〜秋晴の日記〜
『今日も退屈な一日だった。いつもの実習然り、あの掘削機然り・・・
相変わらず薫には変に睨まれるし・・・
まぁ、学費免除だからここに居・・・
「あれ?なんか・・・・違う・・・ような?」
日野秋晴は日記を書いている途中に違和感に襲われた。
(ホントに・・・学費免除だけで・・・・ここに俺は居るのか?)
何かが決定的に違うような気がする。
その何かがわからない。
ふと、よぎった見慣れた顔があった。
「〜ぃッ!!、やめッ!!」
頭の中のモヤモヤを振り払うように、ぶんぶんを頭を振り回す。
そして、寝床へゆっくり潜り込んだ。
「そう・・・頑張るのよ、私」
ぶつぶつと部屋の中で歩き回りながら呟いている生徒は、掘削機、ドリルことセルニア=伊織=フレイムハートだった。
「欲しいお洋服があるから、ついてきていただけませんこと?・・・よし、コレで」
ぐっ、っと拳を握り締めながら気合を入れるセルニア。
明日が勝負・・・と思いながら眠りにつこうとベッドへついた。
・・・翌朝
「ふぁぁっ」
今日は休日だ。
特に趣味もやる事も無い俺としては、とっても暇な一日だ。
もう一回寝てしまおうか・・・とは思ったが、妙に目がさえて寝れない。
しかも、今は6時前。なんでこんな早く起きたんだ?
「しゃーねぇ・・・散歩でもすっか」
適当に身支度を整え、ドアを押し開けた。
朝霧が身体を包む、特有の青臭い匂いも心地よい。
公園並みの広さの校庭を歩きながら、再び超お嬢様学校である事をおもいしらされる。
ふと、校庭の隅。芝があるところに見慣れた人影を見かけた。
「あお、なーにやってんだ?」
「べっ、別にいいじゃありませんこと!私がどんな時にどんな事をしようとも、」
「ヘイへイ、わかったよ。でも、」
「でも・・・なんですの?」
「こんな朝早く出会えるんなら、朝起きるのが楽しみになるかもな」
軽く冗談を交えて言ってみたセリフ。
6割がた、俺は本気だったけど。
「ん・・なッ!?」
「なーんてな。じゃな、良い一日を」
後ろを向きながら手を振る秋晴。
だから、今彼女がどんな顔をしているかもわからなかった。
次の日から俺は早く起きるようになった。いや、起きたかった。
薫もびっくりしてた。ザマぁねぇぜ。
「っし、散歩行くか」
よくわからない高揚感とともに、昨日のように秋晴はドアを開けた。
「昨日は言いそびれましたものね・・・今日こそは!」
「何が今日こそは!・・・なんだ?」
「ひぃゃああぁぁぁッ!!い、いいいい、いつからそこに!?」
「いつから・・って・・・ついさっき通りかかったらお前が居たから」
「そっ、そうですの・・・おほほほほ」
「おい、なんかキャラ違くね?」
「で、ではごきげんよう、!」
足早に去っていくセルニア。
スカートが乱れるのも気にせず小走りでかけていった。
「なんだ・・・アイツ・・・?」
いくつもの疑問符を浮かべながら、自分の部屋へ帰っていこうと・・・
「ちょっと待ちなさい!!」
ドリ・・・もとい、セルニアがこちらに猛スピードで駆けてきた。
「うわっ、びっくりさせんなよ」
「貴方・・・今日、暇ですわよね」
「は?」
「『暇』ですわよね!?」
「まぁ、課題も終わってるし・・・暇っちゃぁ暇だが?」
(よし、ここであの言葉を!!)
「貴方、今日付き合いなさい」
(なんでッ!?違っ・・・思ったとおりに言葉がでない・・・)
「一緒にお買い物に同行してもらいたいのです
この私につき合わせてあげるのだから、その分の謝礼はしますわ」
(もう、嫌・・・)
セルニアは内心、泣きそうになっていた。
思っていた言葉が、上手く紡げないのである。
ただ、買い物に付き合って欲しいと見て欲しいと頼むだけなのだが、普段の高圧的な態度がどうしても邪魔をする。
「え?それって、デー・・・」
「勘違いも甚だしいですわね。貴方は荷物持ちですわ」
少し秋晴は考え込んだ。
一緒に出かけれることはうれしいのだが、どうも、なんというか、
「別にいい。荷物なんてどうせ服とかだろ?たいしたモンじゃないんだったら行ってやるよ」
セルニアの中で、ファンファーレが鳴り響いた。
「そ、そそ、そうでしたら、10時、校門に居なさい。遅刻したら許しませんことよ?おわかり!?」
「へ〜い、了解しましたよ、ドリル大佐」
「ッ〜!!そのあだ名はやめなさいっていってるでしょう!!」
多分・・・顔赤いだろうな・・・・と思いながら、セルニアは自室へ支度をしに戻った。
一方、秋晴の方はというと・・・
(マジでか・・・嬉しい・・・けど・・・荷物もちって・・・はぁ・・・)
喜びと落胆を同時に味わいながら、朝食でもとろうかと部屋へ足を運ぼうとしていた。
〜数時間後〜
「ったく、遅れんなっつった本人が遅れてたら話になんねーぜ」
悪態をつきながらもしぶしぶ待つ秋晴。
時計は10時を5分ほど過ぎていた。
「待たせましたわね」
ふいに背後で声が聞こえた。
「おっせーんだ・・・・・・よ・・・・・」
振り返りながら言った秋晴の言葉は、途切れ途切れの断片になっていた。
まぁ、無理もない。
淡いグリーンのキャミソール。それを持ち上げる豊かな胸。
胸のラインがくっきり出ているということは・・・すなわち・・・ノーブラだ。
ミニスカートから伸びる、白くカモシカのように引き締まった脚。
少し走ったのだろう、かすかに上気した化粧化のない顔。
相変わらずの縦ロールだが、それが彼女の品格をかもし出している。
一言で言うと、超絶キレイだった。
あたかも、女神(ミューズ)を目の前にしたかのような錯覚に陥り、秋晴は茫然自失状態になっていた。
「う・・ぁ・・・え?」
「変ですの・・・?」
「いや、っと・・その、えっと・・・」
「何?はっきりおっしゃいないな」
「言うぞ。お前が後悔しても知らんぞ・・・」
「・・・・・その・・・・キレイ、だ」
危うく舌をかんで血が出るのかと思うぐらいの勢いで噛みそうになった。
今にも痙攣しそう・・・タスケテ、ダレカ。
「・・・・っ・・・・んッ!?・・・・んんッ!!??」
ドリルの方は口を押さえて真っ赤になっていた。
多分、あの上にヤカン置いたら沸騰すんじゃねーかな、とか全然関係ないことを秋晴は考えながら見ていた。
そうでもしねぇと・・・その・・・ゴニョゴニョ
「あ゛〜・・・もう、行こうぜ」
「そ、うですわね」
2人ともうつむき加減で、校門の前に止めてあった車に乗り込んだ。
車に乗り込んだはいいものの・・・
(マズイ・・・何話していいかわかんねぇ・・・)
先ほどのことが、尾を引いているのだろうか。
何かしら気まずい雰囲気が漂っていた。
「「あの」」
見事にバッティング。
ドリル・・・少し遅れて喋れよ。
「ナンだ?」
「あ、貴方が先におっしゃって・・・」
「いや、別にお前からでも」
「い・い・か・ら」
「え・・・っとな、そうだ、どこ行くんだ?」
ドリルが答える。
おそらく、フレイム家系列の会社に属するファッションショップだった。
名前だけは聞いたことがある。さすが、お嬢様・・・だ。
「へぇ、そんなトコ行くんだ。で、俺はそこで何するんだ?
荷物持ちはするけど、なんも買ってない状態の俺は・・・」
「貴方は・・・・その、む、むぅぅ」
「はっきり言え、はっきり」
「見て欲しい・・・の、ですわ」
恐ろしく小さな声だった。
蚊が鳴くような声・・・とはコレのことか。
当の本人、セルニアは頬を染めて真っ赤になっていた。
「え?あ?うぁ?」
俺・・・大丈夫か?
生返事しかしていない俺。変だろうな・・・
「ダメですの?」
「う・・・・・」
秋晴は言葉に詰まった。
明らかに上気した頬。うっすらと緊張で汗ばんだ首筋。湖面をたたえたような大きな瞳。
ぷるんとはじけるような朱色の口唇。
鋼の理性を持つ秋晴とて、一男子には違いなかった。
ええい、上目遣いでコッチを見るな!
「ダ、ダメなんて言ってねーよ」
「わ、わかればよろしいのですわ。もっとも、この私の頼みですのよ。文句なんて言わせないですわ」
プイ、と腕を組み窓の方に向き直るドリル。
(だって・・・私・・・気持ち、抑えられなく・・・)
そんなこんなしているうちに目的地へ到着したのだった。
AM,11:40
でけぇ・・・・
それが俺の感想だった。
ただの、ファッションショップだと思っていたが、甘かった・・・
コイツの実家は、かの有数な企業だ。忘れてた。
「この施設は、各ショップを初め・・・
横でなんやら自慢しているが、その辺は割愛。
「おい、行くぞ」
「ったく、この私が説明してあげてるのよ?少しは光栄に思いなさい」
「よーするに、スゲーんだろ?わかったからさっさと用事済ましてしまうおうぜ」
「あっ、コラ、待ちなさい!!」
追いすがるセルニアを尻目に、俺はさっさと店内と回っていこうと・・・
いきなり、襟を掴まれた。
「ぅ、げほっ、なにすんだよ!?」
「少し早いけどお昼にしましょう。そのほうが効率いいですわ」
それも納得だ。今から選んだところで中途半端な時間になるのは見えている。
と、いうことでだ・・・・
「なんでフランス料理よ・・・」
ここはファッションショップじゃなかったのか、と勝手に落胆・・・いや呆れていた。
「いいじゃありませんこと、細かい男はモテませんわよ」
(あ・・・モテて欲しくないって言ったら・・・なんて返すのかしら・・・
私だけを・・・見ててくれさえすれば、ッ!?んん、私はなんてはしたない想像を!?)
まぁ、どうでもいい邂逅は置いといて。
食事も済み、俺とセルニアは改めて服を選びに行った。
〜数時間後〜
思ったほどの荷物を持たされるわけでもなく、(実際ハンドバッグ大の大きさの荷物)
をぶら下げて、店内を2人でうろうろしていた時。
「つかれたでしょう?少し、お茶でもしていきません?モチロン奢りますけど」
セルニアが指差した先には、一つの喫茶店があった。
ここは好意に甘えておこう。
「そうだな」
「じゃ、決定ですわね」
中に入り、窓際の席に座る。
ウェイターが、水とタオルとメニューを持ってくる。
適当に注文し、それが来るまで待つ。
ふいに、
「貴方・・・好きな方は、いらっしゃいませんの?」
不安と期待が入り混じった顔で俺に問いかける。
俺の答えはモチロン、
「・・・ああ、いる」
「、えっ!?」
「お前」
「え、えええっ!?」
「も、薫も、四季鏡も、朋美も、」
アレ・・・?なんかすごい怒ってね?
と、いうよりは・・・・なんか・・・
「Likeじゃなくて、Loveのほうですわ!!ったくもう、大体あなたは」
ちょうど次の言葉を紡ごうとした瞬間、注文したものが運ばれてきた。
ナイス、ウェイター。
ちなみに、俺はエスプレッソとチーズケーキ。セルニアはカフェオレとイチゴショートだ。
ケーキに手をつけながら俺はセルニアの顔を見た。
(最初の頃は、『敵』だったのになぁ・・・でも、今は・・?)
「なんですの?」
「い、いや、なんでもねー・・・・あ?」
セルニアの唇についたクリームが目に止まった。
俺はそれに手を伸ばし・・・
「ついてたぞ、むっ」
俺はそのクリームを口に含んだ。
深く考えてなかったみたいで、真っ赤になったセルニアの顔を見るまで、自分のした事の重大さに気づいていなかった。
「ッ!?・・・んッ!!??」
「う、い、いや、ゴメン、そんなつもりじゃ!!」
「ん〜ッ!?」
口を両手で隠し、もだえるセルニア。
俺も今、さぞかし真っ赤になっていることだろう。だって、血液が流れる音、聞こえるもん。
「やっぱ、アレって間接キ・・・」
「イヤーッ!!言わないでッ!!」
しばらく時間がたった。
気恥ずかしさを隠すようにコーヒーに口をつけた。
「お・・・うめぇ」
正直な感想だ。仕方ない。
しかし、そこにドリルが反応するとはいささか計算外で・・・
「本当ですわね、」
「だろ?ここ穴場だな」
「そうですわ・・・ね」
「俺、コーヒーにはうるさいクチでよぉ。なかなか旨いっていえる店少ないんだよな」
「私は・・・実を言うと紅茶より、コーヒーの方が好きなんですのよ」
「そーかそーか、じゃあまた今度いい店教えてやるよ」
俺は少しテンション上がっていた。
こんな近くに俺と同じ意思を持ってた奴がいるとは・・・ある意味貴重だ。
セルニアはカップを置いて、少し伏目がちにこちらを向き、言った。
「私の、部屋には・・・そのコーヒーメーカーが、ありまして・・・その・・・」
「んぁ?」
「だから、・・・コーヒーなら美味しくいただける・・・というか・・・」
「??」
「今夜、私の部屋へ来てくださいませんこと?」