その夜、浅野ユウキはベッドに腰掛け、鏡を見つめながら首をひねっていた。  
「う〜ん」  
 ユウキの背丈程もある大きなその鏡の中には、頭からタオルを被ったパジャマ姿の可愛らしい女の  
子がちょこんとベッドに腰掛けている。風呂上りのためタオルの下の髪はまだしとどに濡れていて、  
パジャマから覗く肌はほんのりとした桜色に染まっていた。  
「わかんないなあ……」  
 ユウキはそうつぶやくと大きく腕を上げてベッドに倒れこみ、そのままの格好でワシャワシャと髪  
を拭く。そしてしばらくの間じっと天上を見つめていたが、やがてキョロキョロとあたりを伺うよう  
に視線を動かし始めた。ここはユウキの自室なので、今はユウキ以外は誰もいない。強いてあげるな  
ら、昔誕生日に買ってもらった大きなクマのぬいぐるみが枕もとにおいてあるくらいだ。ユウキはゆ  
っくりと身体を起こすと、カーテンがしっかり閉まっているのを確認し、少し考え込んでからつぶら  
な瞳でじっとこちらを見ていたクマのぬいぐるみをうつ伏せに倒した。  
「ん〜」  
 ユウキはそれからも落ち着かない様子で回りを見渡していたが、意を決したようにパジャマのボタ  
ンに手をかけると、おもむろに上着を脱ぎ始めた。わずかにふくらんだだけの小さな胸には、まだブ  
ラジャーをつけていない。もっとも、これでも5の2女子の中では結構大きいほうである……と、ユ  
ウキ自身は思っているのだが。  
「……むう」  
 そう。実際のところ、ユウキは自分の(そして級友の)バストサイズには以前から興味を持ってい  
た。やはりないよりはあったほうがいいし、どうにもならないこととはいえ同年代に負けるのはそれ  
なりに悔しいものだ。  
 しかし、今日のユウキが見ているのは胸ではなかった。  
「やっぱり……よくわかんないなあ」  
 ユウキはまじまじと鏡に映ったその部分を見つめた後、小さく首を振りながらため息をついた。  
「……鎖骨……ねえ」  
 
 
『女ってのはその……鎖骨……じゃないかな』  
 発端は、級友佐藤リョータの一言だった。  
 Hな本(とユウキは思っている)を見ていた男子をユウキが見つけ、ささいな口論となったのだが、  
その際にあくまで「女性は胸」と主張する男子達に話を振られたリョータはそう答えたのだ。  
 他の男子達が言っていたように胸を基準とするのは、認めるわけではないとはいえわからないでも  
ない。それを女性の価値の中心に持ってくるような考え方は最低だとは思うが、ユウキだって同性の  
胸の大きさは気になるものだ。  
 しかし、鎖骨というのはわからない。大きさや形で判断できるようなものではないと思うし、第一  
見てもどうこうというような感じはないだろう。  
 ……ないだろう、と思うのだが。  
「この窪みとかが……いいのかな?」  
 鏡を見ながら自分でふにふにと触ってみる。が、やはりユウキにはよくわからない。  
『なんにせよ……』  
 ふと、公園での友人の言葉を思い出すした。   
『見えてるにこしたことはないんじゃない? ほら、今日のユウキちゃん……チラチラ見えてる。佐  
藤君大興奮』  
 確かに今日のユウキはキャミソールタイプの上に上着を羽織っただけの格好だったので、鎖骨は普  
通に見えていただろう。ユウキの顔が少し赤くなる。今まで気にもしていなかったことが、意識した  
途端急に恥ずかしいことに思えてきた。  
 ひょっとして……本当に佐藤君は私の鎖骨を見て興奮していたのだろうか?  
「そういえば佐藤君、水飲み場でも……」  
 ユウキは公園の水飲み場でリョータがじっと自分を見ていたことを思い出して、さらに顔を赤く染  
めた。  
 あの時、彼は私をどんな目で見ていたのだろう?  
「ん……」  
 心なしか、身体の奥が熱くなってきたような気がする。  
 
(や、やだ……)  
 なにかモヤモヤした変な気持ちが、お腹の下の方から湧き上がってくるのを感じる。それはユウキ  
にとって未知の感覚だった。  
「あ……!」  
 自分でも気がつかないうちに、ユウキの指はゆっくりとパジャマの上から股間をなぞりはじめてい  
た。  
 ユウキも、それなりに性知識は持っている。とはいえ「女子だけの秘密の話」や雑誌などで見聞き  
したそれは、あくまで他人の話であって、ユウキ自身にとってはまだまだ想像だけの世界だった。ひ  
とりHをしたこともないわけではないが、あくまでそれは「試してみた」程度の経験でしかない。今  
日のように、自分から「したく」なったことは今までになかった。  
「や……な、なんか変……」  
 ユウキは左手で口元を押さえ、声を押し殺した。  
 一方の右手は、まるでそれだけが別の意思を持っているのかのようにユウキの股間を何度も何度も  
こすり上げている。  
「ん……ふぅ……んんっ……」  
 ユウキは身体を震わせながら小さく首を何度も振り、倒れこむようにベッドに寝転んだ。  
 そしてもどかしげにパジャマのズボンと下着を脱ぎ去り、ベッドの脇に放り投げる。  
 瞳を閉じると、公園でのリョータの顔が浮かんできた。その目。その視線。  
 身体の奥底で、熱く大きな何かがうねる。  
 右手の指が、再びユウキの秘部をなぞりはじめた。わずかに湿っている、まだいたいけなそこを、  
人差し指は執拗になぞりあげる。  
「あっ、ん……んんっ……ふぅん……」  
 口に当てていた左手は、いつの間にか小さな胸の突起を転がしていた。  
 肌は先ほどよりも上気し、両手の指の動きに合わせるように時たま身体がビクンと震える。  
 そのうちに、ほんの微かではあるが水っぽい音が部屋に響き始めた。  
 
「やだ……んふ……あ、ああ……き、気持ち……いいよぅ……」  
 秘部をこすりあげる指に、ねっとりとしたものがからみついてくる。  
 ユウキは恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなかったが、その指は一層早さを増してユウキの秘部を  
責め上げた。  
「んっ、んんっ、んんっ、ふぁあっ」   
 そういえば放課後……あの公園で男子達が何やら集まっていたような……。  
 ふいに、未知の感覚にぼんやりとしているユウキの頭にそんな光景が浮かんできた。  
 そうだ。それで……佐藤君が、何かをしゃべっていて……。  
「ああ……ん、くぅ……ふぁ、んんっ……あぁ、あああぁ……」  
 ユウキの中で、妄想が膨らむ。最初のうちは右手を押さえるように硬く閉じていた足も、今は大き  
く開いている。  
 指が秘裂をなぞり上げ、そのを上にある小さな突起を引っ掛ける度に、ユウキの身体が跳ねる。  
 もしかしたら、佐藤君は鎖骨について他の男子達に話していたのかもしれない。  
 それで他の男子達も鎖骨をじろじろ見るようになって……ひょっとしたらあの公園でも私を見てい  
たのかもしれない……私の鎖骨を……私を……みんなが……。  
「あっ! あっ! んっ、んんん……んぁっ! だ、だめっ……!」  
 妄想が、ユウキを押し上げていく。  
 それまで秘裂をなぞっていた指が、それに応じるように小さな突起をひねり上げた。  
「やっ、あぁっ! な、なんかっ! ん、ん、んんっ! あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」  
 それと同時にユウキの背中が大きく仰け反り、何度か身体を震わせたかと思うとやがてクタクタと  
崩れ落ちた。  
 その瞳はどこか虚ろで、半分開いた口から一筋唾液が垂れる。  
 ユウキはしばらくの間、そのまま初めての絶頂の余韻に浸っていた。  
 
 
 翌朝。  
「おはよー」  
「おっはよー」  
 いつもと変わらない挨拶が交わされる通学路を、首回りのきっちり閉まったトレーナーとジーパン  
といった格好のユウキが赤い目をして歩いていた。あの後、我に帰ったユウキは恥ずかしさにのたう  
ちまわり、深夜まで寝付けなかったのだ。  
「おう、ユウキ。おはよー」  
 そんな足取りも重いユウキの肩を、突然誰かが叩いた。  
 びくっと一瞬身体を硬直させた後、恐る恐る振り向くと、そこには屈託のない笑顔を浮かべたリョ  
ータが立っている。  
「いやー、今日の給食楽しみだよなー。フルーツポンチだぜ、フルーツポンチ」  
 どうやら朝っぱらからリョータの思考はお昼の給食に飛んでいるようだ。その視線はユウキではな  
く、数時間後のデザートを向けられていた。  
 まったくいつも通りの様子のリョータにほっとした反面、だんだんと言いようもない怒りが湧き上  
がってくる。  
「佐藤君……」  
「ん?」  
 そう振り向いたリョータの顔面に。  
 
 ゴッ。  
 
「バカ」  
 ユウキは鉄拳をくらって吹っ飛んだリョータに捨て台詞を残すと、振り向きもせずにスタスタと歩  
いていった。   
 一方、リョータはなにがおこったのか今一理解できていないのか、しばらくの間キョトンとした顔  
でその場に立ち尽くす。  
「……オレが一体何をしたというのだ……」  
 

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