやる。そうしてからそっと、惜しむように唇を離す。
長さだけならもっと長いディープキスはしたことがあったが、単に唇を触れあわせるだけのキスをこんなに長くした事はなかった。
見合わせた視線が絡んで、二人の意志が重なるのが分かった。
通じた想いに従い、再び唇を重ねる。
啄むようなキスを重ね、小鳥の囀るような音を何度も響かせる。くすぐったいような触れ合いに自然と心が暖まるのを感じた。
「秋晴……」
セルニアの腕が背に回される。
しがみつくような抱擁は、否が応にも二人を密着させる。
胸元に触れる柔らかさが秋晴の牡を刺激する事が解っているのか否か。セルニアは体を擦り寄せて秋晴を高ぶらせる。
あんな事があった後なのに、節操もなく反応する体と心を情けなく思う。
せめて今だけは、と秋晴が堪えていると、セルニアがそれに気付いてしまった。
「秋晴……これ」
己の下腹を押し上げるように膨らむ存在に頬を朱に染めてセルニアが秋晴を見上げる。
「……すまん」
「したいんですの?」
「いや、でも……」
躊躇いを見せる秋晴にセルニアはそっと微笑んでみせる。
「私は、かまいませんわ」
というより。そう付け加えてセルニアは続けた。
「彩京さんにやられっぱなしでは私の収まりがつきませんわ」
そう言うセルニアの表情は、既にいつもの傲然とすら言えるそれに変わっていた――。
下半身をぬらりとした感触が這う。
熱を持ったそれは、灼けるような快感を脳髄まで走らせる。
膝が震えて崩れ落ちそうになるのを必死に堪える。御する意志から身体は離れ、勝手に反応する。
陰茎がびくりと跳ねて、快感を示すと、セルニアは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「秋晴……気持ちいい?」
跪いて伺ってくるセルニアに、与えられる快感以上に征服感を刺激され、己が高まるのを感じた。
今すぐにでも欲望を吐き出して楽になりたいのを耐えて、一時でも長く快感に浸ろうとする。
「ん……っ、ふっ……ちゅっ」
ぞわぞわと唇と舌が幹を滑り、背筋を震わすような悦楽を送ってくる。
太股にはセルニアの豊かな双丘が押し付けられ柔らかさを誇張している。
下半身全体を愛撫されるような感覚に包まれて、自然と秋晴の息が荒くなる。
「セルニア……っ」
半ば無意識に名を呼んで、そっと頭に手を添える。セルニアは視線だけで微笑み、喜びを示すと腕を腰に回した。
密着感と包まれている感覚が増して、堪らず下半身がぶるりと震える。
セルニアの頭が前後するのに合わせ、脚にあたる膨らみもぐにゅぐにゅと歪み情欲を刺激してくる。
「セルニア……俺、もう……」
秋晴の問い掛けにセルニアは動きを止める。
「ちゅぱっ……。もう、出ますの?」
「いや、そうじゃなくて……」
秋晴は上体を屈めて唇をセルニアの耳元に寄せて囁く。
「お前に……這入りたい」
言葉に、セルニアは薄く頬を染めると、小さく肯いた。
「わかりま……きゃっ!?」
セルニアが答えきるより早く、秋晴はその身体を横抱き――いわゆるお姫様だっこをすると、ベッドへと運んだ。
セルニアの身体をベッドに横たえ、自らも覆い被さるようにベッドに乗る。
秋晴は耐えきれないといった風情でセルニアの衣服を脱がしにかかる。
胸元のボタンを外すと、溢れるようにセルニアの発達過剰気味な乳房が零れ出て、ふるふると揺れた。
それに吸い付き、乳首を舌先で転がしながら指先の感覚だけでスカートの中を弄る。
滑らかな太股をなぞりあげ、付け根へと辿り着く。掠めた下着の際を追って中心へと進むと、指先を湿った感触に触れた。
セルニアも高まっている事を確かめ、更に上へと手を這わせる。
指が上端を探り当てると、其処から素肌と下着の間に滑り込ませ、引き下げる。
セルニアは反射的に脚を擦り合わせ抵抗しかけたが、直ぐに秋晴の動きに従順に応える。
軽く腰を浮かせて脱がしやすくしてやり、膝までショーツが下げられると自ら脚を抜く。
互いの準備が整った事を確認して視線を合わせる。
「行くぞ」
そう宣言して、秋晴は自らをセルニアの中心にあてがう。
くちゅり、と濡れた接触音。そのまま腰を進め、セルニアの内へと肉幹を埋没させる。
「はぁ……っんん!」
自らを貫かれ、セルニアが吐息を漏らす。
「あきは……る……」
瞳を潤ませて見つめてくるセルニアにキスをして、ゆっくりと腰を引く。吸い付くように秘部が締まり、それを阻む。
「くっ……」
ともすれば一瞬で果ててしまいそうな快感に呻きを漏らして耐える。
先端近くまで引き抜き、それを突き刺す。ぐちゅりと卑猥な水音がして、秋晴が再びセルニアの内に包まれる。
「ふぁ……んふっ!」
僅かに肢体を震わせてセルニアが喘ぐ。恐らくは意図せずに脚が秋晴を挟み込む。
それもセルニアの甘えだと分かって、秋晴は内心で苦笑する。
普段は刺々しいくらいに強い意志でもって凛と立つ彼女の、蕩けきった姿。それを見せるのが自分に対してだけだと思うと、やはり嬉しく感じる。
胸に広がる愛しさのままに、深く貫く。
摺り合わせる肌が、掠める吐息が、全てが互いを高める。
心臓が早鐘のように打ち、巡る血は体熱を上げる。
熱に浮かされたように何度も腰を打ち付けてセルニアの身体を貪り、時折口づけては愛撫を重ね、思いの丈を込める。
只々愛しさのままに体を交える事のなんと心地良い事か。
いっそこのまま溶けて一つになれれば良いのに。そんな考えが浮かんで、しかしそれすら享楽の内に沈んで消える。
切なげに締め付ける膣肉が秋晴を捉え、それの望むままに深く深くセルニアを穿つ。
「はっ……あ! ひぅっ! ……っく!」
悦びに濡れた嬌声がセルニアの口から零れ、彼女の快感を教えてくれる。
「あきは……る」
不意に胸元を押し退けるようにセルニアの手が触れた。
なんだ、と思う間にセルニアが身を転がし、繋がったままそれぞれの上下が入れ替わった。
「いきますわよ……」
言って、腰を浮かせたセルニアが勢いよく腰を沈めた。
「あくぅっ!」
きゅぅっ、とセルニアの膣が締まり、搾るような圧迫が下半身に与えられる。
脳髄を閃光のような快感が灼く。堪らずに打ち上げた腰が更にセルニアの奥にねじ込まれ、二人の快楽が高まる。
「まだ……ですわよ」
再びセルニアが身を打ち下ろす。それが何度も繰り返され、淫らな水音をさせた。
セルニアの躰を上下する度に存在を誇示するかのように双乳が揺れる。
秋晴は誘われるように上体を起こし、それにむしゃぶりついた。
「ひぁっ!? あふっ!」
接合部と胸の先端から与えられる刺激にセルニアが身を震わせる。
それからはもう互いに肉欲に溺れるだけだった。
下半身を押しつけ合い、秋晴が吸い付けばセルニアは胸を差し出すように胸を反らす。
抱きしめ合い、時折口づけを交わしてはそれぞれを絶頂へと押し上げる。
互いの性器が痙攣するように震えて終わりの近付きを知らせる。
より長く、などとは最早考えられなかった。
今、互いに辿り着ける最高の快感を目指して、より動きを激化させる。
「あきはる……あき…………はる……っ!!」
もう我慢など出来ない。溜まりに溜まった情欲の塊をセルニアの最奥に注ぎ込みたい。
それを、確たる愛情の印としてセルニアに捧げる。
「セルニア……っ!」
子宮を目掛け肉棒を突き立て、自らの絶頂に合わせセルニアを頂点へと導くため、口に含んだ乳首に歯を立てる。
「ひぅっ!? あ、あ、あぁぁああっ!?」
自分のペニスが震えたのが先か、セルニアが身を強ばらせたのが先か。恐らくは同時。
二人は達した。
「く……っぅ」
「んぁっ! ひぁぅっ……っはぁっ!」
セルニアの膣壁が痙攣し、その度にまた肉樹が震えるては何度も何度もセルニアの中へ精液を叩き付ける
終わらない射精は瞬く間にセルニアの子宮を満たし、結合部から白濁液を溢れさせた。
「ふぁっ……まだ、出て……」
胎内を満たされる感覚にセルニアが陶然と瞳を蕩けさせる。
うっとりとしたまま結合部から零れ落ちる精液を指に絡めとり、眼前に運んだ。
「これが、私の中に……」
呟いて、指先に纏わりつくそれを口にする。
「ん……んちゅ……ちゅ、ぷは……っ」
瞳を閉じてそれを味わい、セルニアは潤んだ瞳で微笑んだ。
「秋晴……」
体を預けるように秋晴の肩に頭を乗せ、唇を耳元に寄せてセルニアは呟いた。
「……好きですわよ……秋晴」
心地良い倦怠感に身を任せ、抱き合ったまま体を横たえる。
そっとセルニアを抱き締め返して、言葉なく応えてやる。
身は未だ繋がったまま。二人は何度目とも知れない口づけを交わして、しばらくの間、その幸せな時間を過ごした。
続く