鳥口は自分の動悸が早まっていることを感じた。  
酒の所為だけではない。力仕事というほどには、彼女の体はあまりに軽く  
疲労などとは関係がない。  
鼓動を耳に感じながら、見慣れた自分の部屋、自分の布団、  
見慣れた筈の女性の滅多に見ることのない寝顔を見た。  
 
敦子さん。  
 
眠っている。いつもの理知的な少女のような顔はほんの少し酒精で染められ、  
長い睫毛はうっすらと濡れているような、妙になまめかしい感じがする。  
小さな唇はかるく開き、すうすうという気持ちの良さそうな音を奏でている。  
 
普段隙など見せることのない彼女が酔い潰れて自分の部屋にいるなどと、  
鳥口は運んできた今でも信じられない。  
まあ…確かにここのところ、いろいろあったか。」  
酔い覚ましの温い水をコップに注ぎながら思い出す。  
 
伊豆の事件から、敦子は休んだ仕事を取り戻そうと躍起になって働いていた。  
鳥口や益田の心配する声にも、「兄に呆れられる」と笑顔で返し、  
この2週間働き詰めだったのだ。  
入稿が終わってやっと一息ついた今、疲労が一気に出たのだろう。  
自分のところの雑誌は未だ出版の予定もなかったので、さっさと充電してしまった鳥口は、  
いささか敦子に申し訳ないような気がした。まあ、どうしようもない事だが。  
 
 
あの事件は色々と衝撃を起こし、警察とも、心の整理もたった二週間で  
決着がついた訳ではないが、入稿を契機に会った二人は酒を交えて  
事件のことを話し合い、気が付けば上馬への電車はもう無かった。  
 
普段の敦子なら終電時間には気が付く筈なので、鳥口はつい、うっかり  
時間の経つのを忘れていたのだ。  
うっかり…なんだろうか。  
温い水を啜りながら敦子の寝顔を見る。  
鳥口は、あの事件から、自分の気持ちはぼんやりと知ってしまった。  
ただの異性の気の合う仲間という間柄では無くなってしまった。  
敦子の気持ちはわからないから、これは鳥口の一方的な気持ちでしかないのだが。  
 
本来なら、中野の京極堂へ向かうべきだったかもしれない。  
中野ならあの時まだ電車はあった。  
中禅寺は酔っ払いは嫌いだと公言しているが、実の妹だ。  
酔い潰れてはさぞ心配だろう。  
自分が敦子を酔い潰したと勘繰られて厭味のひとつも言われるだろうが、  
まあそれは仕方ない。  
それに、あの事件以来敦子は兄と少し距離を置いている気がする。  
それを崩すには絶好の機会といえなくもなかった。  
敦子の為にもそのほうが良い気がした。  
口では憎まれ口を叩いていても、敦子は兄にまだ甘えたいのだと思う。  
ずっと離れていたのだから、当然のことだろう。  
そして中禅寺も敦子が可愛いのだ。  
あのへの字口からは永久に出てこない言葉だろうが。  
 
鳥口は軽く笑うと同時に、ほんの少し、嫉妬を覚えた。  
あの人と並ぶ男でないと敦子の目には映らないのかと思うと…  
「そりゃあ、無理っすよ。」  
横目で敦子を軽く睨んだ。相変わらず、やわらかい寝息をたてたままだ。  
ひょっとしたら、敦子も中野の兄の家に運ばれるのを望んで潰れたのかもしれない。  
何をするにもソツのない兄妹だが、自分の感情表現となるとこれは戴けない二人だ。  
こういう契機が必要なときもあるのだ。  
…邪推だろうか。  
どっちでもいいか。  
鳥口は温い水を一気に飲み干した。  
 
…どっちでも良いと言う事はないか。  
 
中野に運ばれるのを望んだということは、鳥口を信頼しきっているということだが、  
逆を言えば男として見られていないということだ。  
 
もう一度敦子を横目で見る。  
なんの恐れも抱かずに眠っている。  
うっすらと上気している頬。  
長い睫毛。  
白い肌。頸。  
あかい。あかい唇。  
 
鳥口は、その唇に自分の唇を重ねた。  
 
そっと、起こさぬように恐る恐る敦子の唇をついばんでいたが、  
やがてそれは力を増していった。  
舌で唇を舐め上げ、中に侵入する。  
温い。  
右手を敦子の枕替わりにして、左手は服の上から乳房を揉み上げる。  
やわらかい。唇も、胸も。  
鳥口の左手は自分でも驚くほど器用に、敦子の肌着を取り払った。  
頭の芯は熱を帯びて、やめろと言っているのに、どこかが酷く冷静だ。  
服の上から薄っすらと突起が判る。  
唇を離し、服をたくし上げると、白い乳房がふるんと揺れて現れた。  
着痩せをするのか、華奢な体の割りに大きく白いそれは  
鳥口の理性を奪い去るのには十分だった。  
 
左手は今度は服を通さずに直接敦子の肌に触れた。  
しっとりと肌に吸いつく感触が心地よい。  
人差し指と親指で乳首を探り、摘まみ、クリクリと転がす。  
「ん…ん…」  
離した唇から吐息が漏れ、鳥口はびくりとしたが、まだ目覚める様子はない。  
だが、もう止めるつもりはなかった。もう敦子が起きても構わない。  
鳥口は、左の指で桃色の突起を弄りながら、もう一方の乳首を口に含んだ。  
唇で吸い付き、舌で舐りあげる。  
「ん…あ…」  
敦子はまだ夢と現をさまよっている。  
指で乳首を弾き、舌をより強く乳首の側部に擦り付ける。  
敦子のそれは、指で弾く毎に抵抗を示し、硬くなって充血し、隆々としてきた。  
舌で刺激を与えているほうも、応じている。  
鳥口は体勢を変え、敦子に馬乗りになり、  
頭の下に敷いていた右腕を抜き、敦子の秘所へと伸ばしていった。  
 
太腿をゆっくり上に。薄い布の上から中指の腹でそれを確認する。  
薄っすらと、濡れている。  
布を脇に除け、その指を敦子に押し当てようとしたその時、  
視線に気がついた。  
かげりのない大きな瞳は、まだ完全に覚醒はしていないが、鳥口を確かに捕えている。  
「…あっ……と…鳥口さん…?」  
漸く目覚めた敦子は、現状を理解したのかしていないのか、驚いた顔で、大きな瞳を一層開いた。  
目が合った瞬間、鳥口は固まったが、敦子が何か言うより早く唇を塞ぎ、両の指で上と下を責めたてた。  
「んんッ…ん…んッッ…」  
唇を塞がれた敦子は、両手を鳥口の腕に掛け、上からの圧力に負けじと押し戻そうとしたが、  
無駄な抵抗であることは明白だった。敦子は今度は、腕を掴むのを諦め、指で責め立てるのをさせまいと隠そうと必死になっている。  
鳥口は右手の中指を立て、膣へ侵入させた。  
 
「っあ…ッ!」  
敦子の膣は指一本さえも侵入を拒むほど抵抗し、鳥口の指を締めつけた。熱く、ぬるりとした感触がとくとくと指を伝って  
右の掌に染みていく。敦子の腕が抵抗を一瞬忘れ、ぎゅっと鳥口を掴んだ。  
鳥口は敦子の耳たぶを咬み、頸筋に舌を這わせて言った。  
「敦子さん…力抜かないと…」  
「ま…待って…ください、あの…」  
敦子は状況を呑み込んだのか、さっきよりも確りした顔で、鳥口をもう一度見た。しかし、長い睫毛と瞳はしっとりと濡れている。  
「駄目ですかね」  
「は…?」  
我ながら間抜けな言葉を吐いたと思った。ここまでしておいてお伺いを立てるなど、どうかしている。しかし敦子も普段見ることのない間抜けた顔で返答をしてきたので、一層鳥口には可笑しかった。  
敦子は困って憔悴している。普通なら殴ればいい。止めろと突き放せばいいのに、こんな時も頭の中でぐるぐると考えているのだろう。  
可愛い。愛おしい。そう思った。止めたくないが、できれば、泣かせたくない。  
 
「敦子さん」  
名を呼んで、指の動きを再開させた。  
「敦子さん」  
愛しい。  
中指を第二関節まで押し込み、抜いて、押し込み、抜く。  
敦子の中は先ほどよりは抵抗が少なく、鳥口は中指と共に人差し指も侵入させた。  
再び、ゆっくりと抜いて、また奥へ滑らせる。残った指で花弁を開く。  
親指で優しく陰核を責める。動きが激しくなっていく。  
「あっ…は…ッんん…!」  
敦子は思考を中断され、鳥口に何か言いたげだった唇からは  
熱くて甘い声だけが漏れた。  
鳥口は頸から乳房へと這わせていた舌をそのまま下降させて、  
指で開いた箇所に指の代わりに挿入させた。  
「っあッ!ああッ…!」  
敦子の身体がびくんと動き、膣は指と同じように鳥口の舌も締める。  
鳥口は敦子の白い形のいい足を自分の肩の上へ押し上げ、両手を乳房に這わせ、  
ゆっくりと下から揉みしだいた。  
敦子の抵抗が緩まる。華奢な手はもう鳥口を押さえる為ではなく、  
鳥口の部屋の薄っぺらい布団と、自分の口元を押さえていた。声を出すまいと  
我慢しているが押さえきれていない。  
「んっ…あ…ッ」  
先ほどからの刺激で敦子の愛液はとめどなく流れている。  
鳥口は器用に舌ですくい、飲み干し、また刺激を与える。  
舌の先で、腹で、裏で。  
そして肩から敦子の足を下ろし、ズボンで押さえていた昂ったそれを解放し、  
敦子に押し当てた。  
 
「あ…」  
「力、抜いてくださいよ。」  
「…や……」  
「敦子さん」  
鳥口は右手に昂りを持ったまま、左手と唇で敦子を優しく撫ぜ、唇を重ねた。  
敦子の緊張が、少し緩くなった。  
鳥口はそのまま敦子に挿入した。  
「ッ…!」  
今までの指や舌の何倍もある鳥口のそれは、敦子には未知の異物であった。充分すぎるほど濡れていたにも関わらず、それは大きく、硬く、痛かった。敦子は思わず息が詰まった。  
鳥口の腕が敦子の上半身を包み、唇が乳房を刺激する。  
「あ…鳥口さ…ッ痛ッ…いたい…です…」  
「はあ。すいません。」  
「いッ…と…りぐちさ…お願…」  
「いや、まだ殆ど動いてませんし、これは、まあ、初めはそういうモノなんで。勘弁してください。」  
「そん…」  
片眉を吊り上げて敦子は鳥口を睨んだ。  
だがその感情は鳥口を見た瞬間にどこかへ消えてしまった。  
いつもの惚けた飄々とした言い方だったが、鳥口の顔は真面目そのもので、頬は上気し、  
精一杯に敦子に負担を掛けないように気を遣っている。  
敦子に触れる鳥口の全てが今の貌で理解できた気がした。  
 
鳥口の、腕が。唇が。手が指が舌が。そして敦子の膣に埋まっている熱いそれが。  
全て敦子に。  
 
敦子は、残っていた恐怖感が全て拭われた感じがして、鳥口に微笑んだ。  
「わかりました。我慢、しますね。」  
鳥口の背中に腕をまわし、ぎゅっと、自分に引き寄せた。驚いた顔の、言葉になる前「う」の形になった唇に自分の唇を重ねた。  
戸惑った筈なのに、鳥口の舌はすかさず這入ってきた。  
手馴れてるのかしら…などと、敦子は一瞬考えてしまったが、すぐに思考を中断させ、鳥口の舌に自分の動きを合わせた。  
こんなときまで、考えることはない。  
彼を好きかどうかも、兄のことも、今は考えなくていい。何も考えず、委ねよう。  
…一人の顔が、頭を少しよぎった。  
 
「鳥口さん…」  
「はい?」  
「お互い、榎木津さんの所へは暫く行かないようにしましょうね。」  
「……そうですね。僕もまだ大将と師匠に殺されたくはないですし。」  
 
鳥口と敦子は、お互いに笑って、唇をもう一度重ね、薄暗い闇を動き出した。  
 
 
終  
 

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